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70 道標を失った迷子のように

『エルゼ、具合悪いの?』

「……ううん、大丈夫よ」

『足の怪我はよくなったんだよね? 今日はリヒャルトを探しに行かないの?』


 今までのエルゼは、暇さえあれば自室を抜け出しリヒャルトを探しに行っていた。

 だが今は……どんな顔をして彼と顔を合わせればいいのかわからない。

 何を話せばいいのかもわからない。

 どうしても……気が向かないのだ。


「……まだ少し足が痛むの。今日はおとなしくしておくわ」

『はーい』


 シフォンはその言葉を聞くと、エルゼの膝の上で丸くなって寝る態勢に入ってしまった。

 エルゼはそのふわふわの体を撫でながら、そっとため息をつく。


「なんか最近のエルゼ、元気ない」

「そ、そう?」


 どうやらエルゼがいろいろと思い悩んでいたのはシフォンにも伝わっていたようだ。

 寝る態勢になっていたシフォンが、むくりと体を起こす。

 つぶらな瞳に見つめられ、エルゼはどきりとしてしまった。


『……シフォンでよかったら話聞くけど』


 いつになく気遣った言い方に、エルゼはくすりと笑う。

 天真爛漫な子どものようなシフォンに心配されてしまうとは、思ったよりずっとエルゼの態度はわかりやすかったらしい。


「……そうね、ありがとう」


 エルゼはそっとシフォンのふわふわの毛を撫でた。


「……ちょっとだけ、迷ってたの。私がこれからどうするべきか」


 道標を失った迷子のように、どうすればいいのかわからなくなっていたのだ。


『うーん、よくわかないけどさ……』


 シフォンが甘えるように体をこすりつけてきて、その温かく柔らかな感触にエルゼは安堵する。


『エルゼが最初に「こうしたい」ってなったことを思い出せばいいんじゃないかな』

「私がしたかったこと……」


 シフォンの言葉に、エルゼははっとする。

 エルゼがこの国にやって来て、花嫁選考会に参加した理由。

 それは――。


(大好きな故郷の皆を守ること)


 エルゼを信じて送り出してくれたマグリエルの皆を守りたいという思いは変わっていない。


「そうね……ありがとう、シフォン」


 シフォンのおかげで、少しだけ気持ちに区切りがついたような気がする。


「私はマグリエルのために何が何でも皇妃にならなければいけないの」


 自分に言い聞かせるように、エルゼは何度もそう口にした。


「ありがとう、シフォン。だいぶ気持ちが落ち着いたわ」

『お役に立てたのなら何より~』


 おどけてそう言うシフォンに、エルゼはくすりと笑う。


「ねぇ、そういうシフォンが一番したいことって何?」


 シフォンは出会ってからずっと、エルゼの心の支えになってくれていた。

 そんなシフォンが望むことなら、なんでも叶えてあげたい。


『んとねー……』


 エルゼの言葉にシフォンはしばし悩むようなそぶりを見せた後、思い出したように告げた。


『誰かに会いたかったんだと思う』

「そういえば……初めて会った時もそう言ってたわね」


 罠にかかっていたシフォンは、「誰かを探している気がする」とエルゼを廃教会へと導いたのだ。

 そこで、エルゼはリヒャルトと出会ったのだ。


(シフォンが会いたくて探していたのは誰なのかしら……)


 あれ以来、シフォンは誰かを探している様子はない。

 だが探し人を見つけた様子もないのだ。


「……昔のこと、少しは思い出せた?」

『ぜーんぜん! でも、エルゼといるのは楽しいからいいや』


 無邪気にそう口にするシフォンのふわふわのお腹をむにむにしながら、エルゼは思案する。


(シフォンが探しているのが誰なのかはわからない……でも、わかった時には絶対に協力するからね)


 そんな思いだ抱きながら、エルゼはシフォンの柔らかな体を抱き上げぎゅっと抱きしめた。


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