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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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酒場の隅の皮算用


 モーリナ村での収穫祭は慎ましく終わった。

 毛皮も現地で処理してもらい、そのまま現金化。土産としてはチーズが手に入り、ちょっとした買い出しに行ったような任務だった。

 “大地の盾”と一緒の仕事はキビキビ動くしやりやすくはあるんだが、やっぱり遊びがなさすぎてちょっと息苦しく感じる。別にケチをつけてるわけじゃない。俺の性に合わないってだけだ。


 連中からは結構良くしてもらったけども、俺はやっぱもうちょい適当に任務やってる方が良いなぁ。

 そういう奴らとつるみたいってわけでもないんだがね。




 夕暮れ時、任務が終わってレゴールに戻ってきた。

 “大地の盾”とも別れ、久々の一人である。


 街の雰囲気はいよいよレゴール伯爵の結婚式に向けて動き始めているようだ。

 といっても伯爵様を称えるような大げさなもんじゃない。それに乗じたお祭りの準備で忙しくしているってだけだ。

 結婚を祝うためにハルペリア中から色々な人がやってくる。もちろん、この時代じゃ遠くからやってきてわざわざ式典だけ見て帰るような勿体ないことはしない。レゴールで色々と物を買ったり、美味いものを食っていくわけだ。


「うおお……なんか新しい店が出来てやがる……」


 そんな外からのお客さんを狙ってのことだろう。少し通りを歩くだけで、ちょっと前に廃業した場所に新たな飲食店が出来ていたなんてのが幾つもある。

 看板を見るに、そこではレゴール名物のクレイジーボアの肉料理を取り扱っているらしい。

 レゴール名物だったのか……初めて知ったぜ……。一応結構長くここにいるつもりだったんだけどな……。

 まあ、あれはレゴールの外から来た客を呼び込むためのものなんだろう。観光客向けというか……なんていうか、レゴールも少しずつ観光地らしくなってきたな……商売のやり方とか、そこらへんが……。


 と、そんなことを考えながら歩いていると人混みの中から一際ちみっこい見慣れた顔が現れた。

 ライナである。向こうも俺に気がついたようで、ぱっと笑いながらこちらへ近づいてきた。


「モングレル先輩、おっスおっス。任務帰りっスか」

「ようライナ。毎年恒例の村の警備で、モーリナ村までな。“大地の盾”の連中と一緒にやってきたよ」

「マジっスか。……収穫警備の任務、“アルテミス”と一緒にやれば良かったじゃないスか」

「いやぁ、時間と予定が合えば考えるけどな。あ、モーリナ村のお土産買ってきたぞ。ほれ燻製チーズ」

「おー……あざっス。美味しいんスよねこれ」


 俺としてはかなりクオリティの高いチーズだと思ってるんだが、ライナはこういうチーズとかそこらへんに対する反応は薄いんだよな。

 故郷でさんざん食ってきたからだろうか。評価も結構厳しい気がする。


「モングレル先輩、夜腹減んないスか」

「腹減ったなぁ」

「じゃあ一緒にご飯、どっスか。行かないスか」

「おお、行くか。店はどこでも良いぜ。どこか行きたいとこあるか?」

「やった。じゃあ、狩人酒場で」


 飯の予定を軽く決めて、さっさと狩人酒場へ向かう。

 数日間ずっと人と一緒に仕事したせいか、今日はガヤガヤした店よりも静かな店の方が恋しかったから助かるね。いや、狩人酒場も繁盛してないってわけでもないんだろうけどな。わりとあそこ静かだから……。




「お疲れ様っス」

「おう、お疲れ」


 杯を打ち鳴らし、エールを飲む。料理は酢の物中心で、今日は肉少なめだ。肉はちょっと飽きた。


「で、モーリナ村はどうだったんスか」

「んーどうもこうも、普通だな。これといって変わった事件もなく……あ、ススキの刈り取りを手伝ったりはしたな」

「あー……そんなことまでやったんスか。あれ結構疲れるんスよね」

「まぁ暇だったし。警備も早めに終われるならいいかなって思ってよ。ライナの方は? どうだった?」

「こっちも普通っスねぇ……ハービン街道の方だったんで宿が綺麗だったっス」


 収穫の警備はどこも似たようなものだ。せいぜい担当する村の特産品がごちそうに出るくらいなもんだ。とはいえ、俺の行ったモーリナ村とか蜂蜜の豊富なルス村なんかは当たりの部類だろうな。ライナの行った宿場町方面も宿が綺麗っていうメリットはあるだろうが。


