103 中間テスト返し1
次の日。
「深呼吸、礼!」
「お願いします!」
僕は便座に座って授業を受ける。
「よっしゃー、今日からテスト返しやぞー。取りに来いー、虻庭ー」
橋本はエセ関西弁で授業を始めた。
モンがしっかりとした足取りで前を見据える。
「蟻音ー」
僕はすれ違いざまにモンの点数を見た。そして、橋本から答案を受け取る。
(86か、なかなかだな、僕は……84か)
橋本は全員に配り終えると、黒板に答えを書き出した。
キンコンカンコーン。
世界史探求の授業は終わった。
次は体育の授業なのでトランクスが返却された。
「で、いち、何点?」
僕は小声でいちの方を向いた。
「うち、そういうやり取りはちょっと……」
「なんで? いつもボッキマンと比井湖にからかわれてるじゃん」
「見せたいわけじゃないんだよ」
「そうなんだ。まあいいけど」
「たい、何点?」
葉阿戸が前から僕の答案を盗み見た。
「あ!何見てんだ」
「やりぃ、俺、90点!」
葉阿戸が嬉しそうに声を上げた。
パチパチパチ。
「さすが葉阿戸様」とモンが拍手する。
「まあな、それより着替えようぜ」
皆が着替えて、体育館に向かった。
今日の体育の授業はバスケットボールの授業だ。
「見てー、妊娠したー」
いちが稀に見るギャグをする。ボールを体育着の中のお腹に入れていた。
「じゃあおっぱい出るようになったら搾乳機で搾乳しといて、後で飲むから」
竹刀がニヤつきながらふざける。
「ええ? ねえ、たい、キモいのがいるー」
「いち、冴えない冗談言うなよ」
「つまらないかな?」
「あまりのつまらなさに目がうるんだ」
「あれ? うちらって暴走族?」
ピー!
山田が笛を鳴らした。
「皆、ボールを持ってゴールに入れよう! 倉子からー」
「……えい!」
シュ! スポン!
ゴール下で綺麗にゴールが決まった。
「いち君、バスケやってたことあるの?」
「ないけど? あのゴールの四角の角に当てるんだよ。ボールの下がってくるタイミングで」
「へー! 僕もやってみよう。そい! ……や! ……さあ!」
僕の投げるボールはゴールから外れる。
「放物線を描くように」
「どけよ、たい」
竹刀がゴールを決めた。
「すごいだろ、すごくね、すごいよな」
竹刀はあまりのまぐれゴールに語彙力がなくなる。
「うーん、ムカつく」
しばらくゴールに向かい合い、1回シュートが決まったので、僕は傍観者に徹した。
隣のコートで葉阿戸は3pゴールを決めていた。
キンコンカンコーン。
「はいそれでは〜授業終了! 解散」
「「「おー!」」」
皆は各々帰っていく。
「葉阿戸ってバスケできるんだな?」
「中学の頃にバスケよくやってたしな」
「かっこよかった」
「真顔で言うんだ。たいは足は速いのにバスケはからっきし駄目だな」
「はははは、葉阿戸に言われると刺さる」
僕は苦笑いで誤魔化す。
「次は数学、テストの点期待してるよ」
「葉阿戸は大丈夫か」
「数学さえなければ学年で10位以内には入れるんだけどな。ははは」
今度は葉阿戸が苦笑いをした。
「馬鹿だな、僕が教えるから、元気出せよ」
「もう! ありがとう、甘えようかな」
葉阿戸は僕の肩を小突くと今度は自然な笑みをする。
「思ったんだけど、3組、頭いい人多くない?」
「いや、ピンキリだね」
「そうかな?」
「モンも数学が苦手らしいよ」
「何点くらい?」
「知らないけど、多分50点代の俺より悪いよ」
「ふうん。だけど、あんたもモンも大学行くんだろ?」
「モンは行くけど、俺は考え中。たいは東京の大学行くん?」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
「茂丸が言ってたよ。茂丸は高卒で働くらしいよ」
「え? そうなの?」
「奨学金を利子付きで借りるのは反対されてるって。明日姉さんの前でも金欲しいって言ってるよ」
「お金なら、僕も欲しいよ」
「裕福な家に生まれたんだから良くない?」と葉阿戸は試すように言う。
「僕にはそんなにお金かけてくれてないからなあ」
「そんなことないって」
葉阿戸と僕は教室に着く。そして着替える。
キンコンカンコーン
がらら
2人の先生が入ってきた。
「はいートランクスを集めるー、一番うしろの人ー、前に持って来いー」
橋本は僕らに下着を回収させると出ていった。
「号令!」
「深呼吸、礼!」
「「「お願いします」」」
「それではテストを返す、虻庭ー」
数学の先生は僕らに答案用紙をもたらした。
僕のテストの点は94点だった。
いちは例によってコソコソとテストの答案用紙を折っている。
「はいそれでは、30点以下は追試な、明日の放課後ー」
前の席の人たちは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
いつも通りの数学の授業があり、僕は集中して終わった。
「モン、何点だった?」
葉阿戸は突拍子もなく聞く。
「50点より下?」
「後でメールします。誰にも言わないでください」
「俺も俺もー」
カシャシャシャ!
葉阿戸はケータイを持ち出し、写メってメールを送っている。
僕はモンの点数を知っている。
なぜなら先生が答案用紙の上に答案用紙を載せて丸付けして、点数も筆圧濃く書いたから、透かしてみると、前の人の点数の跡が分かる。
モンの点数は46点だ。
「意外と文系なのか」
「ん? たいは独り言がうるさい人だな」
「そんなことないから」
そして、家庭科の授業を行った。
その後、昼食。
そして、古典のテスト、英語のテスト返しが待っていた。
◇
「じゃ、たい、また明日!」
「またねー、気をつけて、ゆっくり休んでね」
僕は葉阿戸に労りの言葉をかけて別れた。ちなみにテストの点数は古典は76点、英語は88点だった。
(後は生物のテストと現代文のテストだけだ。茂丸との勝負勝ったな? ちなみに明日は木曜日、部活の日だ)
テスト返しは明日にもつれ込んだ。