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第七話 シーン六【城塞都市テロン】

第七話 シーン六【城塞都市テロン】





(レアン・サイド)





 レアンたち一行は王都フェイルナールから出発して一三日目の昼、四方を高い壁に囲まれた城塞都市テロンに到着した。


 テロンは中央大陸でも屈指の防衛力を誇り、それは北の三〇〇キロにある北方連合との小競り合いや、一〇〇年以上昔にレアンの故郷リーセ公国時代との戦いが起こったことに起因する。


「ここに来るのは三年ぶりです。何度見てもすごいですね」


 レアンが馬車から外を見ると、ちょうど巨大な壁に造られた南門を超えて町中に入るタイミングだった。


 王都にも負けない堅牢な構造に、ミヤコとシュウメイもしばらく見入っているようだ。


「……俺は城塞都市テロンは初になる。噂に聞こえし『不屈の要塞』はこれほどだとは」


「ここはでかいな!これだけ壁が厚いとさすがに人間の力では破壊できんな!……試してみるか?」


「あはは……」


 ひとり物騒な発言があったがあいまいに笑って、町中に視線を移す。


 ここは王都ほど暗く沈んだ雰囲気はなく、いつもの日常を過ごそうとする人々がいた。


 町の雰囲気としては統治者に似て、静かに堅実に生きることがテロンの美徳だ。


「予想より寒かったから、先に雑貨屋に行きましょうか♪」


 御者台に座るキョーコが宣言してゆっくり奥へ馬車を進ませると、店が立ち並ぶ広場に到着してそこの外れに停める。


 そこから七人で歩いて服や寝具などを扱う雑貨屋に入る。


「わー!すっごいたくさん毛皮のものばっかりあるよ!」


 最初にサツキが声を上げて、入口からずらっと並ぶ毛皮製品を見て回る。


「さすが寒い土地だけあって、よりどりみどりじゃの♪どれ?レアンよ、わしに似合うのはどれじゃと思うかの?♪」


 ミンクゥに袖を引かれて、期待するように上目遣いに見られる。


 レアンは自分で服を選んだことがなくあわててラインナップを見るが、どれも似たように見えた。


「えっと、えーっと……こ、これなんかどうでしょう?」


 しばらく探して目についた毛糸の帽子を手にとって、ミンクゥの頭に乗せる。


 横と後ろまで伸びた毛皮を垂らしてあごひもで結ぶと、見た目は八歳の愛らしいもこもこ少女が出来上がった。


「……パパなかなか……似合ってる、です。もふもふドラゴン」


「おお……そうかの♪レアン、感謝じゃ♪」


 ハヅキにも好感触のようで、嬉しそうなミンクゥが感触を確かめてから店員の男に「これは抑えておいて」と差し出す。


「じゃあ、各自自分に合いそうなものを買っておいてね。お金は出すから♪……ところで、店主。ここには常熱のとこねつのたまとか扱っているのかしら?」


 みんなでわいわい買い物をする中キョーコが話を切り出すと、店主の男が渋い顔をする。


「実はな、貴重だがわずかながら手に入れはしたんだ。ここ二、三年は本当に寒くてみんな手放さなくてな。なにせ相場の四倍で置いても売れるんだもんだからな」


「四倍でどのくらいなの?」


 即座にキョーコが聞き返すと、店主が両手の指で合わせて「八」を形作る。


「え⁉金貨八枚⁉やばくない⁉そんな高いものなの?ママ」


「……常熱の玉は、暖炉の前で毛布をまとうくらい暖かくなる魔法の品、です。お金持ちじゃないと持ってないかも」


 サツキが価格に驚いて、ハヅキが説明してくれる。


 レアンは「そうなんですね」と相場がわからず首を傾げると、キョーコが両手を広げて店主に見せた。


「在庫あるなら金貨一〇枚で買うわ。いくつあるの?」


「ひとつだけならあるよ。……本当に買うのかい?」


 店主が奥から鉄の箱に入ったおにぎりサイズの石を見せると、キョーコは迷わず金貨をカウンターに乗せる。


「適正な値段なら出すわ。その代わり、他の毛布とか服は勉強してね♪」


「まいど!いいよ、好きなの持っていきな」


 交渉は成立して、キョーコは受け取ってレアンに手渡してくる。


 レアンは大事に受け取って両手に抱えると、小さな太陽のように光るガラス玉からじわっと暖かさが広がっていった。


「うわぁ……暖かいです!シュウメイさん、持ってみます?」


「ほう!暖かい……というか熱いくらいだ!これがあれば北方連合でも凍えなくて済んだのだのにな」


 シュウメイは箱から出して玉を胸の上に乗せると、うまく谷間に収まる。


「……それは下手に落としたら割れてしまうから、気をつけられよ」


 横からミヤコが注意すると、シュウメイはひょいと鉄の箱に戻して、無造作にレアンに返した。


「わっ……とと。じゃあ、買い物続けましょうか?」


 そうしてレアンたちパーティーは、全て込み金貨一〇枚で大量の毛布と防寒着を買い込んだ。





 次に一行が向かったのは、冒険者ギルドだった。


 そこで見知ったギルドマスターの親父が、カタルス・イグスに続く名物の六つ子で、何故か安心する。


「おう!よく来たな!冒険者ギルドはいつでも歓迎するぜ。……随分大所帯で華やかなパーティーじゃねえか!」


 兄弟揃ってしゃべり方まで似ているのは不思議だったが、レアンは妙に安心できた。


 そこでミンクゥがちょこちょこと前に出ると、毛皮の帽子の姿で得意げに胸を張る。


「そうじゃろそうじゃろ♪おぬしも中々見る目があるの♪……ところで聞くがの、ここに来るのははじめてなんじゃ。いつもこんなに寒いものなんかの?」


