表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/25

◇08 虹色の覚醒者。





 目が覚めた。

 ちょっと揺れを感じるけれど、起き上がる。


「……」


 なんだ、今の夢……?

 ……いや、夢ではなく、記憶……?


 遠い遠い記憶のように、朧げだった。


 それも……キャットリーナと名乗る姫君の目が映した光景のもの。

 なんで、そんな記憶が……?

 だって、私は……。


 私の前世は…………。



 ハッとする。

 こんなことを考えている場合じゃない。

 私は、拉致されたんだ。


 右手は、レイチェルさんの血がついたままだ。乾いている。かなりの時間が経っているみたいだ。


 レイチェルさんは、大丈夫だろうか……。

 お父さんと連絡手段があるはずだから、気を失っていなければ、助けを求めて手当てを受けてもらえるはずだけど……。深い傷だったから、心配だ……。


 なんで、私を連れ去ったのだろうか。レイチェルさんを傷付けてまで、私をさらった。子どもの人攫いではないはず。


 ……秘密組織【カエルム】の敵?

 その現ボスであろうグリージョさんと話していたせいだろうか……?


「ここは……?」


 どこかの屋敷の談話室のようだ。拘束されないまま、ソファーの上に寝かされていたらしい。

 目の前の脚の短いテーブルの上には、お父さんに連絡用と渡されていたロケットペンダント型の魔導道具。

 首につけていたのに、何故……?


 手を伸ばしたが、近付いてくる足音に気付く。横たわって、眠っているふりをした。


「ガキは?」

「まだ寝ているな」

「まぁいい。カロスとかいう野郎に、また確認するか」


 狙いは、お父さんへの人質だったのか。

 ぞろぞろと、何人かいる足音がする。声からして、全員が男かな。


〔娘は無事か!?〕

「ああ! まだ無事だ! まだな!」


 お父さんの声。連絡を繋げたらしい。

 私の命は危険すぎると、わざと強調する。


「無事返してほしければ、一人でここに来い! 東外れの廃墟の屋敷だ。一目見りゃあわかる! 元ヒョータル家の豪邸跡地!」


 豪邸跡地……? 廃墟の屋敷だなんて、思えない。


「じゃあな!」


 ガシャン!

 ロケットペンダントが、どうやら壊されたらしい。


 ……ここ、絶対に廃墟じゃない。私を囮に、別の場所におびき出している?

 お父さんには、何が待ち構えているのだろうか……。レイチェルさんを、容赦なく切ったのだ。傷付ける罠しかないはず。

 どうやって、お父さんにそれを知らせればいいんだろう。連絡用ロケットペンダントは、壊された。


 その前に、多分――――私は殺されかねない状況だ。


 どうせ罠に嵌めるための材料にすぎない。もう誘導した。私を生かす理由がない。

 ……自力で逃げ出して、なんとか連絡しないと。


 部屋の扉は、確か……私の後ろ!


「なっ! ガキが!!」

「逃げた!!」


 起き上がると同時にソファーの背凭れを飛び越えて、扉へ体当たりするように向かって飛び出した。

 廊下を見ても、やっぱり廃墟らしくない。汚れ一つないどころか、ピカピカじゃないか。ここに、お父さんは来ないだろう。

 窓の外は、もう暗い。木の高さからして、今は二階にいるみたいだ。


「火炎を撃て!」

「!?」


 思わず振り返ると、銃が向けられていた。

 放たれたのは、赤が織り交ざるオレンジ色の火球。

 魔導道具の銃!?


 手を振り上げる。水の盾を作り出して、なんとか火を防ごうとした。

 ぶわっと、目の前に作り出した水は、想像以上に量が多かったから、驚いてしまう。

 全力を出したつもりだけれど、こんなに水を出せたことはない。

 水の壁越しに見えたが、火球も砕き散らした。


 魔法が、強力に!?

 そういえばっ。ソファーから飛び出した時から……身体が軽いし、足が速いっ!


