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第五話 シーン九【血筋と才能】

第五話 シーン九【血筋と才能】





 竜の巫女ミンクゥがサツキとハヅキの父親だという事実が判明した。


 あまりの衝撃的な内容に姉妹はその場で受け入れられず、翌日にあらためて全員揃って話をすることになる。


 ちなみに今日のミンクゥは八歳の少女の姿だ。


「それで、受け入れてもらえたのかしら?ふたりとも」


 キョーコが娘たちに尋ねると、サツキは渋々という感じで頷いた。


「ミンクゥさんを父親と認めるよ!嘘はいわないだろうし、なんとなく他人じゃないってわかるんだもん」


「おお、嬉しいのう♡パパと呼んでいいんじゃよ♡」


 ミンクゥは満面の笑みで娘に期待を寄せると、サツキは首を横に振る。


「……それはムリ。だってこんなに美人のママのお相手だから、どんなイケメンか想像してたんだ。この気持ちわかるかな?」


「あ~、たしかにそうね♪私だって好きこのんでエロドラゴンの子どもが欲しかったわけじゃないし♪」


「アカネ……いやキョーコ。ひどいいわれようじゃの!お主が望んで出来た子というのに!」


 サツキの本音にキョーコが同意して、ミンクゥが落ち込んでしまう。


「……私はおもしろいからこれはこれであり、です。可愛いし」


 ついでハヅキがミンクゥの頭を撫でると、小動物のように喉を鳴らしはじめる。


「クルルル……♪ハッ!それは素直に喜んでいいものかの……。複雑じゃ……」


 撫でられてペットのように体を擦り付けてしまうミンクゥは、またも落ち込んでしまう。


「それでね、あとひとつ残念なお知らせがあるんだけど……」


 キョーコが迷いのあるいい方をすると、娘たちは「話して」と続きを促す。


「実はね、あなた達は卵から生まれたの♪」


『えーっ⁉』


「……わぉ」


 驚いたのはサツキとレアン、控えめなのはハヅキだ。


「おー!子作りすると卵を産むのか!さすがらおしー!」


 聞いていたシュウメイまで反応が大きい。


「……キョーコ、あまりからかうではない。何がさすがなのじゃ。わし自身が身ごもったのなら卵を産むかもしれんが、わしの人間の母も生身で産んでいるはずじゃぞ」


 そんな中、ミンクゥが苦虫を潰した顔をするのを見てキョーコが笑う。


「うふふ♪さすがに冗談よ♪あなたたちが産まれた時、丸い光……おそらく竜の加護に包まれて産まれてきたの。まるでその形が卵みたいだから、産婆さんが卵を産んだと腰を抜かしそうになっただけ♪」


「冗談でよかった……!それでも普通じゃないんだね、サツキたち」


「……伝説の勇者誕生みたいなエピソード、いい。そそる、です」


 サツキは複雑な顔で、ハヅキは興奮して鼻息が荒かった。


「わしはの、神竜ライテリヴェリと人間の母の間に生まれたハーフドラゴンじゃ。つまりサツキとハヅキはクォータードラゴンともいえるし、ほぼ人間ともいえるじゃろうて」


 ミンクゥが説明をしてくれるが、話が壮大過ぎてレアンの理解に及ばない。


「あの、聞いてもいいですか?キョーコさん」


「なぁに?何でも聞いてレアンくん」


 レアンが手を上げて質問すると、キョーコは快諾してくれる。


「あの、キョーコさんはドラゴンのハーフなんですか?竜の血を引いているというお話でしたから」


「あ~……えっと、私は純粋な人間よ。東方のどこかで生まれた普通の娘。竜の血が混じってしまったのは、その……ミンクゥとの接触が多すぎたせいだと思うわ」


 キョーコはどこか歯切れが悪く、ミンクゥが代わりに答えてくれる。


「人間は生殖行為を濁す傾向にあるが、別に隠すことはない。力を使った反動を沈めるため、キョーコに夜の相手をお願いしたのじゃ。それこそ三、四年以上一緒に冒険したからの。あまたのしとねを共にしたのう♡」


 レアンはなんとなく理解して、顔を赤くして下を向く。


 その顔をハヅキに見られてニヤニヤされて、恥ずかしくて顔を隠してしまう。


「うーん……となると。サツキはどうして弱いのかな?だって八英雄とハーフドラゴンの娘でしょう?もっと強くたっておかしくないんじゃないかなぁ」


 サツキは最近の悩みの種である、自分の力不足を口にする。


「弱いなんてことはないでしょう?まだ冒険者になって三年も経ってないのよ?サツキは傷の治りが早くて運動神経もいい。ハヅキは秘薬があればいかずちの上位魔法も使えるし。それだけでは不満なの?」


