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第五話 シーン十三【野営の席で】

第五話 シーン十三【野営の席で】





 ノーツの町で竜神将の襲撃を受けたレアンたち一行は、予定より早く町を出て南に八日の所にあるふたつ目の竜脈の祭壇に向かった。


 偶然にも竜神将のひとりナスヨイツがシュウメイの宿敵だったせいか、道中の鍛錬を人一倍熱心にしている。


「はあっ!らおしー!もっと強くなりたい!はっ!ウチに本当の戦い方を教えてくれ!」


「……うんうん、そうよ。前に出てる足は相手との距離を同じにして、後ろ足の距離を調整して踏み込みの間合いを錯覚させるの。うん、大丈夫。戦いの嗅覚はかなり優秀だわ」


 キョーコとシュウメイのやり取りは、かなり実戦さながらだった。


 負けてはいけないとレアンもミヤコに師事するが、なぜかサツキまで参戦している。


「はっ!てあっ!サツキだって、強くなりたいよ!みんなの足手まといなんて嫌!」


「サツキさん……!はああっ!ボクだって!強くなります!」


 次はサツキの治療なのに、本人はしっかり動けている。


 前に本人がいったとおり、体を鍛えることで呪いの症状をある程度緩和できるようだ。


「……人間、体をかばうことで無駄のない動きを取ろうとする。今の鍛錬も勉強になるやも知れぬな」


 ミヤコに攻撃を受けてもらいながら、アドバイスしてもらうのは為になった。


「よく頑張るのう、感心じゃ」


「……感心感心、です」


 そんなやり取りをミンクゥとハヅキは遠くから見ている。


 ハヅキは元気になってから食欲が抑えきれないようで、今も町で買ったパンを両手に応援していた。


 移動があるので鍛錬は長くて二時間だが、今日は日が暮れるまでやってから夕食になる。


「みんなお疲れ様でした♪今日は町も近かったから生肉を使った肉じゃがと、魚の干物を焼いたもの、それにみそスープよ♪もちろん、炊きたてご飯♪」


 キョーコが鍛錬の途中で抜けて作っていた夕食が完成して、汗を拭いてからみんなで輪になっていただくことにした。


「美味しそうです……。実は鍛錬の途中からいい匂いがするなって思っていたんです」


「だよねー!今日はすっごい東方料理っぽい組み合わせだー☆」


「……私も待っている間、ずっとヨダレが止まらなかった、です。美味しそう……じゅるり」


「ハヅキ!よだれ垂れてるぞ!ほらここ拭いて……。らおしーは料理まで上手なんて反則だな!」


「ほう……若い頃は全然料理しなかったのに、いつの間にかこれほど料理できるようになって。パパは嬉しいぞ」


「……懐かしき香りだ。よく醤油と味噌が日持ちするものだな、キョーコ殿」


「あ、それなんだけどねミヤコさん。実は古代アイテムの『常温庫』というアイテムで一定温度を保っているの♪私の持っているアイテムでもトップクラスにお気に入りよ♪」


 七人で会話しながらレアンとサツキが手伝って、全員の元に行き渡る。


「では神と大自然に感謝して……いただきます」


『いただきます!』


 レアンの感謝の言葉に続いて、全員の挨拶がそろう。


 なぜだろう、異国の習慣がこれほど馴染みのあるものになるとは思わなかった。


「おいしい……」


 食べる前から想像したよりさらに美味しくて、レアンは思わずつぶやく。


 肉じゃがの甘みのあるダシと肉のうまみ、その肉汁がしみた玉ねぎやジャガイモのうまさ。


 肉厚な川魚の一夜干しのプリプリした食感。


 野菜が多めで全体のバランスを考えられた東方みそスープの味。


 みんなそれぞれが味わっていただく。


「なんだこれは……。食べたことのない味なのに、なぜか懐かしい。わからん……わからんぞ!もぐもぐ!」


 母娘やミヤコには慣れ親しんだ味でもシュウメイの反応は新鮮で、なぜか瞳をうるうるさせながら一心不乱に食べていた。


「あは☆よっぽど気に入ってくれたみたいね」


「……母の味的な、です」


