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バスタード・ソードマン  作者: ジェームズ・リッチマン


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ベイスンで一休み


「前はベイスンと王都の往復でやっとったがね、近頃はレゴールだね。昔はベイスンの作物もそこまで高く売れなかったけど、今じゃそれなりに捌けるから良いもんだよ。厩舎も安いしね」

「へー、厩舎もなんですね。それは盲点だったなぁ」


 外を歩いている間、時々暇つぶしで御者と話すこともある。

 このおじさんはベイスンを拠点に活動してる人だそうで、穀物や野菜を各地に運び、帰りでベイスンに需要のある金物だとか加工品を運んでくる商人さんのようだ。


「餌の質が良いんだろうねえ。だからかうちの馬は毛艶も良いよ。病気もまぁほとんどしない」

「すげえ」

「けどねぇ……こっちの餌の味覚えると、逆に王都側の餌を食ってくれないんだよなぁ。舌が肥えちまってさ。食わないせいで弱っちまうのよ」

「ははは、馬もやっぱり美味いもの食いたいんですね」

「贅沢な奴らだよ本当に。昔の俺より美味いもん食ってるんだもんな」


 そう御者に言われている馬達は、素知らぬ顔でパカパカと歩いている。

 あ、うんこしやがった。良いもん食ってひりだした馬糞ってわけだな。くちゃいくちゃい。

 余談だが、この世界では治療と称して傷口に馬糞を塗り込むような文化は無い。前世のその治療法は一体どこから発生したんだろうな……? 


「先輩先輩、モングレル先輩ー」

「おーライナ、どうした」

「マルッコ鳩見つけたんで仕留めるっス。先行っててもらって良いスかー」

「おーわかった。もたつかないようになー」

「っスー」


 道中では道草を拾ったり、はたまた野鳥を射止めたりと、わりと自由に行動している。

 しかしこうやってチマチマと食材を拾い集めておくことで、途中の昼飯休憩のメニューが豪華になるんだ。やって損な事はない。




「二匹並んでたのを一発で抜けたっス」

「すげぇ。まんま一石二鳥じゃねえか」


 そしてしばらくして馬車に追いついてきたライナは、二匹の鳩をプラプラさせながら戻ってきた。街道沿いに放血の痕を残しながら、どこか誇らしげである。


「イッセキ……? まぁ、鳥なんて弓で簡単に仕留められるもんスからね。一番細くて軽い矢でもいけるんスよ。だから普通の矢だったら上手くいけば三匹くらい抜けるんじゃないスかね」

「マジか、やべぇな。ライナのスキル使ったらもっといけそうだ」

「いやいや、スキル使ったら可食部吹き飛んじゃうっス。ほらモングレル先輩、歩きながら羽根の処理お願いっス」

「おー」


 歩きながら羽根をむしりむしり。羽根は街道に捨てる。

 正直衛生的ではないし、あまり褒められた行為ではない。みんなは真似しちゃダメだぜ……。


「そっ、そろそろ宿場ですから、そこでお昼にしましょうか……」

「おう、そうだな。“アルテミス”さんたち、それで良いかい?」

「問題無いわ。そうしましょう」


 日中ぶっ通しで走れるほど馬も頑丈ではない。人間だって落ち着いて飯を食いたいしな。

 だから途中に何個かある小さな宿場に馬車を停めて、休憩を挟むわけだ。


 宿場と言っても町というほどではなく、まぁ道の駅というかパーキングエリアというか……そんな感じかな。

 俺たちと似たような考えで休憩してる馬車もいくつかあって、満車状態でなければそこに入って休めるってところだ。

 馬の世話をしてくれる小さな厩舎があったり、飯を売ってくれる小さな宿屋みたいなのが数える程度あったり。緊急時の避難はできるけどって規模の宿場町といえばしっくりくるかもしれない。


