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第五話 シーン十四【星の観測者】

第五話 シーン十四【星の観測者】





 ふたつ目の竜脈の祭壇に向かう途中、夕食の後にレアンのもつ星の剣について聞かれた。


「いえ、大丈夫です。ミンクゥさんは事情を知らないと思いますから、その辺りも含めて聞いてほしいんです」


 他の人が心配する中レアンは明るく笑って、ペンダントを手の平に乗せて話しはじめた。


「このペンダントはとある友だち……ロスト・イデアルの力で少しだけ長生きできた人の形見なんです。最初に不思議な力を貸してもらえたのは闘技大会です。僕の治癒では助からない重傷の人たちを癒やしてもらい、そのあとレッサードラゴンとの戦いで大活躍してくれました」


 レアンは穏やかな表情のまま続きを話す。


「実は夢の中で亡くなったその友だちと……リーナと再会しました。リーナはこういったんです。私が死んだのはあなたのせいじゃない。そう思っているか心配で『心』や『想い』が残っているのだと」


「レアン……」


 サツキが領主の屋敷の最後を思い出したのか、大粒の涙を溜めている。


 レアンはそんなサツキを見て力強く頷く。


「でもリーナは笑っていったんです。あなたにはありがとうの気持ちでいっぱいだと。でも、あなたが心配だから見守ってあげると。失われた力ではない、あなたの夢や理想を……未来をつないでと。だから、ボクはリーナの分まで生きようと思いました」


 いい終えて、レアンは晴れ晴れとした気持ちになる。


「レアン……よがっだねぇぇっ」


「……よしよし。鼻ちーんってして」


 サツキは途中から泣き出して顔がいろいろな汁まみれなのを、ハヅキがタオルでゴシゴシ顔を拭いていた。


「そうか……。すまんのう、そんな事情があったとは。よう話してくれた」


 ミンクゥは申し訳無さそうな顔をして、レアンに近づいて背伸びをして頭を撫でる。


 見た目は八歳の少女だが、仕草はまるでおばあちゃんだった。


「それで、ミンクゥ。レアンくんの力の正体はわかったの?」


 キョーコがいつまでも撫で続けるミンクゥに問いかけると、竜の巫女は少し考える素振りをする。


「わしにも正確にはわからん。しかし、あのハイエルフのオスの言葉は真実に近しいじゃろうて。すなわち、どの属性でもない星そのものじゃ。元のロスト・イデアルから新たな存在へ昇華したのじゃろうな」


 ハイエルフと聞いてみんなの顔に疑問符が浮かび、間があって竜神将のヴェイゼルと結びつく。


「……あのおちゃらけ少年がハイエルフなの?」


「そうじゃ、ハヅキ。永遠を生きる神竜と同じ神性を感じられるからの。それでの、星というのは八大属性をすべて含むこの星そのもの。ただ人間がその力をもった歴史は知らぬのじゃ」


 ハヅキの質問にミンクゥが答えたのを聞いて、ひとつの疑問が生まれた。


「あの、教えてもらってもいいでしょうか?この力はロスト・イデアルではないのですか?」


 レアンが尋ねると、ミンクゥとキョーコが顔を見合わせる。


「そもそもの有りようが違うのう。キョーコ、どこまで話しておるんじゃ?」


「レアンくんには少しだけ。娘たちにも他の人にも詳しく話したことなかったわよね?」


 キョーコが全員を見渡すと、知らないという反応が返ってくる。


「なるほど。さてどこから話したものかのう」


 ミンクゥが顎に手を当てて首をひねっていると、キョーコがケトルを手に提案する。


「少し長くなりそうだから、お茶でも飲みながら話さない?もちろん興味ある人だけでいいから、ね?ミンクゥも間違いがあったら指摘して」


 今後のことも考えて、古代文明についての授業がはじまった。





「まずは簡単な歴史の話からね。古代文明イリアス・ファドゥは繁栄を極めたのだけど、人間は身の丈を超えた力を振るってしまい神竜の怒りを買うの。そして世界大陸の七割以上を崩壊させてしまった最終戦争で滅びたの。わずかに生き残った人間がこの中央大陸周辺に逃げ延びて、今の私たちの先祖となったわ。今からおよそ一五〇〇年前のことよ」


