105 トイレの正体を探る4人
次の日。
僕は7時に学校の教室に行くと先に来ている人がいた。健太郎だ。自分のトイレの前でトイレを眺めている。
「おはよう、栗ちゃん」
「おう、たいか。学校のトイレってどうなってるんだろうなと思って早く来て調べてるんだけど、蓋が閉まってて埒が明かなくて困ってるんだ。座ったら、足固定されるし」
「僕に聞かれても……専門の業者じゃないしわからないな。あ、モンは生徒会の副会長だし分かるかも」
「私の名をその薄汚い口で発しないでくれるか?」
噂をすれば、モンが登校してきた。
「モン君、トイレの状態ってどうなってるんだ? 教えてくれ」
「答えはNOだ。それを私に聞き、解決してどうするつもりだ? 大体、その件は禁止事項だ」
「モン君や葉阿戸さんってうんこしないよな、どうしてるんだ?」
「毎朝快便だが」
「モンに聞けといった僕が悪かった」
「トイレの件に首を突っ込まないでもらいたい」
「はいはい、分かりましたよ」
僕は首を傾げる健太郎にアイコンタクトをする。
がらら。
「おはよう、皆、今日は早いね」
いきなり、前のドアが開く。
「いち、おはよう」
「葉阿戸さんもいるよ」
いちの後ろに、僕の心臓をぎゅっと掴んで離さない人がいた。
「おはよー!」
「お、おう、おはよう」
僕は驚いてどもる。
「おはようございます!」
「おっはー」
健太郎とモンが応える。
「何の話?」
「いえ! 何でもございません。それでは、私はじゃい君を待ちますので、失礼します」
「たい?」
「うん? 別に大した話じゃないよ」
「そうなんだ」
「トイレの構造を調べていたとこだ」
健太郎はぶっきらぼうに言ってのけた。
「おい、栗ちゃん、葉阿戸が興味持ったらどうするんだよ?」
「俺別に気にならないよ? 大方、下水をためている場所があるんだろ」
「だよな!」
「でも、座ってたのを立ってどこか行くたびに流されていくんだぞ?」
健太郎は引かない。
「下に向かって流れるんだろうな」
「その線で行くと、地下とかありそうだよな」
僕は葉阿戸と話し合う。
(そういえば、屋上に大きな貯水タンクが3つあったが……?)
「あのさ」
「「「おはよう」」」
人口密度が増してくる。
「人も増えてきたし、この話はあとでにしよう」
「俺も考えとくよ」
葉阿戸はいちと視線を絡めた。
眼力の強い葉阿戸にいちはそっと視線を外す。
「うちも」
いちは小声で言うと、自分の便座の横でこそこそとズボンとトランクスを脱いだ。そして座る。
僕らも同じようにズボンとトランクスを机に脱ぎ捨てる。
葉阿戸はひざ掛けをスカートのようにして着ると、衣類を脱いでいた。
今日も何気ない1日が始まった。
放課後。
「上で流したトイレの水は浄化され、下のトイレに再活用されてるだって?」
「予想だよ?」
「でかした、たい! 上に大きな貯水タンクがあるはず」
「3つ分あったよ」
「この近くに下水道もあるし、たいの説が1番有力だね」
「でも、それを調べてどうしようっていうんだ?」
「栗ちゃん、もういいんじゃないか?」
「じゃあその説だと言うと、上の水はどうやって配給してるんだ?」
「それは、水を上に注いでいる人がいるんだ。電力でね!」
金髪で褐色な男子高校生が出てきた。両目は蒼眼だ。
「「「会長! こんにちは!」」」
葉阿戸といちと健太郎は頭を垂れた。
「会長?」
「バカたい! 生徒会長だぞ!」
「こんにちは?」
僕は腰を低くした。
