木曜日後半 お姉ちゃん、あの、ありがとう……
「ハァ~ハァ~、あ、あれ? ゆ、夢……」
気がつくと、部屋のベットの上だった。
「ハァ~よかった~、ほんとによかったよ~」
久しぶりに心の底からホッとした気がする。
ズキッ!
「うっ、まだ、頭いたい」
今日は体調をくずして学校を休んでいる、たぶん、昨日雨にぬれたせいだろう。
「ゴホ、コホ……。ハァ~」
夢だったとわかって、一安心したものの、独りだとやっぱり心細い。そう思っていたら、トントントンと誰かが部屋のドアをノックした。
「だ、だれ?」
「柚ちゃ~ん、調子はどう? お見舞いにきたよ~」
優子お姉ちゃんだった。
「お姉ちゃん? 来てくれたの?」
「心配だったからね~、ほら、ゼリーとか色々買ってきたから、後で食べてね」
「あ、ありがとう」
独りで心細かったからすごく嬉しい。
「ちゃんとご飯食べたの?」
「……あんまり食欲無くて」
「何か作ってこようか?」
「ううん、今はいいかも、それよりその~、もうちょっとそばにいてほしい……」
ふたりだけだと、ついつい甘えてしまう。
「なんだか目の周りがはれちゃってるみたいね、なにかあったの?」
「実はね……」
さっきまで見てた夢のことを話した。
「そう、そんな夢を。きっと具合が悪いせいで、悪夢を見ちゃったのね」
「すごく悲しかったし、さみしかった。だからお姉ちゃんの顔見たら、なんだかホッとした。ねぇ、里香とシャルちゃんは?」
「ふたりには、柚ちゃんのことは先生にまかせてっていってあるの、風邪がうつったりしたら大変だからね~」
「そ、そうなんだ」
ちょっと残念、でもしかたないか、確かにふたりにうつしちゃったら大変だし。
「ところで柚ちゃん、昨日はどうしたの? 里香ちゃんが、『ちゃんとまっすぐ帰ったのかな?』って言ってたけど、やっぱり寄り道しちゃったの?」
「ううん、昨日はちゃんとまっすぐ帰ったよ」
「雨にぬれてたのよね、すぐにシャワー浴びた?」
………………。
「あっ!?」
「浴びなかったのね」
「えっ~と昨日は、玄関先に注文してたの届いてて、テンション上がってそのまま部屋に直行、そして開封の義を……。あ、あははは」
「原因はそれね」
「……そ、そうみたい」
「まったく~柚ちゃんは、なんか心配して損した気分。帰ろうかな~」
「え~、待って、もうちょっといて、ねぇ~、お願~い、お姉~ちゃ~ん」
「冗談よ、もう少しいるつもり。そういえば昔もこんな風にお見舞いに来た時、ずっと手を握ったまま離してくれなかったけ、『お姉ちゃん行っちゃいや~』って、あの頃の柚ちゃん、甘えん坊で可愛かったな~」
「ち、小さい頃の話でしょ、やめてよ~」
「ふふっ、だいぶ調子良くなってきたんじゃないの?」
「う、うん、けど熱は上がったかも……」
「おかゆの材料買ってきたんだけど、作ろうか」
「……お願いしてもいい?」
「任せて!」
お姉ちゃんは張り切った様子で台所へ向かった。そして待つこと15分ほど。
「おまたせ~」
なんだかいいにおいがしてくる。
グウゥ~
「あっ!?」
(お腹鳴っちゃった、うぅ~聴こえちゃったよね?)
「ふふっ、熱いから気をつけて」
「お、おいしそう、いただきます」
フゥ~フゥ~
「あっ、あふっ、はふっ」
体調を気遣って、少しうすめの味付け、なんというか優しい味。
「どうかな~? 精がつくように卵いれてみたの」
「うん、すごくおいしい」
「良かった、ゆっくりでいいからね~」
優子お姉ちゃんのおかげで、心細くて不安だった気持ちもなくなったし、少し食べれたことで、体調のほうもずいぶん楽になった気がする。
「ごちそうさまでした」
「はい、おそまつさまでした~、うん、顔色もだいぶ良くなったわね」
「そ、そう?」
「あとはしっかり睡眠をとれば、きっと大丈夫ね」
「うん、お姉ちゃん、今日はほんと来てくれてありがとう」
「どういたしまして。さ~て、じゃあ私はそろそろ」
お姉ちゃんが部屋から出ようとすると、
「お、お姉ちゃん!」
「ん? な~に」
思わず呼び止めてしまった。
………………。
「う、ううん、なんでもない」
バサッとふとんをかぶる。
「あっ、そういえば~。里香ちゃんから聞いたんだけど、柚ちゃんは夜更しぐせがあるって、これはちゃんと寝るまで見張ってないとね」
「さ、さすがに、今日は大丈夫だよ~」
「そう? なかなかひどいって聞いたわよ。ふふっ、私ここにいるから、安心して寝なさい」
「う、うん」
(えへへ、やっぱり私、お姉ちゃんのこと大好き!)
結局お姉ちゃんは私が寝付くまでずっとそばにいてくれた。
「ス~クゥ~スゥ~……」
「さみしがりなとこは、昔と変わらないわね」
優しく微笑みながら、眠ってる私のほっぺを人差し指でツンツン。
「かわいい寝顔しちゃって。柚ちゃん、明日学校で待ってるわね!」
小声でそういうと、優子お姉ちゃんは音をたてないようにそっと帰っていった。
ちなみに、その日学校の方ではどんな感じだったかというと。
「今日相原さんは、体調が優れないようでお休みです」
「柚、昨日はちゃんとまっすぐ帰ったのかな~」
「内田さん、テイラーさん、後でちょっといいかしら~」
「あっ、はい」
「ハイ」
ホームルーム後、昨日はどんな感じだったか、先生に話した。
「昨日、雨が降り始めて、あたしとシャルちゃんは東屋に向かったんですけど、柚は小雨だったから、もう少し描くって、でもその後本降りになっても東屋の方には来なくて……」
「えっ、柚ちゃん本降りになっても描き続けたの?」
「いえ、探しにいった時、ちゃんと雨宿はしてました、してたんですけど……。肩とか背中はぬれてました、たぶん夢中で描いてたんだと思います」
「そう~、夢中になってる時の柚ちゃんって、集中力すさまじいのよね~、昔から」
「だからまっすぐ帰って、すぐシャワーを浴びるように伝えて、その日は解散しました」
「わかったわ、ありがとう」
「それで今日の放課後、シャルちゃんと様子を見に行くつもりです」
「ユズキのお見舞いに行くです」
「そのことなんだけどね、ふたりとも風邪がうつるといけないから柚ちゃんのことは、先生に任せてくれない?」
「えっ、でも~」
「Oh~ユズキが心配で~す」
「心配なのはわかるけど、もしうつしちゃったら、柚ちゃん責任感じちゃうと思うの」
「そ、それもそうですね。先生、柚のことお願いします」
「うん、先生に任せて!」
「あっ、でもどんな様子だったかだけ、後で教えてくれると……」
「わかったわ、よっぽど柚ちゃんが心配なのね」
と、こんな感じだった。