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第五話 シーン二【キョーコの意地悪】

第五話 シーン二【キョーコの意地悪】





(レアン・サイド)





「おはようございます、ハヅキさん」


「……おはよう、レアン。起きてすぐ悪いけど、傷が開いたから治療してもらえる?」


 レアンは目覚めた朝にハヅキに治療を頼まれた。


「はい!わかりました」


 必要とされることが嬉しくてすぐに神の奇跡を行い、ハヅキの傷は一時的に消えてなくなる。


「……ありがとう、レアン」


「お役に立ててよかったです。夜中でも必要でしたら起こしてくださいね」


 以前キョーコから呪いの一種と聞いていたが、本人たちには内緒にするようにいわれている。


 レアンはあまり意識しないようにして、普段どおりに振る舞う。


 その後朝食を取り移動開始したものの、昼過ぎから雨が降ってきて近くの洞窟に避難した。


 そのまま結局夕方まで降り続いたので、そこで一夜を明かすことになる。


「雨やまないね……無理して走らせるのは危ないから仕方ないかなぁ」


「そうですね。早く晴れて少しでも道が乾いてくれればいいのですが」


 洞窟から外を見るサツキの隣にレアンが立って相槌を打つ。


 馬車に限らず旅の最大の敵は天候だ。


 ここは主要道として整備されていて雨でもある程度は移動できるのだが、地面が完全にぬかるんでくると馬車の車輪がハマって抜け出せなくなることもある。


 ここからレアンの故郷まではまだ二五〇〇キロ以上あるので、引く馬や馬車のためにも安全策を取らなければならない。


 その日は早めに寝て翌日早起きすると晴れ間が広がっていたので、日が昇る頃には出発した。


 翌日は順調に進んでいつもより多く距離を走ると、夕方前に野営の準備を開始した。


「今日の寝床の確保はシュウメイちゃんとミヤコさん、食事はサツキが準備お願いね。ハヅキは休んでて。私はちょっとレアンくんと用事があるので席を外すわ」


 パーティーのリーダーであるキョーコが指示すると「わかったぞ!らおしー!」「……承知した」「りょーかい!」などと返ってくる。


「えっと、ボクは何を……」


 レアンは仕事が与えられなくて不思議に思っていると、キョーコが耳元で「あなたしか出来ないことよ♪」と艶っぽく囁かれて顔が赤くする。


「さあ、行きましょう」


「は、はい……!」


 キョーコとふたりで野営地から一〇分以上歩いただろうか。


 大きな木があるあたりでいきなりキョーコに腕を引かれて、後ろから抱きしめられる。


「こんな所でごめんね。すぐに済むから」


「ふぁ……ふぁい……あっ……!」


 後ろから体全体を優しく撫でられて耳元に吐息をかけられ、頭がボーッとしているうちにあっという間に夢の時間は終わってしまい体をキョーコに預けた。


「うん、採取完了♪今日もレアンくんの材料は良質ね♪」


 キョーコはトレーと小瓶を使って材料を確保すると、手をハンカチで拭う。


 それからキョーコはカバンの中から手のひらサイズの錬金釜と、燃焼用の古代アイテムを取り出したので離れてから作業を見守った。


 手慣れた様子で調合するキョーコを見ていると、前々から気になっていたことがあったので聞いてみる。


「どうしてキョーコさんは最初、ボクに意地悪なことばかりいってきたのですか?」


 レアンは覚えている。


 奴隷市場で買われた帰りがけ『あなたは私に買われたの、奴隷としてね。……使えなくまでは使うから、ね♪』と。


 精製をしながら少し考える素振りを見せて、キョーコが話しだす。


「最初の時?えっと……深く考えていったか覚えてないんだけど、レアンくんあんまり経験がないだろうから、勘違いしないようにかしら?」


「勘違いなんてことは……」


「……ほんと?うふふ♪それでね、最初の自己紹介でレアンくんの名前を聞いたとき、知り合いの子かもとは思ったのよ。でもモンフォール家は分家もたくさんあるし、そもそも八英雄の息子が奴隷になるはずがないと判断したの」


「たしかに……ボクもこんなことになるなんて思いませんでした」


 きっかけが宮廷鑑定財団というフェルナ王宮直属組織とはいえ、父ジョルジュがいて伝説の剣を持てば、並の人間が一〇〇人こようとも負けることはないからだ。


「本人から素性を話さないし、しばらく手を出していいのか迷ったのよね。でも材料はハヅキのためには定期的に必要だし。だから、レアンくんから採取してほしいといってくれて本当に助かったわ♪」


