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第五話 シーン七【竜の巫女ミンクゥ】

第五話 シーン七【竜の巫女ミンクゥ】





(レアン・サイド)




 竜の祭壇の最深部で火の竜神将ユグノスがレアンたちを襲った。


 サツキを人質にしてグレーターデーモン三体まで用意したユグノスだったが、八英雄だったというキョーコの圧倒的な力で退ける。


 そして祭壇の冷凍睡眠装置で眠る竜の巫女を目覚めさせて、少女の肌の色が赤みを帯びる。


「……んんっ。なんじゃ、もう目覚めの時間か?もう一〇〇年くらい経ったのかの?」


 褐色肌の八歳くらいの少女は、目をゆっくり開けて辺りを見回した。


 祭壇の守護者である少女たちも主の目覚めに顔をほころばせ覗き込み、そんな彼女らの頭をピンク髪の少女が撫でる。


「おはよう、ミンクゥ。一七年ぶりね。あなたの力を借りに来たわ」


 その中で知り合いのキョーコが話しかけると、ミンクゥという巫女はしばし顔を見つめた。


「……そなたは、アカネか。いろいろ大きく……大人っぽくなったのう」


 アカネはやはりキョーコの八英雄の名前みたいだ。


 ミンクゥは体を起こすと、装置から出て全員を見回した。


「わしはミンクゥ。ひとの子らよ、わしがいかずちの巫女と呼ばれるものじゃ」


 降り立つと八歳の少女にしてはかなり際どい格好をしているのがわかり、レアンは目をそらした。


 ローブを羽織っているが、その下は胸と股を覆うわずかな布しかない。


 ミンクゥはそんなレアンに気づいたのか、愉快そうに笑う。


「くふ♡なんじゃ、おぬしは色目を使いおって。仕方ないじゃろ。元の姿へ戻る時簡単に脱げるものでないと、仮初の姿のときに着るものが無くなる」


 そこまでいったところで、サツキが前に出てきて頭を下げた。


「竜の巫女さま!お姉ちゃんの傷を治してください。よろしくお願いします!」


 本人も体調が悪いはずなのに、必死にお願いする。


 そんな姉を思う気持ちにミンクゥが目を細める。


「ミンクゥでよい。なるほど、このふたりがアカネの子か?」


「ええ」


 ミンクゥの問いにキョーコが答えると、少女は目を閉じて何か考えているようだ。


「そうか、この子らが……。わかったのじゃ。二〇年にも満たぬ竜脈の力ではひとりしか無理じゃろうて。ちーっとばかり痛いがよいな?」


「……お願いします」


 今度はハヅキが答えて、装置の中に入るように促される。


「では参るぞ。皆の者は少し離れておれ」


 ハヅキが入って横たわるのを確認して、ミンクゥはローブを脱ぎ捨て儀式のように片膝を地面につけて深く頭を下げる。


『我は竜の巫女ミンクゥ。竜脈の力よ今ここに集え。呪いを受けし彼女を災厄から解き放ち給え……!』


 立ち上がったミンクゥが妖しくも美しく舞うたびに、祭壇全体から金色のキラキラした力が集まって眠るハヅキの中に吸い込まれていく。


 それは非常に幻想的な光景だったが、中で眠るハヅキに異変が起こりはじめる。


「……うっ!くっ……あああ……!うあっ!あああっ!」


 自分の体を抱きながら痛みの声を上げるハヅキは、何かと戦っているようだった。


「お姉ちゃん!」


 苦悶の表情にサツキが近寄ろうとするが、キョーコが手で制する。


「だめよ。触れると竜脈の力がその人に流れるわ」


「う、うん……ごめんなさい」


 舞いは三〇分ほど続いたが、ハヅキの苦しむ姿を見続けていたせいもあり長く感じられた。


 やがてミンクゥは舞いを止め、額の汗を拭う。


「無事終えたのじゃ。ただし痛みはおそらくもう二、三日は続くじゃろう。どこかで休める場所があればよいのじゃが」


 ミンクゥはこちらを振り返ると、サツキは「ありがとうございます」と頭を下げて寝ているハヅキに駆け寄る。


 レアンも近づいて容態を見ると、ハヅキは全身汗だらけで熱をもっていた。


 すぐに癒やしの奇跡を願うが、あまり効果はないようだ。


「一旦ノーツの町に帰って、それからいろいろと考えましょう。ミンクゥ、一緒に来てくれる?」


「もちろんじゃ。……ではおまえたち、いってくるぞ」


 キョーコの提案にミンクゥがローブを羽織り、守護者の少女の頭を両方撫でた。


「いってらっしゃいませ」「いってらっしゃいませ」


「りゅうのみこさま」「りゅうのみこさま」


 すると少女たちに変化はないが、問題なく送り出してくれるようだ。


 そしてキョーコがハヅキを軽々とお姫様抱っこで抱えて、帰りの道を選ぶ。


「らおしー、手伝おうか?」


「……キョーコ殿、手が必要な時は教えてくれ」


 次にシュウメイとミヤコが横に付き添うが、キョーコはふたりに笑いかけただけでハヅキを抱えたまま入口へ向かった。


 レアンはサツキに寄り添いながら行くが、途中でシュウメイとふたりで支えながら階段を上がる。


 一番後ろにミヤコとミンクゥが追い、一時間かけて竜脈の祭壇を出てつないでいた馬車に乗り込んだ。


「もう夕方だけど出来るだけ進みましょうか。オイルランタンと明かりのアイテムもね」