「鳥肉さばいてみんなで分けるっス」

「やったー、ご飯がちょっと豪華になった。ありがとーライナ!」

「僕も処理手伝うよ。そっち使わせてね」

「ふむ。では水は私が用意しよう」

「あー“アルテミス”の魔法使いのおねーちゃん。すまんけどまた馬用の水を出して貰えないか? 前と同じ額を払うんでね、頼むよ」

「ああ、わかっている」


 ひもじい時は宿場町を発つ前に買ったパンだけとか、携帯食だけが昼飯になるだろう。しかし道中で誰かが獲物を仕留めれば、昼飯はちょっとゴージャスな感じになる。

 あとやっぱり、複数人いれば色々なもん持ち寄ってるおかげで自然と食は豊かになる気がする。ソロだとここらへんどうしても厳しくなるからな。


「“アルテミス”の若者諸君、俺特製のサラダはいるか?」

「わぁい、道草サラダっス。いただくっス」

「私もいただくわ。ありがとう」

「じゃあここに鍋ごと置いておくから、各々勝手に摘まんでてくれな」


 モングレル流、道草サラダの作り方。

 まず街道沿いに生えている道草を見繕い、食えそうなやつを片っ端からブチブチ抜いて袋にぶち込んでいきます。この時袋は大きめの方が良いです。

 道草が皮袋に溜まって休憩所に着いたら、草を洗って綺麗にします。土以外にも何がついてるかわかったもんじゃないんでね。

 そして草をちょうど良いサイズにナイフでカットしたら、アクの強い連中を軽く煮込みます。軽くね。

 んで全体の水を切ったら、スクリューキャップ付きの容器で密閉保存しておいた野菜の酢漬けを道草の入った鍋にぶち込み、好みのスパイスを加えて混ぜます。好みで油を入れても良いぞ。酢漬け自体アホみたいにしょっぱいから塩はいらない。

 この野菜の酢漬けの酸味が道草で程よく緩和されて、ドレッシングのかかったサラダっぽくなってくれるわけだ。とりあえず草を量食いたい時は結構便利である。少なくともそこらへんの店でお出しされるものよりは俺の好みだ。


「あーサラダ美味しいー、やっぱり葉物もないとねー」

「うん。美味しい。ありがとう、モングレルさん」

「茎が硬いな」

「なんで暑い時って酸っぱい味が美味しく感じるんスかねぇ」

「このストローオニオン辛いわね……なんでかしら」

「ウフフ。野生化したストローオニオンは辛くなるんだよ。中には食べられないほど辛くなるものもあるけど、その方が好きと言う人もいるから、なんとも言えないね」

「貴女、野菜に詳しいのね」

「もちろん。私は農家だからね」


 こういうサラダをたまにバルガーとかアレックスとか男連中と一緒に任務をする時なんかも振る舞うことがあるんだが、その時は結構常識的な減り方をするんだけども……“アルテミス”は人数のせいもあるだろうが、サラダの減りが早いな。鍋一個分のサラダじゃ全然足りねぇ。ガンガン減ってすぐ消える。

 サラダバイキングに女子と行った時なんかもこんな感じだったな……一番でかい容器にガッと野菜を盛って食うやつ……。まぁ健康的で良いんだけどさ。


「二羽のマルッコ鳩もこの人数で分ければ慎ましい量だな」

「ちょうど良い量っスよ」

「余ってても困るしな。うん、やっぱこういう鳥肉もうめぇ」


 宿場の飯場は利用せず、その辺りに放置されているかまどを使って調理ができる。とはいえ鳩肉を焼いて携帯食を温めるくらいのものだから、そう手の込んだ調理はしない。馬を休めるついでに人間も少し休む程度のもんだ。用が済んだら手早く再出発することになる。


