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一矢の報い


「待て。くくり罠がある」


 俺は後続のアルテミスたちを止め、茂みのそばにしゃがみ込んだ。

 枝葉で隠されているが、間違いない。人為的に仕掛けられた罠だろう。


 ただロープを手足に引っ掛けて拘束するだけの罠だが、森を歩く人を引っ掛けては大変だ。

 こういうものは近くに罠の設置を主張する色紐を巻き付けることが必要だし、罠本体にギルドから売り出してる番号入りの金具を用いる必要があるのだが、この罠にはそれもない。

 そして罠の近くの藪の根本には暴れ回った獲物を弱らせるためであろう鉄片が埋め込まれていた。よくもまあここまで悪どい違反の数々をコンプリートできるわ。

 農村出身の奴は本当にこういうのが多くて困る。


「違法罠っスね」

「回収しておく。今年は結構あるな」

「最近の新人はなーんも考えてないみたいだねー。自分たちのいた土地では好き勝手できたんでしょーけどさ」

「ギルドの初期講習をもっと手厚くやってほしいもんだね。なんなら筆記試験でもやったほうがいい」

「そんなことしたらギルドマンいなくなっちゃうよ」


 ウルリカの懸念も尤もだが、こうもならず者が多いとな。

 まともなギルドマンと犯罪者で半々くらいじゃないか? どうせ無理ならさっさと細かめの篩にかけてやったほうがマシだと俺は思うね。

 中途半端に味を占めて居着かれるよりは金もかからねえよ多分。


「……ふん。なるほどね。罠を見極める目は持っているんだ」

「まぁそれなりにはってとこだな。シーナ達みたいな生粋の狩人でもないから、多少の見落としは勘弁してくれよ」

「いえ、思ってたよりも十分よく見えてる」

「……本当に褒めてる?」

「褒めてるでしょう」

「なんか目が怖いんだよな」

「うるさいわね」

「あははははっ」

「ウルリカ、黙りなさい」

「はぁい」


 森を歩いてちょっとした異変を探す。そんな技術もこの世界に来てから磨かれたものだ。

 だから正直、あまり自信がない。人並みに培った技術と言えば普通なんだろうけど、転生チート主人公補正が掛からないものになると滅茶苦茶不安になるんだよな。そのおかげで勉強に身が入るのが皮肉ではあるんだが。


「足跡っス」

「え、どこだ? ライナ」

「これスね」


 それからさらに歩いていると、真っ先にライナが痕跡を見つけだした。

 この足跡を見つける作業もマジで苦手だわ。そこらへんの土も似たように見える。今でも獣道ですら怪しいのに。


「本当ね。よく見つけたわ、ライナ」

「よくやったぞーライナ」

「えへへ」


 褒められてるライナを見ていると、普段のアルテミスでの扱いがわかるな。

 仲良くやってるとは聞いていたが、本当に末っ子みたいな可愛がられ方してやがる。良かった良かった。


「……なんスか」

「いやなんにも言ってないが」


 そういう姿を見られたくないお年頃ではあるんだろう。

 まぁもうこいつだって16歳だからな。小さく見えるけど、既にライナも立派な大人だ。


「……足跡は、大きめのチャージディアか」


 今までほとんど会話に加わることもなかった魔法使いのナスターシャが、足跡に指を突っ込んで深さを測っている。

 土の沈み具合で獲物の重さをイメージしているのだろう。多分。


 ちなみにチャージディアとは、すげー殺意高い角の形をした鹿型の魔物である。

 払うよりも突き刺すことに特化した形状の二本角を持ち、敵に突進して刺し殺すというシンプル故に強力な攻撃方法を好む。

 明らかに肉食しそうな角を持ってるくせに草食なので、突き殺すのは単なる趣味か本能的なものらしい。害獣に新たな害獣要素が加わったガチの嫌われ者だ。

 角のリーチがある分クレイジーボアよりも厄介に感じる奴は多いそうで、狩りに慣れたギルドマンでも毎年何人も殺されている。


 だが討伐した時の儲けは、皮が金にならないクレイジーボアよりも良い。

 角も皮も肉も余すとこなく金になる。俺は大抵角とかは折っちゃうけど。


「縄張りではないわね。単にここを通りかかっただけみたい」

「水場に向かってるわけでもないみたいっスけど、なんなんスかねこれ」

「色々と新人に引っ掻き回されてるからそのせいじゃなーい? 最近の森の分布は当てになんないよ」

「そうね。まだ深く考えるだけ無駄かも。……モングレル? 貴方は何か無い?」


 いやそんなの俺に振られてもな。


「俺は見つけた獲物を殺してるだけだから、猟のノウハウはなんもわからんぞ。普段からギルドの出した依頼の場所まで行って適当に探してるだけだしな。素人目線じゃ的外れなことしか言えん」

