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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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オーユンリの撤去手伝い


 ある日、俺がギルドで“おかしな魔物大全”を読んでいたところ、サリーがやってきてこう言った。


「じゃあ仕事は明日の朝からだから、よろしく頼むね」


 これが第一声である。

 ちなみに俺はこいつと何も約束してないし、顔を合わせたのもちょっと久々になる。

 マジで俺自身ですら何の話をしているのかわからなかった。


「……え? 何? 仕事?」

「シャルル街道を進んで少ししたところに無力化したオーユンリが出没してね。それはもう一月ほども放置されていたのだが……」

「待て待てサリー。……俺に対して、仕事をして欲しいって言ってるのか?」

「そうだけど?」


 だけど? じゃねんだわ。言ってねんだわ。


「モングレルが近頃お金集めに躍起になっていると聞いてね。だったら僕の請け負った仕事を手伝って貰えたらと思ってさ」

「……まぁ色々と使う用があるから集めてはいるけども……そういう話は順序立てて言ってくれないか……まぁ今更だから良いけども。で、その明日やる仕事ってのはいつまで?」

「移動含め二日か三日じゃないかな。ヴァンダールが手伝ってくれれば良かったんだけど、彼は今繁忙期でねえ」

「あー力仕事か」


 サリーがこういう話を俺に持ちかける時は普通に体力仕事や近接役としての能力を買っている。

 そういうシンプルな仕事はありがたいんだが、説明を端折り過ぎというか異次元の角度から切り出してくるのは勘弁して欲しい。


「モングレルはオーユンリって見たことあったかな」

「あー……ある。あれだろう、よくわからねえ見た目の謎系魔物」

「謎系かどうかはわからないけど、知っているなら話が早い。その討伐というか、解体と運び出し作業を頼まれているんだ。王国から指示があってね、解体した一部は取り分けて送らなきゃいけないんだけど」

「送るってなんでだ……謎系の連中ってどの部位も使い物にならないだろ?」


 オーユンリというのは、俺が謎系魔物として個人的にカテゴライズしているよくわからん系統の魔物の一体だ。

 以前俺がバロアの森で討伐したクヴェスナと同じようなタイプの連中だな。モデルとなった生き物もよくわからないし、由来が全くと言って良いほど想像できない不可解な魔物たちである。


 その中でもオーユンリというのは更に特殊だ。

 まず動かない。厳密にいえばなんかこう、翅というか翼みたいなものは持っていて、それを動かすことはできるのだが、巨大な身体本体は樽のような形で一切動くことに向いておらず、その場から一切移動することがない。

 そのくせ、出現状況がマジでよくわからない。身動きひとつできない巨体であるにも関わらず、発見は常に突然だ。どこからか歩いてきたわけでもないし、空を飛んできたわけでもない。だけど何故かその場に現れて、もがくように翼みたいなものを動かすだけ……それだけの魔物だ。

 出現した場所が大きく陥没しているので空からまっすぐ降ってくるという説もあるらしいが、オーユンリが落ちてきた姿を見た者も、その音を聞いた者も居ない。ホラーな奴である。


 移動できない性質上襲いかかってくることもないので害は少ないのだが、謎系共通の要素として全身に微弱な毒素を含んでいる点が厄介だ。

 煮ても焼いても食えないし、下手すれば近くの土壌を駄目にする。オーユンリは謎系の中でもかなりの巨体なので、解体作業も大変だ。死骸をどけるだけでも大変な労力となるだろう。なので、農耕地帯でもなければ死骸が長期間放置されることも珍しくはない。


「僕も利用法はほぼ無いと思っていたんだけどね。魔大陸からのお客様にとってはどうやら食材の一つになるようでさ」

「え、あいつら食うの」

「さあ? 僕は実際に食べる所を見たことはないからなんとも。ただ単に魔族の人らが調査したいだけかもしれないし」


 魔族。人間の生活圏からは遠く離れた、海を隔てた別大陸に生きる人々だ。

 彼らは人間と食性が全く違うそうなので、オーユンリを食ったとしても不思議ではない……のか?