 まさかっ……!


 私は、今――――【ギア】を発動しているのでは!?


 身体能力も魔力量も魔法威力も向上する、パワーアップモードの特殊能力。

 ワンナの直系だから、特殊能力【ギア】が覚醒する可能性はあり得ると思っていたけれど、本当に実現したの!?

 確認している場合じゃないから、廊下を走る。階段を見付けたけど、下に敵が何人もいる。


「ガキを捕まえろ!」

「水の魔法を使うぞ!」

「逃げて連絡されたら厄介だ! 撃ち殺しちまえ!!」


 子ども相手に酷いな! やっぱり生かす理由がないか!

 一階へ強行突破か!? 二階の窓から飛び降りるしかない!?

 迷っている間に、追手の右方向の廊下と、一階の下から、無数の銃口が向けられた。

 普通の銃!? 普通の弾丸なら、水の壁なんて役に立たないっ!


 どうするっ?

 どうしたらいい!?



 ――――死にたくないっ!!



 あんな死後の暗闇に戻りたくない!

 窮地に激しく高鳴る心音と銃声を掻き消して、それは響いた。


   ゴーンッ!


 鐘の音が、一つ。


 目の前に撒き散らされたステンドグラスのような虹色の光りの破片を目にした。

 本当に硝子みたいに、キンッとぶつかり合って音を鳴らす。砕けるものがあれば、くっつくものがある。

 私を守るように、宙を浮かんで取り囲う。

 二方向から飛んできた弾丸は、全て――――ステンドグラスのような虹色の光りの破片が、受け止めていた。

 さっきの夢と同じ。

 ワンナと姫君が触れた瞬間に起きた現象と同じ。


 これが――――【ギアヴァンド】なの?

 神のみわざと表現された技。


 なんで……私が、これを…………?



「なんだ!? あの魔法は!」

「普通のガキじゃねぇぞ!!」

「早くしろ!! 作戦が台無しになる!!」


 虹色の光りに見惚れている場合じゃない。

 また発砲されたが、周りの光りが集まって受け止めていく。ポロポロと落ちる弾丸。


 こ、これ……勝手に、防御してくれている?

 【ギア】がパワーアップモードなら、【ギアヴァンド】は絶対防御モード?

 いつまで続くかはわからないっ! 今のうちに、強行突破するべきだっ!


「止めろ!!」

「っ!?」


 階段を下りようとしたけれど、階段下から土の魔法で鋭利な石、木の魔法で鋭利に回転する葉っぱが、無数に飛んできた。

 だめだと、身を引く。


 パリンッ。キンッ。キキンッ。

 ガラスが砕けるような音がするのに、どの魔法も私には届かなかった。

 無数の魔法の全てを、虹色の光りの破片が集まって、防いでくれたのだ。

 わっ。本当に……絶対防御なの、これっ?


「なんなんだ!? 攻撃が効かねぇ!!」

「集中砲火だ!! 全員撃て!!」


 集中砲火!? 今更だけど、大人げない!!

 強行突破したいのにっ! 階段にいる敵が多すぎる! 邪魔っ!

 攻撃のための魔法は使ったことないけどっ、やるしかっ!!


 と、手を突き出して、思った矢先だった。

 私の目の前に浮いていた虹色の光りが、向きを変える。まるで、刃物のように、前方に飛んだ。


「うおっ!」

「いてぇっ!!」

「避けろ!!」


 ザクザクッと、階段と敵の足や腹にガラスのように突き刺さる。後退りする敵は、踏み外して、階段から転げ落ちた。次から次へと、なだれ落ちる。


 こ、攻撃も出来る!?

 何これ! 無敵モード!?

 とにかく、今だっ!!


 階段の手すりに乗って、邪魔な敵を避けて、滑り降りる。

 無傷の敵の一人が、手を伸ばして私を捕まえようとしたから、横に避けるために落ちた。

 背中から床に落ちても、痛みに耐えて、すぐに立ち上がって逃げようと思ったのに。

 また光りは、私を守った。私の身体を支えたのだ。

 つるっとした表面の感触。本当にガラスみたいなのに、受け止められた時は、全然痛くなかった。一瞬、優しく包まれた気がする。


 これって、完全無欠モードなの!?


