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第五話 シーン十【八英雄のカケラ】

第五話 シーン十【八英雄のカケラ】





 姉妹の不治の病はキョーコが八英雄時代にやむを得ず、ロスト・イデアルを『限界突破』した代償が引き継がれてしまったものだった。


 娘たちはそのことについて理解を示してキョーコの悩みも解決し、一時休憩も兼ねてミンクゥと女性四人でお風呂に入ることになる。


 レアンはミヤコと一緒に入り、一時間後の集合になる。


「ついとったばい……小さかけど、男の子ばついとった……」


「……世界の神秘、です」


 集合するとサツキは複雑な顔をして、ハヅキは目を輝かせていた。


「すごいな!あんなのはじめて見たぞ!お得だな!」


 ミンクゥが特殊な体のようでシュウメイは興奮していたが、何がお得なのかはわからない。


「じゃあ、続きね。あまり重い感じは疲れるだろうから、軽くね♪」


 キョーコが髪の毛を拭き終わってから、席について話しはじめた。


「ではあらためて。……私の本名はアカネ♪八英雄でぇす♪火の小さきものと呼ばれてたのよ♪」


「うわ!軽っ!」


 本当に軽いノリだったので、サツキがすぐにツッコミを入れる。


「え~?こんな感じじゃだめなの?」


「……だめではない、です。ちょっと、キツいだけ」


「そんな……ううっ……ぐすん」


 ハヅキにいわれてキョーコが嘘泣きをするが、すぐにやめて全員を見回した。


「竜脈の祭壇でユグノス相手に話したことは本当のことよ。私が八英雄だったなんて、やっぱり驚いたかしら?」


「はい。こんなに若くて綺麗な方が八英雄だったなんて信じられないです」


 レアンは正直な気持ちを口にすると、キョーコはレアンを胸に抱き寄せて頭を撫でる。


「あら~♪本当に嬉しいわ~♪やっぱりレアンくんと結婚しようかしら♪」


「そ、そんな心の準備が……うぶ!」


 レアンがキョーコにおもちゃにされていると、シュウメイが興奮したように声を上げる。


「やっぱり付いてくと決めたウチの目に狂いはなかったな!さすがらおしーだな!」


「あら~♪シュウメイちゃんもいいこいいこ~♪」


「うぐ!……息が……らおし……」


 今度はレアンの代わりにシュウメイが揉みくちゃにされて、胸で窒息しそうになっている。


「……最初からはかり知れぬ方と思っていたが、合点がてんがいった。道理で並外れた強さをお持ちなのだな」


 今度はミヤコが褒めたのでキョーコが一瞬動こうとして、さすがにそれは思いとどまったようだ。


「ま、そんなことだと思ってた☆私たちを聖女に預けたのを知ったあたりからね」


「……想定内、です。地上最強のママで二つ名持ちの有名人だし」


 娘たちはその点冷静だった。


 キョーコは軽く笑って、話を続ける。


「うふふ♪まぁ今は武器を王都の知人に預けているから、証明できるものはないけどね♪そういえば、ミンクゥと出会ったのは仲間を探していたエリック一行にスカウトされた時かしら?」


「うむ、そうだったのう。確かアカネが最後の仲間だったのじゃ」


 ミンクゥは記憶を探りながら話しているようだ。


 そこでレアンはふとした疑問が思い浮かんで聞いてみることにした。


「キョーコさん、火の小さきものってなんですか?」


「えっと……火は私の属性なんだけど小さきものっていうのはね、当時十二歳だったから身長一三〇くらいだったのよ。他の人はドワーフが一五〇位で他は長身ばかりだったし、オリアーナもエルフの娘も一七〇近くあったわね。前もいったけど、見た感じはシュウメイちゃんにそっくりだったわよ♪もうちょっと小さかったかも」


「何⁉本当か⁉らおしーと一緒なのは嬉しいぞ!」


 シュウメイが親近感を覚えて両手を握るが、娘たちは冷めた目で母を見る。


「それに関しては信用できないんだよね……」


「じーっ……疑いの目」


 するとキョーコはミンクゥを前に押しやって、両肩に手を置く。


「ほら!ここに証人がいるから!」


「さて、どうだったかのう……くふふ♪」


 だがミンクゥは意味深に含み笑いをして、両手に乗るサイズの球体のついた装置を机の上に置いた。


「ここに取り出したるは『記憶のカケラ』と呼ばれる古代のアイテムじゃ♪眠る時に近くに置けば好きな思い出や作り話を夢で見せてくれ、他人にも自分の記憶を映像として見せることが出来る夢の商品なのじゃ♪」


