羽根毟りと姉の話
足ヒレやシュノーケルのテストも面白いが、“アルテミス”連中のメインは鳥撃ちである。
俺とモモが水遊びしている間、既に弓使い達は獲物を仕留めてきたようだ。
「ウルリカ先輩と一緒に一人二羽ずつ仕留めてきたっス」
「前も来たのに、警戒心が薄いよねー」
午前中、まだ日も昇らない時間に四羽も仕留めたらしい。やるじゃん。……羽根毟りとか解体作業はやるが、こっちでも何か大物釣らないと立つ瀬がないなこりゃ。
「短い時間でよく仕留めたな」
「うーん、そうなんだけどねー……ライナと向かい合うように展開していればもっと仕留められた気はするんだよなー……」
「私の矢に反応して飛び上がった時っスね。確かに反対側にウルリカ先輩が待ち構えてればとは思ったっスけど……」
「さすがに危ないかなー」
「散弾はどこに飛んでくるかわからないっスからねぇ。こっちにバラ撒きされそうで怖いっスね」
弓使いの連携ってのも難しいのかね。俺からするとそもそも矢を真っ直ぐ飛ばそうとする時点で難しいんだが。
「じゃあこのリードダックはこっちで処理させてもらうぞ?」
「あざーっス」
「ありがたいけどモングレルさん、釣りはいいの? 僕も手伝うけど」
「お、マジか。じゃあ一緒にやってくれるかレオ」
「……あれー? そういえばモモちゃんはどこ行ったの?」
「モモならサウナテントに住むことを決めたらしいぞ」
寒中水泳から上がったモモは、じっくりとサウナを楽しんでいる。というかサウナでしっかりと深部体温まで上げておかないと体調を崩しかねないので、ゆっくりさせることにした。
今頃あのテントの中でレオの釣り上げたラストフィッシュの塩焼きでもモシャモシャ食ってるのではないだろうか。
「サウナ良いっすねぇ……私もちょっと入りたくなったっス」
「えーライナも? 良いなー、私も水着あるし入ろうかなー」
「ふふ、ウルリカは昨日入ったばかりじゃない」
「何度入ってもいいじゃん!」
そう、風呂は何度入っても良いものだ……。
まして一日置きなんて何度もとは言わない。一日一回は最低単位だぜ。
が、結局ウルリカは入らず、俺やレオと一緒にリードダックの処理をすることにしたらしい。こっちとしても料理が進むのでありがたい。……何より、ここらで一気に羽根毟りを進めておかないと後々作業が追いつかなくなるからな。
「あ……つ、釣れました!」
「おー、ゴリリアーナさんナイス! 結構でかめのラストフィッシュだな」
「三匹目です……! そ、そろそろ、いいかな……私も、リードダックの下処理やります……」
「ほんとー? やった、嬉しいなー」
「助かるよ。これで一人一匹ずつだね」
ゴリリアーナさんは結構釣りが好きである。自己主張をそんなにしない奥ゆかしい性格の人だが、釣り竿があると彼女にしては珍しくそこそこやりたがるのだ。こちらとしても同好の士が増えてくれるのは嬉しいね……。
「これからシーナ団長たちも来るよねー、絶対」
「ああ……来るだろうなぁ。前回来た時は大猟だったもんな……」
「シーナさんとナスターシャさんでたくさん仕留めたんだっけ」
「す、すごい数ですよ。みんなで食べきれないほどの……」
「ずっと羽根毟りだけやってるようだったよな……管理棟の爺さんらに分けてやらなきゃ、持て余すところだったぜ」
「今回も持っていったら野菜とか分けてくれるかなぁ?」
「くれそうな気がするよな。いや、けどどうだろうな。前は夏だったが、この時期だからなぁ」
四人で焚き火を囲みつつ、羽根をぶちぶち。細かな羽根が舞う作業だが、屋外なので気にならない。小さな産毛は炙って処理だ。
うーん、皮が絶妙に焦げた時の美味そうな匂いがたまらない。そのまま焚き火にぶち込んで丸焼きにしたくなるぜ……。
「懐かしいなぁー。私も今じゃ大きな魔物を仕留められるようになったけど、ボリス村にいた頃はよく鳥も獲ってたなー」
「ああ、そうだね。小型の獲物をたくさん仕留めて、よくウルリカのお姉さんに処理してもらいに行ったっけ」
「あまりにも多いとお姉ちゃん、怒ってたなー」
「そういやウルリカには姉貴がいたのか。話には聞いてた気もするが、詳しくは知らなかったな」
「あれ、そうだったっけ……?」
前に何かで聞いてはいたとは思うんだが、まだ個人のことに深堀りするような関係でもなかった時期だったからなぁ。それきり特に話題にも上がらなかったし、聞く機会を逸し続けていた。
