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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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鍋の蓋と落とし穴


 ライナと共に歩き、川に近い拓けた空き地にやってきた。

 王都産の魔除けの香草ほどではないが、野生の魔物が忌避する野草が自生している。完全な安全地帯というわけではないが、俺の経験上この野草が生い茂っている場所はそれなりに静かに夜を過ごせるし、ベースから離れても荒らされにくい……はずだ。


「ここにテント張っときゃ大丈夫だろうな。……大丈夫だよな?」

「んー……獣の通った跡もほとんどないし、確かに安全そうっスね」

「それじゃあ建てとくか」


 というわけでベースキャンプを設置することにする。

 テントを建てて、かまどを整えて、ついでにトライポッドになりそうな手頃な枝を集めて調理器具の下準備もやっておく。暗くなってからやるのが大変な作業は明るいうちに全部済ませておくのが野営の鉄則だ。


「それじゃあ狩りに出発っスね!」

「おう。あ、でもその前にちょっとだけ、近くに鳥用の罠だけ作っておくぜ」

「鳥っスかぁ。獲れるものなんスか?」

「捕獲できるかはさすがにわかんねえけど、設置は楽だからとりあえずな。俺の故郷での実績はそこそこあるけど、バロアの森だとどうだろうな……ま、ものは試しさ」


 まずは地面に適度な穴を掘る。膝下くらいの深さで、直径はわりと自由でいいんだが、今回は鍋より少し広い程度にしておこう。


「な……なんスかこれは?」

「今回作るのは原始的な鳥用の落とし穴だ」

「え、鳥って空飛べるんスけど……」

「そこで重要になってくるのがこの鍋の蓋なわけよ」


 落とし穴の近くに生えている低木の枝に紐を結びつけ、鍋の蓋と結びつける。結ぶのは蓋の真ん中にあるツマミ部分だ。

 これを垂らすと……。


「あー、この鍋の蓋が落とし穴の吊り床? 吊り天井? になるんスね」

「そうそう。例えばこの鍋の蓋に重めの石を乗せると……蓋が傾いて石が穴に落ちていく」

「おー……えー? まぁ落ちはするっスね……」


 あとは落とし穴の周囲にパラパラと麦とか雑穀を撒いておけば準備完了だ。

 しかしライナは何度か石を乗せては落としてを繰り返し、釈然としないような顔をしている。


「……ぐらっと傾いた瞬間に逃げちゃいそうっスけど……」

「まぁそういうこともあるかもな。けど鳥って結構この手の警戒心が緩いっぽいから、意外なほど引っかかってくれると思うぜ?」


 なにせ俺のいた村ではちょくちょくこいつに引っかかってくれる鳥が多かったからな。

 ただ後になって捕獲NGの鳥の存在を知ったせいもあって、バロアの森ではほとんどやらなくなってしまったが……この落とし穴は殺傷能力はほぼゼロなので大丈夫だろう。ギルドマンの規約にもこの手の鳥類罠の違反はなかった……はずだ。


「罠は準備よしだ。さ、俺達は能動的な狩りに出かけるとすっか!」

「すっス!」




 今回の討伐は無目的だが、俺達の求めるものとしては食えるやつらが良い。

 ボアでもディアでも、当然鳥でも。

 そんなわけでベースキャンプを中心に川の方面をざーっと歩いて回っているのだが、これが上手くいかない。


「いないっスねー……痕跡も古いまんまっス。居着いてるって感じじゃないんスよねぇ……」

「さっきのゴブリンとボアまではいそうな感じが漂ってたんだけどなぁ……」

「比重を鳥狙いに切り替えて探索しとくっス」


 森が不安定ということは、獲物が多い時もあれば少ない時もあるということなのだろう。

 この日はライナも狙いを絞り、地上よりも樹上に切り替えるようだった。

 仕方ない。そういう日もあるわな。俺はこういう日があるかどうかも自分でわからないので、空振る時は盛大に空振るからわからない感覚ではあるんだが。


「あ、セディバードっス」

「お。前に狩ったことあるやつだな。……あんま美味くないんだっけ?」

「っスねぇ。まぁでも狩りやすいんで、狙える時は狙うっス」


 沢と呼ぶのも憚られる、濡れているだけの水辺にセディバードはいた。

 岩に生えた苔の上をトットットと歩き、餌となる貝類を探しているようだ。


 ライナは矢筒から細い矢を取り出すと、特に気負う様子もなくチャッと構え、俺からすると速射みたいな素早さで矢を放った。

 驚くべきはそれが正確にセディバードに命中したということだろう。

 ……矢の先端は鏃ではなく錘になっていたようで、セディバードは衝撃で倒れているようだった。


「お見事。鮮やかだなぁ……流れるように締めるその動作も」

「え? ああ、気絶してるだけって時も多いスからね。早めに締めるのが吉っス。こっちの矢は回収も楽なんで、鳥だけ狙うにはおすすめっスよ」


 燕のような尾部を持つ白っぽいセディバードは、首を軽く捻られて昇天した。

 鳩サイズの鳥だが、これだけでは二人分の飯には足りないだろう。


「あ、向こうにマルッコ鳩! 先輩、あれわかる? あの丸っこいの」

「ははは、全然わかんねぇや」

「あんなに目立ってるのに……」

「ライナが撃ち落としてくれるまではわかんねえよ。色が風景とほぼ同じだからな……」

「しょうがないっスねぇ……」


 しかしまあ、ライナに任せておけば今日の食事に困ることはないだろう。

 出会った頃はまだまだ不慣れそうだったライナも、今ではすっかりバロアの森を庭のように歩き回れている。

 頼んだぜライナ……あっ、撃ち落とされたマルッコ鳩見えたわ。そこにいたんだ。へー……やっぱわかんねえよこれ。




 結果として、ライナは三羽ほどの鳥類を仕留めてくれた。

 セディバード一羽にマルッコ鳩二羽。まぁまぁの成果であるが、これでも二人で分け合うと結構カツカツな肉量だろう。とはいえ、俺達も食材皆無で入ってきたわけではない。パンも穀物も調味料も色々と持ってきているし、腹が減るということはないはずだ。

