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第六話 シーン二【プリメ村での不思議な縁】

第六話 シーン二【プリメ村での不思議な縁】





 竜脈の祭壇でサツキの呪いを解いたあと、馬車に乗せて北西のプリメ村に移動した。


 プリメ村までの距離はおよそ一〇〇キロ。


 通常二日の旅程だったが無理をして一日半、翌日の夕焼け頃に到着する。


 さっそく宿泊先を探すことになったが、小さな村なので宿屋は一軒しかなかった。


「こんばんは。七人で泊まりたいんですけど、空いていますか?」


 馬車の止める所を探す間レアンが先に降りて宿に駆け込むと、宿屋の人が出てくる前に鎧の男たちに止められる。


「おう、なんだガキ。ここは俺たち宮廷鑑定財団の貸切だ。早く帰ってママに抱っこしてもらいな」


 男のひとりが足で通せんぼをして、人を見下す態度に仲間が下卑げびた笑い声を上げる。


 レアンは一瞬黙ったが、気にせずもう一度宿の人を呼んだ。


「すみません、どなたかいらっしゃいますか?体調の悪い人がいるんです」


「おい、ガキ!ここは貸切っていってんだよ!」


 相手にされなかった男がレアンに掴みかかろうとしたのを、横から出てきた手が抑える。


「……事情はわからぬが、子どもに手を出すのは感心せぬな」


「ミヤコさん!」


 助けに入ったのはサムライで東方人のミヤコだ。


 二本差しのカタナを見て男の腰が引けるが、すぐに仲間を呼び三人で囲む。


「な、なんだてめぇ……サムライか?俺たちは宮廷鑑定財団の使者だぞ!俺たちに逆らってただで済むと思ってるのか?」


 男の声は震えていて態度はならず者そのものだった。


 しかし、身につけた武具にはフェルナ王家の国旗『槍を持った有翼人』のデザインが施されているので、一応本物だろう。


 同時に店の主人らしき人が、遠巻きにこちらを怯えたように見ているのにも気づく。


「すみません。どうしても暖かいベッドに弱っている仲間を寝かせてあげたくて、無理をいいました。今回のご無礼をどうかお許しください」


 レアンは状況を冷静に見て、自分から深く頭を下げる。


 すると向こうも強気に舌打ちして、乱暴にミヤコの手を振り払う。


「し、仕方ねえな。今回はおとがめなしにしておいてやるから、早く出ていきな!」


「はい。申し訳ありません」


 レアンはもう一度頭を下げると、ミヤコと共に宿屋を後にした。


「すみません、ミヤコさん」


「……構わぬ。レアン殿らしくないな。いさかいの状況になるとは」


 途中で立ち止まってレアンが謝ると、ミヤコが思案顔になる。


「それは……サツキさんをまともな所で休ませたかったのもありますが、相手が財団の人間だったからです」


 いつものレアンなら暴言を受けたとしても、冷静に対応していただろう。


 だが宮廷鑑定財団は、突然レアンの家族全員を引き離した組織だ。


 あまり人との争いを好まないレアンでも、名前を聞いて平常心ではいられなかった。


「……然り、無理もないな。しかし、レアン殿を知っている人物がいては危険だ。できれば心を平静に保たれよ」


 ミヤコはやや考えてそう返答して、レアンの肩に手を置かれてハッとする。


「そうですよね。ありがとうございます。……これからどうしましょうか?」


 レアンはアドバイスをありがたく受け、泊まるところがない状況を考える。


「もし……お困りの様子だなぁ?」


 するとそこに空の荷車を引いていた四〇くらいの男が近づいてきた。


「えっと、どちら様でしょうか?」


 レアンが尋ねると男は鼻をかいて、人のよさそうな笑みを浮かべる。


「おらは村外れにある牧場のゴンザっていうものだ。さっきの宿屋でゴタゴタしているのを聞いちまってな。お節介だと思ったんだけども、困ってるみたいだからよぉ」


 レアンとミヤコは顔を見合わせ互いに頷くと、素直に話すことにした。


「実は体調の悪い仲間がいて宿屋で休ませてもらおうと思っていたのですが、とある人たちが貸切にしていたのです。それで困っていまして」


 するとゴンザはうんうんと何度も頷いて、そのあと笑顔を浮かべる。


「それは大変だぁ。財団のせいだろぉ?何も気にせずおらのうちに来るがええさ」


 返事も聞かずゴンザは荷車を引いて、村の外に行こうとする。


 どうしたものか迷っていると、ゴンザはもう一度振り返り声を上げる。


「仲間さんもみんな連れてくるとええ。うちは牧場で家は広いから大丈夫だぁ」


「すみません。全員で七人になりますが、よろしくお願いします」


 レアンは頭を下げてご厚意に甘えることにした。


「……呼んで参る」


「はい!お願いします、ミヤコさん」


 レアンはゴンザの後を追い、ミヤコは馬車を止めている方へと向かう。


「お前ー!来たぞー!」


 少ししてシュウメイの声と共に仲間の乗った馬車が追いかけてきたので、レアンはゴンザの荷車を一緒に押す。


「ありがとうなぁ」


「いえ!当然のことです!」


 手伝うとゴンザは人懐っこい顔でお礼をいって、一緒に村を出た。





 荷車と馬車の一行は、一五分ほどして牧場へたどり着いた。


 小屋から山羊や馬の鳴き声が聞こえたが、もう日が暮れそうなせいか姿は見えない。


「馬車はそこのあたりに停めるがいいさぁ」


 ゴンザに家の横の広場を勧められると、キョーコが誘導して止め馬に餌をやる。