 ミンクゥの行動にキョーコが驚きの声を上げる。


「……ちょっとミンクゥ、あなたまさか……!」


「いいじゃろうて♪娘や信頼の置ける仲間なのじゃろう?歴史のほんの一瞬を紐解くだけじゃ。それでは、神竜戦争の一部をご覧あれ♪」


 ミンクゥが装置に手を置いて目を閉じると、空中に映像が浮かんだ。





 広い荒野の上に高い崖があり、そこに男女八人が立っていた。


 種族も性別年齢さえもバラバラな彼らは、遠くの光景を見ているようだ。


「これは今から約二〇年前、八英雄たちが最終決戦に挑む直前の光景じゃ」


 ミンクゥが解説するとやがて先頭の数人の顔がアップで映り、その中にレアンは知っている姿を見つけた。


「このふたり……人間の耳で金髪の人はボクの両親ですね。こちらの銀髪の方はエリック様じゃないでしょうか」


 二十代半ばの剣をもつ男性がジョルジュで、二十歳くらいの法衣を着た女性がオリアーナだとすぐわかる。


 父と同い年の槍をもつ男性がエリックだというのは、何度か面会したことがあるからわかったのだ。


「はわ!若いレアンのパパイケメンすぎない?クールな貴公子って感じだぁ……素敵。あ、このもちもちふわふわした感じの女性は……うん、オリアーナママだ」


「……これがエリック王。こちらも負けず劣らずの美形……さすがレティの父上。こっちはミンクゥだけど、隣の女の子がもしかして?」


「……うん、十二歳の私よ」


 話が盛り上がっている中、答えたキョーコはなぜか複雑な表情だった。


 たしかにシュウメイに体型は似ていて、背が小さい割に一部が大きく主張しすぎている。


 顔はフードのようなものをかぶり目元以外完全に覆われているが、それ以外は露出の多さに見るのをためらうレベルだった。


「サツキがこんなこというのもあれだけど、格好攻めすぎだよ!」


「……はれんち、です。レアンは見ちゃだめ」


 レアンまで飛び火して、慌てて視線をそらす。


 キョーコはというと、正直な感想に下を向いて小さくなる。


「うう……いわないで。当時は人に見られてるの意識していなかったから……今の自分が見ても恥ずかしいわ。ミンクゥ……だから見たくなかったのよ~」


「くふふ♪今見ても扇情的な格好よのう♪」


 ミンクゥはいたずらが成功したみたいに、子どもっぽい笑みを見せる。


「あとのヤツはなんだ?……ドワーフの親父とエルフの女と……あとひとり、こいつは全身ローブで顔も見えないぞ!」


 シュウメイが他の八英雄を見て指摘すると、ミヤコがキョーコを見て質問する。


「……もしやだが、この杖を持った方はダンジョンで見た竜司祭か?」


「……さすがミヤコさん、よく気づいたわね。私だって正直ダンジョンで会った時、すぐに気づかなかった。当時ほとんど喋らなかったし、顔も見せなかったから。そんな彼が今どうして竜神将を指揮しているかわからないわ」


 キョーコは思いを巡らせていたが、やがて映像の方はミンクゥが巨大な黄金のドラゴンに変身して八英雄たちが背に乗った。


「うわ!変身した!」


「……格好いい、です。パパすごい」


「そうじゃろそうじゃろ♪」


 はしゃぐ娘たちに、ミンクゥはご機嫌だ。


 ドラゴン形態のミンクゥは七人を乗せて崖から羽ばたくと、荒野の全貌が明らかになりみんなが息を呑む。


 平地部分には人間たちの部隊が、荒野に数万の単位で待機していたのだ。


 一番数が多いのはフェルナ王家の国旗『槍を持った有翼人』の騎馬部隊で、次にレアンの故郷の当時はリーセ公国だった国旗『剣と聖杖をもった聖者』の歩兵部隊。


 他は北方連合や南方のダッカサン共和国や各地方の部隊もある。


「後で知った話じゃが、この最終決戦では五万の兵が戦ったらしい。しかしここにたどり着くまでにかなりの犠牲者が出て、当時先陣を切っていたフェルナ国王ジェロームはその時に戦死したのじゃ」


