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第五話 シーン十一【シュウメイの宿敵】

第五話 シーン十一【シュウメイの宿敵】





 ノーツの町の宿屋で療養をしていたレアンたちは『記憶のカケラ』というアイテムで、八英雄の貴重な映像を見ていた。


 しかし突然一階で破壊音を伴って、謎のドワーフの襲来があった。


「邪魔するぞ。ここにアカネというものがいるときいて挨拶にきた」


 荒々しい来訪者を階段の上から見ると入口のドアが粉々に破壊されていて、宿屋の主人が震えながら護身用の短い槍を構えていた。


「……まずいわね」


「キョーコさん!危ないですよ!」


 レアンが静止する間もなく、キョーコが階段を降りていってドワーフの前に立つ。


 慌てて全員後を追い様子をうかがう。


「私がそのアカネだけど?」


「おまえがそうか……。少し話がしたい、来てもらおうか」


「ええ、いいわよ」


 ドワーフと共にキョーコが武器も持たず宿屋を出ていき、ミヤコは先に主人に頭を下げる。


「旅の連れが迷惑をかけてすまぬ。あとで詫びはするからひとまず失礼する」


「わ、わかった。ここは人通りも多い。早くよそで済ましてくれ」


 主人は怯えた様子でコクコクと頷いて、レアンたちは各自の武器を部屋から持ち出してキョーコの後を追う。


 やがて裏通りの一角にたどり着くと、そこにはさきほどのドワーフに加えエルフの少年が待っていた。


 少年はこちらに気づくと、ブンブンと上機嫌で手を振ってくる。


「お、やっほ~!みんなお久しぶり~!ヴェイゼルだよん!へ~、あの時の君がそうだったんだ!どうりで解除方法まで知ってたんだ」


 セイヒツのダンジョンの最深部で戦った竜神将は、妙に親しみがある挨拶をする。


 だがレアンたちは気を抜けなくて、黙って武器を握り間合いをはかった。


「それで、何の用かしら?」


 キョーコが足を止めると、ドワーフの男がこちらを値踏みするように見る。


「何、ユグノスから八英雄に会ったと報告があってな。どのくらいの傑物けつぶつかと、挨拶にきたまでよ」


 ドワーフの表情はどこか楽しそうで、斧を下に降ろして半身に構える。


 いつでも動けるような体勢にレアンたちも構えたが、空気を読んでか知らずヴェイゼルがのんきに両手を頭の後ろに回した。


「いや~ユグノスがめちゃくちゃ怯えた感じで報告するもんだから、ナスのじっちゃんが会いに行くといい出してさ。止めるのも聞かなくて、ボクがついてきたってわけさ」


「別にわしひとりでよいだろうが」 


「いやいや……さっきいきなり宿屋壊してたじゃん。あれはさすがにまずいって」


 不満顔のドワーフに、エルフの少年は呆れた顔をする。


「そう。それで挨拶が済んだからもう帰ってもいいかしら?」


 キョーコが興味なさそうに話を切り上げようとすると、ドワーフは眼光を鋭くして斧をやや後ろに構える。


「いや、手合わせ願いたい。ワシは竜神将、ナスヨイツ。八英雄アカネよ、構えよ」


 そこで向こうの宣言に動いたのは、キョーコではなくシュウメイだった。


 師匠の前に立ちはだかるように、二人の間に割って入る。


「らおしーすまない。おいお前!名前を聞いてはっきりとわかった。お前は七年前に台国でジュンナンという男と戦ったのを覚えているか?」


 突然何をいい出したのかと全員の視線が集まり、ナスヨイツは眉を寄せて思い返している。


「ジュンナン……なんとなく覚えがある。……台国で戦った中ではかなり強かった、子連れの武闘家か?」


「ああ、そうだ!あの時はウチも五歳だったから、ドワーフということ以外あいまいだったんだ。それにウチから見ればドワーフの男はみんな同じに見えるからな」


 ドワーフの答えにシュウメイは右手をやや前に構え、左足を下げ半身に構える。


「もしかして、あの時崖に突き落とした子どもか……。よく生きていたな」


「魔物に助けられてどうにかな。……見つけたぞ、オヤジを殺した相手!」


 まさかのシュウメイが因縁に満ちた相手だったことで、全員がざわついた。


「シュウメイちゃん、敵討ちをするために世界各地を回っていたの?」


 キョーコが問うと、シュウメイは否定するように首を振る。


「違うぞらおしー!命をかけた決闘で負けたのはオヤジの責任だ。戦いで死ねたのはオヤジも幸せだっただろう。そのあと残された五歳のウチを突き落としたのは、こいつなりの情けだと今ならわかるんだ。そうだろ?ナスヨイツ」


