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美味しそうな中華料理

(((( *・∀・)ヤレヤレ…


 酒を浴びるように飲んで記憶が曖昧になってしまったが、重要な話は覚えている。

 収穫祭の後に行われるレゴール伯爵とステイシー侯爵令嬢との結婚式。この時に行われる壮大なお祭り騒ぎに乗じ、レゴールのどっかしらに出店を構えるという話であった。


 俺はここで金を稼ぎたい。

 たまにあるお祭り騒ぎの中でなら派手に荒稼ぎしたって文句は言われないからな。

 それに、金はともかくこういう祭りを純粋に出店側で楽しんでみたいって気持ちもある。


 普段だったらよその店のパイを奪うようなもんであまり気乗りしないが、結婚祝いで浮かれているレゴールだったらそんな気遣いも必要ないだろう。

 この祭り限定でとびきり美味いメシを作って、金を稼いで……ま、儲かったらその分祭りに還元して楽しんでやるさ。


「さて。いくら知識はあってもいきなり完璧なものは作れない。試作を重ねておかないとな……」


 宿の自室。机の上に羊皮紙を広げ、必要な材料を書き出してゆく。


 まず、俺が祭りで出店を出すとして。

 やるのは飲食。料理を販売する普通の出店になる。

 そして多売。とにかく大量の品を用意して、ガーッと売りまくる。値段は……薄利じゃなければオーケーかな。あまり値段が高すぎても良くないだろう。そこそこ高めで、大量に捌く感じだ。


 また、いくつか前世の屋台で取り扱っていたものも考えてみたんだが、既にボツになったものがある。


 まずベビーカステラ。これだめ。

 単純に必要材料のコストが高すぎる。甘味に卵。この時点でアウトすぎる。屋台で出すには高級志向すぎるな。この世界じゃお貴族様のお菓子だよ。美味しいけど今回の趣旨には合わない。


 次にたこ焼きと焼きそば。意外と駄目。

 というのもソースがねえんだソースが。ソースは醤油じみた何かから作らなきゃならん。この世界にもソースと呼ばれている調味料はいくつかあるが、それを味見したところでブルドックどころかイヌ科生物の顔すら浮かんでこない。そして俺はソース味がしないとたこ焼きも焼きそばも認めないタイプの人間だ。東南アジア風とか色々あるのかもしれないが、そこまでいくともはや別の屋台飯になるだろう。だから却下である。


 屋台で莫大な利益を挙げられるものといえば、綿あめがあるが……これも駄目。

 理由はベビーカステラと同じでそもそも原料の砂糖がそこまで安くないってのと、最大の問題として機材が無い。

 綿あめは円筒状の金属カップにザラメを入れて熱しながら回転させれば作れるが、肝心の回転機構を作るのがしんどい。加熱させながら回転させるってのでダブルでしんどい。それが屋台とか出店という限られたスペースで収まるか? っていうのと、そのテクノロジーはさすがに目立つだろってことでボツとした。いきなり綿あめ屋が異世界に生えてくるのは異質すぎるわ……。


 なるべくこの異世界でも溶け込める程度に自然に。かつ、そこそこ主流の屋台飯とは違う独自性を持っている……そんな料理をチョイスしたいところだ。

 原価安めで、大量に用意できて、もちろん味付けはこの世界でも再現できる調味料で……注文が多いぞ!

 いや、諦めるな。なぁに前世知識があればこんなもんは余裕よ……。


「……よし、方向性は決まった。これで……調理法はあまり自信がないが、いける……はずだ」


 羊皮紙に書かれた雑多なアイデアを眺め、何度も確認し……頷く。

 いける。理論上はこれで良いはずだ。メリットも多いし、悪くない……。


「よし。まずは料理の試作……の前に」


 ベッドの上のバスタードソードを取り、腰に備え付ける。


「食材を調達してくるか」


 こういう時、ギルドマンだと本当に便利だよな。

 近所の森に行けば新鮮な肉が歩いてるんだから。




「はい、こちらがバロアの森で獲ってきた新鮮なお肉になります」

「何言ってるんスか先輩……」


 昼。バロアの森にちょろっと肉を取りに行って、担いで戻ってきただけの良い時間である。

 偶然ギルドにいたライナを誘って、俺は屋外炊事場へとやって来ていた。


「屋台で作るメシの試作をしようと思ってな。過去に似たようなものは作った事があったんだが、今回はそれを試してみる」

「私も味見してみていースか?」

「おう、むしろどんどん食べて意見をくれ。美味いかどうかってのもあるが、どのくらいで売れるかも気になるしな」

「美味しい料理なら大歓迎っス! 味見頑張るっス!」

「ついでに調理の手伝いもさせてやるぞ」

「スゥゥゥ……」


 ライナのテンションが下がった。

 意外なことに、ライナはあまり料理が得意じゃないらしい。作ってもシンプルな焼き物くらいしかできないのだという。意外というかなんというか……“アルテミス”でも料理はほとんど担当しないのだそうだ。