「……郷愁の影ありき、か」


 それを姉妹が見守って、ミヤコはやや口元を緩ませる。


「うふふ♪素直に嬉しいかな♪ほら、まだおかわりあるからね♪たくさん食べて」


 作ったキョーコはニコニコ顔で、何度もおかわりするハヅキとシュウメイにたくさんよそう。


 レアンも少しでも強くなれるように、いつもより多く食べるようにした。


 何より、美味しいのだ。


 みんなが食べ終わったあと、湧き水で食器を洗っているとサツキがこんな話をしだした。


「ママって昔はあんまり料理しなかったの?ミンクゥさんもいってたし」


「ん~?そうかも?腹にたまればいいとしか考えてなかったから」


 キョーコは調理器具を手入れしながら返事すると、遠くで見ていたミンクゥが複雑な顔をする。


「昔は旅先では毎日干し肉とパンじゃったの……。それに今のように可愛げのある女じゃなかった。戦うこと以外はどうしようもなく不器用じゃったから」


「……そうね。人間らしい生き方をしてこなかったから。八英雄になってからよね、笑えるようになったの」


 相槌を打つキョーコの憂いを帯びた表情から、それ以上のことは読み取れない。


「……昔聞いてはぐらかされたけど、母さんはどこで生まれたの?」


 何気なく聞いたハヅキに、キョーコは軽い感じで答える。


「東方のしのびの里よ。隠れ里だったから名前もなかったわ。冒険者でいうニンジャ発祥の地ね♪」


 ガッシャーン


 その時突然大きな音がして全員そちらを見ると、シュウメイが鍋を落として震えていた。


「ニ、ニ、ニンジャだと……?らおしー、まさかニンジャだというのか?」


「うん♪あれ?八英雄の話をした時にいわなかったかしら?」


 キョーコが頷くと、シュウメイが引きつった顔で師匠を見る。


「ひっ……!どうかお助けを……!オヤジからニンジャだけは絶対に近づくなといわれて……!お願いだから食わないでくれ!」


 小さい頃にどんな話をされたのかわからない怯えっぷりに、キョーコも含め全員が困惑してしまう。


「……シュウメイ殿落ち着かれよ。なるほど、その圧倒的なスピードや強さなどすべて合点がてんがいった。ニンジャならグレーターデーモンすら倒せることにも納得いく」


 そこでミヤコが立ち上がりシュウメイの肩に手を置くと、キョーコの方を向かせる。


「な、なんだ?ミヤコ。お前も食われるぞ!」


「……シュウメイ殿。何を教えられたかわからぬが、ニンジャというだけで人を食らうなら冒険者として認められるはずはない。それに師匠のことは人として信じられぬのか?」


 ミヤコに諭されてシュウメイは今にも泣きそうな目でキョーコの目を見る。


「……らおしー、信じていいのか?」


「ええ♪可愛い娘が増えたようなものよ♪今日は一緒に寝ましょうか」


「……うん」


 キョーコが微笑んだのを見て、シュウメイはしおらしくコクリと頷いた。


「もう八英雄とかニンジャとかじゃ驚かないよ!」


「……神だったら驚く、です。……もしかして?」


 やり取りを見ていた姉妹が、冗談めかして聞くとキョーコは屈託なく笑う。


「そんなわけないでしょ!まぁ、神竜の血は少し流れているんだけど♪……はぁ。ずっと黙っていたことをしゃべれて、ちょっと気が楽になったわ♪」


 和やかになった空気の中、ミンクゥが思い出したように口を開いた。


「そういえばのう誰も触れなくて不思議なのじゃが、レアンの星の力についてはどうなったのかのう……?」


 一瞬場の空気が静まり、ミンクゥが反応に困り周りを見る。


 シュウメイとミンクゥ以外はおそらく、レアンのペンダントが友だちの形見だと知っているので遠慮していたのだろう。


「いえ、大丈夫です。ミンクゥさんは知らないと思いますから、その辺りも含めてお話させてください」


 レアンは明るく笑って、ペンダントを手の平に乗せて話しはじめた。





(続)

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