「モングレルさん、また随分と念入りに街道沿いの茂みを睨んでいるね……サラダはさっき食べたばかりなのに」

「明日の分の葉物をまた今日のうちにたくさん集めておこうと思ってな……レオ、お前も暇があったら摘んでくれよな。こっちの皮袋をパンパンにするくらいな」

「ははは、わかったよ。見つけたら入れておくね」

「ブルルルンッ」

「あっ!? この馬! てめぇ! それは人間用の野菜だぞ! 食うな馬鹿!」


 女子は山盛りのサラダを食べる生き物だが、馬は山盛りでさえおやつ感覚でペロリと平らげるらしい。片手に持っていた野草は一噛みでモシャリと食べられてしまった。

 ……あまり無防備に草むしりしてるとこの馬どもに食われかねんな。次から気をつけよう。




「いやー助かった! 途中で積み荷増やして悪かったね! また今度機会があったら、その時も頼むよ!」


 夕暮れ前。俺たちの馬車はベイスンに到着すると、御者とはそこでお別れになった。任務完了である。

 俺たちの目的地はまだまだ先なので、ひとまずこの町で新たな馬車の護衛依頼を受けなければならない。


「さて、少年ともここでお別れだね」

「おう。けどカテレイネはまたレゴールに寄ることもあるんだろ。その時に会えるかもな」

「ウフフ、そうだね。その時はまた、帰り道で一緒になれたら楽しそうだ。“アルテミス”の皆とも話せて良かったよ。じゃあ、またいつか」

「またねー、カテレイネさーん」

「楽しかったっス!」


 旅の道連れだったカテレイネともここでお別れだ。

 杖を突きながら歩き去る姿はまるで熟練の放浪魔法使いのようである。

 しかし実際のところ、ここベイスンからあいつの家は近い。向こうの気分としたら最寄りの一番栄えてる駅で解散したくらいのノリに違いない。


 ベイスンはレゴールの近くではそれなりに大きい街だ。

 なだらかな盆地で、周囲は農地ばかりが広がっている。ここらは魔物も比較的少なめだからか、ギルドマンの討伐任務はあまり無いと言われている。

 それでも物流はなかなか活発だし、ハルペリアの穀倉地帯を取り纏める重要な街なので、護衛任務は結構多い。行き先も想像以上に様々だ。

 頑張って探せばアーケルシア行きの護衛任務も見つかるかもしれないな。


「暗くなる前にギルドで新しい護衛任務を見繕いましょう。……そうね、ナスターシャとゴリリアーナと……ウルリカにも来てもらおうかしら。あなた達もそろそろ任務の選び方を覚えるべきだしね」

「は、はい!」

「はぁーい」

「モングレル達はそこの飯場で待っていてくれる? 席を確保して、ついでにチーズパイも注文しておいて頂戴。あれ出来上がるまで時間かかるから」

「慣れてるねぇ。わかったよ、チーズパイな」


 集団にくっついて行動してるとギルドでの煩雑なやり取りを人任せにできて楽だな。


「ウチはベイスンに寄る度にこのギルド前のお店でご飯食べるんスよ」

「へぇ、そうだったんだ。僕はベイスンにも初めて来たよ。このお店は美味しいのかな?」

「あー、俺も入ったことあるけど結構美味かった気がするな。チーズパイは知らねぇけど」

「超美味いっスよ。モングレル先輩もレオ先輩も、一度温かいうちに食べてみた方が良いっス」


 いつもと違う街にある馴染みの薄い店で、知らない飯を食う。これも旅の醍醐味だな。

 店内はギルドマン以外にも旅行者や商人なんかも居て、落ち着いた賑やかさに包まれていた。

 ギルドマンばかりだと諍いが起こることもあるが、この店の雰囲気なら面倒ごとは起こらないだろう。


 後からシーナ達も合流して一緒に晩飯を食いつつ、ギルドで新しく受けたという護衛任務の情報を共有し、明日の予定について話し合う。


「隊商の護衛か。アーケルシアまでの直通とは、良いもん見つけてきたな」

「途中で海岸沿いの漁村を中継するルートだけど、新しく別の任務を受ける必要が無いから日程は延びないわ。道中で早めに海の幸にありつけそうね」

「だが、漁村の治安はさほど良いものではないとも聞く。単独行動はせず、常に複数人で行動するべきだろう。特にライナ」

「私っスか!」


 ライナは小脇に抱えて簡単に持っていけそうだもんな……。確かに一人じゃ危険だろう。


 それに、漁村の治安が悪いってのも事実だ。男の俺が一人でいても悪さを実感できるのだから、女ばかりの“アルテミス”じゃ尚更だろう。

 泊まる宿も吟味しておかないと危なそうだ。


「モングレル、しっかりと鳥避けになってもらうわよ。よろしく頼んだわね?」


 若くて強そうな燕になれってことかい。まぁ良いけどさ。

 俺よりもゴリリアーナさんがいた方が効果ある気はするけども……言わんでおこう。


当作品のポイントが90000を超えていました。

いつもバッソマンを応援いただきありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
確かに、モングレルはともかくこの世界の住人が何の迷いもなく野っ原の草を生のままで喜んで食べるってのは、刺身や生卵食うのと同じくらいに違和感あるかもですね。
[気になる点] ゴリさんだけ、一人劇画チックだもんな(イメージです)。そら、虫除けになるわ。
[良い点] みんな・・・作者氏、前からバッソマン言うてたから(小声)
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