「たまには自分でも料理してみて、勉強しろよ。手の込んだ料理もやってみると面白いもんだぞ?」

「はぁい……」


 なんなんだろうな。獲物の解体とかだったらそこそこ進んでやるのに、料理になるとどうしてこんなに腰が引けるのだか。

 俺からしてみたら獲物の解体の方が技術がいるんだけどな……苦手意識なんだろうなぁ。


 ま、今回の調理法は下手っぴでもほとんど失敗することはない。

 これを機に苦手意識を克服していくのも良いんじゃないか。


「……なんか、料理をするっていうわりには……あまり見かけない道具ばかりっスね」

「だろ? こいつは……あー、なんていうかな……サウナ知ってるだろ?」

「もちろん知ってるっス」

「あれの小さいやつ。そう、あれだ。蒸し器だな」

「はえー」


 俺が手にしているのはちょっと大きめの鍋サイズの木製せいろ。それが3つである。

 上にはチャチな網籠を被せられるようになっており、蒸し布を併用すれば普通にせいろとして機能する道具だ。

 最近までずっと俺の部屋の道具入れになっていたのを引っ張り出してきた。おかげで今まで失くしていたと思っていた高級革が見つかったのはちょっとした副産物である。


「サウナにずっといると暑くなるだろ。あれを長時間、さらに高温でやることで食材を調理しようってのがこの蒸し料理ってやり方だ。一応、他の町なんかでもやってるところはあるぞ」

「まじっスか」

「まぁこいつらを使って蒸し料理を作っていくわけなんだが……その前に今回使う食材を使える大きさに切っていこう。ライナも一緒にやっていくぞ」

「はぁい。……ここに並んでるやつで良いんスよね?」

「そうそう。全部こまかーくしていくぞ。ある程度細ければあとは構わないから」

「あ、それなら簡単っスね」


 用意した食材はクレイジーボアの肉、様々な野菜類、そしてちょっとの小麦粉だ。

 食材をミンチ、あるいは細切れにしてから、ボウルに入れる。ここで塩と調味料も加えるのだが……今回は試作ということで、調味料を使い分けつつ色々な味のものを作ってみようと思う。

 俺はあまり好みじゃないが、この国の人にとって馴染み深いナンプラー的な奴も使う。今回はこの調味液でも成功しそうな気はするけどね。


「調味料で味付けできたら、あとはこっちの……俺が用意した生地で包む」

「なんスかこの白いの?」

「小麦粉で作った生地だよ」

「あー、パンみたいな」

「んーまぁ似てるような似てないような」


 さて……お察しの通り、今日俺が作るのは中華料理だ。

 みんな大好きあの中華料理である。ここまでくればもうわかるよなぁ……?


「この生地でミンチにした肉餡を包み、閉じ込める……と」

「おー……それやってみたいっス! 面白そう!」

「おうおう、手伝ってくれ。これをこうしてな……こうすると上手くいくから」

「ふむ、ふむふむ……なんかこれちっちゃくて可愛いっスね」

「まぁ確かに」


 時折ライナにレクチャーしつつ、熱湯の用意をする。

 かまどの上に水を入れた鍋を置き、ガンガン加熱。水が蒸発してもくもくと湯気が出る上に、木製のせいろを重ねれば準備は完了だ。


「この蒸し器の中に今ライナが作った料理を敷き詰めて、後は上にも同じように重ねてやれば準備は完了だ」

「はー……湯気で調理ってなんか面白いっスね」

「蒸し料理は良いぞ。焼いたりするよりも栄養が逃げにくいし、形が崩れにくい。何よりずっと放置していても失敗しにくい。素人でもとりあえずガンガン蒸しておけばなんとかなるのがこれの良いところだ」

