Ep 1-13 進撃、諸兵科連合
作戦予定地域 曇り 山の麓 非交戦状態
作戦兵力 2個中隊 AFV 46 IFV 59 SPAAG 9 APC多数
TOS-2 16両 各種迫撃砲多数
敵兵力 推定25000 重装/軽装騎兵 重装 軽装歩兵
未知領域仮定時間 5月6日 10時39分
仮設指揮所内
「敵の動きは?」
「縦隊を組んで渓谷の中に進んでいます。射線に入るのはおおよそ30分後かと」
「こちらの準備はできているな?」
「はい、バルツァフ閣下に手配して頂いた第29戦車師団の第1戦車大隊の1個戦車中隊と大隊戦闘団の選抜中隊が配置につき、既に戦闘態勢を整えています」
「私としては漸く本領発揮ってとこだな」
「元々大佐の部隊でしたからね」
「あぁ、25000の敵も怖くないな」
この6日間に大隊戦闘団は増援の戦車大隊を受け入れて大隊戦闘群に増強され
FOBの面積は2倍に、滑走路も防御範囲内になった
また大隊戦術群となった事で限定的ながらも指揮下に航空戦力を保持する事が可能になる
今迄は共同作戦にあたって
『作戦機選定→防空軍へ作戦機要請→許可/却下→作戦立案』という手順が必要だったが
これからは『作戦機選定→作戦立案』で済むようになったのだ
これにより部隊は更なる戦術的柔軟性の確保に成功
本作戦において十分な航空支援を受けれる様になった
「既にMiG-35がクラスター弾を、Su-25がナパームと燃料気化爆弾を搭載して全機出撃しました。地上部隊の攻撃開始と共に空爆を開始する予定です」
ナパームはまだしもクラスターは完全に条約違反
発覚したら銃後の住民に非難されるだろうが、その時は広報官がうまくやってくれる
……多分
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同日 11時4分
第29戦車師団 第1大隊 第4中隊
オホートニク大隊戦術群 選抜中隊
「全体戦闘準備、弾幕を途切れさせるなよ」
「準備よし、いつでも撃てます」
今回の作戦、甲1号作戦は周辺一帯の安全確保と敵戦力漸減を目的とした未知領域初の攻勢作戦である
先の野営地急襲は敵の攻勢発起点撃滅、つまり攻勢防御作戦に近いものだったからだ
今回の作戦兵力は前書きの通り
断続的な砲撃による谷の出口の封鎖を行い、そして向こう側の出口はナパームで封鎖する
敵が進退窮まった状態で、谷の中にクラスター爆弾とサーモバリック弾を叩き込み殲滅
また騎兵が突出撹乱してくる可能性があるため機動迎撃兵力としてAPCをいくらか配備している
「谷は酷く曲がっている。距離的に25000の兵がすっぽり入るだろう」
「そこにサーモバリックの効果で熱風や爆風爆圧が反射して、谷底に真空を作る」
「敵は一見無傷のまま、五臓六腑がボロボロになって死に絶える。これ程に酷い死に方はないな」
そう会話を締めてから口を固く閉じて、真っ直ぐ谷を見つめる
ハッチから身を乗り出し、砲塔天板に頬杖を着いて無線機を握ったまま、体重を預ける。
何の変哲もない山の麓、下る風に少し体が冷えた時
状況は1歩、前に進んだ
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11時8分
「敵先頭見ゆ、各車撃ち方準備」
「敵が交戦ラインを通過」
『全隊、撃ち方始め』
そして、鶴の一声に呼応して状況は一気に駆け出した
BRRRRRRT!BRRRRRRRRT!
BRRRRRRRRRT!DOM!DOM!
BOSHH!BOSHH!BOSHH!
125mm戦車砲、30mm対空機関砲
220mmサーモバリック弾、57mm速射砲
12.7mm機関銃、、7.62mm機関銃、5.45mm小銃
持ちうる火力の全てが、狭い谷口に向けられる
圧倒的な制圧力、蟻1匹も抜けられない正面火力に、谷から出た敵はその一切が肉塊と化した
しかしその奥から重装騎兵が突っ込んでくる
「敵騎兵、結界を張って突っ込んできます」
「ツングースカは射線を集中、騎兵を潰せ」
まばらに制圧射を放っていたツングースカの射線が集中し、薄い魔道結界を突き破り騎兵を叩き崩す
未だに騎兵しか出てこないが、奥の歩兵は何をしているのか
実を言うのなら何もしていない
否、何も出来ていないのだ
何故ならば.....
FYUUUUU!!!
