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10 焼き肉バイキング

「はい、ということで、こちらに5枚の写真が並んでいます。美術室に掲示する写真なのでじっくり考えてください。例のごとく多数決をとります! いいですか? まず1番目……、2番目……、3番目……、4番目……、5枚目……、……はい決まったのは、4番目の『薔薇』でした!」


パチパチパチパチ


僕は思った。

(この学校すでに蔓延しているのかもしれない。薔薇の人たちが、次々と)

だが、選ばれたのは悪い気はしなかった。

そして部活帰りに、焼肉屋に3人で行くことになった。多少混んでいたが奥の掘りごたつのような席が空いていた。

僕らはとりあえず椅子に座った。

店員さんがお冷を置き、コンロに火をつけた。

上に排煙フードがついているタイプの焼肉屋だ。


「よっしゃ、肉取りに行くぞ! カルビ、サーロイン、ハラミ!」

「葉阿戸! ケーキもあるよ! フルーツも!」

「子どもじゃないんだからはしゃぐんじゃないよ。あと、食べ切れる量を持ってこいよ」

「「分かった」」


茂丸と僕は肉を皿にのせていく。久々の焼き肉にテンションマックスだった。ばくばくと次から次へ食べて、肉を焼いていく。わずかに生焼けでも腹に入れれば問題ないというスタンスだった。

葉阿戸はメロンやオレンジばかりを持ってきて静かに食べていた。


「減量制限でもしてるのか?」

「俺のことは気にせずやってくれ。お腹が空かなくてな」

「葉阿戸、これ、ウインナー、食べてみろよ」

「……じゃあ、たいが食べさせてくれよ」

「ヒャア! なんで僕が!」

「たい、頼むよ」

「うーん……、えい!」


僕は太めで長いウインナーを箸でつまみ、葉阿戸に食べさせる。

パク! カリィッ、もぐもぐ。

なかなか、圧巻だ。


「ご飯でちゅよー」


茂丸がふざける。


カリィ! もぐもぐ。


葉阿戸が食べているのに比例して、僕は自分のウインナーも固くなっていくのを感じた。


「ごちそうさま」


葉阿戸は全て食べきると、メロンを串刺しにして食べる。


「はっ」


僕はいつの間にか、無くなったウインナーを見ていた。箸は上がって固まったままだった。


「ドリンクバー行ってくる」

「俺も行くよ、たいは?」

「ついでに、コーラ持ってきて」


僕は流石にすぐに立つことが出来なかった。

遠くで2人はニヤニヤしながら僕をチラ見する。

僕は少しして落ち着くと、尿意を感じてトイレへ向かった。

(2人してからかってきやがって!)

久しぶりに、小便器で用をたした。やはりトイレは落ち着く。

トイレから出ると、茂丸と葉阿戸が真剣に会議していた。


「たい、おかえり」

「作戦会議だ、例の大会について」

「前に走りながら出そうとして、コケて、ちんこ骨折した人がいてな。助走があっても走りながら出すのは賛成しない」

「出せばいいんでしょ。僕は葉阿戸の事考えて出すから必要ないよ」

「キモい宣言するなよ、ま、俺に何もしないんなら、どうぞお好きに」

「会議終了したな」


僕はあっけらかんとした。

カルビは火が油により、ついては消え、ついては消えた。

できたてを熱々のうちに頬張った。タレは絡んで濃い味でご飯とマッチする。


「美味い」

「やっぱり、ここはいっぱい食べて、元気にならんとな」

「ロース食え、たい」

「はいはい。もう腹八分目なんだけど」

「葉阿戸にあーんしてもらえよ」

「えー、仕方ないな。……ほら、たい、あーん」


パク! カカカ! もぐもぐ!


僕は爆速で肉をもらうと、ご飯をかきこむ。


「ごちそうさまでした」


僕は自分の陣地の肉とご飯を平らげた。


「ペース早いな」


茂丸は、呑気に6枚の肉を焼いていく。焼けたタン塩にレモンをかけて食べている。

ガタイのいい茂丸はまだまだ食べれそうだ。

残っていたご飯の最後のひとくちを茂丸が食べると、葉阿戸が口を開く。


「もうお開きにしようか」

「8時か。そうだな」

「クーポン使って、割ろうか」

「1人あたり約1000円と24円は安い!」


3人はお金を出し合って会計した。


「ありがとう、葉阿戸」

「いえいえ。こちらこそ」

「今日からシコって練習しとけよ」

「いちいち、茂丸はうるせー」


お店の照明は眩しく、外は暗い。そして寒い。


「じゃあ俺こっちだから」

「僕もそっちだよ」

「送ってやるのか? 男前、ヒューヒュー!」

「じゃ、学校でな」

「「またなー」」


茂丸と別れた。

自転車のライトは寂しげに光って、前方の葉阿戸の車輪を照らす。

なんの会話もない。

星が綺麗で月も輝いている。

僕は一瞬告白でもしようかと思った。それくらい空の光景は綺麗だった。

(月が綺麗ですね、か)


「じゃあ、俺こっちだから」

「僕もこっちだから」

「どこまでついてくんだよ。そんな嘘つかなくても、集落しかないから、大丈夫だよ。じゃあ、また部活で」

「うん、じゃあ」


僕も同じ言葉を言いながら、離れられずにいた。呼び止めなきゃと心で繰り返したが、行ってしまった。


「しっかりしろ、僕」


僕は思い切り頬をぶつと少し暖かくなった、気がした。

イヤホンで西野カナの曲を聞いた。

(恋愛ソングは女々しいなんてとんでもない。僕は元気をもらえるから好きだ、そして葉阿戸のことも好きだ)

川の近くの砂利道を走った。

気の赴くままに、家の方面に近づく。そして10分くらいで到着した。


「おかえり、たいちゃん」


髪の短くてメガネをかけた初老の女性が出迎えた。


「ただいま」

「楽しかった?」

「うん。父さんは?」

「まだ帰ってきてないよ。遅くなるって」

「そう、そりゃ良かった」


僕は2階の自室へ。


「ああああ! 大会であの子の前で見せなきゃならんのか!!! 絶対、包茎って思われる! 今のうちに剥いとくか? でも、ぴちぴちで剥けねえし」


僕は、机に座り頭を抱えた。同時に、葉阿戸の顔を思い出して、勃った。そして、トイレへ駆け込んだ。たくさんの液体を力強く発射させた。

(ふう、妄想だけでイケるってことは強みだぞ)

僕は大事なところの皮をむこうとしたが痛くてやめた。出してからも、しばらく元気なままでなかなか萎えない。約5分経過してしぼんできた。トイレを流してから、洗面所で手を洗う。


「はあー、父さんに聞いてみよう」

「何を?」

「だからぺに……!」


僕は我に返る。母に言いそうになってしまった。

(すのことだよ)


「ペに……って?」

「ペニーは、アメリカで流通されているコインのことだよ。1セント硬貨だよ。アメリカに興味あって、皆でいつか行こうなって話ししてるんだよ。父さんはアメリカに行ったことあるんだろ。英語の事聞こうと思ってたんだ」

「旅行費はバイトでもして稼ぐんだよ?」

「分かってる。あと、火曜日から写真部に入部したから」

「そう。良かったね」

「もう風呂入って、寝るから」

「父さん待たないの?」

「後で、ケータイにメール送るからいいよ」


僕は返事も聞かずに風呂に直行した。

葉阿戸のことで心はかき乱されている。茂丸に見透かされているのが気になった。しかし、何も出来ることはない。

僕は風呂からでて、ドライヤーで髪を乾かした。その後、歯を磨いて、就寝した。


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