 ライナが狩猟している最中は俺も俺で茂みで食えそうな野草を採取してたしな。汁物の賑やかしくらいにはなってくれるだろう。

 それに、罠の成果によってはまた話が変わってくる。


「さて、ベースに戻ってきたが……」

「なんかガサガサ音してるっス!」

「絶対これ罠になんか掛かってるやつだろ」

「罠は気配でわかるから良いっスね」

「いやー気配ない時もあるぜ?」

「そうっスか?」

「……これはやっぱり俺が気付いてないだけか……?」


 仕掛けた鳥用落とし穴の近くまで行くと、吊るされた鍋の蓋の下からポーポー鳴き声が聞こえる。こいつは間違いなくいますねぇ……。


「あー、これ鍋の蓋の重さで飛び出せないんスねぇ」

「そもそも鳥ってのは垂直に飛び立つのが苦手ってのもあるしな。ライナ、中にいるのなんだと思う?」

「マルッコ鳩じゃないスか?」

「……回答に迷いがないな。アッシュバードも似たような鳴き声じゃないか?」

「いやいやこの間抜けな感じはマルッコ鳩っス」

「マジかよ……見てみるか。オープン! ……うわ、マルッコ鳩だ」

「ふふぅん」


 鍋の蓋を持ち上げてみると、穴の中には一羽のマルッコ鳩がいた。まるまる太ったように見える鈍臭そうな体型の鳩である。

 罠にかかってさぞ怯えているだろうと思ったが、マルッコ鳩は俺たちが頭上にいるにも関わらず、穴底の縁辺りに散らばった雑穀類をちまちまとつついて食べるのに夢中のようだった。

 うーん、これは間抜けだ。


「マルッコ鳩三羽目っスね!」

「ポ!?」


 ライナに確保されて今更驚いたような声を上げるマルッコ鳩は、その後あえなく首をコキャッとされたのであった。

 丸々してて可愛い鳥であろうと俺たちに容赦はないのである。




「いやー、こうして羽根毟るのも懐かしいっスね」

「こういう地味な作業は無心になれて時々やりたくなるよな」

「わかるっス」


 水辺に行ってライナと横並びになりながら鳥の羽根を毟る。

 こうしてちまちました作業をライナと一緒にやるのはいつものことではあるんだが、今日はまた一段と座る距離が近い。


「……こうやって先輩と二人きりでゆっくり過ごす時間、ずっと欲しかったんスよ」

「……鳥の羽根毟った手じゃ撫でてやれないから、そういう話は後にしてくれる?」

「後ならいいんスか? えへへ」

「まあ最近はずっと新居の事とかで忙しかったからなぁ……ようやく落ち着いていつも通りの時間を過ごせてる気はするよ」


 色々と非日常があった。

 森の中でサングレールの兵たちが隠れ潜んで、後光のサルバドールと戦って……。


「モングレル先輩がいつも通りでいてくれて嬉しいっス。モングレル先輩はたまに……なんか、こう……遠い目をしてるから」

「してるか? 遠い目……自分じゃよくわかんねえけど」

「ほら、精霊祭の時だって……モングレル先輩が歌ってた時、遠くへ行っちゃいそうな歌を歌ってたし」

「あれはお前……歌は歌だよ。ライナも聴いてたよな? いい歌だっただろ?」

「……はい。いい歌だし……なんかいつもと違くて、格好良かったっス」


 ライナは恥ずかしそうにぶつぶつとそう言った。


 ……そういえば、精霊祭で披露したなんちゃってスリーピースバンドの曲を聞いた後でライナから告白されたんだったな。

 ひょっとしてライナ、お前バンドマンに一目惚れしちゃうタイプだったのかい?

 いや、それならそれで別に俺としちゃ嬉しいだけだけどさ……。


「また今度弾き語りを聴かせてやるよ。俺は他にも色々な良い曲を知ってるんだぜ」

「変な曲じゃないスか?」

「変な曲……だけじゃねえって! 本当に良い歌もあるんだよ。本当に数え切れないほど……俺が覚えていられなかったくらい、マジでたくさんあったんだよ」

「えー? じゃあ……今度じっくり聴かせてもらいたいっスね!」


 ああ、是非ともライナには聴いてもらいたいんだ。

 俺の故郷の曲たちを。俺以外に語り継ぐ奴のいない名曲たちを。

 飽きるほど繰り返し聴いて楽しんでもらったら、いつか一緒に口ずさめるようになってほしいんだよ。……元地球人としてはね。



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― 新着の感想 ―
あ、向こうにマルッコ鳩! 先輩、あれわかる? あの丸っこいの この台詞ライナっぽくないですな
イチャイチャの中に深刻なセンチメンタルねじ込んでくるスタイル…それは突き刺さるんだよ…
腐るほどある名曲…… きっとその中には、伝道師に仕込まれた、腐った名曲がいくつもあるに違いない で、取っちゃいけない鳥とかその理由と、野獣の眼光先輩はどっちが先に出るんだい?
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