「あー、焼き物は見てないといけないスからねぇ。こっちはそういうことないんスか」

「全く無いってわけではないだろうが、焦げ付かないからな。長時間放置していてもなんとかなるぞ」


 蒸し料理にはメリットが多い。特に屋台でやる場合なんかだと、見逃せないメリットがたくさんある。

 まず火の管理が楽だ。火で焼くのではなく蒸気を出して蒸すので、火加減をあまり気にしないで済む。雑に鍋を熱すれば良いのは楽だ。なんなら炭じゃなく薪でもできる。

 あと客へ提供する時に常に熱々のものを渡せる。焼き物なんかだと作り終えた奴をストックする場合もあるが、蒸し料理はせいろの中で完成品をキープできるからな。質が落ちないから常に美味いものを食ってもらえる。

 そして調理スペースが若干広く使える……と、思う。せいろを縦に積み上げればその分同時に調理もできるし、焦げ付かないから失敗しない。場所が許す限りせいろをホカホカさせて、適当に放置して増産が可能だ。

 地味なところでは焼かないから油が必要ないってのもある。まぁこれはオマケだけども。


「……おー、なんか美味しそうな匂いがしてきたっス」

「どれどれ、そろそろできたかな。よっ、と」

「うわぁ、すごい湯気」


 さて、せいろをひとつ取り出しまして、蒸し布を取り払うと……もわっとした湯気の奥から、艶めかしい白い生地の中華料理が姿を現した。


「よし! 蒸しギョウザの完成だ!」

「ギョウザ?」

「いや今のは適当に言った。名前は……名前、どうするか……蒸し……」

「……三日月みたいな形してるし、蒸し三日月はどうスか」

「お、いいセンスしてるな。蒸し三日月か。それにしよう」

「自分で考えといてあれスけど、なんか適当に決められた感じがするっス!?」

「そんなことねえよ」


 蒸し餃子。というとあまり馴染みのある日本人は少ないかもしれない。俺も無い。

 無いけどまぁ皮を厚めにすれば水餃子とか小籠包みたいな感じでいけるだろってことでやってみた。

 小籠包みたいな形でも良かったんだが、屋台で時に生地を大量にストックしておかなきゃいけないとなった場合、あらかじめ丸くて薄いシート状のものを重ねて用意しておける餃子の方が良いかなと思って蒸し餃子になった。単純にこのくらいのサイズや形の方が熱も通りやすいだろうって魂胆もある。


「ちょっと小さめっスけど、お祭りの時はこのくらいの大きさで丁度良いかもしれないっスね。色々食べたいっスから」

「だろ。まぁとりあえず食ってみようか」

「っス! ……んむんむ……ほひひひ……」

「ふへふへ……ふめぇ……ふめぇ……」


 お互いに熱い餃子を頬張り、蒸気を吐き出しながら会話する。

 何言ってるかよくわからんけど、お互いに美味いってことはわかった。


 ボア肉の尖った味も、香味野菜と一緒ならなかなか良いもんだな。意外と熱を通したこのナンプラーみたいな調味液も悪くない。普通に美味い。


「これ……超美味しいっスよ。かなり……」

「だな。俺も少し驚いた。……んーでも生地がもうちょいモチモチしてたほうが……生地も改善の余地は大きいな……」

「そっちのも食べて良いっスか」

「おう、食え食え」

「はふはふ……」


 結果として、屋台で出す蒸し餃子……もとい蒸し三日月は、かなり有りなんじゃないかという評価をいただいた。

 しかしライナ的にはここまで手が込んでいなくても持ちやすくてシンプルに美味しい肉串焼きでも良いかなという厳しいご意見もいただき……。


 いやまぁ……肉をそのまま焼くのは間違いねえし卑怯だろとは思いつつ……。

 確かにと思っちゃう自分もいてね……。


 一時保留、という形になりましたとさ。


 いやまぁ、美味いしこれで決まりでも良いんだが、うーむ……。

 まだ伯爵の結婚式まで時間はあるし、もうちょっと考えておこうかと思う。


( *・∀・)ァアアアアア!

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― 新着の感想 ―
>ソース味がしないとたこ焼きも焼きそばも認めないタイプ 醤油味のたこ焼きの美味さを知らないとは人生の7割くらい損してるぞモングレル
甘味が原則無理で、さらに巷に流通してる調味料がことごとく自分の味覚に合わないとなると、作れる屋台料理は限られてきちゃうよね…。
綿あめは魔法動力か回転役が居ないとね…… 大体がケイオス案件な気がするし…… 作る趣味が無きゃケンさんから安く仕入れて販売とかしてたところかな?
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