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第七話 シーン十三【故郷チェリーセ】

第七話 シーン十三【故郷チェリーセ】





(レアン・サイド)





 シズカや村人だった雪のオオカミたちを天国に送ったあと、それまで激しく吹き荒れていた雪は収まった。


 冬の雲が割れて所々晴れ間が覗いて、暖かな陽の光が一行を照らす。


 レアンたちは村長に報告するため、一度ラパン村へ戻った。


「おお……そうか。村のものは全員天へ還っていったのか。ありがとう……サツキ・ハヅキ・キョーコ。それに冒険者のみなさん……これでわしの役目も終わらせられる」


 事の顛末を報告すると、村長は泣きながらお礼を言い憑き物が落ちた顔をする。


 レアンは自分の故郷チェリーセで暮らすよう提案したが、村長は首を横に振る。


「ここにはみなの魂が還ってくるんじゃ。それにわしはこの村が好きじゃからの」


 穏やかな顔の村長にそれ以上何も言えず、みんなで挨拶をしてラパン村をあとにした。


「屋敷に帰ったら、ラパン村に支援の物資を送るように手配します」


 レアンの提案に母娘は喜んでくれ、あとは故郷を目指すために馬車を走らせるだけだ。





 ラパン村からチェリーセまでは馬車で一六日ほどだが、雪も殆ど降らず順調に旅を進めていく。


 キョーコは本調子ではないみたいなので、仲間全員でフォローしてなるべく休んでもらう。


 そして、残り三日までの距離に近づいてきた時に、サツキが御者台で手綱を持ちながら話し始めた。


「レアンと出会って何ヶ月経つのかな……八ヶ月?九?だいぶ長い間一緒にいる気がするね」


 サツキにそんな話を出されて、レアンは荷馬車から隣に乗り換える。


「はい、ものすごく長くいた気がします。それだけみなさんとは色んなことがありましたから」


 隣りに座ってサツキの顔を見ると、寂しげな表情を見て察してしまう。


 故郷チェリーセに到着すれば、この旅が終わってしまうことがわかっているからだ。


「……冒険者は出会いと別れ、繰り返して大きくなっていくもの、です。……サツキはもっと大きくなぁれ」


 後ろにいるハヅキがらしくないことを言いかけて、最後は茶化した。


「……うん。サツキだって十八だから分かってるよ。……それこそ赤ちゃんの頃にレアンの故郷にある北の大聖堂に五歳まで預けられて、そのあとラパン村で五年間。それからは中央大陸の色んなところを旅したよね。だから、いろんな出会いがあったよ!」


 サツキがから元気を見せると、シュウメイが顔をのぞかせる。


「ウチは親父と死に別れてちっちゃい頃からひとりで暮らしてきたからな!こうやって何ヶ月も一緒に冒険するなんて初めてだぞ!……なんか、冒険の仲間というより家族みたいだなって……家族いたこと無いから知らんが!ふはははは!」


 レアンもここ一年は波乱万丈だが、シュウメイは想像を絶する過酷な人生を送っている。


 ただ彼女の言う通り、母娘を中心とした家族のような存在だったことは間違いない。


「……家族か……さもありなん。変に気を使わずとも良い、不思議な『えにし』の仲間だな」


 ミヤコも同意して美しく微笑むと、ミンクゥはあくび混じりの声を上げる。


「……ふぁ……ふあぁ。……出会いはきっと意味があるものじゃ。正直しんみりするのは似合わんぞ、お主たち」


 指摘されてみんなから笑いが漏れ、それにキョーコが付け加える。


「うん、ミンクゥパパのいう通り♪残りの時間も楽しんでいかなきゃ♪あ……このあたりも春の息吹が感じられるわね♪ほら、あそことか」


 馬車から顔を出したキョーコが指をさすと、雪がなくなった地面から新芽が顔をのぞかせてレアンたちは歓声を上げる。


 冬は寒くなるここ大陸北西部のリーセ領も、四季がきちんとしているので春は暖かい風が南西から流れてくる。


 いつの間にかもう三月になっていた。


 雪解けは近い。





 そして三日後、リーセ領の首都チェリーセの東門が見え始めた。


「あ!レアン!街が見え始めたよ!」


「はい!あ……あれはチェリーセの街です!」


 太陽が真上に登りきる前に、街の姿が見えてくる。


 華美ではない堅実なデザインの建物が多く、豊かな自然と調和するのはリーセ公国時代からの長い伝統だ。


 ぶどうの木々がたくさん並ぶ道を抜けて馬車を走らせると、大きな門が見え始めた。


 感慨深く街を遠くから見ていたが、ただひとつ町のほど近い位置に各地方の傭兵らしき集団が野宿をする姿が目についた。


「なんだ、ガラの悪い連中がいるな。いつもこんな感じか?お前」


 シュウメイに尋ねられて、レアンはあいまいに笑って「珍しいかもです」と答える。


「……帰ってきたわね、レアンくん。あなたの故郷よ」


 そこに最近体調が良くなったキョーコがやってきて、隣に座ると軽く抱きしめて頭をなでてくる。


「は、はい……。あの、みんな見てますから、恥ずかしいです……あ、いえ。なんでもないです」


 放っておくとずっと頭を撫でてそうなキョーコを上目遣いで見上げると、彼女は慈愛に満ちた母のような目をしていた。


「あー!ちょっと、レアン独占禁止!サツキも撫でるー!」


「……じゃあ、私は膝の上に乗せる、です。それで、後ろからムギュってする」


 するといつものように、娘たちが空いている隙間に入って体を押し付けてきて賑やかになる。


『いつもレアンはこのように愛されてますのね。それでこそ、私が好きになったレアンですわ』


 ペンダントからリーナの声も聞こえていよいよ収集がつかなくなって、レアンは苦笑するしかなかった。





 奴隷市場で偶然キョーコに買い取られて、イマイ家の母娘と暮らすようになったレアン。


 思い返せば様々なことを経験してこのチェリーセの街まで戻ってこれたことに、神や仲間たちに感謝する。


「ああ……ようやく帰ってこれたんだ」 


 レアンは段々と近づいてくる故郷の街を見ながら、ひとつの冒険の終わりを噛み締めていた。





(終)


これでレアンの冒険は終了になります。

読んでいただきありがとうございました!

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