「……あの。言えてなかったんスけど。この前の……私の兄がギルドに来た時のこと。本当に助かったっス。モングレル先輩。嬉しかったっス」

「ああ……ライナの兄貴が来た時の話な。そういや随分時間が空いたな」


 警備に出ている間に忘れかけちまってたよ、そんな話。

 まぁなんていうか、田舎に土地持ってそうな考え方をした兄貴だったなっていう……あれだ。


「モングレル先輩に“アルテミス”の人達と話せって言われて……色々、話したんスよ。兄のこととか、今までは話してなかった村でのこととか……」

「そうか」

「そうしたら皆、シーナ先輩もナスターシャ先輩も自分のことみたいに怒ってくれて。……なんか、こう、本当に家族みたいで……嬉しかったっス」


 思い出しているのだろう。飲み干したジョッキを見つめるライナの瞳は、どこか優しげだった。


「その後の事は俺の見た通りだな。いやぁ、兄貴も災難だったな。完全装備の“アルテミス”に囲まれて理詰めされちまうんだから、堪ったもんじゃなかったろう」

「あはは……正直、いい気味っス。あんま好きじゃないんで……」

「俺も好きじゃないぜ、ああいうタイプは。……ま、あんだけシーナ達から言われりゃ、今後ライナを呼び戻そうとするなんてこともないだろ」

「っス。シーナ先輩からも同じようなこと言われたっス。少しでも保身を考える限り無茶な真似はしないだろうって」

「貴族を敵に回すようなもんだからな」


 それからライナの兄貴の愚痴エピソードでちょっとだけ盛り上がった。

 詳細はぼかしていたが、ライナは故郷で随分と冷遇されていたらしい。

 弓で害鳥を駆除してもさほど家族からは働きを認められず、やって当然くらいの評価。親のそういった態度を真似て、兄貴なんかもライナを低く見たり、粗雑に扱っていたようである。

 親のすることを子は真似る。背中を見て育つというのはまさにその通りで、親のやらかす悪い行いさえも、子供は無意識に真似てしまうものなのだ。

 そういう意味ではライナはよくここまでまっすぐ素直に育ったもんである。いや、モモとかもそうか。子育てってのはよくわからんね……。


「……あ、そういえばモングレル先輩。結婚祭に出す屋台、どうなったんスか」

「あー屋台な。揚げ物だろ。そろそろ準備はするぜ。ラードもあるし……」


 秋、というかここ一ヶ月ほどだが、俺はしっかりとラードを回収していた。

 屋外炊事場でグツグツと溶かし、布で濾して綺麗にして……塊にしたやつを氷室に預けて保管してある。結構な量が貯まっているので、屋台を開いて十分調理ができるはずだ。


「揚げ物やるんスね。楽しみっス」

「ああ。まぁ、未だに火力の調整が難しかったりするんだけどな……」


 炭は粉末の炭を形成して使おうかとも思ったんだが、最終的にバロアの炭を一定のサイズに切り出して無理やり同じ性能に揃えるやり方に落ち着いた。その方が楽だし安上がりだったのである。

 時間ごとに一定量の炭を補充して温度を保つ。それが一番だ。


「……兄が朝、ギルドに居たとき。あの時にモングレル先輩が食べてたあの……野菜とか芋とかの揚げ物もいい感じに売れると思うっスよ」

「あー……ホットスナックな。そういやそうか……あれもアリか……けど売れるかねぇ? 肉の串と同じような値段で売り出すようになるが……」

「んー私は肉も好きっスけど、そういう系も嫌いじゃなかったっスね。意外と買う人いると思うっス。忌憚の無い意見ってやつっス」

「そうか……そうだな、別に大した手間でもない……串揚げ全般を作って売り出してみっか」


 ライナの助言もあり、当初ひたすら肉を揚げまくる予定だったものを変更。

 肉も揚げるが野菜類も揚げる、一周回って元祖串揚げ屋台をやることになった。


 前世でも串揚げの屋台は流行ったんだ。この世界でも十分に通用するはず。

 まぁソースに関してはアレだが……適当な物を用意しておけばいいだろう。あとは塩かけとけ、塩。


「そうだ、祭りの時はライナも屋台手伝ってくれるか?」

「え……ていうか、良いんスか」

「良いっていうか俺一人だと厳しいかもしれないからな。元々何人か雇うつもりだったんだよ。どうだ、報酬はしっかり出すぞ。美味い揚げ物もついてくるぞ」

「……別にお金とか食べ物とかで釣らなくても手伝うスけど。でももらえるものはもらっておくっス!」

「おうその意気だ。屋台で一番稼ぐつもりでやるからな。忙しくなるぞー」


 まずは一人、売り子ゲットだ。

 できればもうちょい、人を集めておきたいところだな……そこらへんもそろそろ考えておくべきだろう。


当作品のポイントが110000を超えました。すごい。

いつもバスタード・ソードマンを応援いただきありがとうございます。


書籍版第一巻の発売日は2023年5/30です。

もう予約はできるみたいです。電子書籍版もありますよ。

また、ゲーマーズさんとメロンブックスさんでは特典SSがつきます。こちらは数に限りがあるかもしれないようなので、欲しい方はお早めにどおぞ。

よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
夫婦かな……??
語録はルールで禁止ッすよね
うーん、ライナはモングレルを落とせるんだろうか
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