34 新たな選考
「では、次の選考についてご説明させていただきます」
ホールに集められた花嫁候補の前で、女官がそう話し始める。
エルゼはごくりと息をのみ、背筋を正した。
「エルンスタール皇国第二皇女であらせられるルイーゼ殿下の誕生日が近いことは皆様ご存じかと思われますが」
(し、知らなかった……)
エルゼは「当然そのくらいは熟知しておりますわ」という顔をしながらも、内心で冷や汗をかいていた。
エルンスタールの現皇王には、三人の御子がいる。
長男である第一皇子アルブレヒト。次男である第二皇子リヒャルト。
そして話に出てきた第二皇女ルイーゼだ。
エルゼも故郷にいた頃にエルンスタールの皇族についてはきっちり教え込まれていた。
第一皇女については幼いころに早逝したらしく、ルイーゼ皇女は第二皇女でありながら今では皇王の唯一の娘だ。
そのため、皇王は彼女のことを目に入れても痛くないほど溺愛しているともっぱらの噂である。
(ルイーゼ皇女殿下は確か今七歳だっけ。リヒャルトやアルブレヒト殿下とも年が離れているし、余計に可愛がられているのかもしれないわ)
そんなことを考えていると、エルゼの耳にとんでもない言葉が飛び込んできた。
「次の選考では、皆さまにルイーゼ殿下の誕生祭を盛り上げていただきます」
(えっ……!?)
慌てて意識を集中させるエルゼに、女官は次のようなことを説明した。
エルンスタール第二皇女であるルイーゼ殿下の誕生日が目前に迫っている。
そのため、今回花嫁候補たちにはそれぞれルイーゼ皇女の誕生祭の誕生祭の準備を任せ、皇妃としての資質を測るのだという。
会場となるのはエルンスタール王宮を取り囲む湖。陸ではなく湖上が舞台となる。
ルイーゼ皇女の希望で、多くの船を浮かべた湖上パーティーが催されるのだ。
花嫁候補たちはいくつかのグループに分かれ、船の飾り付けを行う。
誕生祭当日にはルイーゼ皇女にそれぞれの船に乗ってもらい、一番皇女殿下の関心を引いたグループが高評価を得る……という流れになるようだ。
一名ずつ名を読み上げられ、グループに振り分けられる。
エルゼが振り分けられたグループには、他に三人の花嫁候補がいた。
アマ―リアなどグロリアの取り巻きのメンバーはいない。
そのことにエルゼはほっとした。
「皆さまと同じグループになりましたこと、心より光栄に思います。マグリエル王国第二王女、エルゼと申します。力を合わせ、ルイーゼ皇女に喜んでいただけるよう最高のパーティーにいたしましょう!」
真っ先にそう挨拶をすると、三人の花嫁候補たちはほっとしたような表情になる。
「こちらこそエルゼ王女とご一緒できて光栄です。わたくしはヴィアンデン王国第一王女、ヴィルマと申します」
「ローテナー伯爵家のフリーダと申します。どうぞよしなに」
「ルエスト子爵家のギーゼラです。皆様の足を引っ張らないように精一杯尽力させていただきます……!」
一人が小国の王女、二人がエルンスタール国内の中堅貴族の令嬢だ。
三人とも穏やかな人物で、エルゼは安堵する。
(よかった……。これならなんとかなりそうね!)
同じ花嫁候補同士、リヒャルトの妃の座を狙うライバルでもあるが、切磋琢磨する中までもある。
仲良くやれそうな人選で本当に良かった。
それからというものの、四人は折に触れては集まってアイディアを出し合った。
「ルイーゼ皇女の誕生日かぁ。どんなものがいいのかしら……」
「噂によれば、リグナー公爵令嬢のグループは金箔をふんだんに使用したとてつもなく豪華な飾りつけにされるそうです」
「そ、それは真似できませんね……」
「実家の資力や援助力がものを言うのが世知辛いですよね……」
(ほんとそれよ……)
エルゼは思わずため息をついてしまった。
一見公平に見える今回の選考だが、蓋を開けてみればとんでもない理不尽が待っていたのだ。