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第五話 シーン八【姉妹のパパ】

第五話 シーン八【姉妹のパパ】





(レアン・サイド)





 ハヅキの不治の病を竜脈の祭壇で治療して、ノーツの町に戻って療養をして三日が経った。


 症状は幾分よくなったものの、まだベッドから起き上がれないでいる。


 サツキの方は丸一日寝ていたら、日常生活を送れる程度に回復した。


 必死に看病するキョーコをレアンとシュウメイは交代でサポートして、ミヤコは町で栄養のあるものや薬草などを買ってきてくれる。


 ハヅキの傷は完全に消えたものの熱が下がらず、快方へ向かわず焦るキョーコにミンクゥが提案した。


「使えるかどうかわからんが、星の願いをしてみるかの」


 するとキョーコは不安げな顔をする。


「まだ眠りから目覚めたばかりなのに大丈夫?負担も大きいでしょう?」


「じゃがな、わしの知るいつも自信満々なアカネが、これほど弱っているのを見るのは忍びないのじゃ。わしも巫女の役目を果たそうぞ」


 ミンクゥはキョーコを見て頷くと、ベッドで横になりこちらを見ていたハヅキのそばに立った。


「……ミンクゥさん、ありがとう」


「何のこれしきじゃ。では参るぞ」


 ミンクゥは礼をいうハヅキの左手を取り、目を閉じて祈りの言葉を捧げる。


『見守りし星のきらめきよ、慈悲深き癒やしを与え給え』


 すると周りに星のような光がキラキラと舞って、ミンクゥに吸い込まれてからハヅキに流れ込む。


「ふぅ……おしまいじゃ」


 光が収まるとミンクゥは大きく息を吐き、ハヅキが驚いたように自分のほっぺたに触れる。


「……すごく楽になった、です」


 神の奇跡とも違う癒やしの力で、ハヅキの顔色をよくしていた。


 ぐうううう


 直後盛大にお腹が鳴って、空気が緩んで笑いが起きる。


「うふふ♪食欲が出ていたなら、何か美味しいものでも作ってもらいましょうか」


 キョーコが部屋を出ていこうとしたところに、ミヤコとシュウメイが帰ってきた。


「……丁度よい。さきほど市場でリンゴなどを仕入れてきた。よければ食してくれ」


「お!だいぶよくなってるな!やわらかいパンやお菓子も買ってきたぞ!」


 ふたりの手にはたくさんのお土産があるようで、気づけばハヅキの口からヨダレが垂れていたので慌ててレアンがハンカチで拭いた。


「では、わしは少し休ませてもらうぞ」


「ええ、ありがとう本当に。仮眠用の部屋開いてるから、そっちで」


 ミンクゥは久々に戻ったにこやかな空気に満足して、部屋を後にしようとするとキョーコが付き添った。


 サツキはリンゴを慣れた手つきで小さく切って皿に並べる。


「リンゴは消化がいいからいただこうね。ミヤコさん、シュウメイありがとうございます」


「……礼には及ばん」


「うむ!早く元気になれよ!」


 ミヤコとシュウメイはハヅキの様子を見て、安心してその場を後にした。


「……あーん」


 まだ全部むけてないのに、ハヅキがひな鳥みたいに口を開けて待っているのでサツキは苦笑する。


「もうちょっと待ってね、お姉ちゃん。はい、あーん☆」


「はむっ……もぐもぐ」


「もう……サツキの指まで食べてるよ」


「……塩気がきいてこれはこれで。おいしい、です。しあわせ」


 ふたりの仲がよい光景を見てから、レアンも不規則な生活だったので仮眠室に向かう。


 昼間でも眠れるようにカーテンを締め切った部屋で、ミンクゥが穏やかな寝息を立てていた。


 レアンは見た目八歳の可愛い寝顔を見て、起こさないように隣のベッドに横になる。


 今日からぐっすり眠れそうだ。


 キョーコもよく寝てほしいなと思いながら、目を閉じるとすぐに意識が遠のいた。





 次に目が覚めると、同じベッドに大人の知らないお姉さんが寝ていた。


「……んっ……ふえっ?……えええええっ⁉」


 レアンはすぐに状況を理解できなかったが、褐色肌のお姉さんがほとんど裸であることに気づいく。


 慌てて離れるが、ベッドが狭いので落ちてしまい「あいたっ!」と声を上げる。


「んんっ……なんじゃ、うるさいのう。これは……そうか、あの程度の力の行使で反動があるとは」


 音に気づいた女性は目を覚まして、体にシーツを巻きつけながらベッドの下のレアンを見た。


「あ、あなたは誰ですか⁉」


 レアンが顔を真っ赤にしているの見て、女性は艶っぽく笑いベッドから降りてレアンに這い寄る。


「なるほど……知らぬからの。わしじゃよ♡ミンクゥじゃ♡くふ♡レアン……体の火照りを鎮めたいのじゃ♡ぬしにも穴はついておろう?使ってよいかの?♡」


