116 生徒会の仕事2&写真部の活動3
次の日。
僕は朝から生徒会の掃除をさせられていた。お茶入れなどの雑用もこなすことになり、モンから習っていた。
生徒会室の床にはホコリをかぶったオモチャやゲーム類や楽器類やカラーペン、カップ麺をはじめとするゴミなどがある。机の上の書類もぐちゃぐちゃだ。
僕はボックスに丁寧に拭いて入れていく。
机の上や床はある程度ピカピカになった。オモチャなどをまたがなくても通れるようになった。
「蟻音、そろそろ時間だー、出てこい!」
「昼休みはポンプ?」
「そうだ、放課後は部活だろ。それまで、こき使ってやる」
モンは生徒会室の鍵をかけて、僕と同じ方向へ足を向けた。
「今日は部活だー、やったー!」
「お前、生徒会に不満でもあるのか?」
「ないです、すみません」
「まあいい、少しずつ覚えていけよ。できなきゃ罰金か、もしくは会長へ体で払ってもらうぞ」
「ニコニコしながら怖いこと言うなよ」
僕はモンの笑顔が恐ろしかった。教室についた。
「「「おはようたい、モン君」」」
いち、葉阿戸、竹刀が教室にいた。
「おはよう皆」
「おはようございます、皆さん」
モンは僕にバチバチと視線を送って、いなくなった。
僕は知らん顔をしてトイレの席についた。
「生徒会、どう?」
「どうと言われても、どうなのかな? 入ったばっかりだからわからない」
「モン君に嫌がらせされたら、俺に言えよ?」
「相変わらずのキツさだよ」
「あはは。でもモン君は悪い奴じゃないから」
「すぐ笑ってきて! もう」
僕が怒ったふりをすると葉阿戸は嬉しそうだった。
「つうか、今度のテスト順位貼り出されるけど、皆よく余裕そうだな」
竹刀は珍しくブツを萎えさせている。
「「「普段から勉強してるから」」」
僕といちと葉阿戸の声が見事に揃った。
モンが帰ってきて、5分後、チャイムが鳴った。
キンコンカンコーン
がらら。
「おはようー、今日は晴天だー。だからといって怠けるなよー、じゃあ後ろの人はズボンとトランクスをー」
橋本は僕らにズボンとトランクスを集めさせて、いなくなった。
「英語の授業だな、誰か、持久走大会のご褒美聞いてこいや!」
黄色は周りを見渡した。
皆目を合わせないように下を向く。
「満、昨日、うんこしたろ? 詫びってもんがねえのか?」
哀れなことに、満に白羽の矢が立つ。
「聞きたきゃ自分で聞けよ」
満が言い返す。
「ああ? 俺に聞けだと?」
「喧嘩は良くないよ!」
いちは仲裁に入る。
「よし、じゃあいちが聞けよ?」
「そうだそうだ」
満は助けてもらっておいて同調した。
「うう、なんで」
「おいー、いちのこといじめるのは俺だよ! よっしゃ、俺に任せておけ、皆!」
竹刀がいちを上手く守った。
がらら。
「ハロー、エブリワン! 号令ー」
和矢が入ってきた。
女の程よくついた肉に皆が欲情する。
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
「先生ー」
「はい、ミスター薄月」
「持久走大会のご褒美ってなんですか?」
「この場で言うことはありません」
「ボディタッチですかー?」
黄色は我を忘れて訊いた。
「この場で言うことはありません」
「ヒューヒュー、蟻音、なんかしてくれるんじゃないの? エッチなマッサージとか?」
竹刀が騒ぎ出す。
「授業中です、これからの私語は慎むように、減点します」
「トイレ行ってきていいですか?」
「ここでしましょう」
「こんなところでオナったら机につくだろ」
「ミスター薄月は、減点で」
和矢の声で、皆が押し黙った。
今日も平和に時が流れていった。
◇
昼休み。
僕は生徒会のポンプ作業をしていた。棒を回す作業だ。隣には見張りのモンがいて休むに休めない。
「うんこらしょ、どっこいしょ」
「蟻音は大きな株でも見えているのか?」
「予想以上にハードで」
「静かに押せ。じゃなきゃ、お前を押す係を決めなきゃならなくなる」
「拷問じゃねえか」
僕の言葉は無視されて、なんとか15分間の作業を終えた。各々着替える。
「たい、これ、スポドリ」
「さんぽ! ありがとう」
「優しくしないほうが身のためですよ」
「これでたいが嫌になっちゃったら、元も子もないです」
さんぽは汗だくの僕を見て真剣に言った。
「はあ」
モンは軽くため息をつくと、教室の方へ歩いていった。
「副会長に勝ったな! すごいよ、次期会長になるんじゃないか?」
唯盛がさんぽをつつく。
「モン君だよ、会長は」
「副会長の座を狙ってるのか?」
といとが話に割り込む。
