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虹色の光をまとう転生少女は、神に生き様を見守られている。  作者: 三月べに


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13/28

◇13 姫様の初めての遠出。





 私を呼ぶ声。


「キャットリーナ!」


 部屋のテラスに、ワンナが降って現れた。


「困りますわ。仮にも、王城の姫の部屋に侵入なんて、無礼ですわよ。ワンナ様」

「あいにく、礼節は学んでない。あと、様付けはやめてくれってば」

「でしたら、礼節を学んだら、様付けはやめましょう」

「一生無理だな、オイ」


 ケロッと言い退けるワンナの周りに浮遊する生き物に目が留まる。

 蛇にように長い身体。角があり、首には羽毛が巻かれてあって、二つの鳥のような翼を羽ばたかせている。

 純白の鱗の龍。


「龍のガシュナナルゼ様は、本当に大きさが自由自在なのですね」

「そういうタイプの龍なんだとよ。蛇が脱皮する度に大きくなるように、生きている限り成長して大きくなる。100年もすれば、この都を押し潰せるくらい巨体になるだろうよ」

「例えが物騒ですわ」


 ここまでの侵入方法は、ガシュナナルゼに乗って飛んできたのでしょう。

 いくら自在に大きさを変えられても、姿は見えるのだから、こういう訪問はやめてほしい。


「よし、じゃあ行こう」

「ちょっと。用件を聞いていませんわ。わたくしを連れ出すのは【ギアヴァンド】が必要だからだと思いますが……昨日、魔物狩りで試したばかりではありませんか」

「今日も【ギアヴァンド】が必要だから、来てほしいんだ。人助けさ。いや、正しくは鬼助け」

「鬼助け? わっ!」


 ワンナが私の腕を掴んで引っ張ると、手すりに足をかけて、飛び上がった。

 すぐに大きくなったガシュナナルの背に降り立つ。ガシュナナルゼは素早く上空に飛び、王城から離れてくれる。

 目撃者がいないといいのだけれど……。


「しっかりと掴まっておけ」

「本当に無礼な方ですわ……」


 ワンナが横抱きのような状態で膝に乗せる。

 空から落ちたくないので、ワンナの服を掴むしかない。


「鬼助けとはなんですの?」

「鬼族のダチが戦争を吹っ掛けられて、孤立無援だから、その手助けに行くんだ」

「戦争に温室育ちの姫を連れて行くなんて、正気なのですか?」

「【ギアヴァンド】があれば、大丈夫大丈夫」

「楽観的すぎますわ」


 とんでもない用件に連れ出されたわ……。

 楽観的に笑わないでほしい。


「本当に大丈夫だって。昨日の魔物狩りの中でも、キャットリーナを優先的に守っていたぜ? オレの魔法威力アップよりも、【ギアヴァンド】は、絶対にアンタを守る壁だ。【ギアヴァンド】が発動している限り、アンタは無傷でいられる」

「言い換えれば、【ギアヴァンド】が消えたら、わたくしは戦死しますわね」

「アンタは、悲観的だな」

「事実ですわ。鬼と言えば、人間と近い姿をしていても、超人的な身体能力を持つ種族だと本で学びました。そんな相手に戦争を仕掛けるなんて、当然、激しい戦争でしょう? あなたが【ギアヴァンド】まで必要としているのですし……。間違いなく、か弱いわたくしなんて戦死ですわよね。戦場で死ぬなんて、夢にも思いませんでしたわ……はあ」

「悲観的すぎるって! アンタ!」


 頬に手を当てて、ため息をつく。


「【ギアヴァンド】が、どのくらいの時間保てるかも調べておきたいけど、多分オレの気力が続くまでは大丈夫だと思うぞ」

「気力ですか? そういえば、昨日はかなりお疲れのご様子でしたね……身体を特に動かしていなかったのに」


 首を傾げる。


「オレの【ギア】は、流れる血の中に、魔力とはまた違う特殊な力があるんだってさ。だから、発動すれば、身体中でパワーアップするわけだ。体力が続く限り、【ギア】は保てる。【ギアヴァンド】だと、キャットリーナが持ってるモノを、オレが操ってる感じだな。消耗するのは、オレの気力だけ。だろ?」

「そうですわね。わたくしの方は何も消費していないと思います。……わたくしの命は、ワンナ様の気力次第ですのね」

「重っ! キャットリーナの命がオレの気力で決まるとか、重すぎるっ!!」


 本当にそうだもの。


「特殊な力が血に流れているなんて、よくわかりましたわね」

「ん? ああ。【ギア】が使え始めたのは、オレが9歳の頃だ。弟も15歳になる前に、使えるようになった。それから、歳を重ねるにつれて、パワーアップするからさー。なんか、寿命が減っているとかの代償があったら、嫌じゃん? だから、腐れ縁のガシュナの助言で、とりあえず、精霊アスタリークアのところに行って、確認してもらおうってことにしたんだ。魔法生物の精霊なら、魔法関連に詳しいだろうからって」

「精霊は、自然の魔力が集まって、誕生する種族ですわね。それで、血にあるとわかったのですか……なるほど」

「そっ! 血なら、鬼に聞いてみろってことで、これから助太刀にしに行く鬼のヴァンファルガーに出逢ったわけだ。血を調べてもらったら、不味いの一言で終わったけどな」

「鬼は、血を操る種族でもありましたわね。生命力とも言える血を支配する鬼……。精霊と鬼。龍のツテがあっても、礼節のないワンナ様が生きて帰って来れたことが不思議でなりませんわ」

