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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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三英傑の負傷と対策装備


 あの後、良い感じにできあがった俺はそのまま宿に帰っていった。

 ライナが俺の帰り道を心配していたが、別に道端にゲロを撒き散らすほど酔ってはいないし、俺を送った後でライナが一人で夜道を歩く方が心配だ。気遣いだけ受け取って部屋に戻り、ウイスキーの味を思い起こしながら眠りについたのだった。


 翌日の予定は決めていた。祭りで汚れた街中を掃除するため、清掃任務を受けようと思っていたんだ。

 外での飲食マナーなんて渋谷のハロウィンの比じゃない。どこを見ても無法地帯ここに極まれりといった惨状で、とてもじゃないがこんな街で暮らしたい気分にはなれない。俺がよく使う道だけでも綺麗にしとかなきゃ我慢できん。


 だがギルドについてみると、そこでは珍しくディックバルトたちが居たのだった。

 副団長のアレクトラも二日酔いでしんどそうな顔をしているが、しっかり装備を着込んで先に着いている。

 収穫の剣の偉い奴らが揃って一体何をしているのやら。


 そう思って軽く尋ねてみたら、俺の想像以上に深刻な事態に苛まれているようだった。




「ギルドマンの3人が負傷……って、おま……」

「──ヒーラーによる手当ては受けたため、後遺症の心配はない。──迂闊だった……俺が、もっと指導しておくべきだったのだ……」


 昨日、ギルドマンの三人の男が負傷した。彼らはそれぞれ所属するパーティーもバラバラで、接点はない。あるとしても昨日ギルドで飲んでいたくらいのものだろう。

 一体何があったのか? それはわからない。


 ただ、三人の男は共通して、自分のケツ穴に剣の柄を突っ込み、それが取れなくなっていたのである。


「──幸い、ショートソードだった。ロングソードであったならば、また違った悲劇を起こしていたやもしれぬ……」

「……団長、あんまり汚ねぇ話をしてくれんなよ。アタシはただでさえ頭が痛いんだ。これ以上はよしてくれ……」


 持って回ったが、つまり。

 あれっす。


 男達は未知の快楽を追い求めた末に、己のケツにショートソードを突っ込んだわけなのだ。


 もちろん本人達はそんなことは認めていない。

 “え? いやー酔っ払ってて悪ふざけしてたんだよね。気付いたら抜けなくなっててー”。

 そんな風に供述しているという。


 だが同じ日に三人もの男がケツにショートソードを生やして診療所に駆け込んだのだ。同時多発的にそんな地獄みてえな悪ふざけが被ってたまるもんか。

 当日彼らを担当したヒーラーが本気でかわいそうになる。その時の担当者がカスパルさんでないことを願いたい。


 それにこの世界にヒーラーとポーションがあって本当に良かったと思う。もしそれらがなかったら、彼らはケツにショートソードを突っ込んだもののそれが抜けないまま死んでいたかもしれないのだ。三国志の世界なら何らかの感染症になる前に余裕で憤死するレベルの生き恥である。

 俺としても酒のテンションとはいえ持ち出したこのネタで人死にが出なくて本当に助かった。俺のせいで死んだんじゃ胸糞悪いじゃ済まされない。ケツだけに。ガハハ。……笑えねえ。


 ちなみに、今回診療所のお世話になった男三人はこれを機に「レゴール三英傑」と呼ばれている。心の底からどうでもいい。


「──第二、第三の“三英傑”の出現は止めねばならん。人は快楽を追い求めるもの……だが、正しき知識がなければ、転じて激痛や、災いにもなりかねん。──再び悲劇を繰り返さないためにも、俺はしばらく異物挿入の警告に努めるつもりだ」

「そう……まぁ、そうだよな……怪我なんかされたら俺としても後味が最悪すぎるわ……」

「──モングレルは悪くはない。人は快楽を追い求めるものなのだ。……ただ、道の先を行く俺たちには、後続を正しく導いてやる義務がある。それだけに過ぎん」

「ごめん、俺を先に進んでる扱いするのはやめてくれないか」

「──なので、掲示板にこのようなものを貼り出すことにした。異物を挿入する際の注意喚起をまとめたものだ。アレクトラにも手伝ってもらい、今しがた完成したものになる」

「聞いてくれよモングレル……団長はすぐにどうでもいいアドバイスとかを書き足そうとしてくるんだ……」

「……おつかれ」


 小さな羊皮紙のポスターには、ケツでお遊びする際の注意点が簡潔にまとめられていた。

 ちゃんと抜き出せる形のものを入れる。滑らかなもの以外は避ける。またその際にはジェリースライムのペーストを水で二倍に希釈した浄化潤滑液を併用すること……なにそれ、そんな使い方もするのジェリースライム。でもこれ精霊祭翌日にやっていい所業じゃねぇよ。月の化身をペーストにしてケツに突っ込むって魔女の邪悪な儀式レベルじゃねえかよ。


