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我らが強き連邦を~対異界侵攻戦役~  作者: 連邦軍戦史記録課█████中将
第二章 水星作戦
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Ep 2-8 上陸阻止作戦(中編)

防衛戦力損耗率 39%

敵艦隊損耗率 59%

弾薬備蓄 41%


苛烈な砲戦の続く中、破片爆炎の中を突っ切る1両のBTRが居た

第1戦車連隊 第2衛生中隊所属

ロックス衛生曹長の操るBTRMである

BTR-90Mの武装を撤去し内部スペースを拡大

車体側面に煙幕弾発射機計38基を装備した野戦装甲救急車である


「クソ!右だ右右!うっお!今の近かったぞ!」


「ジャック!てめぇは黙って止血手伝えバカ!あと30秒で野戦病院だぞ!」


「あの狭い中に体ねじ込んだら死ぬわ!お前こそハッチ閉めろよ破片飛んでくるだろ!」


「ペリスコープ越しに操縦なんかできるかボケ!」


車体上面に手製の屋根を付け、車体の上と車内に負傷兵を満載し、血溜まりの出来た底板には空になった輸血パックや血まみれのガーゼが散乱している


「第2衛生中隊のスパロー1だ!軽傷4!重傷2!気胸と左大腿部出血!両方初期処置はしてある!任せたぞ!」


負傷兵を下ろし医療物資をかき集めたかと思えば、直ぐにエンジンを吹かして前線に戻っていく


「次は第11小隊の所だ!負傷1!右腕裂傷と頸部から大腿部中程にかけてⅡ度重症の火傷!」


「軟膏とモルヒネ、止血帯と包帯用意!あと車体底のゴミと血を片付けとけ!」


「クソ!アンフェタミンの残り少ないぞ!俺の分まで使うか?!」


「たりめぇだよマヌケ!依存抜けるにもちょうど良いだろ!早くしろ!」


「ああもう!夕飯なんか奢れよお前!」


「アスパラやるよ!」


「てめぇぶっ飛ばすぞ!」

「跳ねるぞ口閉じとけバカ!」


サスペンションの軋む音に内蔵の浮く感覚が立て続けに来襲し、ジャックは危うく舌を噛みかけた

しかしそんな部下を気にせず、目標の地点を真っ直ぐに目指す


「全員捕まっとけ!ドリフトするからな!対ショック体勢!」


「「もうとっくに対ショック!!」」


車体にしがみついた部下からも無線で返答が帰ってきた

ロックスはそれを確認するとブレーキを踏み、ハンドルを全力で切ると燃え盛る戦車から僅か数メートルの距離に停止した


「降車しろ!担架持ってこい!」


車両が完全に止まる前にも関わらず、ロックスはハッチから転げ落ちて負傷兵の方へ走りよっていた


「衛生兵だ!名前は!」


その問いかけに、横でずっと声を掛けていた兵士が答える


「マーティンだ!ブライアン・マーティン!二等兵だ!」


「よぉしブライアン!ロックスだ!絶対助けるからな!痛むか?」


「クソ痛ぇ...!クソ...!鎮痛剤くれ...!」


「鎮痛投与!ブライアン直ぐ楽になるからな!気をしっかり保てよ!ブライアン!」


「ロックス...!俺死ぬのか...痛てぇよ...なのに腕が動かねぇ...」


「大丈夫だ!中東で両腕失ったヤツは義手でガキを抱いてた!人間こんなんじゃ死なねぇからな!俺が死なせねぇ!」


「止血帯固定しました!担架乗せます!」


「ブライアン!少し動くぞ!いいな!3カウント!3!2!1!」


息を合わせて身体を浮かせ、直ぐに担架に下ろす


「よぉしブライアン!もうすぐ助かるぞ!意識保てよ!ブライアン!」


再びの3カウントで担架を持ち上げ、駆け足でBTRに担ぎ込む

声掛けをジャックに変え、シートベルトを片手で付けながら発進準備を整える


「固定完了!出せ!」


バンバン!と2回装甲板を叩く音が響くと、アクセルを踏みBTRが仰け反りつつ加速する

後ろでは必死の声がけと苦痛に喘ぐ悲鳴が交差し、時折包帯を破る音が耳に入った

そんな中でも走りは確かなものだった


