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鳥を連れて狩猟帰り


 今日の討伐は日帰りだ。バロアの森の浅いところで、トゥーちゃんに斥候してもらって狩りをする。

 色々と初めてとなる試みが多いらしいので、まあお試し回だ。そもそもライナも、本格的にトゥーちゃんを任務に連れていけるようにしたいというほどではないらしい。

 “多分無理だろうけど試してみる”ってやつだ。チャレンジ精神は何より大切だと思う。

 俺としては、結構上手くいくんじゃねえのくらいに思っちゃうんだけどな。現実が見えていないだけかもしれないが。


「マモノ、イタ! マモノ、イタ!」

「マジっスか!」

「おお、ついに見つけたのか?」


 何度かトゥーちゃんを空に飛ばし、場所を移動しながらやって五回目くらいだろうか。ついにトゥーちゃんは魔物を見つけたようだ。


「マモノ、マモノ」

「そっちの方向ってことスね」

「追ってみよう。さて、何が出てくるかな。食えるやつだと良いんだが」

「ゴブリンだったらちょっと残念スね」

「そもそもトゥーちゃんは人間とゴブリンの違いがわかるのか?」

「さすがにわかってほしいスけど……どうっスかねぇ……」


 途中までトゥーちゃんに先導してもらい、ある程度進んだらライナの矢筒に留まって休憩してもらった。そんなに常に滞空できる鳥でもないもんな。あとは人間様の仕事だ。

 そして、やがて春の草花を踏みしめながら進んでいくと、森の奥の方から何かの気配がした。


「先輩、弓だけ準備しとくっス」

「わかった。前に出る準備だけはしておく」


 バスタードソードは既に抜刀し、臨戦態勢だ。いつでもライナの前に飛び込んでカバーできる。念の為、時期が時期なもんだからイビルフライにだけは警戒を厳にしておく。トゥーちゃんが鱗粉浴びたら酷く混乱しそうだからな。

 ライナは弓を構えたまま、ジリジリと前に出ていく。


「……チャージディアっス」


 俺の方からもその姿が目に映った。

 地面に座り込んでいた姿勢から、俺達の接近を感じ取ったのだろう。警戒するように辺りを見回した後、身体をまっすぐこちらに向けている。

 普通、この手の視界の広い動物ってのは横向きになることで相手を視界に収めるもんだと思うんだが、チャージディアの場合は違う。視界に収めて身構えるのではなく、角を向けて突撃の準備をするのだ。逃げる気が一切ない。


「トゥーちゃんのおやつが豪華になるな」

「私たちの晩御飯も豪華っスね」

「ブルルッ」


 姿勢を低くし、突撃の予兆が見えた。おー、来るぞ来るぞ。

 ……だが、さすがに獣の突進と弓矢の直進とじゃ、戦いにはならないだろうな。ライナは既に矢を引き絞っている。


「“貫通射(ペネトレイト)”!」


 スキルが発動し、矢が放たれた。貫通力の強化された矢は真っ直ぐにチャージディアの頭部へと着弾し、二本の角の間を通って頭蓋骨を粉砕してのけた。

 駆け出し始めた直後の身体はすぐさま脱力し、地面に倒れ伏せる。矢はチャージディアの頭部を半壊させ、藪の向こうへ突き抜けていったようだ。当然、チャージディアは即死だ。痛みもほとんど感じなかったことだろう。


「……ふぅー……なんとか良いところに当たったっス」

「いやぁ、前にも何度か見たが良い腕前だなぁライナ」

「あざっス! 背中の肉も傷めなくて済んだっス」


 確かに脚、背中の辺りの肉が無傷で手に入れば最高だ。そういう意味でもヘッドショットを狙うのは理に適っている。まあ、弓使いはリスクもあるから安全を取るならもっと狙う場所は妥協しても良いんだろうけどな。

 ちなみに大外れは膀胱だ。弓でも剣でも魔法でもここを傷つけると大変なことになる。理由は言うまでもないだろう。


「小ぶりのチャージディアだな」

「食べ切るには良い感じのサイズっスよ」

「だな。よし、運搬は俺がやろう。解体は一緒に頼むわ、ライナがやったほうが俺より上手いしな」

「うぃーっス」


 バロアの森の中でも浅い場所だったので、水場もわかりやすい場所にある。適当にドボンと沈めて、ちょっとして冷えたら解体も進めておこう。

 春の川の水はかなり冷えている。小柄な個体だし、長く待つ必要もないだろう。


「うーん、トゥーちゃんの索敵も便利っスけど、やっぱり日帰りじゃないと怖いっスね……寝てる時に獣に襲われるとどうしようもないっスよ」

「夜行性の獣にやられちまいそうだもんな。かといって、焚き火の煙なんかもあんまり良くないだろうし……人と一緒に行動させるのにあんまり向いてない生き物だな」

「ウメ……ウメ……」


 ライナ曰く一番豪華なおやつを与えられ、トゥーちゃんはご機嫌な様子だ。

 言葉が扱えるくらい賢いとはいえ、鳥は鳥だ。人間と同じような行動を要求するのは難しいだろう。ギルドマンの戦いについてこれそうもない……。


「クランハウス周りでは元気に飛び回ってるんスけどねぇ」

「街中と森じゃやっぱ違うだろうな」


 そもそも前に聞いた話だが、“アルテミス”のクランハウス周辺は害鳥が一切近づかないらしい。完全に鳥から恐れられているエリアなのだそうな。鳥の天敵には他の鳥類もいる。そいつらが全くいないとなれば、トゥーちゃんも伸び伸びと飛び回れることだろう。


