Ep 2-9 上陸阻止作戦(後編)
異世界仮定時間 5月29日 13時38分
下で駆け回るBTRMも、時折聞こえる銃声も、全ては残敵掃討の内に起こる事だ
それを見下し、海岸上空を飛ぶのはМи-35の2機編隊
PKPをドアガンとして海岸に流れ着いた死体をIR越しに確認しながら、低空低速で飛行する
『我々は諸君らが武器を捨て投降するならば、生命と尊厳を保証する。武器を捨て投降せよ、さもなくば分け隔てなく殺害する』
『繰り返す、我々はアスティア連邦軍である...』
降伏勧告の文言を繰り返しながら、何度も何度も上空を旋回する
「右前方、分隊規模の生存者」
「交戦の意思は?」
「なさそうです...武器は持っていません、格好からして水平かと」
「降下して回収を要請する。レッドウッド6-2は上空待機、場合によっては援護せよ」
「レッドウッド6-2了解、上空で待機します」
化け物の片割れが、ゆっくりと首をもたげて高度を落とす
「分隊展開準備、ハッチを開ける」
旋回して接近しつつ開かれたハッチから、森林に紛れる為のデジタル迷彩に身を包んだ兵士が顔を覗かせている
ランディングギアが地面に着く前には兵士が飛び降り、水兵の団体に銃口を向けつつ展開する
「武器を捨てろ!両手を掲げて膝を着け!」
「お前らで全員か!他に生きてるヤツは!答えろ!」
AK-24の銃身に付けられた6kh30銃剣が鈍く光を反射しながら先を揃えて向けられる
「わからん!死ぬ気でここまで逃れてきたんだ!殺さないでくれ!」
「黙れ!回収に来るヤツらがお人好しなのを祈っとくんだな!」
見つけた生存者は合わせて7名、取り敢えず武器を隠し持ってないかだけ確認してから1点にまとめて無線を入れると、直ぐにタイフーン-VDVが向かってきた
「武器無し戦意無し、拘束してないから手だけ縛ってから乗せろ」
「わかった、ご苦労さん」
「おう、あそうだ、タバコ持ってるか?」
「ったく、一期一会に一服か?ほらよ、官品の激安激薄だがな」
「ありがとよ、今度あったら酒を奢ってやる」
「そりゃどうも」
タイフーンの兵士は軽く敬礼をして、すぐに去ってしまった
ハインドの彼も直ぐに搭乗して座席に腰を落とす
そうしてある事に気付くと、彼は目に見えて落胆した表情になる
「...クソ、火ィ貰うの忘れちまった」
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SS統合参謀本部 第1会議室
バルツァフ司令とパウル大将以下作戦参謀、兵站参謀や先任士官が集まり戦闘後の報告をしていた
「第1機甲旅団戦闘団の内、戦闘に参加した第1戦車連隊は装甲戦力の半数と多数の人員を損失し、弾薬備蓄の71%を失いました」
「基地予定地周辺は交戦の被害で凸凹になり、作業開始は7月中にまで遅れます」
「轟撃沈は920隻中568隻。残存艦艇は散り散りとなって潰走、空軍の攻撃機が送り狼となって掃討作戦に従事しています」
「.....戦略的に負け、戦術的に勝利ってやつか」
「上陸阻止はしましたが大陸侵攻の足がかりどころか大軍運用が先送り、敵海上戦力の漸減には成功しましたが...」
「そう易々と天秤にはかけられない。ИГ方面からの大陸侵攻は当分延期だね。暫くはАБ方面での受け入れ態勢の確立に焦点を向けつつ...」
「外交で戦わにゃならいってことか」
会議室の面々が暗い顔となって、空気は重く淀んだ
「戦力拡大に第14機甲軍をまるまる使う案がありますが、それも延期ですな」
「АБ方面は戦力の投入がここより難しい上、半島の海岸は一部を除き酷い断崖絶壁。兵站の支えも退路も無しに戦うのは避けたい」
「外交戦が終わるまで、陸海軍は戦力の充足に。空軍は大陸方向への航空偵察に向かう事としよう。加えて彼らとのすり合わせ、文化や歴史の解析等も同時並行で進めたい」
延々と続く会議の外で、いつも通りという様子をして基地の滑走路が震える
ターボプロップの轟音が地を叩き、いくつもの巨影が滑走路を支配すると、続いて小さな影が足をつけた
「グラーク1-1よりИГ管制へ」
「ИГ管制感度良好、どうぞ」
「グラーク1-1以下4機のSu-57が補給に入る。完了時刻は17時42分を予定、後に第77戦略爆撃航空団隷下のTu-95爆撃機6機を護衛し残存艦隊の捜索撃滅を継続する、よいか?」
