Ep1-2 開門事変 II
〖騎兵!数20!〗
「撃つな!命令あるまで発砲禁止!禁止だ!」
「クソ!訳わかんねぇ連中に1発も撃てねぇってのかよ!」
「ボリス!お前血気盛んな癖に国内軍たぁ、虚勢張ってんのかよ!」
「黙れ!クソ上官殴ったら地上軍除隊になったんだよ!」
隣で何か凄いこと言ってる
散々と声を出しているが、狙いが全くぶれていない
ビルの隙間を縫った緩い風がピタリと止んだ、その瞬間
「ハァッ!」
薄暗い門から陽の元に現れたのは楔型陣形を組んだ20騎余りの重騎兵であった
楔帷子に包まれた馬体、フルプレートの甲冑を身につけてランスを持った、いかにもな重騎兵
甲冑はおそらく階級ごとに色分けされており、両側端の5人は胸部アーマーの上から黄色い布が縫い付けられており、その内側の4人は濃い赤、そして真ん中の2人はそれぞれ深緑と紺色をしており、一際目立つ装飾を施されていた
そしてその紺色をした騎士がバイザーを上げ、口を開いた
「我が名は騎士将軍ガーデブリア・イガンザビニア・デルミナニーヴァである!征魔の途に開いたこの門、その先の征服を教皇アイザニア1世より仰せつかり30万の兵を率いて見参した!無用な争いに興味はない!即刻降伏し、我が軍門に下るが賢明と心得よ!」
「我らは連邦国内軍!皇帝陛下が崩御されどもこの地を守り続けた兵なるぞ!陛下より賜りしこの地に土足で踏み入るとはなんたる侮辱か!我ら連邦軍に向かって抵抗無く降伏せよなど笑止千万!部を弁えよ野蛮人!」
「我が聖戦の敵となるならばそれもよし!痴れ者の力で何処まで抗えるかしかと見届けようぞ!」
「開戦は7日後!如何なる戦いを見せるか楽しみにしているぞ!さらば!」
馬がその身を翻し、門の中へ入っていく
他の騎兵も続々と続き、遂に眼前から敵は消えた
「クソッタレめ、驚かせやがって。にしても中隊長、あんな鬼気迫る話し方できたんだな」
「あ?ボリスお前中隊長の渾名しらねぇのか?」
「んだよそれ、聞いた事ねぇな」
「暴徒殺しのウラジーミルだ」
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連邦総軍本部 臨時招集会議
16時47分
イヴァノグ地上軍少将
「東部方面軍管区に3箇所、中央軍管区に2箇所、北部方面軍管区に1箇所です」
「東部軍管区にあたっては現在バルツァフ防空軍上級大将が臨時で全軍の指揮を執っている、中央はノインハウゼン地上軍大将が、北部はナカジマ地上軍中将が同じ様に」
「統合参謀本部に緊急対策本部が設置されました」
「国防省は今次事件を宣戦布告と看做し反撃体制を整えよと」
「バカを言うな、海兵隊創設でどこも即応可能な戦力は.....」
「バルツァフ大将からの報告によれば、現在第29戦車師団第1大隊を掌握しており、補給に不安はあれどイグージナ市の門の向こうに橋頭堡を築く事は可能だと」
「空軍の指揮下で戦車師団を運用だと?バカを言うな」
「バルツァフ大将は1月、統合指揮官課程に合格し大統領から東方総軍の指揮を認可されています、戦車師団の運用に何ら問題はありません」
「ただ、門の向こうの環境が一切分かりません、山岳地帯や泥濘であれば戦車師団は身動きが取れず損害を出す可能性が高く......」
「先遣部隊を編成させ向こうを調査するのが先決か」
「はい、また国内軍イグージナ市駐屯部隊によれば、向こうから開戦は7日後だと」
「は?言葉が通じたのか。公用語で?」
「あぁ、それがおかしな事にそれぞれの出身地の言葉だと」
「.....それはつまりなんだ?東部の連中はスラヴィア語、西部はイグリシア語、中央はドルゲマン語だと?ふざけてるのか」
「はい、いいえあの、本当です。これを見てください、先程のイグージナ市の物です」
〖征魔の途に開いたこの門、その先の征服を━━〗
「クソッタレ意味がわからん、君はこれが列島の言葉に聞こえるんだな?」
「はい、書き起こして比べたところ、細かいニュアンスに違いはあれどほぼ同一の意味を持つ文が完成しました」
「.......全く意味がわからん。ともかく先遣部隊を編成し門の向こうを調査させろ、BMP-3Mか重装甲のIFVを主軸にしてだ」
「了解しました、29-1Bを主軸に先遣部隊を編成させ、門の向こうを調査させます。それと」
「なんだ、まだ問題があるのか」
「はい、門の向こうはおそらく別世界、GPSも通信衛星も存在しないでしょう」
「有線通信か、地上軍から戦闘工兵中隊を抽出して敷設させよう。イグージナ市外にFOBを設置させて中継を行わせ、また先遣部隊指揮官には大佐を配し不測に事態に備え全権を与えろ。」
「了解しました、29-1B指揮官に伝えます。」
「私は緊急対策本部に向かう、関連資料をコピーしてまとめろ。出発は20分後だ。」