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114 写真部の宇宙飛行士

次の日。

僕は7時に学校につき、教室に向かった。


「おはよう、モン」

「馴れ馴れしくするなよ。会長や葉阿戸様の前でもない限り、お前に挨拶などしない。ついてこい」

「お、おう」


僕はモンの後を追う。

2階に上る前の階段の横に来た。昨日とは対極だ。

コンコンコン。

モンがノックした。

ウィイイイン。

長四角の出入り口が開いた。

どうやらここは2年生の居場所だ。

さんぽ、終硫、唯盛、といと、そして名のわからぬ2人が回る棒を押している。

名のわからぬ2人には名前が大きくガムテープの上に書かれている。

その名は、室川春斗(むろかわはると)石井陽(いしいよう)


「今日は蟻音にもやってもらう。さんぽ、代わってくれるか」

「モン君分かりました。たい、いっせーのせ! で代わるぞ」

「うん」


僕は服をそのまま着ていた。


「「いっせーのせ!」」


僕は棒に飛びついた。なかなか重みがある。10キロ程の米を運んでいるかのような重量だ。一気に汗が出てくる。


「蟻音、このまま残り10分間やれよ」

「きついっす」

「あんまり怠けてると罰金だ、罰金」

「はあ」


僕は全身の筋肉を使って棒を回し続けた。

桁違いな汗の量。

頭が痛くなってきた時、頭上から癒やしの音が鳴り響いた。


ピピピッ! 

『終わりだよ!』


棒を回していた全員が直立姿勢でモンを見る。


「各自解散!」

「「「はい」」」


皆が一斉に出ていった。

駐在員のおじいさんが僕を遠目で見ている。


猫林(ねこばやし)さんだ」

「蟻音たいです! おはようございます」

「おはよう、お疲れ」


猫林は近寄ってきた。


「お疲れ様です」

「猫林さん、私達はこれで」

「今日も勉強、頑張って」

「ありがとう。……たい、行くぞ」


モンは猫林を一瞥して、出ていくので、僕も頭を下げて出ていった。


「昼休みは3年生を見に行く。先輩に無礼な真似したらただじゃ置かないぞ?」

「じゃあ、どう置くんだ?」

「考えてねえよ」

「考えてないのに言ってんのかよ」

「アーチェリー部の的になってもらう」

「今決めたろ」

「あんまりしつこいと会長にチクるぞ」

「チクリ魔」

「そろそろ静かにしてもらおう」


モンと僕は2年3組に着いた。

中に入ると、いちと目があった。


「おはよう! 2人とも今日も早いね」

「いや、だって」

「だまらっしゃい!」


モンが僕に顔に平手打ちをした。

パシン!


「ぐは!」

「闘魂注入だね」

「いち、この子どうにかして」

「これからも生徒会の禁止ワードを言おうと思うなよ」

「はいはい」


僕は叩かれた頬をかばいながら自分の席に移動した。そして、下半身を脱ぎ、勉強を始めた。

がらら

しばらくすると、クラスの皆が登校してきた。


「たい、右頬どうかしたの?」

「モンに叩かれた」

「モン? あ、そういえば修学旅行の時、じゃい君になにか変なこと言ったりしたりしなかった?」

「蟻音には禁止事項に触れたから叩きました。じゃい君? さあ、分かりかねます」

「純君か結君かな?」

「オレがなにか?」

「じゃい君、なにか修学旅行の時様子がおかしかったんだ、何か知らないか?」

「「知りません」」

「茂丸に聞けば分かるかも」

「蟻音! 余計なこと言うなよ」

「モーンー? やっぱり君か?」

「じゃい君、ワキガだから、毎日汗ふきシートと制汗スプレー渡してたんですけど、修学旅行の時持って来るの忘れて。私、茂丸君とじゃい君と3人でエレベーター乗った時に、茂丸が私の事を汗臭いって、言い合いになって、汗臭いのは太ってる人だと言ってしまい、じゃい君が落ち込んで……ということがありました。すみませんでした」

「俺を騙そうとしたよな? 聞いて呆れるぞ。じゃい君に謝れよ。せっかくの修学旅行なのに邪魔して!」

「葉阿戸様、すみません今から謝ってきます」

「もう授業始まるから、昼休みに」

「いや、昼休み、生徒会の用があるんだって。それなら今から電話してやろうよ? 後5分あるから」


僕は電話を提案すると葉阿戸も頷く。


「モン、じゃい君の番号分かるよね?」

「はい」


モンにケータイを出させて、じゃいへ電話をかけさせた。


『おはようございます。じゃい君。修学旅行の時、汗臭いって揶揄してごめんなさい。……明日も? 分かりました! それでは失礼します』

「その反応なら大丈夫そうだな」

「気にしてないだ、だそうです」

「良かったね、後で茂丸にもお灸をすえないとな」


葉阿戸は指をたてる。

キンコンカンコーン

がらら


「イケメン戦隊レッド見参!」

「橋本先生……飲まれたのですか?」


僕は先生を疑いの目を向けた。


「全然飲んでないよ! 虻庭はブルーで、日余はピンクな、倉子はグリーン!」

「イケメン戦隊ってなんですか? 先生はイケメンじゃ……」

「はいー蟻音減点〜、もしくはブサメン怪獣1号〜」

「しっかりしてください」

「しっかり減点〜」

「朝礼してください」

「んー? ああー、そうだなー、今日も休みのメンバーは変わらずっとー。じゃあ先生は職員室でキンキンに冷えたビール飲んでうあうあしてるからー、勉強頑張れよー」

「授業は?」

「今日は世界史探求はあ、り、ま、せんー! まじでここまで来る意味だよなー。生徒会の奴らに面目が立たないから来てるだけだしなー、おっとー、脱いだズボンとトランクス持ってこーいー。……じゃーなー」