 いやわからんけど……。


「まあ、僕らのやることは主に解体だよ。それと途中の村で駐在ギルド役員とちょっとした荷物の受け渡しもあるけどね。まぁそっちのほうが僕としてはメインかな。オーユンリはついでになるね」

「……報酬はどれくらいだ?」

「んー、三日だとしてこのくらいになるかな」

「よし乗った。いやぁゴールドランクの雇い主は太っ腹で助かるね」

「あれ、相場間違えたか。じゃあもうちょっと減らすよ」

「おい! そういうのはやっちゃいけないぞ! 良いんだ報酬は多めのままで!」


 徒に人の勤労意欲を奪うんじゃない。上げて落とすのはダメージがデカいんだ……。


「……ところでサリー、風の噂で聞いた話なんだけど。なんか最近レゴールの犯罪組織を壊滅させたんだって? やべえなお前」

「いや僕は悪くないんだよそれは。ちょっと買い物に出てたら誘拐されてさ。そのまま連れ去られた先が犯罪者達の集まる場所だったっていうだけで」

「お前何そんな面白いイベント引き起こしてるの……」


 何かのコメディ映画の主人公か何か?


「杖を持ってないから魔法使いとも思われなかったんだろうねぇ。連れ去られる時も無抵抗でいたから、あっちも気付けなかったんだろう」

「なんでサリー無抵抗だったんだよ。杖無くても一応魔法って使えるんだろ」

「杖がないと魔力効率が悪いからなんか嫌なんだよね」


 そんなちょっと渋る程度の感覚で大人しく犯罪者に拉致される奴いる?

 まぁここにいるか……。


「いやぁしかし、下水道は臭いね。アイアンランクの人はあそこを掃除しているんだろう。僕には無理だよ。モングレルもああいうのをやってるんだろう」

「まさか。俺だって下水道はやんねーよ、汚れるの嫌だし」

「都市清掃はやってたって聞いたけど」

「あれはまぁ下水道ほどじゃないからなぁ……」

「掃除は汚れるじゃないか」


 こいつ……自分の部屋をあまり掃除しないタイプだな……?

 いや俺も汚すってよりは物を捨てられずに溜め込み続けるタイプだから近いものではあるんだが、サリーからは俺とは隔絶したレベルの汚部屋クリエイターの気配を感じる……。


「まあとにかく、明日の朝に東門側の馬車駅に集合ということだよ。あ、何か解体に使えそうな道具があれば持ってきてくれると楽かもしれない」

「ツルハシあるけど使えっかな?」

「そんなのもあるんだ。良いんじゃないかな。じゃあそれで」


 その言葉を最後に、サリーは立ち去っていった。

 相変わらず会話の始点と終点がぼんやり滲んでる女だ。


「……オーユンリねぇ」


 手元の“おかしな魔物大全”を捲り、謎系の魔物を探す。

 が、そこに記載されている謎系はたったの1、2種類のみ。全種類が網羅されているわけではない。

 というのも、この世界の人間はさほど謎系魔物を“おかしい”とは考えていないのだ。


 昔からいるし、数は全く少ないわけでもないし、普通。そんな魔物の一員でしかない。

 しかし俺からすると見た目も名前も生態も不可思議なことだらけなんだがな……。


 王都あたりに専門で研究してる人とか居ないもんだろうか……。

 居るなら講義とか聞きてえわ……。


 まあとにかく、オーユンリの解体作業を手伝うことになったわけだ。

 解体して……どうせなら俺もそいつの身体の一部をちょろまかすことにしよう。どうせ誰かが採っていっても怒るようなもんでもない。ちょっとした実験の素材として、まぁ暇つぶしアイテムになってもらうだけだ。

 前世の世界じゃ誰も手を付けたことのない研究分野ってだけで、なんとなーく心躍るものがあるからな。素人にできる研究なんてたかが知れてるとは思うけどよ。


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― 新着の感想 ―
タル状? ……漬物…… 貰っても殺虫剤とか除草剤しか思い付かないな 魔法使いが不要だと思ってるんだし……スキルかギフト用かな?
[一言] 頼める?とかの確認ですらないのマジサリーさんw っていうか例の連中サクッと処理されとる……
[一言] 古のものかな? 人口増加で治安相当悪くなってますね
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