 そして客車にハヅキを寝かせると、休憩もせずキョーコが手綱を握り走り出した。


 夜中の強行軍は馬が疲れるまで続いて、翌朝も日の出とともに出発する。


 ノーツの町に着いたのは、ちょうど昼食の時間だった。





「すみませんでした。急に飛び出してしまって」


 サツキが泊まっていた宿屋に戻ると、主人が心配そうな顔で迎えてくれた。


「いやいや。体調悪いからよろしくと頼まれていてさ、ご飯持っていったらもぬけの殻だったからびっくりしたよ。でもまぁ無事で何よりだ。金も先払いで多めにもらってるし、こっちから何もいうことはないよ」


 不幸中の幸いかサツキをさらったユグノスの手際は非常にスマートで、争う様子もないまま人知れずサツキを連れ出したらしい。


 サツキによると昼寝をしていて、気づいたら祭壇まで運び込まれていたみたいだ。


「すまないついでで悪いんですけど、もう数日泊めさせてもらえますか?」


「それは構わないよ。あれ、この女の子は……まさかダークエルフじゃないだろうね?」


 キョーコがさらに連泊を希望すると、宿の主人の目がミンクゥに止まる。


 たしかに褐色の肌とやや尖った耳は、中央大陸では忌み嫌われる種族に似ていたので無理はない。


「わしはミンクゥ。竜の巫女じゃ。見てわからんかの?そなた」


 するとミンクゥは一歩前に出て主人を見上げ、口の牙と尻尾を見せた。


 主人は「ほほう」としげしげと見たあと、何か思い出したように手のひらに右の拳を打つ。


「ああっ!あなたはあの有名な『茜色の刃と竜巫女』の巫女様か!こらまた随分昔の有名人に会えた!」


「ほほう……どんな噂か気になるところじゃが、連れの具合が悪くての。早く休ませてあげたいのじゃ」


 ミンクゥのことは信じてくれたようで、主人は部屋に案内してくれた。


 姉妹のためにひと部屋を取って、他は念の為三部屋取っておく。


 ひと部屋を仮眠用にするつもりらしい。


 キョーコは娘たちを休ませてからずっと看病に当たっていたが、全員が心配するほど思いつめていた。


「キョーコさん、少し休んでください。もう丸二日……いえ、その前からほとんど寝ていないですよね?」


 レアンはキョーコの方が心配になって、その日の夜遅くに部屋に押しかける。


「ん……レアンくん?……いいのよ。今まで母親っぽいことをしてやれなかったから、せめてもの罪滅ぼしよ」


 キョーコの顔には疲労が色濃く出ていて、いつ倒れてもおかしくないと思う。


 そんなキョーコのそばに行って、手を握り神に祈りを捧げる。


『我が偉大なる神イウリファス様、どうか癒やしの力をお与えください。ライト・ヒール!』


 まさか自分にかけられると思わなかったのかキョーコは驚いて、レアンの頭を撫でる。


「……ありがとう。本当は一回でも多く娘たちに施して欲しいところだけど、これ以上心配させたら悪いわね。少しだけ仮眠させてもらうわ」


「はい。代わりに起きていますから、任せてください」


「ええ、ありがとう」


 キョーコはレアンの額にキスをすると、自分のベッドに入りすぐに寝息を立てはじめる。


「……キョーコさんは優しい母さまです。きっと、サツキさんもハヅキさんそう思っているはずです」


 レアンは自分を責め続けているキョーコの寝顔が少しでも安らかになるように、頭を撫でてから神に祈りを捧げた。





(ハヅキ・サイド)





 体が燃えるように熱い。


 ピリピリしびれるような感覚は、いかずちの竜脈のせいなのか。


「……んんっ」


 ハヅキが夜中に目覚めると、薄明かりの中レアンがイスに座り彼女のベッドに上半身を預けるように寝ていた。


 自分の中で痛みと熱が波間のように寄せては返すを繰り返していたが、幾分マシになった方だ。


 周りを見ると、サツキとキョーコは穏やかに寝息を立てているようだ。


 ベッドの上で体を起こして手近にあったブランケットをレアンにかけて、その幼い寝顔を見る。


 なぜこの子はこれほど親身になって世話をしてくれるのだろうか。


 お世話になっている人だから?……いや違う。


 きっとレアンは見ず知らずの人でも同じように必死に看てくれるだろう。


「……血の繋がりがあっても難しいのに」


 サツキは魂で繋がりを感じるから信じられる。


 キョーコは二度も自分たちを置いて消えたので、いまだ心のどこかで信じきれていない。


 そしてレアンは誰にでも優しくて、本人は不幸な身の上なのに赤の他人に……。


「……優しすぎ、です」


 ハヅキは頭を撫でながら、ふと変なことを思いつく。


 もしレアンを独占したらどうなるだろう。


 毎日おもしろい反応を見せてくれるだろうか。


 ずっとそんなことしても嫌がりはしないだろうか。


「……サツキが怒るかも」


 今日のハヅキは頭がボーッとしているせいか変なことばかり考えてしまう。


 もう一度可愛い寝顔の少年の髪の毛をくしゃくしゃっと撫でて、再び眠りについた。





(続)

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