◇07 虹色の記憶。
短いので今日は2話更新。
2話目。
暗がりの中から、光りが差し込む。
ドアを開いたのだ。太陽の陽射しで、目が眩む。目が慣れても、見える光景はなんだかぼやけている。
「お。ちょうどいいい。アンタ、城の者か?」
声をかけらえた。
深く被ったフードの下から、確認する。
青年だ。金髪が揺らめくが、彼の顔もぼやけている。
「そのドアをくぐれば、王城に入れるか? ちょっと案内してくれ」
「……盗人、には見えませんが、一応尋ねましょう。何用で王城へ?」
穏やかな声で、王城にはいる目的を問う。
「この王国は、犯罪者どもを潰しても潰してもキリがねぇー。流石に疲れたし、もう面倒だ。犯罪が起きる原因は、王が金を搾り出して貧民にしやがるせい。王を殴り飛ばしてやる」
ぱっぱっと、黒い上着の袖を払って、青年は言い退けた。
王を殴り飛ばす。堂々と国王への反逆を口にしたのだ。
「あら、まあ!」
明るい声を出してしまう。
「では、あなたなのですね? 王国外れからやってきて、都のスリから犯罪組織まで相手にして潰し回っているという、虹色の目をした、とんでもなくお強い方。龍も従えていると噂をお聞きしていますわ。本当ですの?」
「あ? 別に従わせてねーよ」
「あらあら。では、龍といらっしゃるのは事実なのですね。でも、瞳の色は違いますわ。虹色ではありませんわね」
一歩近付いて、覗き込むように見てみた。
瞳は、青色。
「今はな」
「と、言いますと?」
「オレの特技だ。色々とパワーアップするんだよ。【ギア】って呼んでる。ほらよ」
「まあ! 虹色に光りましたわ!」
キラリ。
瞳は青色から、虹色に輝いた。ダイアモンドに変わったかのようだ。
「なぁ、もういいか? 答えてやったんだから、アンタも王と会える道を教えてくれ」
「あらあら。そんな約束はしてないじゃないですか」
「はあ!?」
「予め、交渉するべきでしたわね。ふふっ」
朧げなのに、青年が顔をげんなりさせたことがわかった。
「お強いと評判なのに、正門から入らないのですわね」
「だから、疲れたんだって。サクッと、傲慢王を殴り飛ばす」
面倒だと頭を掻いて見せると、ひょいひょいっと手を振る。
「もういい、退いてくれ。勝手にそのドアから入らせてもらう」
「それは嫌ですわ」
退くように言うが、はいそうですか、とは譲らない。
「嫌ぁ? なんだよ。噂聞いてんなら、強いと評判のオレに殴り飛ばされるって、怖くないのか?」
「女性を殴る方だとは思いませんわよ。犯罪者だけを潰して、非力な人々を助けている方なのに」
クスリ、と笑ってしまう。
脅しは通用しないとわかり、ガクリと肩を落とす青年。
「なんなんだよ、アンタ。その非力な人々とやらを、助ける気はないのか?」
「ありますわ」
「はっ?」
ケロッと言えば、青年は拍子抜けした声を出す。
「でも、残念ながら、王を殴り飛ばすということに手を貸せませんわ。他の方法で、人々を救いませんか? このわたくしと、手を組んでくださいませ」
「手を組む? ……アンタなんかと?」
「ええ。戦力となってください。もうわたくしだけでは、手が届かなくなりまして……もっと人を集めて、助けたいのですわ。あなたが潰してきた犯罪者からも、手を貸してくれる方も現れてくれましたけれど、お強い方に束ねてほしくてですね。その役、お願い出来ますか?」
「はあ? なんの話だよ」
「王命で徴収された税を、取り返す人手のことですわ」
「えっ? ……そんなこと、してんのか? アンタ」
「ええ、そうですわ。あなたのお名前は、確か……ワンナでしたわね?」
「……まぁ、そうだけど……。アンタは、誰だよ?」
差し出した手。
「わたくしは」
握手のために、手が触れた瞬間だ。
光りが、瞬いた。
ゴーンッ!
鐘の音が、響き渡る。
取り囲むように、光りが宙に散乱した。
まるで、砕けたステンドグラス。形大きさは違えど、虹色に光り艶めく破片が漂う。
「まあ! なんて素敵な光景なの。これも、あなたの特技ですの?」
「えっ……いや……こんな現象は、初めてだ……」
手を繋いだまま、驚き固まり、周囲を見る青年。
困惑でいっぱいな表情の青年の顔が、やっとはっきりと見えた。
アーモンド型の瞳、高い鼻、整った顔立ち。
ワンナだ。間違いなく、ワンナ。
「アンタ、誰だよ?」
金の前髪の下で、周囲と同じ、煌めく虹色の瞳が、こちらを真っ直ぐに見る。
「わたくしは、キャットリーナですわ。この王国の傲慢な王の一人娘」
フードを外せば、さらに虹色の眩さを強く感じた。
「……アンタが、噂の姫君?」
「ええ、そうです。――――無能で無力という噂の姫君は、わたくしのことですわ」
虹色の光りの破片が、反射する。
「なんで笑うんだよ……? 変な姫だな、アンタ」
まるで、つられたかのように、ワンナは笑った。
鮮やかに虹色の光りの中、消えていく――――。
姫の記憶。
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2024/07/10