第3話
「まじかよ」
思わず声に出してしまう、何十キロ走ったかわからない程移動してやっと出会えた第一村人だったのに…。
ひとまずある程度現実的な距離に人がいることは解ったが、この後の転移ポイントはさっきまでの川等の手掛かりのある場所になるだろうか?
ある程度安全の確保された場所に飛ぶらしいがあの弓を射った男の即決の警戒からすればすぐ近くに出ないだろうし、実際その目に合って解ったが、森でいきなり知らん人間に会えばそれは警戒するだろう、兎に角会えればいいと言う考えは俺の一方的な物だった。
とするとまぐれで村の中と言う事も期待するだけ無駄か、都市くらいになれば知らん顔が歩いたとて警戒されないが村の中に見知らぬ男が現れればそりゃハイそうですかとはならないわな、いや転移で突然現れたらどこであろうと危険はあるか、不自然でない場所、やはりある程度人のいない所に飛ばされるんだろう。
「はぁ」
タメ息を着いた所で暗い森の中へ飛ばされる、人がどうのと考えていて突然暗い森の中へ飛ばされた事により、ドキリとして冷や汗が出る、深く息をして気持ちを落ち着かせ思考を巡らせる、安全を確保された場所なのだからいきなり襲われたりはしないだろう。
そうすると川の流れるような音が聴こえてくる、迷わず音のする方へ進み森が開けるとやはり川に出た。
どの川も同じに見えるのかも知れないが、この景色は先程走っていた川に見える、そう信じたいだけかも知れないが、そのまままた川の流れに沿って下っていった。
しばらく進んだ後、ふと思い至る、このまま進んで先程の男にまた出会うとして、敵意がないと説明してそれこそ希望的観測で納得して貰えたとしよう、果たして目の前で消えた事をどう説明するか、いくら空間魔法が存在するとしても、そんなにポンポンポンポン飛べる使い手がいるとは思えないしいても困る、最悪、彼が自分の住む村や町等でこんな怪しい奴に会ったなどと言い触らされてはたまらないし、そもそも善人かどうかもわからない。
そうするとこのまま進むのは危険な気もしてきた、森の魔物の脅威も当然だが、いつだって一番危険なのは人間だ、とは言えこのチャンスを逃して別の人里を見つけられるだろうか?
どのくらいの時間が流れたろうか、立ち止まり悩みに悩んで考えた作戦はこうだ。
寝ずに朝までここで待ち、日が出て来たところで進む、例の男がいつまでもあの場所にいるとは思えないし、俺を捜すってのもあの警戒度からしてないだろう、一応いないのを確認して川沿いに進み村なら村で見つけられれば道や轍があるかも知れないし、最悪あの男以外に別の村や町がないか聞けばいい、いいはずだ!
最初の出会いは無視して関わらない事にする。
そうして川も森も安心できずキョロキョロしながら日の出を迎えた頃にはかなりの疲労が溜まっていた、徹夜は得意だったが気を張りながらなんて事はなかったから当然か。
その後、遠目に焚き火の後をみつけ辺りに人がいないのも確認して進んでいくとなんと橋があるではないか!お世辞にも立派とは言えないが明らかに人工物だ。
さて右と左どちらに進むべきか、彼がいたのは川を跨いだ右側だから普通に考えると左か?特に何の根拠もないし、踏みならされた道があるが足跡とか探してみても凸凹してて良くわからない、離れると言う意味で左に進む事に決めた。
長らくお待たせ致しました!道を進み森を抜けると草原の奥に明らかに城壁が見えます!
砦とか城だと困るから都市だといいなぁ、城壁って言っちゃったけど石の壁作ったら全部城壁なのか?どうでもいいか、今度こそ走らずにゆっくりと進み門に辿り着くと門番らしき人がいるのでそちらに向かって声をかける。
「おはようございます!」
「おはよう、通行証かもしくは冒険者プレート等、身分を証明する物はあるか?」
ごく普通な態度といった感じの対応だが、勿論どちらも持っていない。
「あの、そう言った証みたいな物は持ってないんですがそうすると入れませんか?」
「いや、なくても入れるが銀貨10枚払えるか?ないならないで貸付もできるが色々と手続きが面倒になる」
「いえ、銀貨10枚なら大丈夫です、どうぞお納め下さい」
「妙な言葉遣いをする奴だな貴族には見えないが役人か何かか?まぁとりあえず問題を起こしたりするなよ」
「あはは、勿論ですありがとうございました」
笑って誤魔化してその場を後にする。
それにしても門は開いてるし身分証がなくても銀貨10枚で入れる、銀貨10枚の価値が分からないが、テンプレだと大体10000円くらいか?さらっと出して良かったのか?兎に角甘いセキュリティだな、平和なのかな?
そして遂に辿り着いた!異世界初の人のいる所!しかもかなりデカそうだ、まずは冒険者ギルドでって冒険者プレートって言ってたしあるよねギルド、ふふん行かないよギルド、何せクソ眠いからね、色々置いといて感動も置いといて眠るよ、すぐに門番の所に戻って真ん中くらいのグレードの宿屋の場所聞いてきたよ。
「いらっしゃい、こんな時間に飯でも食いに来たのかい?」
説明通りに辿り着き入り口を入ると恰幅のいい女将さんらしき人が笑顔でいや真顔で迎える。
「いえ夜通し移動して来たんで兎に角眠りたいんです、取り敢えず一泊いくらですか?」
「冒険者にしちゃ迫力もないし、言葉遣いも丁寧だね、まぁ詮索はしないけど、一泊銀貨2枚だよ、1食飯つきならプラス銅貨2枚、別で飯を頼むなら銅貨3枚さね」
「じゃあこれ銀貨2枚です」
「毎度あり、メルー!お客さんだよー!案内しな!」
「はーい!お客さんこっちだよー」
女将さんが大きな声で呼ぶとスラリとスレンダーな女性がやってきて案内してくれる。
「これが部屋の鍵、宿から出る時は私かお母さんに預けてね、ご飯は前もって言ってくれれば夜中とか早朝以外は出せるけど食堂自体は昼と夜しかやってないからね」
「了解でふ」
寝ぼけて噛んだ、そしてベッドに倒れ込みすぐに意識を手放した。