「!」


 上から、バリバリッと弾ける音がしたかと思えば、発光と雷鳴。

 耳を塞がないと耐えられないほどの轟音。

 そんな強力すぎるはずの雷の魔法ですら、虹色の光りの破片は頭上に集まって受け止めた。

 ぽとん、と床に下ろされた私は、虹色の煌めきの光りの壁を、愕然と見上げてしまう。



 完全無欠モードの【ギアヴァンド】は――――とんでもないものだ。



 この力は…………危険すぎる。


 これが使える子どもなんて――――利用したい者の全員が、奪うために狙いに来てしまう。

 慎重に、秘密組織【カエルム】のこととか、転生の理由だとか、探っている場合じゃなくなる。


 お父さんだけではなく、お母さんも、お兄ちゃんも……巻き添えで、危険に…………。

 特にお父さんの敵であるこの人達に、見られたのはまずい。

 私の安全のためにも、家族の安全のためにも。


 私はっ……!!


 グッと唇を噛み締めて、私は――――決断した。


 立ち上がって、私は玄関ではなく、奥へと駆け出す。


 どっちだ!? どっちにある!?

 左右を見てから、直感的に左の方だと思い、飛び込んでみれば、ダイニングルームだ。


 当たり! ダイニングルームの奥はっ! キッチンだ!!

 コンロは……よし! こっちも当たり! 窓も、ある!


 私は窓を開けて、窓枠に足をかけた。

 迷いに迷って躊躇したけれど。


「逃がすな!!」


 ぞろぞろと追手が来て、銃弾の雨と雷の魔法が放たれるため、虹色の光りの破片が盾となって防ぐ。

 キリンキリンッと砕けるけれど、集まり続けては守ってくれる虹色の光り。

 この【ギアヴァンド】状態のうちに、やるしかない。

 敵が集まってきた今だ。

 コンロに、手を突き出す。あそこに備えられた魔導道具のコンロは、気体燃料、つまりはガスで火がつく。

 火の魔法をぶつければ、もちろん。

 爆発する。

 思いっきり、火を作り出して放つ。


「えっ!?」


 作り出した火に、虹色の光りが集まってしまい、一気に膨張。

 虹色をまとう真っ赤な炎は、キッチンルームを埋めてしまうほどの巨大なもの。


 これはっ!

 ガス爆発が、必要なかったのでは!?

 さっきの水の魔法の何倍よりも、強くした!!


 【ギアヴァンド】が、最強すぎる!!



   ドォオオンッ!



 大爆発。想定を遥かに超えてしまった。

 熱と爆風を浴びて、私の身体は大きく吹っ飛んだ。

 虹色の光りの壁が、少なくて、衝撃をまともに受けた。


 魔法の方に光りが行ってしまったせいで、防御のための光りが遅れたんだ!

 着地はっ!? 間に合うか!?

 飛ばされた勢いのまま地面に落ちたらっ!


