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第七話 シーン九【氷の祭壇】

第七話 シーン九【氷の祭壇】





 ラパンの村を出発して北へ半日、レアンの傷を治すべく竜脈の祭壇に向かう。


 時間は夕方になっていたが、祭壇の中のほうが野営もやりやすいだろうということで最深部を目指すことになった。


「……レアン殿、体の方は問題ないか?」


「はい……ミヤコさん!みなさんが近くにいてくれるだけで、平気です!」


 ミヤコが寄り添うように歩き心配をしてくれるが、まったく昼間は奴隷時代の悪夢を見ることはない。


「お前!悪くなったら遠慮なくいえ!ひきずってでも連れて行くからな!」


「ひゃい!大丈夫です!ありがとうございますシュウメイさん」


 シュウメイも顔を数センチまで近づけてすごみをきかせるが、彼女は荒っぽいが優しい性格だとわかっている。


 それに夜も寒さでパーティーのみんなが体を寄せて寝る事が多いので、最近は夜も安心して眠れている。

 

 数ヶ月の冒険を経て、冒険者の仲間を超えた存在になっていることが心の支えになっているのが実感できたのだ。


「すごいきれいな氷のダンジョンみたいだけど、意外と寒くはないんだね!」


「……床や壁を触る感じ氷の見た目というだけで、氷そのものではないみたい、です」


 サツキとハヅキが先頭に立って歩いていき、着実に下層に降りていく。


 やがて下に降りる階段が終わり、道幅が広くなって奥へ続く造りはある程度どの祭壇も似たようなものらしい。


「どうやら最深部みたいね」


 キョーコがカタナに手を伸ばしながら前に出て、慎重に辺りを見回した。


 するとドラゴンの彫像の後ろから双子の幼い少女が現われ、ほぼ同時に声を発する。


「あなたは」「あなたは」


「いかずちのみこさま」「いかずちのみこさま」


「ほんじつは」「ほんじつは」


「なにようで」「なにようで」


「ございましょうか」「ございましょうか」


 向き合うのは当然ながら雷の神竜の子ども、ミンクゥだ。


 ミンクゥは幼い姿ながら、威厳のある声でいう。


「ふたりともご苦労。率直に言う。わしは祭壇の力を使いたい。すぐに用意できるか?」


 すると祭壇の守護者は、お互いの顔を見合わせてから向き直り首を横に振った。


「なりませぬ」「なりませぬ」


「しれんにうちかったもののみが」「しれんにうちかったもののみが」


「りゅうみゃくのちからを」「りゅうみゃくのちからを」


「おつかいいただけます」「おつかいいただけます」


 そこは決まり事があるのか同じように反応する少女らに、ミンクゥはキョーコを指差す。


「悪いことは言わぬ。手加減ができないやもしれぬから、素直に降参するが良い」


「……竜気功、発動。急いでいるの♪免除してくれると助かるわ♪」


 前に出たキョーコは赤い竜の気をまとい、伝説のカタナを抜いた。


「あなたさまは……」「あなたさまは……」


 すると困ったように守護者が顔を見合わせて、キョーコとカタナを交互に見て頷く。


「……ひとのみちをはずれしもの」「……ひとのみちをはずれしもの」


「しょうちしました」「しょうちしました」


 すぐに左右に引いて道を譲ってくれる。


「あら♪物わかりが良くて助かるわ♪じゃあ、行きましょうレアンくん」


「は、はい……」


 レアンは少女たちの言葉が気になったが、戦闘を避けられるならそれに越したことはない。


 祭壇に上がって古代の装置の中に入ると、意外なことに冷たくなくて程よい暖かさだ。


 寝る位置を決めて横になる直前に、竜の巫女であるミンクゥが薄着一枚になって祭壇のそばで準備をしているのが見えた。


「準備はできたかの?では参るぞ!『我は竜の巫女ミンクゥ。竜脈の力よ今ここに集え。傷を受けし彼を災厄から解き放ち給え……!』」


 威厳のある声でミンクゥが舞を始めたのだろう、祭壇の力が上方に集中し始める。


 やがてレアンのいる古代装置に流れを変えると、体中に力が流れ込んできて体が大きく跳ねる。


「うっ!……うああああっ!ああああああああっ!」


 続いて体中に激痛が走り、声を押し殺す余裕さえなく痛みを叫んだ。


「……っ!レアン!」


「……だめ、です。触ることはできないから、見届ける」


 サツキとハヅキの声がしたが、そちらに構う余裕はない。


 全身を駆け巡る痛みと熱、それに皮膚の表面を走る得体の知れないしびれで意識が遠のきそうなる。


「うぐっ!……ううううっ!うううううううっ!」


 それを歯を食いしばって乗り切り、15分もしないうちに苦痛の時間は終わる。 


「……はっ!……はっ!はっ!はっ!」


 肺に溜まった熱を吐き出して空気を吸おうと口を大きく開けると、キョーコが近づいてきていきなり唇を合わせてくる。


「んっ⁉んっ……んんっ……ごくっ」


「……ぷはっ!よく効く気付け薬よ。少しは楽になると思うわ」


「はっ……はっ……はっ……はい……はあっ……はあっ……」


「……大丈夫のようね、レアンくん」


 キョーコとの唇でのキスは初めてだったが、とても柔らかくて苦い薬の味だった。


「……大丈夫か?レアン殿」


「お前!生きているか⁉」


 ミヤコとシュウメイや姉妹も近づいてきて、全員が装置の周りを囲んだ。


「良かったー!レアン!苦しんでいる顔を見るの辛くて、見ていられなかったよ!」


「……サツキや私よりかは短くて済んだよう、です。頑張った、レアン」


 最後にミンクゥが全身汗だくの体を拭きながら、ぴょこんと装置の脇に立つ。


「……体の傷はどうじゃ?娘たちと比べると浅い外傷のみなので、一応確認したほうがいいいぞ」


「は、はい……見てみます。……あ」


 レアンが服を脱いで確認すると、虐待の傷は跡形もなく消えていた。


 色白で女の子みたいな白い肌を見て、忌まわしい呪いから解放されたと認識でき涙が自然とあふれてくる。


「……大丈夫みたいです。本当に、本当にみなさんのおかげです。ありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいのか……」


 体を起こしてお礼を言うレアンに、みんなは笑顔や泣き顔で応えて幸せな時間が流れた。


「……あとは故郷に帰れば任務完了ね♪じゃあ、今日はこの祭壇の入口まで戻って、そこで野営しましょうか。ミヤコさん、レアンくんをお願いできる?」


 キョーコは全員の様子を見届けたあと、レアンの体を軽々と抱えてミヤコに預ける。


「……承知した。では参ろうか」


 レアンはミヤコの首にしがみついて、竜脈の祭壇から脱出した。


 姉妹に比べると意識もあって軽症らしく、1時間ほど経ち入り口近くにたどり着く頃には自分の足で歩けるほどに回復した。


特にミンクゥの癒やしの力を使わずに問題ないようだが、念のためその日は食事を取って早めに休んだ。


 夜に悪夢でうなされることもなかった。





 祭壇入り口で野営をして翌日、天気も良く一行はレアンの故郷へと馬車を走らせた。


 リーセ領チェリーセの街まで約八〇〇キロ、通常なら一六日だが天候が悪ければ二〇日はかかりそうだ。


 しかし着実に故郷は近づき、旅は終わりを迎えようとしていた。





(終)

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