 シュウメイが竜神将のドワーフに聞くと、彼は何もいわずに口の端を歪めただけだった。


「へ~、強い人と戦いたくなるじっちゃんなら納得できるけどさ~。それじゃあ今は戦う理由が無いじゃん」


 そこでヴェイゼルの素直な感想にシュウメイがニヤリと笑った。


「それはな……うちも戦士だからだ!オヤジを倒した相手へむくいる……それが一番の手向たむけだからだ!」


 シュウメイはナスヨイツに向かって駆けた。





「はっ!」


 シュウメイが右の拳を繰り出すと、ナスヨイツは避けずに胸に一撃を受ける。


 続けざまに連続して左右のコンビネーションで、相手の脇腹から首の横にも一撃を加えるがまるで効いた様子はない。


「ほう、あの時の小さかった娘が中々に強くなったものだな」


 ナスヨイツは斧を構え大きく横に振るうと、シュウメイが大きく後ろに間合いをとって風が遅れて空間を凪いだ。


「シュウメイちゃん、この人強いわよ」


 キョーコのアドバイスに、シュウメイは頷いて上下に軽くジャンプするようにリズムを取る。


「わかってるぞ!なにせオヤジを倒したヤツだからな!」


 シュウメイがもう一度向かい、突進すると見せかけて横に回り膝の裏に蹴りを決める。


 しかし、鈍い音がしただけでナスヨイツに斧で払われてまた少し間合いを取った。


「そんなものか?行くぞ!」


 今度はナスヨイツが斧を腰だめに構えて、シュウメイに詰め寄る。


 一撃目は上から下に振り下ろし二撃目は下から上へと振り上げ、シュウメイはギリギリの間合いで避けたがかすったようで血が飛ぶ。


「ぐっ!今のはかわしたはずなのに……!」


「シュウメイさん!今、守りの加護を……!」


 レアンが慌てて神の奇跡を使おうと刻印証を握るが、ミヤコに止められた。


「……レアン殿、これは戦士の誇りをかけた戦いだ。横から手を出すのは無作法というもの。耐えられよ」


「でも、あの一撃をもし受けたらシュウメイさんが……!」


 当たれば大怪我をしてしまう攻撃の重さに恐怖を感じたが、ミヤコに再度首を横に振られては見守るしかない。


「はっ!はあっ!」


「ふんっ!むうんっ!」


 しばらくの間ふたりの攻防は続いたが、シュウメイの攻撃は当たるもののダメージが通った様子はない。


 対してナスヨイツの一撃はかすり傷だが、シュウメイが傷だらけになっていく。


 レアンは闘技大会での巨漢カラムとの戦いを思い出し見ていられなかったが、いつでも援護できるように目を背けずに見守る。


 やがてふたりは決定打を欠いたまま大きく間合いを取ると、シュウメイは強敵と戦えた喜びなのか不敵な笑みを浮かべる。


「やはりドワーフは頑丈だ……とくにお前はな!次の一撃で倒す!」


 シュウメイは腰だめになって全身の気を練りはじめ、その場の全員がわかるほど力が膨れ上がるのを感じる。


「ぬ!気功の類か……これはいかん!」


 ナスヨイツがさせまい斧を手に踏み込んだ一撃を、シュウメイは気のこもった蹴りで横に弾き飛ばす。


 そして左手で右の手首を掴み力を集約させると、一気に間合いを詰めて手に玉をもつような形のまま叩きつける。


「喰らえ!秘技!『虎山烈波功ッ‼』(こざんれっぱこう)」


 ドウンッ!


 シュウメイの一撃がめり込んだ部分から光があふれ、鈍くて重い音が響いてドワーフの体内に気功の爆発を起こす。


「ぐうっ!」


 ナスヨイツはうめき声をあげ三歩後退すると、かなり効いたようでその場に膝をついた。


 闘技場で巨漢カラムを倒した時に近い一撃が当たったのだ、いかに竜神将とはいえ痛くないはずがない。


「勝負あったわね。かなり効いたでしょう?今日のところはこのくらいにしないかしら?」


 キョーコがいうとナスヨイツは何がおかしいのか突然笑い出した。


 その様子に仲間のヴェイゼルまで心配しだす。


「じっちゃん、大丈夫?さすがに今の痛いよね~……打ちどころ悪かった?」


「……はははは……わっはっはっは!これは愉快だ!敵の娘がワシに借りを返そうと鍛え抜いたことで、これほど強くなって目の前に現れるとはな!これが弟子というなら、八英雄はどれだけ強いのか……!」


 ナスヨイツは心底嬉しそうに笑い声をあげ、立ち上がって斧を上に掲げる。


「八英雄もいることだ、これを使わないと失礼だろう。いくぞ!『ロスト・イデアル。コード……ロアー・オブ・グラウンド・インヴォーク!』」


 そしてドワーフのもつ斧に、大きな力が集まって古代アイテムの光があふれ出した。





(続)

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