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8/18

木曜日後半 お姉ちゃん、あの、ありがとう……

「ハァ~ハァ~、あ、あれ? ゆ、夢……」


 気がつくと、部屋のベットの上だった。


「ハァ~よかった~、ほんとによかったよ~」


 久しぶりに心の底からホッとした気がする。


ズキッ!


「うっ、まだ、頭いたい」


 今日は体調をくずして学校を休んでいる、たぶん、昨日雨にぬれたせいだろう。


「ゴホ、コホ……。ハァ~」


 夢だったとわかって、一安心したものの、独りだとやっぱり心細い。そう思っていたら、トントントンと誰かが部屋のドアをノックした。


「だ、だれ?」

「柚ちゃ~ん、調子はどう? お見舞いにきたよ~」


 優子お姉ちゃんだった。


「お姉ちゃん? 来てくれたの?」

「心配だったからね~、ほら、ゼリーとか色々買ってきたから、後で食べてね」

「あ、ありがとう」


 独りで心細かったからすごく嬉しい。


「ちゃんとご飯食べたの?」

「……あんまり食欲無くて」

「何か作ってこようか?」

「ううん、今はいいかも、それよりその~、もうちょっとそばにいてほしい……」


 ふたりだけだと、ついつい甘えてしまう。


「なんだか目の周りがはれちゃってるみたいね、なにかあったの?」

「実はね……」


 さっきまで見てた夢のことを話した。


「そう、そんな夢を。きっと具合が悪いせいで、悪夢を見ちゃったのね」

「すごく悲しかったし、さみしかった。だからお姉ちゃんの顔見たら、なんだかホッとした。ねぇ、里香とシャルちゃんは?」

「ふたりには、柚ちゃんのことは先生にまかせてっていってあるの、風邪がうつったりしたら大変だからね~」

「そ、そうなんだ」


 ちょっと残念、でもしかたないか、確かにふたりにうつしちゃったら大変だし。


「ところで柚ちゃん、昨日はどうしたの? 里香ちゃんが、『ちゃんとまっすぐ帰ったのかな?』って言ってたけど、やっぱり寄り道しちゃったの?」

「ううん、昨日はちゃんとまっすぐ帰ったよ」

「雨にぬれてたのよね、すぐにシャワー浴びた?」


 ………………。


「あっ!?」

「浴びなかったのね」

「えっ~と昨日は、玄関先に注文してたの届いてて、テンション上がってそのまま部屋に直行、そして開封の義を……。あ、あははは」

「原因はそれね」

「……そ、そうみたい」

「まったく~柚ちゃんは、なんか心配して損した気分。帰ろうかな~」

「え~、待って、もうちょっといて、ねぇ~、お願~い、お姉~ちゃ~ん」

「冗談よ、もう少しいるつもり。そういえば昔もこんな風にお見舞いに来た時、ずっと手を握ったまま離してくれなかったけ、『お姉ちゃん行っちゃいや~』って、あの頃の柚ちゃん、甘えん坊で可愛かったな~」

「ち、小さい頃の話でしょ、やめてよ~」

「ふふっ、だいぶ調子良くなってきたんじゃないの?」

「う、うん、けど熱は上がったかも……」

「おかゆの材料買ってきたんだけど、作ろうか」

「……お願いしてもいい?」

「任せて!」


 お姉ちゃんは張り切った様子で台所へ向かった。そして待つこと15分ほど。


「おまたせ~」


 なんだかいいにおいがしてくる。


グウゥ~


「あっ!?」

(お腹鳴っちゃった、うぅ~聴こえちゃったよね?)

「ふふっ、熱いから気をつけて」

「お、おいしそう、いただきます」


フゥ~フゥ~


「あっ、あふっ、はふっ」


 体調を気遣って、少しうすめの味付け、なんというか優しい味。


「どうかな~? 精がつくように卵いれてみたの」

「うん、すごくおいしい」

「良かった、ゆっくりでいいからね~」


 優子お姉ちゃんのおかげで、心細くて不安だった気持ちもなくなったし、少し食べれたことで、体調のほうもずいぶん楽になった気がする。


「ごちそうさまでした」

「はい、おそまつさまでした~、うん、顔色もだいぶ良くなったわね」

「そ、そう?」

「あとはしっかり睡眠をとれば、きっと大丈夫ね」

「うん、お姉ちゃん、今日はほんと来てくれてありがとう」

「どういたしまして。さ~て、じゃあ私はそろそろ」


 お姉ちゃんが部屋から出ようとすると、


「お、お姉ちゃん!」

「ん? な~に」


 思わず呼び止めてしまった。


 ………………。


「う、ううん、なんでもない」


 バサッとふとんをかぶる。


「あっ、そういえば~。里香ちゃんから聞いたんだけど、柚ちゃんは夜更しぐせがあるって、これはちゃんと寝るまで見張ってないとね」

「さ、さすがに、今日は大丈夫だよ~」

「そう? なかなかひどいって聞いたわよ。ふふっ、私ここにいるから、安心して寝なさい」

「う、うん」

(えへへ、やっぱり私、お姉ちゃんのこと大好き!)


 結局お姉ちゃんは私が寝付くまでずっとそばにいてくれた。


「ス~クゥ~スゥ~……」

「さみしがりなとこは、昔と変わらないわね」


 優しく微笑みながら、眠ってる私のほっぺを人差し指でツンツン。


「かわいい寝顔しちゃって。柚ちゃん、明日学校で待ってるわね!」


 小声でそういうと、優子お姉ちゃんは音をたてないようにそっと帰っていった。


 ちなみに、その日学校の方ではどんな感じだったかというと。


「今日相原さんは、体調が優れないようでお休みです」

「柚、昨日はちゃんとまっすぐ帰ったのかな~」

「内田さん、テイラーさん、後でちょっといいかしら~」

「あっ、はい」

「ハイ」


 ホームルーム後、昨日はどんな感じだったか、先生に話した。


「昨日、雨が降り始めて、あたしとシャルちゃんは東屋に向かったんですけど、柚は小雨だったから、もう少し描くって、でもその後本降りになっても東屋の方には来なくて……」

「えっ、柚ちゃん本降りになっても描き続けたの?」

「いえ、探しにいった時、ちゃんと雨宿はしてました、してたんですけど……。肩とか背中はぬれてました、たぶん夢中で描いてたんだと思います」

「そう~、夢中になってる時の柚ちゃんって、集中力すさまじいのよね~、昔から」

「だからまっすぐ帰って、すぐシャワーを浴びるように伝えて、その日は解散しました」

「わかったわ、ありがとう」

「それで今日の放課後、シャルちゃんと様子を見に行くつもりです」

「ユズキのお見舞いに行くです」

「そのことなんだけどね、ふたりとも風邪がうつるといけないから柚ちゃんのことは、先生に任せてくれない?」

「えっ、でも~」

「Oh~ユズキが心配で~す」

「心配なのはわかるけど、もしうつしちゃったら、柚ちゃん責任感じちゃうと思うの」

「そ、それもそうですね。先生、柚のことお願いします」

「うん、先生に任せて!」

「あっ、でもどんな様子だったかだけ、後で教えてくれると……」

「わかったわ、よっぽど柚ちゃんが心配なのね」


 と、こんな感じだった。

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