「疲れたー」
終硫もマイペースに汗をタオルで拭くと着替えた。
「たいがいるんだから、多分無理だろ」
「そんなことないって! 僕副会長にふさわしくないし」
「こらこら、君たち話に興ずるのはいいが、時間を気にしてくんろ」
猫林が僕らを注意した。
「「「はーい」」」
僕らはさっさと出ていった。
「あの人いつもいるけど、引きこもってるの?」
僕は終硫に聞く。
「いや、たまに奥さんと入れ替わってるけど、期待するなよ。不倫もバレるからやめとけ、監視カメラに映ってるから」
「でも、トイレ行きたくなったらどうするんだ?」
「そんな時は橋本先生に電話して待機してもらってる間に職員室トイレ使ってるらしい」
「飯は?」
「橋本先生の奥さんが作ってくれるらしいよ」
「へえ、給料も出てるのかな?」
「わからない。根掘り葉掘り訊くなよ。そんなに気になるなら、訊けばいい。じゃあな」
「うん、またね」
僕らは別々のクラスに入っていった。
気づけば残り10分。
僕は急いで教室の隅に行き、弁当をかきこんだ。
キンコンカンコーン
僕は放課後まで勉強を頑張った。
◇
放課後。
「はー、なはは、休めるー!」
僕は視聴覚室でゆっくりしていると、ドミノを立てている3年生の部長と目があった。
「こっちは真剣なんだよ。休みたいだけなら帰れよ」と部長は緊張感のある顔をしている。
「たいがごめん。そのドミノの動画を撮らせてくれるかい?」
葉阿戸は僕が口を開く前に言う。
「日余さんか、いいよ!」
「浮かれるのは良いけど絶対に倒すなよ」
そういった彼は生徒会で見た顔であった。
「春木先輩と言ったっけ?」
「おいこら、蟻音、蟻地獄に突き落としてやろうか?」
春木はそばかすのある顔で僕を見た。
その瞬間だった。
カタカタカタカタ。
リズミカルな音を立てて葉阿戸ラブという文字が完成していく。
ピ!
葉阿戸の持っている一眼レフが動画を撮っていく。
「お、春木、倒れたぞ!?」
「ああああ!? おい、蟻音、お前どうしてくれるんだ。これまだ途中だったんだぞ!」
「後、ハートマーク1つで完成だったのに」
ピピ!
すべて崩れたドミノは葉阿戸が全貌を撮っていった。
「動画で撮れたから大丈夫だよ。ナイスドミノ!」
葉阿戸はカメラを首にかけると、両手でグッドマークを作ってみせた。
「日余さん! 今度お茶しない?」
「抜け駆けするなよ」
「日余さん、どっちを選ぶ? 春木? それともこの俺、土井?」
「ごめん、俺付き合ってる人いるから」
「あーそうだった、蟻地獄を持久走大会のコースにいっぱい作っておくかな!」
「僕は蟻音です! 蟻じゃありません!」
「たー君だろ? 会長が触れ回っておったぞ」
「たい、外へ写真撮り行こうよ」
「俺もいるぞ!」
茂丸もドミノに参加している1人だった。
「3人で行くか」
「そういやおかず返却された?」
僕はポンプ作業が忙しくて考えられなかったことがあった。
「少し前の日にね。明日姉さんが車で持ち帰って、今、物置部屋にあるけど……、使う?」
「いや確認しただけ。僕、参加しなくてよかったんだー」
「竹刀君にバレないように隠すの大変だったんだからね」
「それは悪いことをしたな」
「いちと純と結にも感謝しておけよ」
「いちは違うけど、ハート隊だもんな。朝来たら伝えとく」
僕は下駄箱着くと、靴を履き替えた。
「で、どこの写真を撮るんだ?」
「狂い咲きの桜」と茂丸。
「美術部は?」
「じゃあ戻る? 中だし」
「いや外。外で描いてる」
「中出しとか外とか言うなよ」
茂丸が変態の様子を見せた。
「はいー、園恋減点〜」
「はっしーのモノマネ上手いね」
「おはようー、特に何も言うことないー、トランクスとズボンを後ろから集めて持って来いー」
「やめろよ、怖いだろう」と茂丸。
僕らは狂い咲きの桜までついた。
今年も狂い咲いている。
冬に見る桜は趣がある。
美術部も何人かがこの桜を描いていた。
「すみません、この桜を描いている君たちを写真に収めてもいいかな?」
「葉阿戸様! どうぞ、俺達は退くので」
「いや、君等を撮ろうと思って! モデル、頼んでもいいかな?」
「モデル? 俺達が?」
「そう、嫌かな?」
「いいです、ね、皆?」
「「「はい」」」
美術部員の男子たちは長めな髪を縛ってメガネをかけマスクをして、オタクムーブあふれる顔をしている。
「んじゃめな」
「なんでチャド共和国の首都の名前を言ったんだよ」
「噛んだんだよ。そんじゃ、皆集まって、鉛筆を上げて並んで」と葉阿戸は皆を急かした。
桜をバックに、並んだ面白い構図だ。
ピピッカシャ!
