104 中間テスト返し2
次の日、3時間目。
「じゃあ、生物のテスト返しだ。蟻音!」
土橋が僕の名を呼んだ。
僕は椅子の足の拘束を解いてもらい、皆の眼前で返された。
ちなみにモン、葉阿戸、いちは選択科学なのでこの場にいない。
「このクラスのトップだ、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
僕は気恥ずかしくなり、顔を下げて便座へと戻った。
点数は94点だった。
土橋は全員にテストを返すと、普通に授業を始めた。
ブリリリ。
前の方で排便音が聞こえてきた。出したのは健太郎だ。
臭い匂いが飛んでくる。
「栗ちゃん、ペーパーある?」
「俺にはこいつがある」
健太郎は6点の答案用紙をちぎって尻を拭き、トイレの中に入れた。
「お前、バカだろ!」
「どうせ6点だもーん」
「逆にどうしたら6点取るんだよ。マークシートなのに! 答えは5分の1が50問なのに。名前書き忘れたのか?」
「名前は書いたし、マークシートも埋めたぞ」
「じゃあなんで6取るんだよ? わざとか?」
「ランダムに答えなるだろう? 消去法で1を全て埋めていったのさ」
「バカだな。2が1番、出題数の答え多かったのに」
僕は心の中の声が漏れる。
「授業中は静かにしなさい!」
「へいへい」
健太郎は適当に相槌をうつ。
授業は終わると土橋は健太郎の件は無視して出ていってしまった。
「とりあえず臭いから、消臭スプレーをパスしてくれ」
僕は周りが科学組でいないため回すのは投げ渡さないとならなかった。
「いいのか? 投げるぞ?」
「ヘイ、パス!」
そういう健太郎に僕は消臭スプレーをアンダースローで投げる。
カーン、ボチャ!
「ああ!?」
飛んでいったスプレーが健太郎のケツを浮かせている便器にホールインワンした。
「ギャハハハ」
「笑い事じゃないよ」
僕は純にいい咎める。
「うえ!? うんこまみれだ、どうしよう!?」
健太郎はうんこの付着した消臭スプレーをそのままにする。
「なんか臭くないですか?」
「戻ったよー」
「ただいまー! どしたの?」
科学組が帰ってきた。
「モン、葉阿戸、いち、大変なことが起こった! 〜〜〜〜」
僕は事情を説明する。
「水道で洗ってきたら?」といちは深刻そうにしている。
「俺、足枷が! 科学組の誰か、頼む!」
「おい、たい、お前のせいだぞ?」
「いや、僕悪くない!」
「まさか、栗ちゃんが取れないとは」
「臭いから、誰かスプレーをなんとかしてくれ!」
「はーちゃん、俺が洗ってくるよ」
「ボッキマン、葉阿戸の好感度上げようとしてんのか?」
「元はといえばたいがチップインするから!」
「誰でもいいから、早く! 次の授業は現代文なんだから!」
黄色がまくしたてる。
「私が洗ってきます」
「いや、俺が洗うって言ってんだろ?」
「葉阿戸様、どうしますか?」
「そうだな、竹刀君、頼んだ」
「ご褒美くれよ?」
「何もあげられるものないよ」
「じゃあ体で払えよ?」
「ごめん、やっぱり、モンに頼むわ」
「お任せください、葉阿戸様! こんなときのためにビニール袋があるんですよ」
モンは素早く動く。ロッカーの中からビニール袋を数枚取り出すと、手袋のように使って、消臭スプレーを健太郎の便器から取る。そのまま、それを廊下へ持っていった。
「はー気が利くなあ、モン君」
いちが本音を言うと、竹刀が怒った様な顔で、僕を睨んだ。
「僕、悪くない」
「何も言ってないじゃん? それに完全に悪くないわけではないと思うぞ?」
純は諭す。
「そろそろ橋本先生、来るぞ」
キンコンカンコーン。
がらら
「洗ってきました」
「虻庭ー、どうしたー、授業だぞー? 科学選択の人ー、トランクスを集めてこいー」
橋本に言われて、モンは健太郎に消臭スプレーを渡して、トランクスを集めた。
シュー!