FYUUUUUUUU!!!
上空をこちら側に通り過ぎたSu-25
そう、渓谷内に投下された燃料気化爆弾が渓谷中の酸素を奪い、歩兵を一気に殲滅していた
では何故に騎兵が生きているのか
それは勘のいいヤツらが起爆直前に魔道結界を展開し、その中の酸素を使っていたからである
しかしそうしたところで根本的な解決にはならない
その場に留まれば窒息死、下がれば焼死
前に活路を見出して、魔導結界をフルパワーで展開して突っ込んでいく
のだが、所詮は対魔導耐性に特化した結界
毎分2500発の連射速度を誇る30mm機関砲は、そんなものをティッシュペーパーよりも簡単に引き裂く
延々と繰り返す砲撃音
血しぶきに塗れた岸壁、死体に埋もれた山道
屍山血河の様相を呈し、遂に戦闘は終わった
25000の敵兵は1時間の内に9割強が死亡
残敵は武器を捨て山に逃げるか降伏
残敵掃討の後、ジーナ大佐から作戦完了が全隊に通達
斯くしてイグージナ方面軍初の攻勢作戦は成功裏に終わった
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基底世界時間 5月9日 9時30分
統合参謀本部 会議室
「この2週間で敵兵力約6万強を撃滅しイグージナ方面での戦力的優勢を確保、か」
「はい、東方総軍の各門はいずれも橋頭堡を確保したと」
「それは良い報告だ。しかしながら中央/北方軍は橋頭堡の構築は遅々として進まないと聞いている」
「はい、パウリカは世界遺産に登録されており、十分な軍の動員が難しいのです。セヴァストーポリは大都市で人口密度が高く、そもそもの兵力移動が厳しいのです」
「セヴァストーポリはまだしも、問題はユネスコの連中か」
「はい、軍の通行許可を全く通しません」
「国防会議に挙げろ、大統領に声明を出してもらえば…….」
「流石に国連機関を無視して軍を動かすのは…..」
「構わん、所詮腰抜け無能の集まりだ」
物言いは酷いが事実である
この世界でも存在する中東の紛争は解決していないし、国家間戦争の仲介も満足にできていない
違法漁業の取り締まりはほぼ当事国への依頼のみ、ほぼあってない様なものである
難民問題も根本的解決は遠く、SDGsとかいう物は破綻している
そんなことはさておき
東方総軍の管轄内にある他の門の戦況は全ての面で優勢であった
アッケルバルト市は厄介な事の砂漠に出たそうだが交戦することはなく現地勢力と協力体制を締結
イェニセイ神殿跡地では山地に出て、複数回の航空偵察の後にそこが半島だと判明した
「当面の目的は東方の三方面の合流だな」
「はい、ただ衛星測位システムもない以上合流は困難を伴うかと」
「そう、そこに関してなんだがイグージナ方面で手に入れた向こう側の世界地図と航空写真を使う」
「似た地形を照合してその方面に航空偵察を行う、ということですか?」
その言葉に同意を示しすと、卓上にいくつかの紙が広げられる
それは各方面の地図と未知領域産の地図であった
「今からこれを調査して、おおよその位置関係を調べる」
「わかりました、人員を手配します」
統合参謀本部の考えとして、それぞれの門の位置関係はそれ程ずれていないという物があった
よって2点、3点の位置が分かれば、自ずと他の門の位置が判明すると考えられていたのだ
ネタバレをするなら、これは全くの間違いであった
実際の所、門の位置関係はまばらであり基底世界とはなんの繋がりもないところに形成されていた
ただ幸運だったのは、東方総軍の3基の門はそこまで離れていなかったことである
2つの門はИГ-1の存在するエグラント島南部の平原を中心に、АГ-1は海峡を挟み1200km東に、ЕГ-1も北東に海峡を挟み1700km地点に存在する
ИГ-АГは1700km
ИГ-ЕГは1200km
距離関係はこのようなものだが、この合流には困難が予想される
まずエグラントと半島、砂漠の間に最大390km、最短90kmの幅を誇る海峡だ
この数値は予想であるが、少なくとも海軍の揚陸艦か輸送艦を待たねば重装備の合流は不可能だ
そして陸地の方だが、砂漠と半島の間には50km程度の幅を持つ大河と最大2800m程度だがおおよそ南北1200kmに渡って連なる山脈が存在する
これらの詳細全てを連邦軍が把握するのは5月末から6月にかけてだが、少なくともこの時点で連邦軍の作戦行動計画は大きな変更を強いられる事となった
なのでここで作戦の詳細を各種変更と共に説明しよう
