月曜日後編 猫とドラゴンと妖精。こんなチームはどうかな?
「そういえばさ~、中学の時にやってたゲーム見つけてね、久しぶりにやってみたら、なんかまたはまっちゃってさ~」
「へぇ~、どんなゲーム?」
「冒険者育成学校が舞台のRPGだよ、まずはキャラの種族と学科を選んで三人一組のチームを作るんだ~、そして一人前の冒険者を目指すっていうゲーム。折角だから、私たち三人をイメージしたキャラで一チーム作ってみたよ~」
「Oh~ユズキ、どんなチームですか? シャルのイメージキャラは何ですか?」
「あたしも気になるかも、あたしのイメージキャラ」
里香もシャルちゃんも、自身をイメージしたキャラが何なのか気になる様子だ。
「里香はバハムーン、学科は戦士。シャルちゃんはフェアリーで白魔術師、そして私はエルフで精霊使いかな」
「バハムーン? それってどんなキャラなの?」
「竜人族だね、生命力と力が突出した種族で剣や槍の扱いが得意。ドラゴンのような角や翼が特徴、チームにいてくれるとすっごく心強いんだ~」
「あたしのイメージはドラゴン?」
「ドラゴンって、私の中では万能でめっちゃ頼りになるイメージ」
「ふ~ん、そうなんだ~」
ちょっと嬉しそうな様子の里香、気に入ってくれたようだ。
「フェアリーはどんなキャラですか?」
「妖精族だよ、知恵と運が高い種族だから魔法が得意でね。ちょっと小柄な体と透き通ったきれいな羽が特徴のシャルちゃんみたいにすっごく可愛い種族だよ~」
「Oh~シャルは魔法使い」
どうやらシャルちゃんも気に入ってくれたみたい。
「後、素早さもあるから、盗賊系にも向いてたりするんだ~」
「No~、シャルは人の物を盗ったりしないです」
「あっ!?」
少し機嫌をそこねちゃったみたい、頬をプクッとふくらましてる。ちょっとおこなシャルちゃんも可愛い。……あっ、じゃなくて。
「いや、悪い意味じゃないんだよ、ほら、よく私の心奪われちゃうな~、なんて……」
「むぅ~」
「……柚」
とりあえず謝ったほうがいい、と里香が目線で伝えてきた。
「シャルちゃんごめんね、シャルちゃんが盗賊に向いてるなんて全然思ってないよ」
「……ほんとうですか?」
「うん、ほんと、ほんと」
あともう一押し。
「キャラメルあげるから、ゆるして~」
最後の手段、甘いもの。
「そんなので機嫌がなおるわけ……」
「Oh~ありがとうです、ユズキ許します!」
「なおった~~!!」
思わずノリツッコミみたいになってしまう里香、私もこんなに上手くいくとは思わなかった。
「そういえば、柚はなんでエルフ?」
「あ~それは、一番好きな種族だったから」
「あたしたちをイメージしたチームなんでしょ、柚らしさ必要じゃない?」
「だって、色々考えたけど、決まらなくて~」
「ユズキのキャラは、シャルとリカで決めたらどうですか?」
「それいいかもね、他にどんな種族がいるの?」
「他はこんな感じ」
キャラ紹介のページをふたりに見せる。そういえば、ふたりの私へのイメージってどんな感じなんだろう。
数分後、私のキャラが決まったようだ。
「で、私はどのキャラなの?」
ちょっとドキドキしてきた。
「柚はフェルパーかな」
「フェルパー!? なんで?」
「柚ってさ、あたしとシャルちゃん以外のクラスメートには、まだ気をゆるせてないというか、他人と仲良くなるのに時間がかかるよね」
まぁ確かにそういう所あるかもしれない。
「三人の中で運が悪い方だよね」
……思い当たることがいっぱいある。
「後、最初に柚が言ってた精霊使いだけど、精霊がちゃんと従ってくれなくて、『もぅ~言うこと聞いてよ~』って言っている姿が想像できる」
なんか思ってたのとちがう、ていうかちょっとひどくないか。
ちなみに、フェルパーは猫の獣人族。運は少し低いが、それ以外はバランスがとれた種族だ。可愛い耳と尻尾が特徴、人見知りな性格で、他種族にあまり気をゆるさないタイプが多い。
フェルパーも好きな種族だけど……。なんか素直に喜べない。
「ちなみに一番の理由はね」
「もういい、なんか聞きたくない」
「ごめん、ごめん。そんなにすねないでよ~」
里香は、うつむいた私の頭を撫でながらこう続ける。
「柚ってさ、絶対に猫耳似合うと思う」
「シャルもそう思うです、絶対可愛いです」
ほんの少し思考が止まった。
「えっ、あっ、え~~!! そ、そんなことないよ……」
まったく予想してなかった答えが来たものだからびっくりした。
「柚てれてる~、顔赤いよ」
「か、からかわないでよ里香」
「いや、絶対可愛いって!」
悪い気はしないけど…….。なんかむずがゆい。
「そういうわけで、これでキャラ三人決まったね!」
「う、うん」
なんか、ショックだったり、恥ずかしかったり、色んな気持ちが入りまじって……変な感じがする。