「ありがと〜」
「いえ、どういたしまして」
「普通に描いてるとこ撮りたい」
「はい!」
カシャカシャ!
「それじゃ、また会った時は宜しく」
「あのう、葉阿戸様に相談なんですけど。好きな人に好きと言えないんですけど、どうしたらいいですか?」
「コミュニケーションをとろう!」
「無理なんです。恥ずかしくて!」
「んじゃ、ナンパしたら?」
茂丸は適当にあしらって行こうとする。
「誰が好きなの?」
「ネッ友の子なんですけど」
1人の顔文字のような地味な顔の少年が僕らにケータイを見せる。
映るのは巻き髪の茶髪の薄化粧の女の子だ。
「可愛いじゃん。俺ほどじゃないけど」
「コミュニケーションとらないのによく、仲良くなれたね。写真も送ってもらえて」
「友達の友達で! でも2人だと何も話せなくて、今度オフ会を開くんですが、行こうか迷ってて」
「行って来い! 男を見せろ!」
「なんて、声かけたらいいか」
その男子と一緒に僕らは考え込んだ。
「何でもいいよ。絵でも書いてプレゼントしたら?」と僕。
「たいはバカだな、引かれそうなこと言うね。オタク友達ならマンガ・アニメの話ししたらどう?」
葉阿戸は僕を見て、首を振る。
「あ、それ、いいですね」
「カラオケでライトなオタクのアニソン歌えばいいよ。マンガ・アニメに沼ってないんだろ?」
「俺も、その子もライトなオタクです。推しは”ハーフダブルミックスに届け”の”冬菜ゆりちゃん”です」
「あ、俺も好きー、主人公とすれ違いまくっている女の子の3人のうちの1人だよね?」
「葉阿戸、お前、アニメ見てんのか?」
茂丸が不思議そうに葉阿戸を見る。
「あ! 皆には内緒だよ! 君等も」
葉阿戸が赤くなっている。
僕も知っているアニメだが、あえて言わないようにした。
(部屋に隠した少女漫画、茂丸が来た時にバレなくて良かった)
そう思っているうちに、あれよあれよと連絡先を交換している2人。
葉阿戸のケータイには三文字えなと書かれた少年のアイコンが増えたらしく、僕に見せてきた。
ちらっと見た限りで99人の友だちがいることが分かった。女子も男子も大勢の数に僕はクラクラしてきた。
「えな君、またね」
「葉阿戸様も帰りお気をつけて!」
葉阿戸と茂丸と僕は校庭の写真を撮りつつ、視聴覚室に帰ってきた。
部長と副部長が写真をプリントアウトしている。
僕らは美術部と桜の写真をプリントアウトしてもらった。
「えー寒い中集まってくれてありがとう。最近は皆腕が上がってきてる。それでな、来週の木曜日にコンテストがあるんだが、全員1枚を来週の火曜日までに持ってきてくれ。それと全員でコンテストに出す日余さん1枚を今日、決めていこうと思う。今まで撮った日余さん今日の1枚は50枚くらいあるんだが、秋のコンテストだから、9月から11月までの12枚の内から決めよう」
伊祖が温かそうなダウンジャケットを着たまま、話す。
「あれ? 見たことある光景だな、夢か?」
「日余さんの今日の1枚は来週の木曜日に決めよう。じゃあそれぞれ、心を動かせるものの写真を選ぼう。1番がいいと思った人〜〜〜〜、それでは5番の”美術部と桜”に決定!」
「皆、気をつけて帰るように」
「「「「はーい」」」
僕らはとりあえず帰ることにした。
相変わらずの寒さに震えながら皆は下校した。