来た時の乱暴でいかに早く辿り着くかを求めた走りとは違う

地面にへばりつくように衝撃を限り無く減らして、しかし速度は落とさない

ハッチから覗かせた頭の、砲爆炎に遮られた僅かな視界から見えるルートを瞬時に脳内で計算してハンドルを切る


「てめぇ負傷兵乗せた途端ハンドル裁き上手くなるよな!俺らだけん時もそんな感じで頼むわ!」


「ガタガタ言ってねぇで声掛けて看てやれ!てめぇ仮にも衛生兵だろ!」


「やってるよ!止血と火傷の初期治療はやった!10分で運べよ!」


「5分で届ける!しっかり抑えて掴まっとけ!」


斜面を80kmで駆け下り、時折ふりかかる光線の残滓の中を突っ切る

そこから何度も戦場を駆け巡り、常に変化する状況の中で、一通の無線が作戦参加の全体に流れた


「西方の防御陣地にある部隊は頭上に注意!30秒後に対艦ミサイルが通過!」


燃料補給の最中に通達された通信は、悪戦苦闘のこの戦況をひっくり返すには十分すぎるものであった


「曹長、あとどれ位で?」


「燃料補給に20分、サスの修理含めたら40だな」


「そこまで酷いか」


「あぁ、摩耗が酷いし1部はもうちょっとでぶっ壊れるところだ」


「....別のBTRMはあるか?」


「は...?たしか1両あるが...まさか乗り換える気か?!」


「負傷兵移送中にサスイカれて死なせましたなんざやりたかないね、さっさと案内しろ」


「...わかったよ、燃料は増槽込みで40分だ」


後方の物資集積地点まで走ると、まるで新品同様のBTRMが駐車されていた

一回りして外部を点検したあと、ハッチを開けて操縦席に座る


「野郎共医療物資は持ったな!さっさと乗り込め!出るぞ!」


ジャックがドベでBTRMの上にしがみついたばかりの時に発進すると、何とかしがみついたジャックから文句が飛んできたが、気にも止めずに要請地点へ向かう


「対艦ミサイルのおかげで敵は大損害だ、近い内に戦闘も終わるか?」


「俺達の仕事はそれからだ、戦場の医官は将校より忙しいからな!がはは!」


「がははじゃねぇよ、その分給料貰ってんだから仕事しろヤブ医者....いってぇ!」


ヤブ医者という言葉を放ったジャックはロックスは無言で殴りつけられた


「次にヤブ医者とか言ったら車体前面に括りつけて渡河な」


「わーったよ、悪かった」


ジャックは収容室に戻り、散らかったゴミを車外に投げ捨てて行く

そして20分ほどして、銃撃の音も病んだ頃...


「...スパロー1了解、命令あるまで待機する」


ブレーキを少しずつ踏み込み、BTRMを斜面に駐車させる


「衛生要請はあらかた捌き切った。補給とは別に休憩が300秒与えられたから、今のうちにヤクでもメシでもやっとけ」


「おうよ、クッソ不味いMREしかねぇけどな」


ロックスは何の言葉にも耳を傾けず個包装のブロック栄養食を口に突っ込む

歯の凹みにカスが詰まる不愉快さに目を瞑りながら1分もせずに2本丸々を腹の底にしまい、水筒の水を少しばかり口に含んで飲み込む


「はん、メシは兵の士気を支える柱だぞ...ちった美味く作れよな....だが腹は膨れる、都合のいい作りだこと」


ゴミを外に投げ捨ててからシートに腰を埋める

ハッチから差し込む上空の景色は、黒煙噴煙が充満し、青空の一遍もなかった


「いっつも空見ると吸い込まれる様な気分になるが....こんな空は中東以来だな....ったく石油掘削場に火をつけた時だったか?こんなだったのは」


溜息1つを深々と吐いた中で、オープン回線を通して司令部から通信が来た


「友軍爆撃機隊が到着、空爆を開始する」


耳に突き刺さる様な、人によってはPTSDのトリガーになる程の風切り音が数百と重なって、やがて....


「チェックメイト....って奴だな」


丘の向こうからでも見える程の水柱は、戦闘終了の合図だった

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