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17 仕組まれた展開

「次」


 ロミルダの態度を見て彼女の番は終わったと判断したのか、リヒャルトは次を促した。

 ロミルダの隣に座っていた令嬢がおずおずと自己紹介を始めたが、彼女もリヒャルトを恐れてか早めに切り上げてしまう。

 次の女性も同じだ。その次も。


(……これってガーデンパーティーなのよね? お葬式より空気が沈んでるんですけど!?)


 会場の華やかさとは裏腹に、会場の空気は最悪だ。

 エルゼは気分を切り替えようと、こっそりと目の前の皿からマカロンを手に取りぱくつく。


(無難に挨拶を終えたとしても、きっとリヒャルトの記憶には残らない。だったら、勝負に出なきゃ……!)


 エルゼの持つ手札は少ない。

 だが、ここに来てからの行動で確実に今場に出せる手札を手に入れたのだ。


(大丈夫、いける……!)


 視線の先では、最初のテーブルの花嫁候補たちの挨拶が終わったのか、リヒャルトが次のテーブルに移動を始めていた。

 配置を見る限り、エルゼたちのテーブルは最後のようだ。


(私たちのところへ来る頃には、リヒャルトが飽きてどうでもよくなっていませんように……。いや、今もそう変わらないか……)


 相変わらず彼はつまらなそうな顔をしている。

 次のテーブルの顔ぶれを確認していたエルゼは、グロリアやアマ―リアがいることに気が付いた。

 リヒャルトが席に着くと同時に、真っ先に声を発したのはグロリアだ。


「お久しゅうございます、リヒャルト皇子殿下。こうしてお会いするのは先の園遊会以来ですね」


 そのあまりに自信に満ちた態度に、エルゼは驚いた。

 昨日さりげなく情報収集したところによれば、グロリアはエルンスタール国でも名家中の名家な公爵家のご令嬢であるらしい。

 当然、王家との関係も深く、リヒャルトとも既知の間柄であるのだろう。

 先ほどのパトリツィアのように熱心にアピールしないことからも、彼女の余裕がうかがえるようだった。


「あらためまして、リブナー公爵家のグロリアにございます。この度はリヒャルト殿下の花嫁候補としてお会いできましたこと、心より光栄に存じます」


 なるほど……とエルゼは感嘆した。

 冷めきったリヒャルト性格上、パトリツィアのように押しの強すぎるタイプは辟易するのだろう。

 その点グロリアは、踏み越えてはいけないラインをよく熟知している。

 リヒャルトに鬱陶しがられるようなラインぎりぎりで、最大限にアピールしているのだ。

 これはリヒャルトの性格を分析し、対策を立てていなければできない芸当だ。

 案の定、リヒャルトは何も言わなかった。

 そもそも挨拶をした花嫁候補に何も言わないのも相当失礼ではあるのだが、相手はあのリヒャルトだ。

 冷たい言葉で斬って捨てるのが当然。無言はむしろ肯定的な反応と受け取るべきなのだろう。

 皆がグロリアの手腕に感心する中、次に口を開いたのはグロリアの取り巻きの一人――やたらとエルゼに突っかかってくるアマ―リアだ。


「グロリア様は素晴らしい歌唱力をお持ちだと伺いましたわ。是非、ここで披露していただけないでしょうか……」

(え、そんなのあり?)


 アマ―リアは「次は私の番!」とはりきるのではなく、更にグロリアをよいしょしようとしたのだ。


「まぁ、アマ―リア……今はそんな場ではないわ。他の花嫁候補の皆さまも控えていらっしゃることだし……」

「いいえ、グロリア様。わたくしもグロリア様の歌を拝聴したく存じます」


 そう言ったのは、アマ―リアとは別の令嬢だ。


(確か彼女も、昨日グロリアと一緒にいた……)


 つまり、彼女たちはグルなのだろう。

 取り巻きたちは花嫁候補と言っても自身が花嫁になる気はさらさらなく、ただグロリアの持ち上げ要因としてこの場にいるに過ぎないのだ。


「皆さまもそう思いますよね?」


 アマ―リアはそう言って、他の花嫁候補たちに目配せした。

 相手は大国エルンスタールの公爵令嬢。小国の王女などでは、とても太刀打ちできる相手ではない。

 他の花嫁候補たちにできるのは、ただ頷くことだけなのだ。


「もちろん、問題ありませんわよね?」


 アマ―リアが近くに控えていた女官に問いかける。

「さすがにそれは……」と止められるかと思ったが、女官はしっかりと頷いた上に背中を押しさえしたのだ。


「えぇ、構いません。皆さま緊張していらっしゃるようですし、リブナー公爵令嬢の歌で皆の心をほぐしていただければ」

(……これ、女官もグルよね)


 花嫁候補の扱いに差があった時点で察してはいたが、女官の中にも明らかにグロリアに与する者がいるようだ。 


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