Ep0-5 エーグネクトーカ作戦 初段 Ⅲ
交差の直後、操縦桿を目一杯引き右旋回に移る
相手は左旋回、ターンまでの僅かな差でこちらに有利ができる
あちらの旋回半径の内側に入り、ガンレティクルに集中する
機影と重なった時、トリガーにかけた指に掛けるはずの力は....
「ッ?!そう来るかッ!」
右足と両手への力に変換された
右方向へのバレルロールで30mmからの射線を切る
「SASを緩めた9.5G旋回ッ!何としても勝つつもりか!」
「昔グーズに教わった技だよ!」
1度目のチャンスを失った次、あるのは実力に依存した格闘戦のみ
スロットルを抑えてオーバーシュートで背後を狙う
次の一瞬の交差は直前の機首上げとロールでかわされる
背後に着くが失速気味まで速度を落とした為ガンレティクルに入れる事が出来ない
エンジンを最大に吹かし速度を回復させ背後を取り続ける
「この距離でかッ!よくやる.....!」
「これで終わりじゃないさッ!」
HUDに収める直前、コブラに近い機動で射線を躱わす
低速での高機動は高速のそれより負荷が軽い
それを生かした回避機動、やはり成長している
下方への回避はこちらのオーバーシュートを併発させ後ろを取られる
回避機動に必要なものは速度と高度、それとクソ度胸だ
エンジン出力を最大にし雲中に突入する
「レーダーに切り替えたかッ!いい判断だッ!」
「そりゃどうもッ!」
IRSTによる目標ロックは雲中では精度が落ちる
それを恐れたレーダーロック。
しかしそれはRWRによる位置の予測を用意にさせる
上昇角70度弱の急上昇、未だ雲中を飛んでいるからバーティゴが怖いが計器を信じ次の一手に備える
RWRの反応が左から右に流れた瞬間、左バレルロールに移す
減速し相手をオーバーシュートさせ決め撃ちで30mmを放つ
が、これは命中しなかった
背後を取り次はこちらがレーダーロック、掴んで離さない
しかしまばらな回避機動に照準が定まらず無闇に機関砲弾が減っていく
右に左に、横滑りにバレルロール、緩急を織り交ぜた回避機動は的確に射線の隙を突いている
距離はわずか300m、しかし厚雲に阻まれ相手のエンジンすら見えない
そして右へのバレルロールの直後....
「ここで機首上げか!くッ!」
「着いてこれるよねッ!」
視界から消えた機をレーダーロックの表示だけを頼りに追尾する
(残燃料500ガロンか......ビンゴまで120秒ってとこだな....)
急激なGに耐えながら決着までの時間を割り出す
アフターバーナーを使用し一気にトドメを刺しに行く
引き金に指をかけた瞬間.....
「なックソ!しくじったッ!」
タイミングが悪かった
暗闇に目が慣れたタイミングで雲中から抜け出したのだ
月明かりが目に刺さり、一瞬視界を奪われる
わずか数秒の間に形勢は逆転する
幸い機体側面のレーダーが対象をロックしてくれていたが、それは6時を取られたことを表していた
上昇したまま回避機動を続ける
右方向のバレルロール、ラダーを踏んで横滑り
春の雲海の上に、歪な螺旋が描かれる
高度6200m上空、紡がれた白色の螺旋は無機質な警告音に断ち切られた
《グラーク1-2 撃墜》
はっと息を吐くと身体から力が抜ける
視線を前に戻すと、演習中には眼中になかった星々が煌々と煌めいていた
春分も過ぎた4月の終わり、大空の向こうには星辰が埋め尽くす宇宙が広がっていた
《演習終了、帰投せよ》
「演習終了だ、帰るぞアスカ。」
「…….了解、そっちの右後方に着くよ」
急降下からの急旋回、横滑りに曲芸紛いの機動
人類史に行われてきた空戦機動のほぼ全てを使い、負けた
嬉しかった
部隊内で俺を打ち負かす奴が現れたのは、単純に嬉しかった
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LH-4 19時56分
駐機を終えてキャノピーを開ける
機体の自己診断プログラムを起動した後、機体を降りる
機体に向いたままヘルメットを取ると入り口から吹き込んだ風がふっと頬を撫でて過ぎた
「グーズ」
「どうした、アスカ」
短な問いにそう返す
「ありがとう、私の我儘に付き合ってくれれ」
「礼を言うなら大将にだな、俺はお前と本気でやり合っただけだ。それと……」
「何?」
「強くなったな、アスカ」