 後ろを振り向いたら、そこに人がいた。

 その人が、私を受け止めてくれたのだ。

 青年、いや、まだ少年だろう。白銀の髪を後ろにツンツンはねさせた、しかめっ面の少年。首には、黒のネックウォーマーをつけていた。


「お前っ、その目……虹色!? 【ギア】か!?」


 屋敷にいた敵は気付かなかったのに、一瞬で気付いた少年は【ギア】を知っている。


「どこの家の……っ!!」


 銃声がするなり、少年は左腕で私を抱えたまま、右手にした剣を構えた。弾丸を防ごうとしたのだろう。凄い反射能力だ。

 でも、剣に触れるその前に、光りの壁が弾丸を受け止めた。


「虹色の光りの、壁、かっ?」


 いつの間にか、最初のように虹色の光りは周囲に浮かび、漂っている。キラキラと、砕けたステンドグラスのように。

 危険なものは、私が意識することなく、自動で虹色の光りの壁が防ぐ。囲まれている間は、完全防御。


「まさかっ……伝説のっ! 【ギアヴァンド】!?」


 【ギアヴァンド】まで知っている。秘密組織【カエルム】の人だろうか。

 発砲されたのだ。少なくとも、私を拉致した人達とは違うはず。


「わ、私、エコー、ッ!」


 爆風を受けたダメージは、かなり酷いようで、強烈な痛みを自覚した。震えたその手で、少年の服を握り締める。


「カロスっ! カロス・ハートにっ、罠だって! 娘は無事ってっ……れんら、くっ、をっ!」

「カロス? その名前は、確か……特務機関のリーダーの?」

「東の、豪邸、跡地は、罠だってっ……いわ、ない、と……っ」

「そこは……元ヒョータル家だな。連絡はしてやるが、特務機関のリーダーなら、罠を仕掛けられようとも無事切り抜くさ」


 お父さんなら、大丈夫なの……?

 それを聞いて、力が抜けてしまい、ガクリと頭を垂らす。痛みで、もう起き上がれなさそうだ。


「ここにいろ」


 少年は、ゆっくりと私の身体を地面に置いた。

 虹色の光りの破片は、少年を避けて、道を開く。

 そのまま、少年は駆けた。

 銃を向けた相手を、バッサリと銀色を放つ剣で切り裂く。燃え上がる屋敷のそばで、わらわらと出てくる敵達を、切り裂く姿は閃光のように見えた。

 あの人。容赦してない。

 切り殺してる。うわ。手首を刎ねた。

 なんか言ってる。誰かと話しているみたいだ。もしかして、敵を切りながら、連絡をしているの?

 強くて、器用だな……。誰だろう。

 バチバチと、燃える音が遠のいてきた。また意識を失う。

 少年が、私に向かって何かを言っているようだけど、聞こえない。重くなった瞼を、そのまま閉じた。




   ◆◆◆◇◇◇◆◆◆




 静まり返った【約束の広場】の枯れた噴水の縁。

 そこに石像のように腕を組んで座って固まっていた吸血鬼が、フードの下の瞼を開いた。


「今……鐘の音が、聞こえなかったか?」


 掠れた声で問う。

 宝石のルビーのような瞳で見据えた先に、ポォオッと光りの球体が集まる。ライトグリーンをまとう光りの塊は。


「気のせいだろ。もう夜だ。そこの教会の鐘なら、とっくに朽ちて鳴りもしない」


 そう素っ気なく答えた。


「いや、その鐘ではなく…………【ギアヴァンド】の音が、聞こえたような……」

「【ギアヴァンド】の音だと? 夢でも見たんだろ。もうワンナとキャットは、いないぞ」


 ライトグリーンの光りの塊は、イラついた声を放つ。


「一番耳がいい貴様が、幻聴か? 二度と……聞けやしない、音だ。……チッ。嫌なことを言わせるな、まったく」

「…………そうだな。悪かった」


 ルビーの瞳は、悲しげな艶を浮かべたあと、瞼の下に隠された。


「ん? 今、雷鳴がしなかったか?」


 龍が低い声を吐く。


「はあ? 貴様まで寝ぼけているのか? 空を見ろ。満開の星空だ。雷雲など、どこにも見当たらぬ」

「……そうか、空耳か」


 フー、と龍は深く息を吹く。


「天気に一番敏感なのは、貴様だろうが……。まったく…………貴様ら、限界なんじゃないのか?」


 呆れた声を光りの塊が響かせば、そこで爆音が聞こえた。


「なんだ? 花火か? いや……爆発? 遠いな。騒がしい夜だのう」


 我々には、関係ない。

 【約束の広場】は、夜空に合わせて暗くなり、そして元の静けさを取り戻した。



 

2024/07/11

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