「ИГ管制確認。休止時間1800秒。通信終わり」
爆撃隊とは別のエプロンに駐機した4機のSu-57から、パイロットが降りてくる
金の短髪に緑眼が特徴的な好青年感を醸し出すのは第14親衛防空軍きってのエースパイロット、ミハイル・マルシャルヴィッチ・グズネツォフである
Su-57Mへの機種転換の後、バルツァフ司令の第二総軍司令就任と共にИГ空軍基地へと所属を変更
主に爆撃機や戦闘攻撃機、偵察機の直援を主任務とし作戦に従事してきた
「やはり舵の効きが悪い。リミッターを緩めてくれ」
「これ以上は厳しいですよ、ロスコンの可能性が高まります」
「ならせめてピッチの効きだけでも良くしてくれ、デットゾーンも広すぎる」
「そんな事言われましても......」
彼の要求に整備士は頭を悩ませる
特殊な飛行特性を持つステルス機の飛行は、フライ・バイ・ワイヤ等の電子的な飛行制御に依存している
それを緩めるという事は、自ら不安定な飛行を誘発すると同義である
「ほぼ空戦なんか起こらないんですから、これで我慢してください。まだマイナートラブルがあるので操縦系統を大きくいじるのは禁止されてるんです」
「...そういう事なら仕方ないか......あ、ウェポンベイの2番ラックを増槽からAAMに変更してくれ。K-77だけでいい」
「了解です、機体燃料の方で航続距離は賄います」
「頼んだ」
そう言い残してエプロンを後にする
現在ИГ空軍基地は5000m級滑走路2本、格納庫多数を備えている
少数のSu-57に加え、16機のSu-25に9機のTu-95と4機のTu-142、24機のSu-35SMに6機のSu-24Mを配備し、即応稼働率60%を維持している
「ミハイル少佐、急ですまないが少し来てくれ」
「中佐殿。わかりましたが、何用で?」
エプロンを離れ待機場で休憩していると、この捜索撃滅作戦の指揮を執っているカーター中佐に待機室へ呼ばれる
「SS統合参謀本部から直接の命令だ。グラーク小隊は偵察用装備に転換した後に大陸へ長距離浸透し威力偵察を行ってもらう事になった」
「Su-57を使ってですか?Su-24MRがあるはずでは?」
「数が足りん、最終的にはSu-25や作戦予備のSu-35SMも偵察装備で偵察に向かう」
「切羽詰まってますね...今回の大艦隊上陸が相当衝撃だったのでしょうか」
「あぁ。とりあえず今日のローテは打ち切り、捜索撃滅の直援はSu-35SMが担う。部下にも伝えておけ。これが資料だ」
「了解、中佐殿」
そう言ってA4サイズの封筒を渡すと、中佐は足早に待機室を出ていく
中には人数分の資料が入っており、軽く目を通してから待機室を出ようとすると、ちょうど部下が戻ってきた
「グーズ、その封筒は?」
「あぁ、ちょうどいい。小隊のブリーフィングルームに行くぞ」
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「これを基地完成まで続ける?!」
「往復4000kmを週に5本。指定ルートを2機編隊で巡航し各種データを収集。早朝から昼間、昼間から夕方、夕方から深夜の3回に分けられるが、それぞれ別の編隊が行う」
「んで僚機は......」
手元の資料をめくると、現れたのはエイを象った様な見た目の航空機
「S-70M オホートニク-C...」
「ロイヤルウィングマン構想に基づき開発量産された大型無人航空機。今作戦では高高度偵察カメラと環境センサー、K-77を2本装備し、有人機の僚機として作戦に参加する...はん、開発者がおしゃべりAIでも搭載してくれる事を願うばかりだな」
皮肉交じりの言葉に、軽い笑いが返ってくる
「S-70の到着は翌々日で調整等も含めローテ開始は1週間後、それまでに各ルートの担当を決める」
「夜間行動アップデートはグーズの機体しか適応されてないから、クーズは夜間で確定だね」
「最終試験機を兼ねた先行量産型だから一機一機微妙に違うのが面倒だな......」
「......あ、それなんですが少佐。自分のSu-57Mは無人機との連携システムが搭載されてないです」
「ツェルニ...それはずるい....」
残った2人は、不満たらたらの目でツェルニを睨んだ