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第六話 シーン十【エルフと王女】

第六話 シーン十【エルフと王女】





 西区角で天馬騎士シャニィと再会したレアン一行は、レスティアーナ王女のいる東区角に同行した。


 距離的には中央にある王宮広場を通ると早いが、レアンたちを知る兵士に見つかる危険性が高いので南区画を通っていく。


 南区角は混沌の属性の住居エリアで奇抜な格好をしている住人が多く、遠巻きに監視されているようで居心地が悪い。


 ただフェルナ王宮の騎士とわかるシャニィに、ちょっかいを掛けてくるものはいない。


「……ここも以前の王都らしくないわね。まるで南方の下町みたいな雰囲気だわ」


「そうですねぇ。まぁそれほど大きな犯罪は起きていませんからぁ、大丈夫ですよぉ」


 キョーコがボソッと漏らすと、シャニィがニコッと受け流す。


「……そういえば、母さんが王都に来るの嫌がっていたのは、有名人だったせい?」


 ハヅキが尋ねると、キョーコは苦い顔をする。


「……正解よ。噂を聞きつけた腕自慢からよく絡まれて、喧嘩になってね。だから足が遠のいたのよ」


「……はたして数秒で相手を戦闘不能にするのは、喧嘩と呼べるのかのう」


 ミンクゥがそこでジト目をして、キョーコは「ん〜?うふふ♪」ととぼける。


「らおしーとウチはそんな所まで似てるのだな!すごく嬉しいぞ!」


 シュウメイはエピソードに共感していたようだが、そんな彼女の頭をキョーコが撫でる。


「……でもね、ひとりで頑張って生きるのも格好いいけど、人に頼って頼られて生きるのもいいものよ♪」


「うん……そうだな」


 シュウメイは飼い猫みたいに目を細めてされるがままになり、凶暴さは影を潜める。


 そういった話をしていると、いつの間にか南区角を通り抜けて東区角へ入った。


 東区角は主にエルフが住む場所で、いたるところにある水路と植林され手入れの行き届いた公園が美しいエリアだ。


 店としては食材や薬草や服飾関連の店が多く、飲食店はあるがアルコールの提供は禁止されて客層をわけているようだ。


「わぁ……うん!こういうの!こういう場所が憧れだったんだ!あのエルフさんたちキレイ……☆」


 サツキは美しい街並みにはしゃいで、公園でくつろぐエルフの少女三人を見てうっとりする。


「……絵になる光景、です。それに食べ物屋さんもおしゃれなものが多いかも」


 ハヅキが通りの店に目をやりながら、さっそく気になる店を見つけたようだ。


「……あ。着きましたぁ!入ってもらっていいか、聞いてきますねぇ」


 そして一行は住居エリアにたどり着くと、二階建ての家の前で一度振り返る。


「はい!お願いします!」


 サツキが元気よく返事して、シャニィは笑顔で中に入っていく。


「すごく珍しい家ですねー。二階からおりられる、ツルツルの坂みたいなものがありますよー!」


 石を中心に造られた見事な螺旋状の滑り落ちる坂は、人ひとりが入る幅で半円にくり抜かれていて大理石のように磨かれていた。


 レアン的に少年心をくすぐられる構造で、前後左右から観察する。


「……レアン殿、上だ」


「はい?」


 急にミヤコにいわれて上を向くと、二階のベランダから人影がひとつ坂に飛び乗った。


 そのままなぜか膝を抱えたポーズで螺旋を描いて滑りおりてくる。


「わ……人が!」


 レアンは滑る楽しそうな姿に見とれていて慌てて坂の出口から後ろに下がると、たまたま通りかかった通行人にぶつかってしまう。


「ごめんなさい!」


「おっと、こっちこそごめん!」


 レアンは通行人に振り向いて謝ったその瞬間、後ろ頭にやわらかい衝撃が襲う。


「……あう!」


「……ん。大丈夫?」


 押される形になって前に倒れそうになったところを、後ろから軽く抱き寄せられて事なきを得る。


 振り向くと、背の高いエルフの女性が立っていた。


 エルフの中でもとびきりの美人だが無表情で、黄金の糸で編んだような美しい髪に目が吸い寄せられる。


「……ごめんなさい。こんな所に立ってしまって」


「いや。それより胸部が当たった後ろ頭見せて。……よかった。チーズみたいな穴になっていない」


 後ろに回ったエルフはレアンの後頭部を触って確認していたが、そのままずっと頭を撫で続ける。


 どうもさきほど当たったやわらかい感触は、エルフの立派なものらしい。


「あの……もう大丈夫ですから。頭、もう、平気です」


 わかってしまうと恥ずかしくなって、しかも超がつくほど美人に撫でられてどんな顔をしていいかわからない。


「……マル、何してるの。レアンくんのこと気に入った?」


 そこにキョーコの助けが入り、ようやく解放されると思ったが今度はエルフに抱きしめられて撫でられた。


「ああ、これは素晴らしい撫で心地だ。もし中央大陸撫でておくべき頭コンテストがあれば、間違いなく優勝候補……。ところで来客と聞いておりてきたが、メガネを忘れてよく見えない。しかし声は聞いたことがある。これは少し前に聞いた友の声……ひょっとしてアカネか?」


 無表情でスタイル抜群のエルフは、ようやくレアンから離れてキョーコに近づいて目を細める。


 よほど目が悪いのか鼻が当たりそうなほど顔を近づけると、キョーコは自然に顔を寄せてエルフの唇にキスをした。


「……驚いた。あの無愛想がかろうじて服を着てるアカネがキスなんて」


 レアンから見て表情の変化はほとんどない。


 そこでなぜかハヅキがツボに入ったようで、下を向いて笑いはじめる。


「……かろうじて服着てる。フフ……フフフ」


 そのまま体を折って笑うハヅキに、サツキが「お姉ちゃん……」と苦笑する。


 そしてキョーコの方はというと、頭を振ってこめかみを押さえる。


「……あの当時みんながどう思っていたか、あらためて思い知らされたわ。お久しぶりね♪マルは前から目悪かったかしら?」


「いや、本来なら古代エルフだから目はいい。あの戦いのあとだんだん見えなくなってな。目が悪いものは森では暮らせないから、エリックの計らいでここに引っ越してきたのだ」