「はい、こんにちは〜、頭を上げて、自由にしていいよ。俺、3年1組の雷神拓哉、学級新聞にのったり、始業式などの式典で前で話したりしてるんだけど。以後、お見知り置きを。それでね、モン君からトイレの情報を知りたがって迷惑な人がいると聞いて気になってやってきた次第だよ」
拓哉は僕のことを値踏みしているかのように全身を見た。
「雷神先輩、学校の裏情報を調べてすみません。ですが、お言葉ですが電気を食ってるので、そのための男子校の私立としていることは、来年の生徒に発表したらどうでしょうか」
「そうだね」
「あの、えっと、生徒会は非常によく頑張っていらっしゃるのは承知の上です」
「ふうん、さすが飛距離大会に出て優勝した貫禄はあるな。うん……、お前、今年の飛距離大会に出るんだろう?」
「僕は、今年は観覧者に周る予定ですが」
「裏情報を知るにはたー君が鍵を握っている」
拓哉は笑いながら頷く。
「なんで、その呼び方を?」
「ああ、話、脱線したな。この学校にいれば頻尿や便秘や下痢も全て解決するんだ。近々、我が父上の会社の椅子をトイレの椅子に変えることも検討されているんだ。頻尿、下痢、便秘、全てを楽に変えるために我々は動いている。飛距離大会もその一環だ。この学校の皆がオナニーに寛容になることで社会を変えたいと俺は思っている。たー君、出てくれないか。たー君が勝てばこの学校の秘密も話すからさ。俺の最後の節目として対決してほしい」
「いや、あの、僕は」
「飛距離大会には俺が出る予定です」
「それならちょうどいい。えーと、栗原健太郎君だっけ? 選手権をたー君に譲ってくれるかい?」
拓哉は健太郎を見上げる。
「いいっすよ?」
「栗ちゃんー」
「あー良かった、この学校の痕跡を潰すことなく、代わってくれて」
「痕跡を潰す?」
僕は阿呆のような声を出す。
「生徒情報をね」
「会長! 仕事押し付けてどこ行ったかと思えば、こんなところで、油売ってたんですね! 会長のサインが必要な書類があるんで、戻ってきてください」
「モン!?」
僕はまたボケたような声を上げる。
誰かと思えばモンが教室にやってきた。
「それじゃあ、大会の準備、よろしくね〜」
「な! まさか、蟻音が飛距離大会出るの代わったんですか?」
「うん、そのほうが面白いと思って」
「そしたら〜〜〜〜」
2人は歩きながら喋って姿は見えなくなった。
「たい、ごめんな、逆らえなくて」
「いいよ、この方がまだ後味悪くないし」
「あの人も飛距離大会、出るのか」
「THE漢って感じだね」
いちの言葉に僕は心にトゲが刺さった。
「そりゃ、僕は男らしくないし」
「そういう意味で言ったわけじゃ」
いちは言葉に詰まる。
嫌味を言ったわけじゃないと分かっていても、僕はコンプレックスを持っている。男としての大事な部分に。
「たい! 君は俺の彼氏だぞ? 自信持て」
「葉阿戸」
僕は涙をのんで葉阿戸を瞠った。
「でも、試合のおかずに俺の写真集使うのやめてくれるか?」
「なんでだよ」
「君に当たる確率低いだろ。流石に知らない人にやられるこっちの身にもなってくれよ」
「じゃあどうするんだよ」
「自分で考えろ」
葉阿戸はそういうと帰る準備をした。
僕といちと健太郎もリュックに持ち物を入れて用意した。
「まあまだ日があるしゆっくり考えたら?」
「うん」
僕はいちと見合わせる。
「帰るぞー」
「「「おー」」」
僕らは寒くなってきた空を見上げて帰っていった。
土日、僕はずっと悩んでいた。
(飛距離大会のおかず何がいいだろうか?)
「プ◯キュアの下敷き? 流石に女児アニメで抜くのはどうかと……。うーん」
土日中に答えは出なかった。