 ミンクゥを名乗るお姉さんは声も随分大人っぽくなっていて、親指と人差し指で輪を作っ

てレアンに迫ってくる。


「ミ、ミンクゥさん……⁉使うってなんですか?穴?穴って⁉」


 レアンは豊満な体を見ないように目を自分の手で塞ぐと、お姉さんがレアンの手を取り引き寄せる。


 ちょうどその時、騒ぎに気づいた他の人たちが入ってきた。


「どうしたの⁉すごい音がしたけど。……誰⁉その女の人‼」


「……レアン、どうしたの?……取り込み中?……えっち」


 サツキとハヅキが入ってきて、見知らぬ女性に驚いて固まる。


 続いて入ってきたキョーコが、レアンが襲われる光景を見てすぐにこちらに向かって走ってきた。


「……この節操なしのエロドラゴン‼」


 そのまま華麗にミンクゥの側頭部に飛び蹴りを食らわせる。


「痛いのじゃ‼」


 キョーコの蹴りでミンクゥは派手に吹っ飛んで、ゴロゴロと転がって壁に激突した。


 本気なら壁を壊して外に飛び出しそうなので手加減はしているのだろうが、珍しいリアクションを見てしまい姉妹でさえ驚いている。


「どうしたんですか一体⁉」


「……いや、すまぬ。寝ぼけていて派手にベッドから落ちてしまったようだ」


 階下から宿の主人の怒鳴り声が聞こえてきたので、ミヤコが下に降りていってうまく弁明してくれる。


 こちらはというと部屋の隅っこに半裸で座る大人ミンクゥに、キョーコは手を腰に当てて説教をはじめる。


「レアンくんに手を出そうとして!私に頼む方法もあるでしょう⁉もし娘に手を出たらただじゃ置かないわよ‼」


「わしを節操なしみたいにいうな!それにレアンは実に可愛いから仕方ないのじゃ♡じゃが、さすがに実の娘に手を出すわけなかろうて!……あ」


 するとミンクゥが話した内容に『えっ⁉』と全員の時間が止まる。


 キョーコとミンクゥはしばらく見つめ合った後、こちらを見て口を開く。


「……びっくりするから段階を踏んで説明しようと思ったんだけどね。紹介するわ……ミンクゥは、サツキとハヅキのパパよ」


「パパじゃよ♡」


『ええーっ⁉』


 レアンとサツキの大声がハモって階下まで響いて、またも宿の主人が怒りだす。


 しかし娘当人たちはそれどころでなかった。


「え?ふたりで仕組んだんよね?ね?」


「……またまたご冗談を」


 サツキも、冷静なハヅキでさえも現実と受け止めきれないようだ。


「えーっと……まぁそうなるわよね。でもミンクゥは両性具有、つまり男であり女でもあるから、パパにもママにもなれるのよ」


「ドラゴンはの、力の使いすぎで生存本能が強く働いてしまい発情期になってしまうんじゃ♡幾百もアカネには世話になった♡お前たちはキョーコとふたりで仕込んだ結晶なのは間違いないのじゃ♡」


 キョーコとミンクゥはさらに説明するが、やはり受け入れられないようだ。


「ママに昔父親のことば聞いた時『パパはね……遠い所で眠っているのよ』っていってたやん!」


「ええ……でも間違ってないでしょう?遠い『祭壇という』所で『冷凍睡眠で』眠っているのよって♪」


「……てっきりもうこの世にはいないものだと思ってた、です」


「勝手に殺さんで欲しいわい……。わしは半分寝ながらじゃが、千五百年は生きておるし寿命では死なぬぞ」


 親子四人の会話はなかなかに混沌としていて、キョーコがこめかみを押さえる。


「うーん、困ったわね。どうしたら信じてもらえるのかしら」


「そうじゃの……ここで実際に子作りを実践してみたらいいじゃろうて♡痛っ!アカネ!殴るのをやめるのじゃ!」


 突然とんでもないことをいい出したミンクゥへ、キョーコがゲンコツを頭のてっぺんにおろす。


 レアンは恥ずかしくなって下を向いていると、シュウメイが肩をたたいてきた。


「レアン、子作りとはなんだ?」


「ええっ⁉えっと、子どもが欲しいときにする儀式です……」


 とんでもないことを聞かれ、レアンはある意味正直に答えてしまい耳まで真っ赤になる。


「そうなのか!ウチは親が小さい時にいなくなったからよく知らんのだ!レアン、今度子作りを教えてくれないか?」


「そ、それは……」


 興味津々に目を輝かせるシュウメイにレアンが困っていると、キョーコが手助けしてくれる。


「シュウメイちゃん♪今度ちゃんと教えてあげるから、あまり人前ではその話はしないでくれるかな?」


「本当か⁉らおしーに子作り教えてもらうぞ!約束だからな!」


 本当に知らないのか無邪気にシュウメイが喜んだ。


 結局親子の話は長くなりそうで、受け入れるのに時間が欲しいとのことで翌日に改めて話し合うことになった。





(続)

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