「オレは、そんなに無礼なのか!? 酷いのか!?」

「わたくしにも、違う力があるということでしょうか?」


 先ず、気軽に会える種族ではないけれど、そんな相手と関わっておいて、無礼なワンナが無事なのは不思議だ。それほど懐が大きいのかしら。

 右手を広げて、私はそれを見つめる。


「それも調べておくか。ヴァンファを助けたら、血を確認してもらって、帰るついでに寄ってアスタに見てもらおうぜ」

「ワンナ様のように、失礼でないのなら、頼んでそうしてもらいますわ」

「怒ってんの? オレの無礼さに怒ってんの? 様付けやめてって」


 ちょっと、ワンナの礼節のなさをつつきすぎたかしら。


「特殊な力……謎ですわよね。触れ合っている間だけ、ワンナ様が操ることが出来る虹色の光り。わたくしが魔法が使えないことも、関係あるのかしら……」

「そうだよなー。虹色って共通点はあれど、オレと弟は、絶対に王族と関係ないし…………ん? 今なんて言った?」


 虹色の瞳でパワーアップする【ギア】と、その【ギア】中のワンナに触れている間に出てきて、周囲に漂う虹色の光り【ギアヴァンド】。


「何がですの?」

「いや、今、魔法が使えないって、聞こえたんだけど」

「あら? ご存知なかったのですか? わたくしは、魔法が全く使えないのですわ」

「はあ!? そんな人、この世にいるのかよ!?」

「ここにいますわ。ごくまれにいるそうです、魔法が全く使えない者は。王国では、有名だと聞きましたのに……これが、無能で無力な姫君と言われる所以ですわ」

「い、いや、オレは王国には、弟が元気してるかを確認しにちょこちょこ帰っただけで、ここ数年は旅ばかりだったから……。都に来て初めて、姫がいるって知ったくらいだからなー……」


 ガシガシッと、ワンナは頭を掻く。


「国王である父が、魔法が使えない無能で、身を守ることも出来ない無力と、パーティーでいちいち嘆くので貴族に知れ渡り、そして国民の耳に入ったのですわ」

「ホンット、どーしようもねぇー父親だな、オイ。国民を助けようと尽力してる姫が無能なわけがないのに……って! 言ってる場合じゃねー!! なんで身を守る魔法一つ使えないのに、ついてきた!?」

「問答無用で連れ出したのは、あなたですわ」


 顔色を変えるワンナ。

 だから、戦場に行っても、楽観的に大丈夫と言ったのね。

 そんな風にギョッとされても、ワンナの軽率な行動が招いたこと。呆れた。


「やめだやめ! おい、ガシュナ! 引き返してくれ!」


 バシバシッ。

 ワンナが、ガシュナナルゼの鱗の背を叩く。

 でも、ガシュナナルゼは反応を示すことなく、空を羽ばたいて泳ぐように飛び続ける。


「だめだ。聞こえてねぇー……」

「あそこが耳ですわよね……突き抜ける風で、声が届かないですのね」


 首元の羽毛を掴んで、乗っている。前方の顔の上部分にある耳が見えるのに、声は届かない。


「しょーがねーな……。もう着いちまう。オレから、絶対に離れるなよ? 守ってやるから」

「ええ。責任持って、無傷で帰してくださいませ」


 着いてから引き返すという選択肢はないので、ワンナからぴったりとくっついて離れないで守ってもらうしかないと諦めておく。


「わぁ!」


 下降する龍の背で、前方から見えた景色。

 果てしない地上を、目にした。

 どこまでも続きそうな森に覆われた地上の中に、太陽の陽射しを反射する湖がある。風に靡く白金色の髪を退けて、見たことない壮大な光景を見つめた。

 世界の地図を見たことがあって、それでイターリー王国はちっぽけなほど小さいとは理解していたつもりだけど、世界は広いのだと改めて思い知る。


「……なんですの?」

「……いや? 別に」


 ふと、ワンナが私の顔を凝視していることに気付く。

 目を瞬けば、ワンナは首を振った。


「アンタ、王国出るの、初めてか?」

「そう言えば、都からすら出たことがないのに、初めて王国を出てしまいましたわね……とても遠くまで」

「そっか。都すら出たことなかったのかよ。もっと出掛けようぜ? 守ってやるからさ」


 そう笑いかけるワンナから、無邪気さを感じる。

 どの小説だっただろうか。新たな仲間を、冒険に誘う主人公のシーンを思い出す。

 多分、その主人公は、こんな顔をしていたのではないだろうか。


「現実的に考えて無理ですわ」

「つれないな!? そこは、承諾しておけよ! それが礼儀じゃねーの!?」

「無理なものは無理ですもの。都から離れるのも、これっきりにしてほしいですわ」

「ええー! 嫌だ!」

「拉致ですわ」


 ワンナは物語に例えれば、主人公タイプの人間なのか、としみじみ思う。

 そうなると、彼に出逢えてよかった。国民を守る組織を一緒に創設したけれど、このまま任せてもいいだろう。

 ……本当に、無理なものは無理だもの。

 冒険が出来る身分でも、そして身体でもないから。





姫の記憶の夢。


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2024/07/16

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