「次からはやっぱりお留守番スね。今日みたいな日帰りだったら、また連れて来るかもしんないスけど」

「ラッシャイラッシャイ!」

「まあ、賑やかで一緒に連れてると楽しいけどな」

「オッスオッスウッス!」

「ご飯美味しかったスか、トゥーちゃん。ご機嫌スね」


 ペットとしても上手くやれているようで何よりである。長生きしろよ……。




 解体を終えたチャージディアを担いで、レゴールへと帰還した。

 肉の分け前は半々だ。解体もライナが素晴らしい手際で半分以上サクサクと進めてしまったし、俺は何もしてないようなもんだが、まぁ狩人の倣いっていうのかな。分け前は半々である。等分で配分した方が小難しいことを考えたり揉めたりしなくて良いから気楽な風習だ。

 ただ俺がそんなに生肉を持っていても仕方がないから、いくつかはプレゼント用になるだろう。

 ちょうど最近門番の知り合いがディア肉食いてえって言ってたから、そいつにでもくれてやるとしよう。


「お、なんだモングレル。またその子と一緒に討伐行ってたのか」

「まあな。成果はチャージディア一頭だったよ。こっちのライナが仕留めたんだぜ」

「っス」

「おー、やるじゃねえの。モングレルも頑張れよお前」

「なんだよ俺はスコルの宿の客で一番頑張ってる男だぜ?」

「ローカルすぎないスか」


 地元最強自慢はさておき、肉だ肉。


「俺もおこぼれに与っといてなんだが、食いきれなくてな。足一本どうだ? いるかい? 前に食いたいって言ってたろ」

「おっ、良いのか!? 悪いなモングレル、助かるよ。定期的にこの味が恋しくなるもんでな。ライナも、獲ってくれてありがとう、いただくよ」

「うっス! お肉が悪くなっちゃわないうちにどうぞ!」

「ドウゾ! ドウゾ!」

「うわっ、なんだこいつ」

「モングレルセンパイ!」

「いやお前それは普通に嘘だろ」

「先輩が色々と変な言葉教えてたから反発してるんじゃないスか」


 俺が二人になるというトラブルこそあったが、得られた肉のおかげでまたちょっと門番たちと仲良くできた。

 立ち話のついでに衛兵の最近の裏話なんかも聞けて、結構楽しかったぜ。




「モングレル先輩はマメっスよねぇ。お土産配ったりとか」

「まあな。人間関係を円滑にっていうのもあるが、半分くらいはまぁ純粋にお土産だよ。自分で消費するよりも人に渡したほうが良い。そういうのは色々あるんだ」

「はえー」


 チャージディアの肉をライナに運ばせるのは可哀想だったので、今はクランハウスまで荷物持ちしながら送っているところだ。

 肉がなくても送り届けていたとは思うけどな。気恥ずかしいからそういう建前にしている。


「シーナもその辺りの気遣いはちゃんとしてるタイプだろ?」

「そうっスね。確かにシーナ先輩と似てると思うっス」

「そんでもってナスターシャは全然気にしないんだろ」

「まさにそれっスね」


 まぁこの辺りは性格も出るからな……。

 けど俺としてはお土産配りみたいなのは好きでやってるところもあるし、他人がどうこうはそこまで気にしていない。俺の周りだけ円滑になってればひとまずそれでいいのだ。


「今度はまた……テントに泊まったりするような本格的な討伐とか、一緒に行きたいっスね」

「だな。獲物が増えてきたらまた計画立てようか」

「わぁい」


 魔物倒して、肉手に入れて、配ったり自分らで消費する。

 原始的な生活のサイクルだが、俺自身はこの日常を心地よく思っている。





「あら、ライナにトゥーちゃんも帰ってきたのね」

「うぃース! ディア肉獲ってきたっス! “照星(ロックオン)”無しにヘッドショットで仕留めたんスよ!」

「本当? やったじゃない。その話、詳しく聞かせてもらいたいわね。けどその前に、お肉は早めに氷室に入れておいて頂戴ね」

「おっスおっス、ばっちしっス!」

「……ふふ、ライナも成長しちゃって。狩猟のための動物まで連れていったり、すっかり一人前なんだから……」

「コノカラダニモ、ナレテキタナ……」

「!?」


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― 新着の感想 ―
ナジム、ナジムゾォォォ!フハハハ! とか喋りだしたら面白い。 テキヲハッケンオウエンタノム!
コノカラダニモナレテキタナは日常のネタでしょうよ。コノカラダニモ、ダイブ、ナレテキタゾってインコが話してたやつ。
変な言葉覚えさせられてて草
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