「いえ、そんな……あう」


 キョーコは優しく微笑むと、開いている手でレアンの頭を撫でてくれた。


 されるがままにじっとしていると、キョーコは少し寂しそうな表情を見せる。


 レアンが心配になって上目遣いで見上げると、彼女は口だけをわずかに歪める。


「本音をいうとあなたとは実利の……奴隷と主人の関係でいたかった、かな」


「そうなんですか」


 レアンはその言葉には覚えがある。


 初採取の時に『ただあるのは奴隷と主人、今はそれだけよ』といったこと。


 そこまで暗かったキョーコの表情が、一転して穏やかな笑顔になる。


「でもダメ。レアンくん可愛いから、つい甘やかしたくなっちゃうんだもん♪」


「ふえっ⁉」


 錬金釜を台に置いて放置すると、キョーコはその場から離れレアンを抱きしめた。


 柔らかなものが顔に押し付けられ、離れたあとほっぺに優しくキスをされる。


「持ち運びできるようになるまであと一〇分。レアンくんの好きにしていいわよ♪」


「は……はい……!」


 レアンは少しの間、遠慮せずにキョーコの温もりを堪能した。


 たかぶっていた感情が落ち着いていくのは、やはり母だからなのか。


「もう出来たかな。じゃあ、そろそろ帰ろっか♪」


「……はい」


 キョーコに時間切れを宣告されたが離れられずに抱きついていると、キョーコはレアンの髪の毛にキスをして見上げたおでこにも唇を降らす。


「甘えん坊さんね♪また落ち着いたら一緒に寝ましょう♪」


「……はい」


 これ以上は迷惑になると思いレアンは離れ、キョーコは錬金釜を回収して帰路についた。


「もう少し我慢してね。娘がふたりとも完治したら秘薬もいらなくなりそうだし。……それに、知り合いのおばさんにこんなことをされるのは嫌でしょう?」


 帰りがけに話すキョーコの声色は冗談めいていたが、レアンははっきりと首を横に振る。


「おばさんじゃないです!素敵なお姉さんです!」


 レアンの声の大きさに驚いてキョーコが目を開き、そのあと微笑んだ。


「……お世辞でも嬉しいわね♪」


「お世辞じゃないです」


「……そっか。ありがとう、レアンくん」


 本当だと伝わったのか、キョーコは嬉しそうに笑い「竜の血で成長が遅くなったせいかな」とつぶやいてから、少し足早に前に出て振り返りレアンの目線に合わせて前かがみになった。


「……じゃあお嫁にもらってくれる?」


「ええっ⁉」


 とんでもないことをいわれて、キョーコの表情を伺ったがふざけた様子はない。


 少し考えてからレアンは「その……両親が許してくれれば」と返事をすると、キョーコは吹き出してレアンのおでこをツンと突っつく。


「もう♪冗談よ♪何?もしかして私のこと本当に好きなの?」


「そ、それは……」


 好きか嫌いかといわれれば好きに決まっている。


 お茶目で優しくて、時々厳しくもレアンのことを想ってくれる素敵な女性。


 うまく返答できないレアンの反応に満足したのか、キョーコは年頃の少女のように笑う。


「そっか~!まだ結婚したこと無いし、ちょっと憧れだったのよね♪これでも女ですから♪」


「え?結婚されたことはないんですか?」


「あ、そっか。子どももいるし、普通はそう思うよね。あのね、子どもだけ欲しいってお願いしたの。でもその後すぐに組織に追われて、娘を預けることになるんだけど」


「そうなんですね……」


 レアンは深く踏みいってはいけない話題だと気づいて、それ以上は追求しなかった。


 ふたりはやがて野営地に帰り着くと、あらかたキャンプの準備は済んでいるようだが何やら相談していた。


「ただいま♪どうかしたの?」


「あ、ママ!えっとね、近くに地図にも載っていない小さな湖があるんだって!だから日があるうちに水浴びでもどうかなって」


 するとシュウメイがキョーコの前に来て、しゃきっと手を挙げる。


「らおしー!ウチが見つけてきたんだ!どうだ?偉いか?」


「あら、そうなのね♪偉いわね~♪」


 シュウメイはキョーコに撫でられると、目を細めてされるがままになる。


 まるでペットみたいだと思ったが殴られるのでいわない。


「……湖は水質も問題ないようだ。塩分はないし、きれいなものだ」


 ミヤコが調査に行った報告を受けて、キョーコは頷く。


「じゃあ、ご飯前に体をキレイにしましょうか♪」


『おー!』


 主にサツキとシュウメイが声を上げて、湖へ向かうことになった。





(続)

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