 結局全員で聞くことになり、お茶とお茶菓子をお供にキョーコ先生に習う。


「それでロスト・イデアルは何かというと、古代人が作った永遠を生きるためのアイテムなの。わかりやすくいえば不老不死ね。当時はイデアルと呼ばれていて、おそらく『理想』という意味が込められていたと思うわ」


 永遠を生きるというアイテムに驚きの声が上がり、その中でサツキが手を挙げる。


「あれ?質問!じゃあなんで今の世界のアイテムにはロストって付いてるの?」


「いい質問ね♪それはアイテム管財人であるネストムが、わざと起動コードを書き換えたせいなの。古代人の生き残りである彼なりの皮肉だと思うわ」


 キョーコの説明に、ハヅキが少し考えながらこう口にする。


「……あ、なるほど。古代人から見たら『失われた理想』に頼っている使用者だから……。あの商人は性格悪い、かも」


 レアンも言葉にされてようやく納得する。


 キョーコはハヅキに頷いてから、レアンに聞いてきた。


「レアンくんの起動コード……合言葉を覚えてる?」


「はい。えっと『イデアル。コード……スター・ゲイザー・インヴォーク!』です」


 ワードを口にすると、首にかけた星のペンダントが淡く光りだす。


 ロスト・イデアルと違う暖かい光は暗くなった周りを照らして、レアンの心の中にリーナの声が響く。


『今はその時じゃないわ。本当に必要な時に呼んでね』


「うん、ごめんねリーナ」


 レアンが思わず声に出して返事すると、周りの人たちが心配そうに見守る。


「お前!急にひとりごとをいってどうしたんだ?難しくて眠くなってきたか?」


「ひゃわっ⁉」


 ニュッとシュウメイが顔を覗き込んできて、近すぎて思わず後ろにひっくり返る。


 そこでミヤコが立ち上がり、手を引いて起こしてくれる。


「あうう……すみません、ミヤコさん」


「……問題ない。今もしや、リーナ殿と話していたのか?」


 周りを見ると、シュウメイ以外はレアンが会話をしているのに気づいたようだ。


 レアンは照れたように頭をかき、コクリと頷く。


「はい。心の中のリーナと話して『今はその時じゃない』といわれました」


 正直に話すとシュウメイが「本当か⁉」と驚いた。


「こんなケース聞いたことないわ。ミンクゥ、知ってる?」


「ロスト・イデアル以外なら例はある。いわゆる意志をもつ武器の類じゃ。じゃがこれは……。レアンへの強い想いが奇跡を起こしたのじゃろう」


 キョーコとミンクゥは視線を絡ませたが結論は出ないようで、それを見たサツキが横から口を挟む。


「名前に由来がある可能性は無いの?スター・ゲイザーだっけ?えっと、お姉ちゃんどういう意味になるの?」


「……そのままの意味だと占星術師、です。星占いをする人。でも、たぶんレアンやヴェイゼルの話から導くなら……星の観測者」


「星の観測者……」


 ハヅキ口にした名前がなぜかレアンの胸にストンと落ちて、名前をもう一度噛みしめる。


「よき例えじゃ。何かしら運命めいたものを感じるのう。古い施設や土地に伝承が残されているやもしれぬの」


 ミンクゥがわずかに微笑んでから、キョーコが首を縦に振る。


「……そうね。レアンくんの力は今後も調査しましょう。あとはシュウメイちゃんもドワーフとの戦いでこりただろうけど、おさらいね。ロスト・イデアルは発動すると同じアイテムの使用者か、竜族の力でしか突破できない。これは絶対に忘れないこと。いい?」


「シー!」


 シュウメイが元気よく返事をして、他の人も頷く。


「……つまりリュウジンショーというのが現れてアイテム使ったら、勝てる見込みがあるのはらおしーか、よくわからん力を持ってるレアンだな!」


 シュウメイが確認するために名前を出していくと、ミヤコが竜巫女を見る。


「……つかぬことを伺うが、ミンクゥ殿がドラゴンに戻ることは可能なのか?」


「む……たしかに。もし竜脈の石というものが見つかれば、ひとつにつき数回は可能じゃろうて。自由に変身できるまで力を取り戻すには、一〇〇年単位で休息してからじゃな」


 疑問にミンクゥが答えると、キョーコがいたずらっぽく笑う。


「そうそう。ミンクゥはこう見えてものすごく丈夫だから、盾役に最適よ♪人間形態の時は戦闘能力はなくて、よく食べてよく発情するだけだからうまく利用してね♪」


「ひどいいわれようじゃのうキョーコ!そういえば昔はわしをオークの巣に投げ込むなど、好き放題しおったな!お主だってあの頃はけしからん体つきをしておきながら、痴女のような格好で周囲を惑わしおって!」


