Ep 1-11 中段作戦 突発事案Г-1 Ⅲ
「わかった!投降する!殺さないでくれ!」
飛び出してきた人影を認めると、指を引き金から離す
兵士というよりは付き人のような格好、おおよそ戦闘員には見えないが、あいにく戦時国際法は基底世界でバカンスを楽しんでいる。
最悪撃ち殺しても大丈夫だろう
「お前だけか!他にもいるなら連れて来い!」
「わかった!連れてくる!連れてくから….!」
「御託はいい!さっさと連れて来い!」
そいつを目で追いながら回収用のAPCを呼び
ブービートラップが無いかを警戒しながら後を追う
草を掻き分け、小火を踏み潰した先にいたのは……..
「分隊長、こいつぁ….」
「ガキじゃねぇか….やけに着飾ってんな、貴族か?」
「この方はカルクレイン神聖国の第3皇女、トリィシア・リーフル・ネクルト・カルクレイン皇女殿下、軍団の視察へいらした所にこの惨事が.....」
「ガタガタ抜かすな、事情は尋問官が丁寧に聞いてくれるだろうよ。応急処置を済ませたら.....」
「イワノフ、こいつぁ重要人物だ。Mi-28の兵員回収スペースに詰め込んで後送する。ヘリを呼べ」
「ハヴォックをですか....了解しました」
ハヴォックは設計時、撃墜された航空機パイロットの回収等を考慮して、機体後部に3人分のスペースが設けられている
そうして要請に応じて飛来した2機目のハヴォックは応急処置を済ませたら皇女様と付き人を積み込んでさっさと帰ってしまった
数時間捜索して、結局五体満足で精神が安定していた捕虜は40人、吹き飛んでなかったテントから残った資料を回収して、日暮れには退却
捕虜は機密保持の為、FOBにて隔離して拘束する事とされた
果たして回収されたのは敵の一翼を担う国家、その第3皇女であり、それは統合参謀本部並びに前線将兵へ多大な衝撃を与える物であった
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未知領域仮定時間 18時47分
連邦軍FOB ИГ-1 仮設尋問室
尋問官 ジーナ・アリサ特務大佐
対象 トリィシア・カルクレイン
何を聞こうにも「全てを知っている人を連れてきてください」の一点張り、仕方なくジーナ大差が尋問官を務める事になった
「トリィシア・リーフル・ネクルト・カルクレイン。カルクレイン神聖国の第3皇女、年齢21。皇位継承権をより強固なものにする為、前線に向かった。合っているな?」
「.......」
「トリィシア、口を閉ざしたところでこの状況は解決しない。我々はこの世界の情報を知りたいのだ」
「私は...知りたいのです。如何にして4万の兵が、一瞬にして全滅した理由を、何故あなた方が私を捕らえたのか、その理由を知りたいのです」
「取引を、したいということか。」
「えぇ、その理由を教えて下されば.....私は、私の知りうる事全てを話しましょう。」
「......いいだろう。取引成立だ。少し待ってろ、資料を用意してくる」
尋問室を出て向かったのは司令部.....ではなく映像資料保管庫
連邦軍では戦闘中の映像は参考資料としての撮影が許可されており、それぞれは前線のデータベース、そして統合参謀本部の統括データベースに保管される
連隊指揮車のデータベースにアクセスして、今回の戦闘の映像を戦術指揮端末にダウンロードする
砲兵隊の砲撃映像と、ヘリから撮られた弾着の瞬間
その2つで、今回の戦闘は十分に理解できる
そう、この2つで十分なのだ
尋問室の扉を開けると、皇女は鉄格子の向こうに広がる基地を眺めて居た
「積み木のように組み立てられる小屋、魔力反応無しに光る街灯、非金属的な鎧を身にし、奇妙な槍を1本のみ。あなた方の名は何と.....そして一体どこで、何の為に、何と争って居たのですか...?」
「我々は門の向こう側で、同族と争っていた。気が遠くなる年月を、平和と戦争を繰り返して今ここにいる。我々は効率的に人を殺し、効率的に国民を守る為に存在するのだ」
「我らはアスティア・ローレシア連邦軍。大統領と国民の意に従い、この世界に馳せ参じた。ひとまず貴方が知りたい事はこの端末に詰まっている」
差し出された端末には、砲兵隊の射撃とヘリからの弾着観測の映像が交互に繰り返されている
砲撃、砲撃、着弾。砲撃、砲撃、着弾。
単調な作業の向こうで、4万の命が一瞬にして消えゆく
砲煙の花が、地に彼岸花となって返り咲く
衝撃的だったのだろう、瞳孔は見開かれ、小刻みに手が震えている
もはや人としての死に方ではない。
幼児がチェスの駒を薙ぎ倒すように吹き飛んでいく
「....これで、貴女の知りたいことは教えました。次は貴女の番ですよ、皇女殿下?」
少し間の間を置かれた返事は、はい
「では聞かせてもらいます。この世界の情勢を」
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未知領域仮定時間 5月1日 06時12分
連邦軍FOB ИГ-1
現在FOBは鉄条網と防壁に監視塔を備え、土壁に足場を組んで10m弱の間隔で重機関銃を設置
1部にはZSU-23-2を配置して水平射撃による火力増強を図っている
また防壁の外にはなるが、2000m級滑走路と8機のMiG-35、4機のSu-25を装備した前線飛行場А-1が一時的に完成した
現在滑走路では配備機の全てに偵察ポッドと増槽の装着を行っていた
理由は2つ
1つはこの島の全体地図を作成する為
もうひとつは未だ存在すると考えられる敵26万の動向を調べる事である
斯くして早朝、太陽が地平線の影から浮かび上がると同時に未知領域における本格的な航空戦力運用の嚆矢が続々と空へ飛び立って言った
重砲とTOS-2の弾薬補給まで、残り30時間