「ウルリカのお姉さんは、ウルリカとよく似てるんだ。村でも人気だったよ。今はもう結婚してるけどね」
「はー、そうだったのか……え、いくつ?」
「二つ上ー。だから二十二歳だね。昔はよく服を貸してもらったりしたんだー。仲良し!」
「おそろいの服とかよく着てたよね。……村では、ウルリカとソフィアさん……あ、ソフィアさんっていうのはお姉さんの名前ね。……二人とも、可愛くて人気者だったんだよ」
「あはは、私の方が可愛かったけどね! レオはお姉ちゃんのこと好きだったもんね!」
「いや……僕は別に……そうじゃないよ……。っていうか、違うよウルリカ。ウルリカは仲良しというより、お姉さんを振り回してたほうだったでしょ。前に僕がお姉さんに会った時も、まだウルリカの愚痴言ってたもの。それに、全然顔見せにこないって」
「だって面倒くさいんだもん」
なるほどなぁ、ウルリカそっくりのウルリカの姉貴か……それはなんというか、ちょっと見てみたいもんだな。
遺伝子がどういう働き方をしてるのかすげぇ気になるぜ……。
「全く、ウルリカは……」
「レオには兄弟とかはいないけど、ゴリリアーナさんにはお姉ちゃんがいるよね?」
「は、はい。……とてもよく出来た……自慢のお姉様たちです……!」
「二人いるんだよね?」
「はいっ」
ゴリリアーナさんの姉貴か……。
……うーん、こっちもこっちで遺伝子の働き方を見てみてぇ……!
「わ、私は末っ子で三女なのですが……長女のマンドリーナ姉様と次女のチンパンジーナ姉様は、私なんかよりもずっと武芸に秀でていますよ……!」
「すげぇ強そうというか、猛々しそうだな……」
「あれ、ベルジュラックの方で騎士になったのはどっちだっけ?」
「ベルジュラックは、マンドリーナ姉様です……鮮やかな身のこなしと、華麗な技と、岩をも打ち砕く膂力……私にとって、永遠に憧れの淑女です……!」
淑女って岩とか砕くんだ……。
「あ、じゃあギルドマンのゴールド2の方がチンパンジーナさんかぁ」
「はいっ。よく不届き者の頭蓋を握り潰したり、双剣を掲げて吠えながら盗賊団を壊滅させています……力強い剣技も、魅力的で……結婚するのも、マンドリーナ姉様よりも早かったですね……」
「強そうだね……」
「魅力……結婚……? まぁ、まぁまぁ……そうだな、ゴールド2はすげぇよな……」
ゴリリアーナさんの世界観がパワー=魅力になっているからなのか、この手の会話をしてるとなんか頭がバグるんだよな……。
しかし、騎士になった長女のマンドリーナにゴールド2の次女のチンパンジーナか……それで、ゴリリアーナさんは順調にシルバーランクを駆け上がっている最中だろ? 三姉妹してすげぇ家だな……ひょっとしてバトル漫画の世界から転生してきたタイプ?
「私ももっと、もっと強くならないとです……」
「優秀なお姉ちゃんを持つと親の期待とか大変そうだねー……」
「は、はい……無くはないです……ですが、それに応えたくもありますから……」
しかし、姉の話をするゴリリアーナさんはどこか楽しそうである。いつもよりずっと饒舌だ。本当に自慢のお姉さんたちなんだろう。
……マンドリーナとチンパンジーナだけど……いや、他意はないけども……。
コミカライズバッソマンがニコニコ漫画 2024年上半期ランキング【公式マンガ部門】の上半期漫画ランキング9位にランクインしました。すごい。
素敵な漫画にしてくださったマスクザJ様と読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
(祝*・∀・)ヤッターーー
「バスタード・ソードマン」のコミカライズの4P幕間が公開されました。
カドコミで掲載されているので、是非御覧ください。
2024/4/26に小説版「バスタード・ソードマン」3巻が発売されました。
巻末にはマスクザJ様によるアルテミスの4P描き下ろし漫画もありますよ。
また今回も店舗特典、および電子特典があります。
メロブ短編:「シュトルーベで狩りを学ぼう!」
メロブ限定版長編:「シュトルーベでリバーシを作ろう!」
ゲマズ短編:「シュトルーベで魔法を学ぼう!」
電子特典:「シュトルーベで草むしりをしよう!」
いずれもモングレルの過去の話となっております。
気になるエピソードがおありの方は店舗特典などで購入していただけるとちょっと楽しめるかもしれません。
よろしくお願い致します。