「ち、痴女!あの頃は自分の魅力に自覚無かったから……。逆にあなたは自分が可愛いのを自覚してて、仲間のマルやオリーにすり寄るだけでなく、道行くキレイなお姉さんにも声かけてたでしょう!」


「可愛いメスに可愛いといわぬのは失礼じゃろう!それともアカネにも可愛いというべきじゃったか?……いやまて。くふ♡思い出したのじゃ♡夜のそなたはとても従順で可愛らしかったわ♡抑えられぬ未知なる感覚に逆らえんでのう♡やめてやめてと懇願してきて♡」


「あああ……その話はやめて!仕方ないじゃない……忍びの教え以外で実地ははじめてだったんだから!もうこんな話やめなさい!レアンくんもシュウメイちゃんもいるんだから悪影響よ!もう私の負けでいいわよ!」


 周りがポカンと見守る中ふたりの喧嘩が続く。


 しかし途中でミンクゥが技ありの一撃を決めると、キョーコが珍しく顔を赤くして降参した。


 いつも余裕のあるキョーコが恥ずかしがる姿に、レアンは見てはいけないものを見た気分になり視線をそらす。


「はー……これはこれは仲がよろしいことで☆こんなに相性いいなんて、やっぱり夫婦ね☆」


「……夫婦喧嘩は犬も食わない、です」


 娘たちに呆れられて、両親は『どこが夫婦よ!(どこが夫婦じゃ!)』と反論したのが息ぴったりで、一同笑いが起きる。


「あははは。うちの父や母も性格は違いますが仲はよかったです。従兄弟で幼なじみだったみたいで」


 レアンが両親を思い返していると、姉妹がすぐに食いついてくる。


「わぁ!いいね☆そういうの憧れるなぁ。私たち各地を転々としていたし」


「……幼馴染同士が八英雄になって結婚……まるで本の世界、です。あ、もう物語になってた」


 そこでレアンはキョーコとミンクゥの、どちらかというと寂しげな表情に気づく。


「あ……ううん。なんでも無いの♪」


 キョーコはレアンの視線に明るく笑って言葉を続けた。


「レアンくんの力は自分ではタイミングを選べないみたいだから、私がいない時は逃げてね。私も今のままじゃ心もとないので、首都フェイルナールに預けている武器を取りにいってまた対策を考えましょう。じゃあ、今日はこの辺りで解散!お疲れさまでした♪」


 みんなで立ち上がり、すっかり暗くなった寝床に向かう。


 寝る準備は明るいうちにやっているので、あとは見張りの順番だけだ。


「サツキさん、体の方は大丈夫ですか?」


 レアンは寝る前に念の為声をかけると、サツキはキョトンとしたあと割れた腹筋をバシーンと叩いてみせる。


「この通り平気よ!たしかに次の祭壇はサツキのために行くんだけど、自分のことじゃないみたい。まぁ無理そうだったら大人しくするから☆」


 そこまでいってサツキは何かを思いついて、レアンに耳打ちする。


「ね?レアン。私がお願いしたら、ずっと側にいてくれる?」


「もちろんですよ。必要でしたら遠慮なく呼んでください」


「そっか……うん、嬉しい☆レアンは優しいから誰でもそうするだろけど……ありがとう☆」


 サツキに軽く抱きしめられ頭を撫でられると、少し汗の匂いがしてドキドキしてしまう。


 同時に安心できる匂いになったことが嬉しくもあり、思わずこちらからも抱きついてしまう。


 サツキは周りの目を気にしながらもう一度耳元で囁く。


「……ね?今日は久しぶりにサツキと一緒に寝る?」


「いいんですか?」


 最近少し距離を感じて寂しかったが、嬉しくなってサツキを見上げた。


「いいよ☆朝まで一緒しよ☆」


「……はい!」


 レアンはサツキの横に招かれて、引き締まった体に寄り添って夜を過ごす。


 離れたところではキョーコとシュウメイが約束通り一緒に寝ていた。


 竜脈の祭壇まであと二日。


 冒険の旅も当初の目的は果たせそうだった。





(第五話 終)

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