 どうやらふたりは知り合いのようで、距離感からある程度親しい間柄なのはわかる。


「あ、ここにいました!マルさぁん……その方たちですよぉ!」


 そこでシャニィが一階の玄関から出てきて手を振り、マルはそちらを一瞬見てこういった。


「ここではなんだから入れば?」





 マルというエルフの招待にありがたく家に入ると、大部屋の所にレスティアーナ王女と天馬騎士団長フェリエが座っていた。


「お久しぶりです。お元気でしたか?また会えて嬉しいです」


「こんにちは。王都で会うとは運命めいたものを感じます」


 レティとフェリエは立ち上がり会釈をして、再会を喜ぶ。


「あの……うん。よかった。元気みたいで」


 サツキは王女ことレティの前に立って、何かいいたそうにモジモジしていた。


「どうしたの?サツキ。こんなに早いと思わなかった?……わたくしは近いうちに会えると思っていたんだから」


 レティはいたずらっぽく笑うと、ごく自然にサツキを抱きしめる。


「あ……うん!嬉しい!」


 サツキもギュッと抱きしめてから、少しして離れて見つめ合う。


「……ふたりはラブラブ、です。……レアンは余っているからもらいます」


「うわわ……!」


 ハヅキはいいながらレアンを後ろから強く抱きしめて、ぽよぽよの体を押し付けてきた。


「もう何やってるの、ハヅキちゃん。お久しぶりです、王女様たちは王都へよく無事に入れましたね」


 次にキョーコが呆れながら話をふると、騎士団長のフェリエが答える。


「南東や北西の入口は天馬騎士団およびレティ王女の味方です。キョーコさんこそ珍しいですね。カタナを持ち歩かれるなんて」


「ええ。そのあたりも含めていろいろお話しないとですね。マル、ひとまず座ってもいいのかしら?」


「椅子が足らないかもしれないが、好きな所で構わない」


 キョーコがエルフに聞くと、彼女はどうぞと誘導する。 


 大所帯になった部屋はぎゅうぎゅう詰めだったが、思い思いの所で落ち着くとまずエルフの女性が話しはじめた。


「マルウィアルだ。趣味は他人の耳裏を嗅ぐことだ。よろしく」


 変な自己紹介にリアクションに困っていると、ハヅキが「耳の裏……フフ」とツボに入って笑い出す。


「レアンのはすごくいい匂いだよ☆」


「そうか、のちほど試したい」


 サツキにオススメされてレアンから「ふええ」と変な声が出る。


「じゃあ、こちらのパーティーから紹介するね。こっちの少年がレアンくん。エリックとオリアーナの息子よ。それでこのふたりが私の娘のサツキとハヅキ」


 人数が多くて誰が話し出すか様子をうかがっていたが、キョーコが空気を読んで全員の紹介をはじめる。


 レアンと姉妹が笑顔で頭を下げる。


「こちらの東方のサムライがミヤコさん。こちらの台国の格闘家がシュウメイ。私の弟子よ」


「……よろしく頼む」


「シュウメイだ!らおしーの一番弟子とはウチのことだ!」


 ミヤコは頭を下げただけだったが、シュウメイはずっと黙っているのが我慢できなかったのか大声を上げて立ち上がった。


 キョーコがそんな彼女を座らせて、頭を撫でる。


 次に後ろからちょこちょこと出てきた褐色の少女は、見た目にそぐわぬ貫禄で挨拶をする。


「わしはミンクゥ。竜の巫女と呼ばれておる。エリックやマルやアカネ……今はキョーコと名乗っておるニンジャの小娘と神竜戦争を戦った仲間じゃ」