橋本は服を集めると、サイドステップで教室を後にした。


「陽気なおじさんだな、まったく」


僕は英語の授業の準備をする。

昼休みまで頑張って勉強をした。



昼休み。

僕とモンは屋上に上がる階段の横に来ていた。2階とは正反対の場所だ。

コンコンコン!


モンが壁を叩く。


ウィイイイン


壁が上がる。


「ごめんください」

「いいから、そういうの。早く入って」


モンに背中を押されて入った。出入り口はすぐさま閉められた。

この部屋はエアコンが付いていて少し寒いくらいだった。そしてやはり、トランクス姿の6人が回す棒を押している。

「松野先輩、宮根先輩、新井先輩、渡辺先輩、木下先輩、春木先輩」


モンは視線を先輩に投げかけながら呼ぶ。


「モンちゃん、なんか用?」

「いや、蟻音たいが分かってなさそうなので呼びました、不快に感じたらすみません」

「ふうん、偉いブサイクが来たもんだ」

「な!?」


僕がショックを受けているとモンが続く。


「そうでしょう、そうでしょう」

「2回も言わなくても!」

「蟻音、さっき言ったこと、もう忘れたのか」


モンが耳打ちする。


「俺様、ブサイク怪獣1号! ブスブスミサイル発射!」


ブスーーー!

僕はありったけの負けん気で言い放ち、屁をこいた。


「はははは、なんだコイツ! くっせー」

「ガハハハ! 会長のお気にだろ? くっせー」

「うえ、密室で屁をこくなぁ! くっせー」

「蟻音がくっさい屁こいてすみません。私の教育不足です」


モンは顔を真赤にして謝る。


「かまへんかまへん。こきたきゃこけばええがな。面白い奴だな」


部屋の奥に目をやると、虎皮のソファに拓哉が座っていた。隣には地味で丸メガネをかけたちょび髭のスーツ姿の男がいた。


「会長! 芽里さん」

「見学に来たのか? たー君」

「はい、でも、皆辛そうです、金曜日見た動画の人は楽々回しているのと、パンツ一丁じゃないのに、どういうことですか?」

「そういうこともある。雨の日はゆっくり回せば良いということだ」

「雨の日は屋上のタンクを開けっ放しにしてるんですか?」

「まあそういうことになるな」

「なるほど」


僕はゼンマイのように回る棒を見た。グルングルン回っている。1回り10秒ほどだ。


「18人の中で毎日、誰かは休んでいる。働きアリの法則だよ」

「それじゃあ、2割はよく働き、6割は普通に働き、残り2割があまり働かないというわけですか?」

「うん。でも、それで良いんだ。上手く回っているだろう」

「反対側の階段と元トイレの方にポンプ装置を作ったのは傾斜をジグザクに利用しているんですね」

「そうだよ。さすがだね」

「ありがとうございます」

「今日は部活があるそうなので明日から働かせます」

「オッケー! じゃあ、よろしくね。ちなみに監視カメラが付いてるから、貴重品はポンプ稼働室に持ってきたほうが良いよ」

「分かりました」


僕は赤ワイングラスで赤い飲み物を飲んでいる拓哉を凝視した。


「これ? アセロラジュースだ。 飲むか?」

「あ、いえ、じゃあ僕は昼飯があるんで失礼します」

「ほーい」


拓哉に頭を垂れると、僕らはこの場を出ていく。


「拍子抜けだな」

「会長に言ってるのか? ああ?」

「もっとピリピリしてるのかと思ったよ」

「会長の機嫌次第で血を見る日もあるんだぞ? 知った口きくな」

「はいはい」


僕らは教室に戻ると、お互い離れたところで昼食をとった。

僕はいちと葉阿戸と昼食をともにした。



放課後の部活動で。

緑と白の宇宙飛行士のコスチュームで葉阿戸が登場した。


「誰がこのコスしても同じじゃないか?」


茂丸は小さな声で本音をこぼす。


「無限の彼方へ、さあ行くぞ!」


「やめとけ、怒られる」と僕。


「そういう路線なんだな」

「ところで、茂丸、あんた、じゃいに修学旅行中汗臭いって言ったらしいな」


僕はジトーっと茂丸を見た。


「その事は水に流して仲良くしてるよ、トイレだけに」

「じゃいに聞くからな」

「いいよ、聞けば?」

「その事は置いといて、写真撮ってよ」

「はいはい」


僕らは皆葉阿戸に夢中だった。

帰りはポツポツと小雨が降っていた。


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