「──未知の探究は悪いことではない。だが、我々ギルドマンは蛮勇をもって臨むものではないはずだ。常に万全を期して、進んでゆきたいものだな……──その歩みが、遅いものだとしても……」


 良いこと言ってるけどこれケツに異物突っ込む話してるんだよな……。


「あーあー、男はなんでこんなバカばっかなんだかねぇ。まさか浮いた話のねぇモングレルまでバカだったとは」

「俺は別にケツに変なもんは突っ込まねえよ……」

「──そういうことにしておこう」

「いやそういうことなんだよ。やめろその目を」


 しかし俺が発端でケツをボロボロにするギルドマンが増えるのは嫌だ。忍びないとか申し訳ないとかじゃなくてシンプルに嫌だ。

 将来的に「レゴールのギルドマンの尻を破壊し尽くした男」とか呼ばれないためにも、早いうちにこのきったねぇ啓蒙活動には乗っておくべきか……。


「これつまり、形の変なものを入れるから抜けなくなるんだろ。何か専用の、安全なものを使えば大丈夫ってことだよな」

「こらモングレル、止めるんじゃないのかよ!」

「いや俺もバカだとは思うけど、男ってやる奴はやるからさ……」


 前世でも普通にいたからね、変なものをケツにいれちゃってお医者さんの世話になる奴。

 ペンとかはまだ普通で、電池とかひどいのだとイクラだとか……。

 男の快感への飽くなき渇望は、IQを100くらい下げるからな。止めようと思って止められるものではない。だったら安全なやり方を啓蒙して被害を食い止める他にないだろう。


 ……俺は祭りの翌日に何をやってるんだ……?

 ふと冷静になりそうになったが、自分のケツくらいは拭かねばなるまい。ケツだけに。ガハハ。


「──俺が使うものであれば、形はこうなっているな」

「ほー」


 掲示板の黒板部分に、ディックバルトがチョークで図案を書いてゆく。

 ぐねっとした形の道具で、あー……なんだっけ。エマネ? エネマ? とかいう名前のジョークグッズだった気がする。

 ケツに突っ込むおもちゃだ。


「ちょっとそこの方たち! ギルドの掲示板に変なもの描かないでください! 後でちゃんと消してもらいますからね!?」


 受付からエレナが怒ってる。正論100%だ。何も反論できねえ。


「これが滑らかな材質でできてれば、まあ安全なわけか。こっちの部分は入りようがないからな」

「──うむ。もちろん浄化潤滑液に頼らず、これ自体もよく研磨する必要はある」

「きったねぇ話しやがって……あー頭いてぇ」

「なるほど……」


 正直図案を見る限り「こんなもん人体に入るのか?」って気持ちになるが、まぁ多分入るのだろう。

 それはそれとして、俺はこの道具に少し思うところがあった。


「ディックバルト、こういう道具を作ったら売れると思うか?」

「──売れる。店が取り扱っているものではないし、既存の類似品から俺が最終的に行き着いたのがこれというだけだが……これならば、高額で販売できるだけの力がある」

「ほーう……なるほど、こういう方面で金を稼ぐのもアリか……」


 アダルトグッズは人の欲望そのものだ。金に糸目をつけない者も多いだろう。

 なにより、見本として現物が存在することによって、「ケツに入れて良いのはこういう形なんだ」というイメージが一般に広まるかもしれない。

 いや、別にこういうのを入れて良いってわけでもないんだが。


「──そういえば、モングレルは市場に己で作った商品を出しているのだったな」

「ああ、発明品をな。あんまり売れねーけど」


 それでも昨日の祭りで何かしら動きはあったはず。

 その確認もしておかなきゃな。


「──良いものができたら、俺を呼んでくれ。感想と評価ならばいつでもしてやろう」


 そう言ってディックバルトはニヤリと微笑んだ。

 ……感想、聞きたくないです。はい。




 それから俺は都市清掃もせず、川辺に行って材料の加工を始めた。

 ホーンウルフの大きく太い角は磨くと滑らかで、適度な硬さとしなりがあるのでそれを加工してアダルトグッズを作ることにしたのだ。うまくできれば安全の啓蒙と同時に良い収入になるかもしれん。

 祭りの翌日に俺は川で何作ってんだって虚無になる気持ちがちょくちょく湧き出たが、なるべく考えないように角を削ってゆく。俺の馬鹿力を発揮する場面だ。


「ふう……こんなもん……かなぁ?」


 ディックバルトの図案を見てだいたいの形はわかった。しかしサイズ感は微妙なところだったので、汚ねぇ話ながら俺の息子さんに形の比較を手伝ってもらいつつ、アダルトグッズは一応の完成を見た。

