水曜日後編 一時中断? いや、もう少しだけ……
「そういえば夕方くらいから降るかもっていってたね~」
「ユズキ、リカ、どうしますか?」
まだそれほど勢いは強くない、小雨程度だ。
「とりあえず、あっちの方で雨宿りできそうだし、後は様子見だね」
来るときに見かけた東屋に行くことにする。
「私は、もうちょっとだけ描くよ」
もう少しできりが良い所までいけそうだ。それに今すごく調子が良いから、途中で止めたくない。
「まぁ、まだ小雨だけど、でも本降りになる前に柚もこっちに来なよ」
「うん、わかってる。先にいってて!」
持ってた折りたたみ傘で絵が濡れないよにしつつ、もう少し描き続けることに。
───そして約三十分後
「さぁ~て、こんもんかな。……なんか雨強くなってるし」
気がつくと雨の勢いがさっきよりもだいぶ強くなっていた。傘のおかげで絵は濡れていないが、そのかわり肩や背中などが少し濡れていた。
「とりあえず、本堂の軒下で落ち着くまで待つか~」
───その頃東屋の方では
「もう~、本降りになる前に柚もこっち来なっていったのに……。大丈夫かな?」
「きっと大丈夫ですよ」
里香は、私やシャルちゃんの事になると、心配性の姉みたいになることがある。
「Oh~雨といえば、小さい頃マミーに怒られたことがあったです」
不安そうにしている里香を見て、シャルちゃんが子供の頃の失敗談を話し始めた。
「えっ、シャルちゃん、何かやったの?」
「好きだった映画のまねをして、雨が降っている中で歌ったり、踊ったりしたです」
「その映画なんとなくわかるかも、ということは傘は?」
「ハイ、たぶんリカの想像通りです。」
「あちゃ~」
「その日は罰として、おやつ抜きだったです」
「それは散々だったね」
シャルちゃんのおかげで、その場の雰囲気が和やかなものになった。
「あっ、雨の勢いだいぶ弱くなってきたみたい」
「ハイ、行きましょう」
里香とシャルちゃんは本堂の方に戻ってみることに。その頃私は、本堂の軒下で雨宿りしながらアニソンを小声で歌っていた。
「リカ見てください、ちゃんと雨宿りできてたみたいです」
「あっ、本当だ、よかった~」
「ユズキなんか歌ってるみたいです、少し隠れて聴いてみませんか?」
「そうだね、無事なことはわかったし、何歌ってるんだろう?」
ふたりは気づかれないように、そっと本堂の近くの低木に隠れた。私はまさかふたりが近くにいるとは思わず歌い続けていた。
「柚って歌上手だな~、本人はそんなこと無いって言ってたけど」
「シャルの知らない歌です、雨の歌みたいですね」
「あっ、終わったみたい、行こう」
「ハイ!」
両手を上にぐ~っと伸ばしていると、
「う、う~~ん、ハァ~」
「柚!」
「ユズキ!」
「えっ!? 里香、シャルちゃん」
ふたりが近くの低木の後ろから出てきた。
「い、いつからそこに……」
「ちょっと前からかな~、柚の歌に聴きほれてた」
「うぅ~、里~香~」
「柚って上手だよ、もっと自信持っていいと思うなぁ」
「も~ふたりともいるんだったら、すぐ出てきてよ~」
「ユズキ、さっきの歌なんていう曲ですか? シャルすごく気に入りました」
「あっ、これは雨だれの歌っていって、あるアニメの特殊EDなんだ~」
さっきまで恥ずかしがっていたのに、アニメの説明となると途端に元気になる。
「やっぱりアニソンだったんだね、どんなアニメなの?」
「文明が崩壊して誰もいなくなった終末世界を、ケッテンクラートに乗って旅する二人の少女の物語。意外とほのぼの系ではあるんだけど、メリーバッドエンドっていうか、人によって解釈が違ってくる物語なんだ~」
「Oh~なんかすごそうです」
「特殊EDってことは、特定の話数だけのEDってこと?」
「そう! 確か第五話、雨の日の話」
「雨の日にぴったりの歌だったですね」
「シャルちゃんもぜひ聴いてみてね、私的おすすめ曲のひとつだよ」
「柚のおすすめって、何曲ある?」
「わかんない、好きな曲ならざっと五百曲以上あるよ~」
アニメ好きな人は、好きな曲がたえず増え続けるものだ。シャルちゃんがさっきの歌を気に入ってくれたことが嬉しくて、通常EDやOPについても熱く語ってしまった。そしたらいつのまにか雨もすっかり止んでて、空に薄っすらと虹がかかっていた。
「すっかり雨も止んだみたいだね」
「本当だ、ねぇ、この後どうする?」
「柚は帰ってすぐシャワー浴びるように! 肩とか濡れてるでしょ」
「え~、大丈夫だよ~」
「だ~め! 風邪ひいちゃうから」
里香のお姉ちゃんモード、いや、おかんモードか?
「ユズキ! リカの言うとおりです、風邪をひいたら大変です」
「は~い」
シャルちゃんにまでそう言われちゃしょうがない、今回は寄り道をせずに、まっすぐ帰宅することにする。
「あっ、そういえばさ柚」
「えっ、何?」
「途中から思ってたんだけどね」
「うん、うん」
「ベレー帽ってさ、あたしはどっちかっていうと、画家じゃなくて、漫画家ってイメージなんだけど」
「う~ん、言われてみれば……。あの偉大な漫画家の手塚先生や藤子先生とかの伝記では、かぶってる姿で描かれているのがほとんどだしね」
「でしょ~」
「で、でもさ、シャルちゃんすごく似合ってたし、結果オーライじゃない?」
「まぁ~それについては否定しない、すごく似合ってる」
「Oh~ありがとうです!」
「ねぇ、シャルちゃん、良かったらそのベレー帽あげる」
「いいんですか?」
「うん、だってこんなに可愛いんだもん。きっと帽子も喜んでるよ、ベストパートナーを見つけたってね!」
「Thank you! 大事にしますね」
話ながら歩いてると、あっというまに神社の入り口についた。ここで解散することにする。
「じゃあ、ふたりともここでね」
「うん、じゃあね~」
「バ~イ」
別れ際に里香が振り返って、再度私に念を押す。
「柚、今日は寄り道ダメだからね!」
「うん、わかってる」
なので、ちゃんと言いつけを守ってまっすぐ帰宅した。
「ただいま~、あっ!? 頼んでたアミーボが届いてる~」
帰宅すると、玄関に私宛の荷物を発見。
「くぅ~、これは早速、部屋で開封の儀といきますか~、今夜は長くなるぞ~」
テンション爆上がりで、そのまま部屋に直行した。