Ep 2-1 入城 機甲中隊
未知領域仮定時間 5月9日
13時36分
SSオホートニク大隊戦術群 第1機甲中隊
皇都より南方800m地点
多数の戦車や装甲戦闘車、装甲車を保有する中隊は戦力を4個小隊に分割
大佐が直接指揮する第1小隊を先頭に単縦陣で皇都と向かっていた
装甲車の上には歩兵がデサントし、戦車兵はハッチを開けて身を乗り出している
近づいて分かったが、かなり幅のある堀が都市を囲っている様だ
それに高低差でよく見えなかったのか、高さで言えば20m程度もある防壁が存在しており
塞都市の名を冠しても一切問題ない景観をしている
「あの橋、戦車に耐えられますかね」
「無理そうだな、架橋戦車を前に出すか」
城門の幅に問題はないが、堀に架けられる跳ね橋はおそらく戦闘重量50t程度のT-90Mには耐えられないだろう
なので戦闘工兵のMTU-90Mを先頭に向かわせて架橋の準備をする
こいつの背負っている物は対荷重65tの架橋距離20m強を誇る突撃橋で戦闘能力こそ無いが機甲部隊の進撃能力向上に一役買っている
さてさて架橋戦車を前に出したところで1つ問題がある
「勝手に橋かけたらブチギレられるかな」
「当たり前です大佐」
そう、橋をかけるには今の跳ね橋の上に敷く形になるが、いきなり来た部外者がそんな事をすれば1発アウトで侵略者判定である
その為まずは許可を取り付ける事とした
今回は将校用トレンチコートを着用して交渉に臨む、これは戦闘服のままでは儀礼的によろしく無いと判断したからである
「いいんですか大佐…?」
「まぁ、大丈夫だろう。近衛騎士とやらも一緒だしね」
「あ、いやそうじゃ無いです。大佐に交渉ができるか不安で…」
「副官、君はいささか私の事を舐めているな」
「まさか、そんな事はないですよ」
「じゃ、期待して待っててくれ。何も小手先の技術で少佐になったわけじゃない」
そう言ってMTU-90に飛び乗るとすぐに車列を離れていった
さてここで近衛騎士、と言うか近衛について話しておこう
前回お話した通り、近衛とは皇都と皇魔の守護を至上の誉とした者達のことである
彼らは主に文武に長け、皇魔への高い忠誠心を認められた者が選ばれる、選りすぐりのエリートと言うわけだ
「攻むる時には陣頭へ、退く時には殿を務め、死してなお父子臣民の模範となるが近衛なり」
これが近衛の信条である
彼らは多種の魔族によって構成され、その多くが老竜種か魔人種である
彼らは生まれつき高い魔導防御を備えるものが多く、そこに熟練の対物理防御結界を張る事でもはや人の力では突破不可能な防御力を誇る
そんな彼らだが、至って冷徹で残酷な者という訳では無く、普段は人情に溢れ穏やかな雰囲気を出している
さて近衛についてはこの位で十分だろう
場面を戻し皇都門前、ジーナ大佐の交渉を見てみよう
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跳ね橋の手前、両脇に立った槍兵がMTU-90の進路を塞ぐように歩くと、MTUを停止させ降りる
「アスティア連邦第2総軍特務大佐、ジーナ・アリサだ。先日勅令を達し此処へ参上した」
「近衛軍南門守備隊長、アグルド・ヤッカム・テネリアだ、話は聞いている。門を開けるから配下の軍勢を全て皇都へ入城させよ」
「その件で問題があるのだ」
「何事か、早急な対応を行おう」
「ありがたい、端的に言うなら我らの兵器はその重量故に橋を渡ることが出来ない、ので新しく橋を架けたいのだ」
「新しい橋をか?そりゃ難しいぞ、橋の建設にどれだけかかると思っている」
そりゃまぁ架橋戦車なんてこの世界には存在しないからそう考えるのも無理は無い
「即席の橋なら5分で作れる。だがそうするとあなた達の跳ね橋を使用不能にしてしまう」
「それは困る。夜間は治安維持や防衛の為にこの跳ね橋は閉じる事になっているんだ」
「分かっている、しかしそうしなければ我々の主要戦力を場内に行ける事は出来ないのだ。即席の橋は必要に応じてすぐさま撤去する」
「.......いいだろう、しかしそれならば南門の守りにいくらか戦力は割いてくれまいか」
「了解した、いくらか戦力を置いていこう。取引成立だな」
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MTUが架橋しているうちに大佐は車列へと戻り、T-90M2Kの砲塔天板に腰掛ける
緑と生成色に少しの黒が塗布された車体は日に照らされて少し暖かく、少し寝転べばあっという間に眠気に襲われそうな状態だった
しかしこの状況で寝るわけにはいかんので、副長に話しかける
「どうだった?私の手腕は」
「あんなんで成功するんですね」
「ありゃどうしても成功するものだったからな」
「どういう事でして?」
「あの橋、見るからに老朽化が酷かっただろう」
「たしかに、妙にボロボロでしたね」
「彼らとしてもネックだったんだろう。私達は突撃橋を架橋したい、彼らは古い橋を新しいものにしたい、その関係的に成功するのさ」
「なるほど......ちなみに橋がボロく無かったらどうするおつもりだったので?」
「1番古い装甲車を無人で通らせて橋を落とそうかと」
その時副長は思った
(この人もしかして頭のいい脳筋なのか...?)と
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なんやかんやと橋を渡り、無事機甲中隊は皇都への入城を果たした
分厚い城壁に囲まれ、その城門をくぐってから観る皇都は、まるで別物だった
多種多様な建築様式が混在し、本来は広いであろう大通りは出店や屋台に占領されていた
中央へ向かう上り階段は数m上がる事に数十mの広場になり、それが何段も続いている
同心円状の段々畑と言えばわかりやすいだろうか
なんにせよ他に類を見ないこの特殊な都市構造は、より一層この世界への疑問を大きくさせた
取り敢えず機甲戦力を最下層の道に停止させ、歩兵のみで頂上を目指す事となった
第1第2機甲小隊と第2歩兵小隊を警戒に残して、第1小隊20人で向かう
準備を整えてふと周りを見ると、中隊を囲む様に人溜りができていた
いきなり異形の軍勢が市街に入ってきたらこうもなると言うものだ
時間にも限りがあるので近衛に道を開けてもらいながら階段を登っていくが、人混みの中を掻き分けるせいで、ここだけポックリと穴が空いている
人の壁の向こうに見える建築様式はあまりに疎らであるが、いくらかの共通点を見つける事が出来た
一つは装飾である
吊り下げ式の小さな鉢植えに、小さな実が成る苔の様な物を植えて、それが幾つかあるのだ
それに看板の文字だ
ここまで建築様式が違うのにも関わらず、ある程度書いてある文字は同じ様に見えるのだ
大佐を含めて、幾らかの部隊員はすでに勘付いていた
この島の言語は高度に統一されている、と