 まさか作ったからと言って自分のケツにぶち込みたくはなかったので、「使用感が悪いです」というレビューが来たらどうしようかと思ったが、まぁそこまではしらんってことで。

 それをいくつか作っておき、入念に研磨して……まぁ良しとした。


 川の水に濡れ艶かしく乳白色に輝くアダルトグッズ。

 ……これ以上眺めているとなんか死にたくなりそうだな? さっさと黒靄市場で売り出してもらうとしよう。




「へえ、こんな道具があるんだな。良い材料使ってんのにもったいない……」

「俺もそう思ってるんだよ、メルクリオ。まぁ材料費込みで高く売りつけてやってくれよ。多分物好きが買うだろうからさ」

「まぁ構わないがね。ああ、洗濯板は全部売れきったよ。ありゃ流行るかもしれんな」

「ああ本当か。そいつは嬉しい報告だ」


 黒靄市場も祭りのせいでより一層小汚くなっているが、なんでも売りつけるこの一帯にかかれば落ちてるゴミも商品になり得る。

 そのせいか現状では表の大通りよりも幾分か綺麗にまとまっているようにも見えた。


「あとこの道具を買う奴がいたら、ついでにこの注意喚起の羊皮紙を見せてやってくれ。使い方と注意が書かれてるからな」

「へぇ。これもモングレルの旦那が?」

「馬鹿言うなって、ギルドの詳しい知り合いだよ」

「ハハハ。わかったわかった、そうするよ。まぁ売れるかどうかはわからんから、気長に待ってもらえると嬉しいね。それよりは洗濯板だよモングレルの旦那。周りが真似する前に、あれをもうちょい値上げして出そうじゃないか。もうしばらくあれで稼げるから、増産してくれないか?」


 どうやらメルクリオは洗濯板の売れ行きに興味があるらしい。よほど売れた感触が良かったのだろう。こういう時の商人の勘は頼りになる。

 ……俺も祭りで金を使ったし、確実な方法で金を稼いでおくか。まだ魔法商店での散財も予定してるしな。


「じゃあすぐに作って持ってくるよ。鉋はできてるから一日待ってくれれば問題ない」

「ああ、楽しみにしてるぜ」




 そうして俺は洗濯板の製作に取り掛かった。角の加工の次は板材だ。都市清掃にかかりたいが忙しいのだから仕方がない。

 力一杯鉋をゴリゴリ使って、俺は半日で20枚の洗濯板を仕上げてみせた。鼻の穴が木屑臭いぜ。


 で、翌日にはその板をまとめて担ぎ、再び黒靄市場へと向かったのだが。




「モングレルの旦那。旦那が作ったあのいかがわしい道具、昨日のうちに全部売れちまったよ」

「Oh...」

「足元見てジェリーもふっかけたんだがねぇ……」


 メルクリオから告げられたのは、まさかの完売である。

 別に広告の掲載もしてないのになんでそうなるんだよお前。


 ギルドマンか? ……ギルドマンっぽいよな。話聞いてた奴らが道具を探してたのかもしれない。やはり男のロマンは止められないのか。


「なぁメルクリオ、参考までにどんな奴らが買ってったかわかるか? ひょっとするとそいつらは三英傑かもしれん」

「誰だよ三英傑ってのは……商品が商品だからなぁ。モングレルの旦那とはいえ、客の詳しいことは言いたかねえよ」

「ああそりゃそうか。すまん」

「まぁ男二人と女一人とだけ言っておくよ」

「女が買ったのかよ!? 水商売で使うのか……?」

「さぁねぇ。若くて綺麗な子だったが……もしかしたら仲のいい男相手にでも使ってやるんじゃないかね? 人の趣味はわからんもんだね。クックック」


 好調すぎる売れ行きに思わずアダルトグッズの増産が頭をよぎったが、そんなものを作るよりは洗濯板の方がずっと儲かるし楽だし人の生活に役立つので、これ以降は作るのは取りやめにした。


 万が一、いや、億が一にでも俺の正体がケイオス卿とバレた時、アダルトグッズも作ってましたなんて言われるの嫌だし……。

 ケイオス卿のブランドに傷が付くからな……。




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― 新着の感想 ―
お医者さん「何故入れてしまったんですか?」 患者「たまたま転んだ所にショートソードの柄が」 お医者さん「縦に?」
おばか!!!! これ流石にコミカライズでは描かれないだろうな……描かれないよね??
普通に娼館とかのそういう店に卸せよ・・・・ 【お尻遊び】用のもそうだけど洗濯板も
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