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79 もちろん、私も

(グロリア様は恋バナの相手を探して私のところに来てくださったのね!)


 交友関係の広い彼女のことだ。

 ひとたび募集すれば恋バナ相手には事欠かないだろうが、それでも彼女はエルゼを選んでくれたのだ。


(もしや、並み居る花嫁候補の中から私を恋バナ相手に足るライバル認定をしてくださったのかしら……!)


 エルゼは今までの選考の中で、何度も何度も嫌がらせを受けてきた。

 ……きっと、それには目の前の彼女が絡んでいる件もあったのだろう。

 だがそれでも、グロリアが恋バナ相手にエルゼを選んでくれたとわかった時……胸の内に湧きあがってきたのは「誇らしさ」だったのだ。


(だったら、私もグロリア様に恥じないように恋バナを語らなくては!)


 エルゼは胸を張ってグロリアを見つめた。

 急に元気になったエルゼに、グロリアは一瞬たじろいだ気配を見せた。


「はいっ! 僭越ながらリヒャルト殿下にはたびたびお声をかけていただいております!」


 威勢よくそう言うと、グロリアは少しだけ困惑したように眉をひそめた。

 だがすぐにきりりと表情を引き締め、凛とした声で告げる。


「そう……そうね。でも近頃は、あまり皇子殿下とお会いになっていないそうじゃない」

「それは……」

「……愛想を尽かされた、ということなのかしら」


 グロリアの言葉に、エルゼの頭に衝撃が走る。

 だがそれは現実を思い知り打ちのめされたからではない。

 グロリアからの、厳しい言葉の奥に隠された「激励の念」を感じ取ったからだ(実際にグロリアがどう思っていたのか、エルゼの知る由はなかった)。


(こ、これは……ちょっときついことを言って私を奮起させようとしているのね……!)


 グロリアはエルゼをライバルとして認めているのだ。

 大国エルンスタールの公爵令嬢が、ほとんど名も知られていないような辺境の王女でしかないエルゼを!

 だからこそ裏から手を回して邪魔をする。時には激励もする。

 それこそ、清く……はないが正しいライバルの形ではないか!


(くぅ……グロリア様が私をライバルだと認めてくださっているなんて、燃えてきたわ……!)


 実のところ、グロリアは弱っている(ように見えた)エルゼに厳しい言葉を投げかけ、完全に叩き潰すためにやって来たのだが……。

 計らずとも、その行動はエルゼの弱っていた心を再び燃え上らせてしまった。


「たとえそうだとしても、私は退くつもりはございません」


 まっすぐにグロリアの目を見つめ、エルゼははっきりとそう宣言した。

 そんなエルゼに、グロリアは冷たく目を細めて畳みかける。


「……どうしてそこまで粘るのかしら。皇子の寵が消え去った以上、あなたに望みはないわ。……まさか自分が、皇妃の座にふさわしいとでも思っているの?」

「いいえ、思っていません」


 もちろん、エルゼはそこまでうぬぼれてはいない。


「皇妃にふさわしい人物」という観点で考えれば、エルゼは目の前のグロリアの足元にも及ばないだろう。

「私も一応は幼いころから王女としての教育を受けてきました。まっっっったく素質はありませんでしたけど」


 城で行儀良くしているよりも、外で走り回る方が好きだった。

 母や教育係に何度叱られたのか覚えていないくらいだ。

 そんなエルゼだからこそわかる。

 目の前の公爵令嬢グロリアの、まるで生まれつきかのように錯覚しそうになるその優雅な振る舞いの下に……どれほどの努力が隠されているのか。


「最も『エルンスタールの皇妃』としてふさわしいのはグロリア様でしょうね。あなたのその蝶のように優雅で可憐な振る舞いには、誰もが目を奪われずにはいられませんから」

 驚いたようなグロリアに、エルゼはにっこりと微笑む。


「もちろん、私もです」


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