健太郎は消臭スプレーをかけている。
「じゃあねー、現代文頑張れー」
橋本は去っていった。
すぐ後に現代文の先生が入室してきた。
「さ、授業を始めろー」
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
「テストを返す。虻庭ー」
現代文の先生からのテスト返しが行われた。足の拘束が解けるとともにトイレが流される。
現代文の時間だ。
僕は今度は急に自信がなくなる。
それからテストが返された。
小説問題でミスをやらかしていた。
授業は普通に行われた。
僕のテストの結果は68点。
授業はつかぬ間の出来事のようだった。
「なんだよ、もう」
「たい、俺より勝ってるじゃん」
「葉阿戸、何点?」
「66点」
「ちょっとしか違わないじゃん」
僕はいちのテストを見ようと、スッポンのように首を伸ばす。
「チリツモだよ」
「いち、98かよ」
「あ! たい、勝手に見ないでよ」
「倉子、すげー!」
「さすが、いち!」
皆が褒め称える。
「うちは別に……ありがとう」
いちは謙虚さを見せた。
「栗ちゃん、何点?」
「32」
「俺は18」
「低!」
健太郎と竹刀が話している。
団栗の背比べと言ったところだろう。
それより、僕は消臭スプレーはどうなったのか気になった。
がらら
「はいー、じゃあー、トランクスを返そうー。前から送っていけよー」
橋本は一瞬のうちに下着を返して、足の拘束を解き消えていった。
「健太郎、スプレーは?」
「返すぜ? ほらよ」
僕はスプレーの先端をつまんだ。
(洗ってはあるけど、大腸菌がいそうだ)
偶然持ち合わせたアルコールティッシュで綺麗に拭く。そして机にしまった。
「たい? ご飯食べよう?」
「うん」
僕は教室の隅で弁当を広げて食べた。
「来月のアレの大会、誰が選ばれるんだろう?」
「たいと竹刀君じゃん?」
「僕、嫌なんだけど」
「はっしーに言えよ」
「言ったら言ったで、どうせ僕にされる」
「そんなこと、てか、今日のロングホームルームで聞いてみれば? やりたい人いないか」
「そうしよう」
◇
そして、念願のロングホームルームまでこぎつけた。
「今日は来月の飛距離大会についての話し合いをしようと思います」
葉阿戸が黒板に書き、いちがノートに取る。
「大会に出たい人いますか? 挙手でお願いします!」
僕は思い切り手を上げてくれるのを祈って言葉に出す。
シーン
「たいが出るんだったら、出てもいいぞ?」と竹刀が手を挙げる。
「どうして?」
「去年、面白かったから」
「そうだよ、蟻音出ろよ」と純。
「「「たいが出ろよ」」」
「僕は出ません!」
「じゃあ、俺が出るよ、さっきの詫びも込めて」
健太郎が声を上げた。
「俺も出てやってもいいぞ?」
黄色も名乗り出た。
「先生、栗原君と如月君が出るそうです」
「今年はたー君出ないのかー?」
「今回、僕は観客で……」
「分かったー、じゃあ、伝えとくー」
橋本は教壇に立つ。皆は自分の便座に座り、指揮を待った。
「えーそれでは終礼をするー、来月の大会の出場者は頑張れー。明日もサボらずに学校に来いよー、テストの結果も親に報告することー、気をつけて帰ってねー。それでは、トランクスとズボンを返すー」
先生は皆に衣類を配ると足枷を外した。
「良かったー、ありがとう、健太郎、黄色」
「俺のことは栗ちゃんって呼んでくれ」
健太郎が勇ましく笑う。
「頼んだぞ、栗ちゃん。黄色」
「「おう!」」
僕は友情を育んでいると、葉阿戸に耳を引っ張られた。
「たい、部活行こうー」
「あ、うん」
写真部では外の紅葉を撮った。野球部、サッカー部、剣道部など部活の写真も撮れて充実した1日となった。
「おい、たい、何気持ちよく、一仕事終えたみたいな顔してんだ? 俺との勝負どうしたよ?」
「茂丸。勝負挑む相手間違えてるぞ?」
「うるせえ、見ろ、この俺のテストの点数を!」
茂丸が繰り出すテスト達。現代文、古典、生物、英語、数学、世界史探求が中間テストの科目だ。
現代文が60点、古典が70点、生物が58点、英語が28点、数学が6点、世界史探求が82点だ。
対して僕の点数が、現代文68点、古典が76点、生物が94点、英語が88点、数学が94点、世界史探求が84点だ。
「世界史探求、後1問でぇぇぇぇえ」
「ん? この光景、見たことあるな、デジャヴか?」
「うるせえ、お前、不正したろ?」
「してないよ。危ねー! 負けるところだった。じゃあ、コンポタージュな?」
「っち、分かったよ」
茂丸は勇み足になりながら視聴覚室を出ていった。
「また、茂丸、勝負挑んできて負けてるの?」
葉阿戸は萌え袖で手を口元に当てて、寒そうにしている。
「勝てたから良かった」
「必死に勉強してたからだよ」
葉阿戸はのんびりと椅子にかける。
茂丸が猛スピードで返ってきた。
「これ、葉阿戸の分も」
茂丸は葉阿戸にもコンポタージュを買ってきていた。
「ありがとう」
「帰りながら飲もう」
「そうしよう」
「うん」
僕らはコンポタージュで温まりながら帰っていった。