 次に大げさに自分の体を抱くようにすると、ギルドの親父は少し考えてからこう説明した。


「……まぁここテロンのことは知ってるかもしれんが、北方連合も近く元々寒い土地ではある。しかし、ここ数年は特に寒くなったんだ。西の土地に『白き森の神』が現れてな」


「森の神様ですか?」


 レアンが聞き返すと、親父は神妙に頷く。


「そうだ。……見たやつの話ではそいつらは白い狼で、吹雪を操る氷の精霊フェンリルの化身だという話だ。出会うとこう尋ねてくるらしい『汝は我にぬくもりを与えしものか?』と。そして旅人が『違う』と答えると、『ならば早々に立ち去るがいい』といわれ吹雪に飲まれもと来た道の方に戻されるらしい」


 気候が変わったという理由が、精霊が現れたからという内容に一同が驚く。


「西の方角だよね?このあたりにはほとんど町とかないはずだけど、どのあたりにあるの?マスター」


 サツキが尋ねると親父は地図を取り出して、指で指し示すとハヅキがすぐに反応する。


「……そこはラパン村のあたりでは?」


「……ああ、そういうことになるな。去年は村の東、一昨年は村の西……みたいな感じで移動しているように見えるんだ」


 マスターの言葉をまとめると、レアンの故郷への道に出現する可能性があることだけはわかる。


「困ったわね。ここから南に戻って西回りだと、相当な時間のロスになるわ。……いえ、竜脈の祭壇にはいかないといけないから……通らないといけないわね」


 キョーコが地図をなぞりながら、口の中でつぶやく。


「サツキは早くレアンを祭壇に連れて行ってあげたい。だからこのまま行こう!」


 そんな迷いを打ち払うように、サツキは強くいった。


 全員がその言葉に頷いて、レアンが「ありがとうございます」と頭を下げる。


「お、そうかい。急ぐ理由があるならもちろん止めはしない。気をつけて行くんだぞ、お前たち」


 事情を察したのかギルドマスターは真剣な表情をして、そして口元を緩めてレアンたちを見送った。





 その後食料などを買い旅の補給を済ませ停めていた馬車に荷物を運び込んでいると、町の住人達がざわめき始めた。


 何事かと思って大通りを見ていると、人混みが割れるように道を譲りだす。


「え?何かありましたか?」


 レアンが近くにいた老夫婦に聞くと「将軍様がお越しになったんだよ」と教えてくれる。


「将軍様だと⁉随分強そうな名前だな!」


 シュウメイが姿を見ようと道の真ん中に出るのを、追いかけるように姉妹が動く。


「こらっ⁉シュウメイあんまり勝手に動かないでね!」


「……この町の有名人?」


 レアンも慌てて後を追うと、漆黒の巨大な軍馬に乗る人物がお供を三人連れてこちらへ来ていた。


 その男は年齢は六十を超えているが二メートルある鍛え抜かれた体を持ち、衰えない眼光の持ち主だ。


 全身から気を放つような圧倒的な存在感に、物怖じしないシュウメイさえ馬車のある道の端へ避けてしまう。


 町の人々が「将軍様……!」「マキシミリアン閣下!」と声を上げている中、馬上の男は特に反応せずに悠然と通り過ぎていく。


「なんだアイツは……あんなの反則だろう……」


 シュウメイが小声でいい身構えていると、将軍らしき人物一行がパーティーの前をゆっくりと通り過ぎようとする。


 レアンは念の為フードを深くかぶり見守っていると、ちょうどパーティーの前で急に将軍が馬を止めた。


「え?な、何……?」


「……サツキ静かに」


 姉妹が動揺する中、町の人だけでなく付き人さえ「どうされました?」と驚いているようだ。


「お前たち只者ではないな?……何者だ?」


 将軍マキシミリアンはレアンたち全員を見渡すと、深く響く声で尋ねてきた。


 下手なことはいえないとみんなが黙っていると、キョーコが一歩前に出る。


「迷子の少年とその仲間たちですよ♪将軍様」


 キョーコと将軍の視線が合ってしばし見つめ合う。


 ほんの一〇秒ほどだったが、あの鋭い眼光を受け止めきれる人物は他にミヤコかミンクゥくらいだろう。


「……そうか。おい」


 そして将軍は付き人を呼んで何事か耳元で話していたが、不意にレアンに視線が移った。


「……っ!」


 レアンはフードをかぶって顔は全く見えないはずだが、見透かされている気がしてフードを深くかぶり直す。


「……失礼したな。では」


 そして将軍はそのまま去っていき、レアンたちが残された。


 町の人達みんなの視線が注がれる中ようやく安堵の息を吐くと、付き人のひとりが戻ってきて馬を降り手紙をレアンに渡してくる。


「すみません。マキシミリアン将軍からのことづてです」


「……はい?」


 レアンが受け取り手紙を開くと、簡潔に『もし時間が許されるのであれば、話がしたい』と書かれてあった。


「これは一体……どうすれば」


 レアンが真意を測りかねると、ミンクゥが横から覗き込んでくる。


「どれどれ……。ふむ!レアンが受けるかは任せるぞ……とキョーコもいうだろうて」


「えっと、それは確かに。……わかりました。構いませんよね?それではお伝え下さい。お受けしますと」


 将軍の付き人に伝えるとすぐに去っていき、レアンはパーティーのみんなに事情を話すことにした。




 

(続)


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