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連邦軍統合参謀本部直属未知領域派遣軍は、陸海空と海兵隊、沿岸警備隊、戦略ロケット軍の各6軍の能力を備えた独立軍として連邦軍未知領域派遣軍に格上げされた
この軍はその特性上「連邦第2総軍」と呼ばれるが、これはイグリシア語とドルゲマン語の造語である
そして未知領域に独立した参謀本部の設置も認められ事実上、司令官への全権委任が認められた
ここからが修正された作戦計画
まず大規模戦略基地の建造
これは大きく変更、海軍の根拠地としての機能も要求に追加され、ИГ-1の存在するエグラント島の東岸に建造する事となった
それに合わさり連邦海軍は海上に開いた門から海洋調査船や水上戦闘艦、輸送艦等を投入する事が決定
駆逐艦3隻を主軸に一等大型対潜艦3隻、各種海洋調査船とその護衛や海上補給艦を含めた第1艦隊を編成、既に出航している
また後の事となるが未知領域派遣軍艦隊は修理中の重巡と予備役送り寸前の空母、そしてとある艦を指揮下に加える事になっている
建造に際し最優先は海軍基地とされ、基地が完成した後は輸送船により大規模な物資揚陸を行い残りの基地機能を完成させる事となった
空軍に関しては、その航空戦力の投入に際し陸路を使う事になったが、その割り当て機数と機種に調整が入れられた
まず長距離侵攻に際し足の長い航空機が必要とされた結果新たにSu-30SM3にSu-35SM4に加えSu-57M、Tu-95MSMとTu-160M2等が投入戦力に追加
これらは戦略基地完成後、分解され送られる事となる
ИГ橋頭堡はさらなる周辺調査を実施し建造に適した海岸線の捜索
ЕГ並びにАГは橋頭堡の防衛強化
これらを主として計画を進める予定である
また連邦第2総軍司令部直属に戦略ロケット軍が組み込まれ、RS-31新型大陸間弾道弾が6発が配備下となった
なおこの惑星の事が一切わからんので慣性誘導が使えない
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未知領域仮定時間 5月10日 10時49分
ИГ橋頭堡麾下 オホートニク大隊戦術群 第1中隊
皇都より南方13km地点の高台
「あれが....皇都とやらですか」
「あれ下手したら俺たちよりも建築技術高いんじゃねぇか?」
「いや...うーん、どうなんだろうな」
「目測でも高さ100、幅700はあるだろ。なんだあれ」
「いやあれの高さは普通に50mちょっと位だろ、何見てんだお前」
現在中隊は部隊を再編、通常の機甲中隊編成で皇都へ向かっている
双眼鏡で見る皇都は実に非現実的な景観を成していた
円形の都市なのだが、中央に向かって盛り上がった形をしている
1番低いところは民家や宿舎なのか、今では人が少ない
そこから少し上は屋台、というか露店が多く人の流れがよく見える
しかし何が売られてるのかはよく見えない
「ソコロフ、何か見えたか」
「はい大佐、この世界には似つかわしくないクソデカ都市が見えます」
「それはもう確認している。周りに敵が見えるかって聞いているんだ」
「敵らしき物は見えません。たまに1個分隊程度の騎兵が走ってますが今までのとは見てくれが違います」
首に掛けた双眼鏡を構えて周りを見ると、確かに数騎の騎兵が巡回を行っていた
ただ異様なのは、楔帷子や甲冑の類を身の付けていない
軽装騎兵、と言うか一般人がランス片手に乗馬している様な物だ
「あれは近衛の騎兵、皇都と皇魔殿下の守護を至上の名誉とする者共よ」
なに不自然なく会話に入ってくるが、こいつはフランカーを優に超える大きさの竜である
いや目立つわ、稜線で隠れててよかったな
「近衛か……見つかった瞬間殺しに来たりはしないよな?」
「展開中の全近衛には皇魔殿下直々に貴殿らの来訪が通達された、心配無用よ」
「ふぅん...それなら燃料補給を済ませたら橋を渡ろう。デバルトは一応車列の近くを飛んでいてくれ」
「しかと承った」
13km先、機甲部隊の速度を考慮すればすぐである
しかし彼女には一抹の不安があった
「交渉なんかやった事ないぞ......バルツァフ閣下め......」
今回は5000文字程度でやってみます
長すぎる、ちょうど良い等と思ったら感想を書いていただけると試行錯誤していきます
これより連邦軍未知領域派遣軍は連邦第2総軍(SS)と呼称します