「……そう、まあそういうものか。わかったわ。じゃあ移動を再開しましょう」

「おう」


 力を見せるだけなら手っ取り早くチャージディアやクレイジーボアが現れてくれれば助かるんだけどな。

 程よい強さの魔物をぶち転がせば俺の強さに納得はしてくれるだろ。

 それに一発目は弓剣使ってみたいし。


「お?」

「グア?」


 なんて事考えながら歩いていると、獣道の先からゴブリンたちが歩いてきた。数は二体かな。

 登山道で向かい側から来たようなシチュエーションである。

 もちろん相手は“こんにちはー”と挨拶しても友好的にはならないが。


「ゴブリンっスね」

「最近増えたねー、畑に隠れてた奴らが森に逃げ込んできたのかな?」

「ゴブリンの行動を予測しようとするだけ無駄よ。モングレル、ここは一体任せて良いわね? 先に弓で数を減らすから」

「二体とも任せてくれて良いよ。チビのゴブリンになんか手こずるかっての」


 向こうでギャーギャー喚いて威嚇するゴブリンたち。普通なら俺たちのような大勢を相手にすると逃げ出すんだが、アルテミスの面々が綺麗なメスであることに気付くや否や、逆に戦意高揚している。それでこそゴブリンだ。


「矢は一本あればいい。何故かって? 一本あれば一体を殺せるからだ」

「なんか始まったっス」


 俺は弓剣に矢をつがえ、引き絞った。

 ギリギリと軋む弦。棍棒を構えてソロソロと近づくゴブリンたち。


「なんか構え方おかしー」

「笑っちゃ駄目スよウルリカ先輩」

「体から離れすぎよ。もっと顔に寄せて」


 極限まで研ぎ澄まされた集中は外界のやかましい女達のクソリプを遮断し、やがて最高潮に達する。


(シッ)!」

「ゴァッ!?」


 そうして放たれた流星は、目にも止まらぬ速さでゴブリンの横の木の幹を深く穿った。


「シッ! だって」

「いやー今のはさすがにダサいっス」

「わ、笑ったらだめよ。さ、最初はみんな初心者なんだから」

「オラァ! 弓剣の本領見せたらぁ!」

「ギェッ!?」


 外れた弓矢に気を取られた隙に、俺はゴブリンたちの懐へ素早く潜り込んだ。

 そこそこのリーチをもつ弓剣の刃はゴブリンの喉と心臓を素早く切り裂き、少なくとも俺の失態の目撃者二体はこの世界から姿を消したので良しとしよう。


「弓術はちょっと目も当てられないけど、接近戦の思い切りは良かったわね」

「あれ、モングレル先輩それもうしまっちゃうんスか」

「どうせ俺なんて弓とか向いてねえし」

「あらー拗ねちゃったよモングレルさん。ごめんなさいってー」


 やっぱ使い慣れたバスタードソードが一番だわ。これさえあればほぼ全てに対応できるからな。

 弓はもう今日はいいよ。また宿屋の壁に掛けてインテリアになってもらうから。


「……相変わらず、短めの剣を使い続けているのね」

「ん?」


 シーナが俺のバスタードソードを見て、思うところがありそうな顔をしている。

 まあ、軍で採用しているロングソードとは刃渡りで20cm近く違うから言いたいこともわかるが。


「柄の端を握っておけばそれなりにリーチも伸びるし、問題ないぞ。こっちは長めだからな」

「だったらロングソードを使えばいいのに」

「ハッ」

「何よその笑いは」

「お前達はまだバスタードソードの強さを知らない」


 みんな“本当か?”みたいな呆れた顔をしてるけど、まぁ後で何か魔物が出たら見せてやるよ。


「モングレル先輩。私はその剣の強さわかってるつもりっスよ」

「おお、ライナはわかってくれるか。見てたもんな」

「っス。直に見せられて助けてもらったら、文句言うなんて無理っスもん」

「ふーん……まーその話はライナから聞いてたけど、ほんとかなー? とは思っちゃうよねぇ。後でゴリリアーナさんと模擬戦でもしてもらおうかなぁ?」

「いや……俺的にそういうのはちょっと……」


 それなりに良いとこは見せたいんですけどね。

 ゴリリアーナさんと戦うのはちょっとやだな俺。


 いや負ける気はしないけど、怖いじゃん。なんか。


「お前達。そろそろ休憩するぞ。昼食の時間だ」


 俺たちはその後も歩き続け、途中のひらけた場所で何度か休憩をとった。

 罠もいくつか解除して、よわっちい魔物を適当に追い払って、それでも大きなトラブルもなく、夕方近くには目的の作業小屋まで到着した。


「先客がいるな」


 どうやら作業小屋には先客がいるらしい。

 林業を営む人だとか、遠征目的の連中なんかがここを利用している場合もあるので仕方ない。


 の、ではあるが。


「問題は、あれがまともな利用者かどうかってことだよな」

「……っスね」


 面々の顔色に、これまでとは違う真剣な色が宿る。


 そう。この作業小屋、実は絶好の盗賊宿泊スポットでもあるのだ。




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[良い点] 主人公をおバカにして笑いを取ろうとしてないところが好感が持てます。 頑張ってください。
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