Ep0-4 エーグネクトーカ作戦 初段 Ⅱ
「撃墜比率1:18、貴様ら本当にファイターパイロットか?」
「中隊長〜、ほとんど情報ない新型機の相手ですよ?STTも安定しないのに、アチラさん何してもロックしてくるんですから」
「んな事わかってるわ!だとしてステルス機相手に真正面から突っ込む馬鹿者がいるか!」
「でも1機落としたじゃないですか!」
「孤立した1機に6機でかかってだろ!それで3機落とされてるじゃねぇか!」
「まぁまぁ、中隊長。あの6機の連携は目を見張るものがありましたよ、視界を把握したような機動、目を見張るものがありました」
「少佐がそう言うのなら.......ですが1:18というのは...」
「戦技研の想定よりは少ないです、1個中隊強全滅とはどう見ても多すぎますがね」
「K-77と77Mの射程差が問題ですよ、2.2倍って勝てるもんも勝てませんて」
「.......それはそうだ、K-77Mの装備を上と掛け会おう。まぁ、デブリーフィングは以上だ。解散」
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「グーズ、なんで墜とされたの。」
「いや、速度が足らなくて回避機動が」
「嘘」
うわ食い気味に否定された、怒ってる
「いやほんとだよ、うん。」
「私ね、デブリーフィング中ずっとグーズの戦闘機動再現シミュレーション見てたの。あれ、6機全部落とせたよね。なんで負けたの」
うーん、まずい
いやこれ何言っても怒るやつじゃん。
どうしてくれよう。
「......面子」
「は?」
「中隊の....てか、第14親衛防空軍の面子の為...かな」
「メンツの為に、わざと手を抜いたの。キレるよ」
キレてるじゃんか
てかやらかしたかもしれない
「......去年のエリャーグカ作戦、その最後の演習で、私はグーズに勝った。それまで1回も勝てなかったのに、あの時は勝てた。でもシュバルツゼクスの空戦じゃ、勝てなかった。全部手を抜いてたの。私の、面子のために」
「エリャーグカの演習は、そうだ。お前には晴れた気持ちで演習を終えて欲しかった。ずっと俺に一番近いところで足踏みしていたから」
「シュバルツゼクスの時は、本気だったの」
「あれは本気だ、そう言って信じるか」
「わかんない。でも、2対2の空戦だった。あれはチームの、エレメントの勝利であって」
「私と.....私の勝利じゃない、私とグーズだけの....空じゃなかった」
事実だった
俺が落とされた9回は、アスカに負けた物では無い
誰もいない廊下に、重苦しい雰囲気が流れる
アスカが下を向いているから表情が分からない。
「.....して」
「え?」
「私と、サシで、格闘戦して」
「わかった、明日の1300に。」
「今日」
「今日.....出来ないことはないが、夜間になるぞ」
「構わないよ。あの時も夜だった」
あの時もそう、月明かりの眩しい、春の夜だった
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夜間に4本、静けさも暗さも破り捨てるようなエンジンの轟音と着陸灯の光が基地に伸びる
誘導路を過ぎ、タキシング位置に着く
スロットルと操縦桿をまた握り締め、バイザーを下ろす
バルツァフ大将に無理やり作ってもらった飛行プランだ
借りひとつってとこだ
「他の人の事、考えてたでしょ」
「.....いや」
「なんでもいいけど、空飛んだら考えるのはお互いの事だけ」
「どうやって殺すか。それだけ考えてね」
「あぁ。グラーク1-1 出撃」
「グラーク1-2 出撃」
誘導灯と離着陸灯が照らす滑走路に、アフターバーナーに熱せられた蒼い柱が切り取られたように浮かび上がる
HUDに映された速度計の針が動き、月明かりを遮っていた雲は途切れ、その光にたった2人の重罪人が映し出される
方や相方の力を信じずに、1度の裏切りを助けと信じた愚か者
方や相方の意に気付けず、1度の奇跡を己の力と過信した愚か者
1年越しの決着を、夢見た景色を現実とするために
今地を離れて、この大空を、この月明かりに染められた夜空を、我が物とする為に
ミサイルも、フレアも、ECMも無い
機体に取り付けられた、Gsh-30-1とその弾薬150発
垂直に近い角度で駆け上る機体は、推力重量比2.1を発揮する2基のAL-51に推され速度、高度共に計器がその針を止めることなく動き続ける
高度3300mに差し掛かった時、2機は水平に戻り、そして互いに背を向けるように旋回する
レーダー上から2つの点が高速で離れる
距離が9マイルを超えた時、再び向かい合う様に進路を変え、真一文字に加速していく
8km...7km...6km.....
僅か数秒の間に、距離が縮まっていく
その度に胸が高鳴り、手に力がこもる
1.2kmを切った瞬間に操縦桿を右に倒す
月光の下で、僅か2秒の交差時間に、背中合わせの2機が鮮明に照らされていた