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第五話 シーン十二【戦いの結末】

第五話 シーン十二【戦いの結末】





「これを使わないと失礼だろう。いくぞ!『ロスト・イデアル。コード……ロアー・オブ・グラウンド・インヴォーク!』」


 シュウメイの必殺技を受け、ダメージを負った竜神将のナスヨイツが力を解放する。


 斧に光が集まって、ドワーフの体にもロスト・イデアル特有の加護が包む。


「妙な技を……でも、もういちど決めれば勝てるはず!」


 シュウメイは一瞬ひるんだが、すぐに持ち前の闘争心で向かっていく。


「シュウメイさん、ダメです!今のドワーフさんには何も効かないです!」


 レアンが止めるのも聞かず、格闘娘が相手に詰め寄り上段蹴りを放つ。


「てあっ!」


 パアンッ!


 魔法のような甲高い音が響いて弾かれ、シュウメイは「ひゃあん」と可愛い声をあげて吹き飛んだ。


「大丈夫ですか?」


 レアンが駆け寄って癒やしの力を使おうとすると、シュウメイは顔を赤くした。


「今、何も聞いてないな⁉お前!」


「は、はい……『イウリファス様、この者を癒やしたまえ……』もちろんですよ。ひゃあん、なんて声聞いていません……あ」


「今すぐ忘れろ!物理的にお前の頭から消してやる!」


「や、やめてください!シュウメイさん!本当に痛いです!」


 顔を真っ赤にしてポカポカ頭を叩いてくるシュウメイ。


 ややあって乱暴娘の手を掴んで止めたのはミヤコだ。


「……その位でよかろう。見よ」


 ミヤコが視線を向けた方には、退屈そうなナスヨイツと腹を抱えて笑うヴェイゼルの姿があった。


「締まらんな……。せっかくの見せ場をこういう形でやられるとは思わなかったぞ」


「あははは!キミたちおもしろいね!これ見たらきっとニニアスも笑ってくれそうだ」


 戦う気が削がれたふたりの前にレアンが立つ。


「それなら今日はここまでにしませんか?こちらにはまだシュウメイの師匠もいますし、人数もたくさんいます」


 だがそんな説得も、ナスヨイツのひと声でまた振り出しに戻る。


「ワシは戦うことは好きだが、それよりも勝つことが好きでな。だから、このままでは帰れん!」


 ドワーフが斧を構えて力を溜めている所で、シュウメイがさせまいと前に飛び出そうとする。


 まずいと思ったその時レアンの心に声が響いた。


『レアン……あなたの力を使う時が来たみたい。どうか力を呼び起こして』


 星のペンダントが光り出し、元の持ち主である少女エカチェリーナの声がする。


 レアンはどうするか一瞬迷ったが、ロスト・イデアルに対抗できるのはアイテムだけだとペンダントを握った。


「リーナ、力を貸して『イデアル。コード……スター・ゲイザー・インヴォーク!』」


 レアンが言葉を告げると、ペンダントは光を放ち剣のシルエットへ具現化する。


 レアンが空中に静止したそれを手に取ると、星のきらめきをまとった剣が手の中に収まった。


 間近にはじめて見る仲間や竜神将でさえも、驚きの声が上がる。


「ほう……その武器は」


 神竜の娘であるミンクゥは、不思議なものを見た反応だった。


「ぬう!これでもくらうがいい!『グラン・ブロウ!』」


 ナスヨイツは斧を振り抜き、地を這う土砂まじりの衝撃をこちらに放つ。


「任せてください!『剣よ、ボクに打ち消す力を!』」


 しかしレアンが剣を軽くひと振りするだけで、刀身から出た光が衝撃波を包みこむように消す。


「レアンくん、それが闘技場でドラゴンを消滅させた星の剣なのね」


 キョーコがいつの間にか隣にいて聞いてきたので、レアンは頷いて武器を握り直した。


「はい。これが友だちにもらった力です!」


 そして剣先を竜神将たちに向けると、ふたりは明らかに動揺し出す。


「……何だ『アレ』は。存在がいびつすぎるぞ……!」


「ん~そうだね。たしかに変かも。もしかすると『星』の担い手かもしれないな~。聞いたことがあるでしょ?じっちゃんも」


 珍しく真面目顔のヴェイゼルが説明をすると、ナスヨイツの顔色が変わった。


「もちろんだ!ドワーフやエルフなら誰でも知っておる、八つの属性を内包した存在だ。……これは愉快!」


 ナスヨイツは宝物を見つけた子どものように目を輝かせて、それからこちらを斧で指差す。


「そこの小娘、そして星の少年よ。わしは土の竜神将、ナスヨイツ。あらためてそちらの名を聞こうか」


「シュウメイだ!」


「レアンです」


 ふたりは素直に答えると、ナスヨイツは大きな笑い声を上げて背を向ける。


「ははははは!シュウメイ、レアン……また会おう!」


 そのままドワーフが手を上げ去っていくと、ひとり残されたヴェイゼルは、慌てて彼の後を追う。


「……え?じっちゃんひとりでいっちゃうの?待ってよ~!……まったね~、キミたち!」