「柚!」
「な、なに、里香?」
「チョコあげるから機嫌直して~、柚ちゃん」
それをきいてピンときた。
(あ~やられた~)
さっきシャルちゃんの機嫌を損ねちゃった分やり返された、なんかくやしいと思ったけど、でも同時に笑えてきた。
「じゃあGODIVAのチョコなら許す~」
「それはいくらなんでも無理だよ~」
………………。
「Oh~、それならシャルの家にちょうどありますよ~」
「「マジで!?」」
思わず里香と同時に叫んでしまった。
「今度遊びにきませんか? いっしょに食べたいです」
これはなんとも嬉しいおさそいだ。そういえばシャルちゃんの家に遊びに行ったことは、今までなかった。いや、というよりこれまではなんとな~く避けてきたのだ。だってシャルちゃんの家って、私や里香の家よりも大きくて立派なんだもん。なんか緊張するというか、気軽に遊びにいきたいとは言いづらいというか。だから遊ぶ時は、私か里香の家、あるいはみんなでどこかに出かけていた。もちろん、シャルちゃん本人がダメって言っているわけではない。
「シャルちゃん本当にいいの? 冗談だったんだけど……」
「ハイ、いっしょに食べると、もっとおいしいと思うです」
でも今回は折角シャルちゃんが誘ってくれてるんだし、お言葉に甘えてもいいよね。
ということで、今週の休みはシャルちゃんの家に集合ということに。これまでシャルちゃんの家って外見しか見たことなかったし、実はちょっぴり気になっていたのだ、今からすっごく楽しみ。
キーンコーンカーンコーン♪
───昼休みが終わった。
「柚、午後はもう寝るなよ~」
「だ、大丈夫だよ、それに午前中も寝てはいないし……」
「ユズキ、リカ、次は移動教室ですよ、いきましょう~」
「そうだったね、いこう」
午後の授業が始まって二十分ほど過ぎた頃、だんだんとまぶたが重くなってきた。さっきまでとくに眠くなかったはずなのに。授業中はなんか眠くなる、なのに終わったとたんそうでもなくなる。これ、たぶん私だけじゃないはずだ。授業中の先生たちって催眠術師と良い勝負できるかも……。
そして今日の授業はすべて終わった、ちなみに三人とも帰宅部だ。
「里香、シャルちゃん、帰ろう~」
「うん、帰るか~」
「ハイ」
───帰り道
「柚、午後も眠そうにしてたよね、大丈夫って言ってなかったけ~」
「あれはさ……。なんというか、授業となると眠くならない? ほら先生たちが、睡眠属性の呪文を唱えてくるし~」
「そんなことはしとらん、普通に授業してるだけだ」
「シャルも午後は眠いです、お腹いっぱいで、日差しがポカポカ~」
「柚とシャルちゃん、な~んか違くない? 眠い理由が」
………………。
「あっ、そういえばシャルちゃん、今朝この辺で猫見かけたんだ。可愛かったよ~」
「急に話変わるじゃん、まぁ、いいけど……」
「Oh~シャルも見たかったです」
なんとなく話題を変えた。
「そういえば、猫は好きなだけ寝れるからいいなって、今朝いってたよね柚」
「ユズキ、猫も色々大変だと思うですよ」
「うっ、やっぱりそうなのかな~」
まさか今朝里香に言われた事をシャルちゃんにも言われてしまうとは思わなかった。その様子を見て里香はクスッと笑った。
「シャルちゃん、あたしも今朝まったく同じこと言ったんだ~、きっと柚が思ってるより猫も大変だよってね」
「そうだったですか~」
「そしたら、あたしんちの猫になりたいって」
「里香なら甘やかしてくれると思ったのに、なんかだめみたいだし~」
「要望が多すぎるんだよ~、途中で止めたけど、まだまだあったんでしょ~」
「そんなにないよ~、あと三つ、四つ……」
「ほら、やっぱり~」
「シャルは大歓迎ですよ~、いっぱい甘やかしてあげるです」
「あ~ん、シャルちゃ~ん、好き~」
そうこうしているうちに、シャルちゃんの家の前に着いた。
「じゃあ、シャルちゃんまたね~」
「また明日、学校でね」
「See you tomorrow. ユズキ、リカ、また明日です」
「じゃあ、あたしもここで、ちょっと寄ってくとこあるから」
「うん、じゃ~ね~」
その場でふたりと別れた。そしてしばらく行くと、今朝とは違う猫を見つけた。
「可愛い~子猫つれてる~、あっ、そうだ!」
カシャ
「あっ!? まって~」
フラッシュに驚いたのか、逃げてしまった。
「あちゃ~、びっくりさせちゃったかな~、ごめんね」
でも一枚は何とか撮れたから、ふたりに写真とメッセージを送った。
「え~っと『可愛い猫の親子発見したよ~』っと。ふたりとも喜んでくれるかな、あっ、お姉ちゃんもこういうの好きなんだよね~、明日見せてあげよ~っと」
明日のシャルちゃんと優子お姉ちゃんの反応が楽しみになってきた。