「うーん……そんなものなのかなー」


 キョーコはフォローするが、サツキは納得しないようだ。


「……あ、なるほど。いかずちが少し得意なのは父さんのおかげか。範囲魔法しかないからめったに使わないけど」


 ハヅキも思い当たったのかひとりつぶやくと、ミンクゥは「うむうむ」と頷く。


 キョーコは少し間をおいて、サツキに話して聞かせた。


「サツキは勘違いしてるけど、血筋や才能だけで強いなんてありえないわ。レアンくんだって五歳からの剣術の積み重ねや、神への信仰あってのもの。私だってそう。……もし才能とかいうものがあるとすれば『努力し続けられる才能』だと思うわ」


 実感のこもった意見をいうと、それまでずっと黙って聞いていたミヤコが口を開いた。


「……その考えは賛同する。俺も刀を握って二〇数年、一日たりとも鍛錬を欠かしたことはない」


「ウチもそう思うぞ!五歳でひとりになって、生きるために必死に戦ってきたからここまで強くなれたんだ!」


 シュウメイまで加勢されて、サツキは頷くしかなかった。


「そうなんだ。……うん、わかった。サツキもこれから強くなるために頑張るよ!」


「うん。わかってくれたなら嬉しいわ。ではあらためて話しておくわね。あなた達の病気のことや私とミンクゥのことを」


 そうしてキョーコは深呼吸をして話をはじめた。





「ハヅキ、サツキ……まずふたりに謝らないといけないわ。本当にごめんなさい!実はあなた達にかかった不治の病は、私が受けていたロスト・イデアルの呪いが引き継がれたものなの。ずっといい出せなくて、つらい思いをさせてごめんなさい!」


 キョーコは最初に娘たちに深く頭下げた。


「え?え?ママどうしたの?どういうこと?」


「……詳しく聞かせて」


 謝罪されて娘たちは困惑していたが、ミンクゥが助け船を出す。


「キョーコよ待つのじゃ。悩んでいたのじゃろうが感情的になってはうまく伝わらんし、いちから話さないと間違った伝わり方をする。皆の者、少し長くなるが昔話を聞いておくれ」


 冷静にみんなを見渡して、ミンクゥが代わりにゆっくり話しはじめた。

「まず神竜戦争を戦った八英雄は、皆も知っている伝説の武器を持っていたのじゃ。たとえばエリックは風の槍、オリアーナは光の聖杖せいじょうというふうにな。ただ強いといっても、そのものは良質な武器でしか無い。そこにロスト・イデアルを組み込むことで真なる力を発揮するのじゃ」


 ミンクゥは語り部のように周りの反応を見ながら続ける。


「ロスト・イデアルはペンダントや指輪などアクセサリーの形状をしていて、単体でも護りの力を発揮するのじゃが、武器に組み込んで使えば神竜を傷つけることが出来る。ただ相手は神の竜。それだけで勝つことは出来なかったのじゃ」


 そこでミンクゥは一息ついて続きを話す。


「そこでロスト・イデアルの奥の手である『限界突破』させることで、八英雄は圧倒的な身体能力と力を手に入れたのじゃ。そして地竜ヌヴァタグを追い込んで、風の槍で神竜戦争終結の地に一時的に封印した」


 そしてミンクゥはキョーコを見て、悲しそうな目をした。


「じゃが『限界突破』は代償を伴うものだったのじゃ。アカネ……今のキョーコは体の内部と外部に消えない傷を受けた。それが子どもを産んだことで、別々に引き継がれてしまったようじゃ。これが呪いの正体じゃよ」


 説明を終えると、一同が話の重さに静まり返ってしまう。


 そこでレアンは思い出したことがあって、口を開く。


「……ボクも姉さまから聞いたことがあります。伝説の武器のせいで父の左手が不自由になったことや、母が人間では不可能といわれる蘇生の力を使ったことで、八英雄として戦った記憶が全部消えてしまったことを。きっと、それも同じことじゃないかと思うのです」


 レアンの告白でよりキョーコの話も真実味が増して、姉妹はしばらく考えた上で答えを出したようだ。


「別にママは悪くないじゃん!東方の人なのに中央大陸のために戦って、そのせいで痛い思いもして。サツキたちの痛みをずっと胸の奥に抱えていたんだね。ありがとう、ママ」


「……このくらいは母さんの苦労を考えればたいしたことはない、です。逆にこの傷は英雄の娘の証になるから」


 そして姉妹が優しく笑ったのを見て、キョーコが感極まって娘たちに抱きつく。


「ありがとう……本当にありがとう」


 体を寄せ合ったまま涙するキョーコを見て、レアンは悩んでいる姿を見ていたので報われてよかったと思った。


 しばらくしてキョーコは落ち着いたが、続きを話す空気にならなかったので一旦お風呂に入ってからにしようとなる。


 するとミンクゥが嬉しそうに姉妹に声をかける。


「……サツキ、ハヅキよ。パパと一緒にお風呂に入るのじゃ♡」


 だが姉妹は見た目八歳の少女の誘いに、ものすごく嫌そうな顔をする。


「うわ、それキモい……」


「……パパ最低、です」


 拒否されてミンクゥは「なんでなのじゃあ!」と叫んだ。





(続)

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