 姿が見えなくなりようやく全員の緊張が解けて、サツキとハヅキがレアンに駆け寄った。


「よかったー!ふたりとも大怪我しなくて!」


「……驚きの強さ、です。その剣、やっぱりすごい」


 サツキはレアンに抱きついてきて、ハヅキは剣をまじまじと見る。


 レアンは少し困ったように手の中にある剣を見ると、何も念じていないのに弾けるように消えてしまう。


「ナスヨイツ……次に会う時は必ず……!」


 そんな中シュウメイは竜神将たちが去っていった先をひとり見つめ、瞳に強い決意を宿した。





 ナスヨイツとの戦いで傷ついたシュウメイを神の奇跡で癒やすと、一同は泊まっていた宿屋に戻った。


「すみません、ご迷惑をおかけして。修理の方手伝いますので、何からしたらいいですか?」


 最初にキョーコがパーティーを代表して宿屋の主人に謝ると、冷たい視線を投げかけられる。


「娘さんたちの体はよくなったんだろう?じゃあ、すぐにこの町から出て行ってくれ」


 そのいい方が気に入らなかったのか、サツキが眉を吊り上げて主人の前に出る。


「さっきはいきなり相手が押しかけて来たんです!入口を壊したのはごめんなさい。でもそんないい方って……」


「……サツキ、こっちが悪いから。すみません、すぐに出ます」


 姉のハヅキが止めて頭を下げると、泊まっていた部屋に向かう。


 サツキは何かいいたげに口を開いたが、ぐっとこらえて後を追った。


「すぐに荷物を回収して出ましょう」


 キョーコは他の三人に指示すると、階段を上っていく。


 レアンはその時、キョーコが脇腹を押さえていることに気づき違和感を覚えた。


「これでオッケーかな!よし、荷物運び込もうか!」


 やがて部屋の荷物をまとめると、サツキの掛け声で預けておいた馬車に荷物を積み込んだ。


「サツキさん、まだ本調子じゃないですよね?無理しないでくださいね」


「レアン、心配してくれるの?大丈夫だって☆嬉しいなー!すりすり☆」


 荷物を積み終えて声をかけると、サツキに頬ずりされる。


「お世話になりました。これ、お代の足しにしてください」


 最後に宿屋を出たキョーコは主人に頭を下げると、お代と共に別の小袋を差し出す。


 レアンたちも戻って主人に挨拶をすると「悪いな。いい旅になることを祈る」と申し訳無さげに返された。


「じゃあ、レアンくんたちはここで待っててね。これからの食料と服を買ってくるから」


 その後ノーツの町の西門で買い出しにいった母娘とミンクゥを馬車で待っていると、所在なげにしていたシュウメイがつぶやく。


「……宿屋の主人。あの態度はどういうことだ?らおしーが我慢してたから文句いわなかったが、なんかすっきりせんぞ!」


 レアンはなんとなく事情も感じ取れたが、うまくは説明できなかった。


「……そうだな。あくまで俺の考えなのだが」


 カタナを磨いていたミヤコが手を止めずに、刀身から目を離さずに話し出す。


「厄介事を招く客をあのまま泊まらせておくと、宿屋の評判が落ちて町に噂が広まる。ただ、体調が先日まで体調の優れなかった娘を追い出すことは申し訳なく思う……というところだろうか。宿屋も信用あっての商売だからな」


「うーむ……よくわからん!難しいけど、仕方ないのだな!」


 シュウメイはどこか納得できない顔で腕を組んだが、そのうち客車の方で足を投げ出して寝転がる。


「噂は悪い方に広まりますからね。あ、帰ってきたようですよ」


 レアンが相槌を打って町並みを見ていると、母娘とミンクゥがこちらに近づいてくるのが見えた。


 荷物をたくさん抱えているので迎えに行くと、ミンクゥが旅装備一式を身につけていて冒険者らしくなっていた。


「おかえりなさい。よくお似合いですね、ミンクゥさん」


「くふ♪褒められると年甲斐もなく嬉しいものじゃな♪よく出来た子じゃの、レアン」


 ミンクゥは褒められて満更でもないのか、くるっと回って旅装束を見せる。


 脱ぎやすさ重視の前開きのローブが基本で、尖った耳をストールで隠すように頭に巻いていて、見た目が八歳の彼女にはよく似合っている。


「ね!サツキのセンスバッチリでしょ☆」


「……馬子にも衣装、です」


 サツキが自慢気にウインクをすると、ハヅキがひとこと付け加える。


「……ハヅキの方の意味はよくわからぬが、あまり褒められている気がせんのう」


 ミンクゥは鋭い勘で姉を見ると「フフ……」と意味深に笑われる。


「お待たせしたわね。じゃあ、出発しましょうか」


 キョーコが荷物を運び入れて御者台に乗ると、ミヤコ以外はみんな客車に乗る。


 ノーツの町の西門を出て、サツキの掛け声とともに南北に伸びる道を南に向かった。





(続)

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