 ミンクゥが戦状を説明して、戦いは始まった。


 八英雄が大空へ飛び出したのを皮切りに、地上の部隊は一斉に眼前に広がる敵へと向かっていく。


 待ち受けるのはサイズが最小でも五メートルある、トカゲのような地上で活動する竜の仲間たちだ。


 その数、数千。


 やがて竜の背に乗った八英雄は、敵の中心にいる超巨大な地竜ヌヴァタグに立ち向かっていき……そこで記憶のカケラの映像が途切れる。


 音もなにもないのに凄まじさが伝わり、途中からミンクゥ以外全員が黙ってしまった。


「これが神竜戦争ですか……。ものすごい戦いだったんですね。あの巨大な神竜を倒せたのはすごいです」


 レアンがどうにか口を開くと、キョーコが首を横に振る。


「倒した?ううん、どうにか封印できたが正解よ。三〇メートル以上ある世界を作った竜……創造神を滅ぼすなんて傲慢ごうまんだわ」


「そうじゃの……。ただレアンたちはこの神竜戦争があったことは覚えていてほしいのじゃ」


 キョーコの複雑な思いが垣間見え、ミンクゥが同調してレアンや他の四人を見た。


 神竜の血を引く彼女に、全員が深く頷く。


 歴史では他に、古代文明イリアス・ファドゥの人間と神竜八体の戦った最終戦争がある。


 その戦いで神竜たちは傷ついて地上から姿を消して、世界の大部分の大陸は消滅したか、砂漠や凍土に覆われて人が住めなくなってしまう。


 そして文明を捨てた人間のわずかな生き残りが、エルフとドワーフしかいない未開拓の大陸に移動して、新しく世界を築いていったのが今の中央大陸の歴史なのだ。


「そういえば名前に上がらなかったマルウィアルやグドルフはまだ健在かの?」


 ミンクゥが名前を上げると、キョーコは下唇に指を当てて考える。


「マルは知らないけど、グドルフは今も王都にいると思う。時間が取れたら行くつもりだったし」


「ほほう。それは楽しみなのじゃ♪」


 そんなやり取りにサツキが疑問に思ったのか、ふたりを交互に見る。


「ママやミンクゥさんは仲がいいのはわかったんだけど、なんか夫婦というより友だちに近い感じがするんだよね。サツキの勘違いかな?」


「……悪友、です」


 妹の意見に同意してハヅキも頷くと、当人たちは顔を見合わせて笑った。


「うん、私としては友だちというか仲間って感じね♪」


「そうじゃの……一緒にいても気を使わないパートナーという感じじゃ♪」


 しかし二人の回答をサツキは不満に思ったのか、真剣な目で両親を見る。


「じゃあふたりは好き同士じゃないの?そんなに好きでもないのにサツキたちが産まれたの?」


 その言葉にキョーコとミンクゥは互いを見て、少し考えてからキョーコが口を開いた。


「えっと……ミンクゥと関係を持ったのは、発情期のお相手を担当したからね。だってそうじゃない?聖女オリアーナやハイエルフの筋金入りの生娘きむすめに相手をさせるわけにはいかないから。私は夜戦の訓練も受けていたし、ほっとくとイケメンお兄さん襲いそうだったからね。このエロドラゴン」


「くふふ♡やわらかいメスのほうが好みじゃが、穢れを知らぬオスも捨てがたいの♡」


 ミンクゥはレアンを見てウインクして、見た目にそぐわない色気に顔を赤くして視線をそらす。


 するとサツキは怒って大きな声を出した。


「そげんことやなか!ふたりが愛し合って生まれたんって聞いちょるんよ!」


 剣幕に両親は驚いて、それからキョーコは寂しげな表情を見せる。


「……好きだけど夫として愛してはいないわ。ミンクゥと八英雄時代から四年近く一緒に過ごして、ある時ミンクゥが体の維持のために眠りにつく時ものすごく寂しくなってね。だから子どもがほしいってお願いしたの。相方が願わないと行為そのものでは竜の子どもは出来ないから。……ワガママなママでごめんね」


 キョーコの声から誠意が伝わったのか、サツキはキョーコに抱きついて胸に顔を埋める。


「そっか……寂しいのは仕方ないよね。怒ってごめんね。サツキだってレアンがいなくなったらって思うと……」


「サツキさん……」


 レアンはその言葉に胸が締め付けられる。


 この冒険には終わりがある。


 それはレアンの故郷まで同行することが母娘のクエストであり、約束だからだ。


「こんなに純粋な娘に育っとるとは驚きじゃ……。いい子じゃのう」


 ミンクゥがしみじみと娘たちを見ていると、突然宿屋の一階から何かの破壊音と悲鳴が起きた。


「……何事だ?」


 出口に一番近いミヤコがまず外に出てレアンも追いかけると、宿の入口で斧を持ったドワーフが声を上げていた。


「邪魔するぞ。ここにアカネというものがいるときいて挨拶にきた」


 荒々しい来訪者に、キョーコの目が細められた。





(続)

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