 すると王女一行の顔色が変わり、三人が立ち上がる。


「あなたが神竜の血を継ぐ方ですか……父から聞き及んでおります。わたくしはエリックの娘レスティアーナです。そしてキョーコさんは思っていたとおり、八英雄でしたのね」


「これは偉大な方々を前にご無礼を。天馬騎士フェリエと申します。なんということだ。ここに八英雄が三人もいらっしゃるとは」


 レティとフェリエが興奮気味にいうと、シャニィが「ぶええ……しゅごいですぅ!あ、シャニィですぅ」と自己紹介をする。


「三人といいますと、マルウィアルさんもやはり?」


 レアンが美人エルフに聞くと、彼女は無表情のまま頷く。


「ああそうだ。しかし、ミンクゥはどこにいたんだ?背が小さくて全然見えなかったぞ」


「最初からいたわ!背が高くて胸がでかいから下が見えないって、出会った時からいわれていたことを思い出したぞ!」


 ミンクゥは途端に子どもっぽくなって、エルフの娘に噛みつきそうになる。


 しかしマルはそこで難しい顔をして考えはじめた。


「マルウィアルさん、どうされましたか?」


「……ん。いや、ふとサンドウォームの触手の数について考えていた。今度わざと捕まって数えてみるか検討しないと」


 尋ねるとエルフはそう答えたので、レアンはわけがわからずに口を開けポカンとする。


 ちなみにサンドウォームとは砂漠に住む巨大芋虫のことだ。


「……エルフと触手……フフ。……捗る、です。やっぱり八英雄はみんな変た……フフフ」


 ハヅキは何かいいかけて、途中から顔を赤くして下を向いて小刻みに震える。


「いきなりお邪魔しちゃいましたけど、レティ王女たちは約束か何かですか?」


 レアンが気を取り直して聞くと、レティが壁にある古代文明の時計を見てハッとする。


「いけない!もう待ち合わせの時間ね。この家にもうすぐお客さんが来るの」


「あ、ごめんね。サツキがどうしてもって、シャニィさんに無理いって連れてきてもらったんだ」


 サツキが謝ると、レティは笑って首を横に振る。


「そんなことないよ!会えて嬉しかった!」


 ふたりは立ち上がってハグをして、温もりを確かめ合った。


「これからお越しになるのは、私たちがお世話になっているアウレー商会の方です。今後のことについて話がしたいとのことでしたので」


 フェリエが隠さず説明したのは、伝えておいたほうがいいと判断したからだろう。


「……え?」


 だが、その商会の名前にレアンの顔から笑顔が消える。


 忘れようと記憶の隅へ閉じ込めていた記憶が開きかけ、吐き気を催してくる。


「……レアンくんどうしたの?顔真っ青だよ」


 キョーコがすぐに気づいたが、レアンは無理に笑顔を作って返す。


「……何のことですか?大丈夫です。来客があるならすぐに出ましょう」


 たまたま偶然だ。


 商会といっても商人はひとりではないと自分にいい聞かせる。


「お邪魔しました、お元気で。みなさんに幸運のあらんことを」


 レアンは全員に向かって頭を下げ最初に部屋を出ると、顔を見られないように外に出てフードを深く被った。





(続)

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