「ほら、入った入った。おーい、お客さん連れてきたぞぉ!」


 ゴンザは先に入ると、奥から妻らしき人が出てきて出迎えてくれる。


「あらあら、いらっしゃいませ。すごいたくさんのお客さんだぁ。どうしたのよ?あなた」


「それがなぁ、この人たち病人がいるのに財団が宿屋を独り占めして困っていたんだぁ。先に寝床用意してくれんか?」


 ゴンザが事情を説明すると、妻が頷いて自分の胸をドンと叩く。


「そういうことなら任せなさい!すぐに隣の家片付けるからなぁ」


 そしてすぐに玄関を出て、隣の建物に走っていき掃除をはじめたようだ。


「あ、手伝います!」


 レアンがすぐに追いかけていき、その間に他の人はゴンザと何かを話しはじめた。


 そのうちキョーコやハヅキも来て片付けを終わらせ、サツキをベッドに寝かせてから最初の家にお邪魔した。


「今回は私たちの為にひと晩の宿を貸していただき、ありがとうございます。本当になんとお礼をいっていいのか」


 代表してキョーコが頭を下げると、ゴンザと妻エキナはニコニコ笑ってくれる。


「いやぁ、困った時はお互い様だぁ。娘さんも早くよくなるといいなぁ」


「そうだよ!ひと晩といわず元気になるまでいてくれていいんだからねぇ。隣は繁忙期だけ泊りがけで使う空き部屋だから遠慮せずにね」


 いい人過ぎて困ってしまうほどで、素直にレアンたちは頭を下げた。


「冒険してきたなら久々にお風呂入りたいだろぉ?先に入ってくるといいさぁ」


「その間に夕食の用意をしておくから、ゆっくりしておいで」


 夫婦とも押しが強い性格で、あっという間にお風呂から食事まで決まってしまった。


「私は隣に行ってくるわね。お風呂はまた今度にするわ」


 キョーコはサツキが心配らしくすぐに出ていく。


 しかしレアンたちまで遠慮するのも悪いので、ハヅキ・シュウメイ・ミンクゥ組が先に入ることになる。


 しばらくしてミンクゥが湯気を出しながら戻ってくると、こういった。


「お風呂はよき風習よのぉ……。ドラゴンの姿で温かいのに入りたいとなると、火山の溶岩くらいしかないからの」


「そ、そうなんですか?」


 人間には理解できない例えをされて困惑する。


「……風呂ドラゴン、です。ドラゴンの肉は煮たら食べられる?フフ……」


 そこに横を通り過ぎたハヅキがボソッと呟いて去っていく。


 ミンクゥが抗議の声をあげようとした時、シュウメイが「火鍋……フゥオグゥオならいいかもな!」と追撃していく。


「おぬしら、わしをなんだと思っとるんじゃ!」


 とうとうミンクゥは怒り出してふたりを追いかけた。


「……あはは。じゃあ、ボクたちも入りましょうか、ミヤコさん」


「……そうだな」


 入れ替わりにレアン・ミヤコ組で入り、汚れを落として早めに上がり食卓に向かうと一〇人分以上の晩御飯が用意されていた。


 キョーコは少しして来るそうなので、先にいただくことにする。


「さぁ、どんどん食べておくれ。腹減ってるだろぉ?」


「遠慮せずに食べてなぁ。大変だっただろ」


 ゴンザとエキナが勧めてくれる夕食はシチューをメインに、パンとお肉と野菜のバランスの取れたものだった。


「では神と大自然に感謝して……いただきます」


『いただきます』


 レアンの声に続き、みんなで感謝してからごちそうを口に運ぶ。


「……おいしい……ものすごくおいしくて優しい味です」


 シチューの濃厚な乳の味が広がり、新鮮なお肉や野菜が口の中で踊る。


 ハヅキとシュウメイも「……うますぎ、です」「うまいぞ!」といいながら、口いっぱいにパンとシチューを口に押し込む。


「あらぁ……そんなに褒めてくれると嬉しいもんだねぇ。お嬢ちゃんたちの食べっぷりも娘を思い出すよ」


 食事を作ったエキナが喜んでくれて、口の中を飲み込んでレアンが尋ねる。


「お子さんがいらっしゃるんですか?」


「そうだぁ。三人娘だけどな、上のふたりは嫁に行って、末っ子は騎士団に入ったんだ」


 代わりに夫のゴンザは少し寂しそうに答え、ミヤコが食べる手を止め尋ねる。


「……騎士団というとフェルナ王宮か?女性では珍しいと思うが」


「んだ。まぁ、もちろん聖騎士団ではないなぁ。女性騎士なんてごく一部の貴族しかなれないしなぁ。あれだよ、ペガススナイトだぁ」


 ゴンザが誇らしげにいうと、妻のエキナが横から突っ込む。


「あんた、何回いっても間違ってるなぁ!ペ・ガ・サ・ス・ナイトだよぉ」


「おお!そうだったぁ、ペガススナイト!」


「わざとかねぇ、あんた……」


 ふたりのやり取りに、食事の席に笑いが起きる。


 するとそれまでひたすら食べていたハヅキが、口に咥えたまま問いかける。


「……もひかして、ここはオグト牧場ですか?」


「おぉ、よく知ってるな!」


「あらまぁ!うちもいつの間にかそんなに有名になったのかぁ」


 ゴンザ、エキナの順に驚くと、わかった理由をハヅキはこう説明してくれる。


「……一緒に戦った仲間、天馬騎士団のシャニィさん。実家が牧場という話をしていたの覚えていない?彼女と話し方とか雰囲気とか似ていたから」


「……あーっ!」


 レアンは思わず声を上げてしまい、慌てて自分の口を抑えた。





(続)


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