半ヤギの娘
その晩は、不治の病に侵されている少年の寝室からも、月が見えました。少年の病気が何であるかは誰にも分かりませんでしたが、もう助からないということだけははっきりとしていました。
少年のことを想っていた娘がいました。娘は少年のことがとても好きでしたが、娘の身体の下半分はヤギだったので、想いが実ることはないのだと思っていました。少年が病の床にあると知り、娘はとても悲しみました。娘は取り乱して、ヤギの足で森の中を駆け巡りました。そして、疲れ切ったところで、森の奥に小さな泉を見つけました。
「お願いです。どうかこの世界から彼を取り上げてしまわないでください。」
泉は月明りに照らされて、とても神々しかったので、娘はつい願いごとをしてしまいました。すると、月光は強さを増し、あたりが見えなくなるほど眩しくなって、娘は泉のほとりで気を失ってしまいました。
「あなたの願いを叶えましょう。ただし、その代わりにあなたは永遠の眠りにつくのです。あなたには少年の姿が見えますけれど、自分の恋を成就しようとは思わないことです。そうすると、すべてが終わってしまうからです。」
すると、娘は寝室にいました。夜明けが訪れていました。
娘は少年が歩いている姿を見つけ、喜びでいっぱいになりました。声をかけたいと思いましたが、あの警告を思い出して、少年の足元にそっと野花を咲かせることにしました。突然、小さな黄色い花々が咲いて少年は驚きましたが、とても嬉しくなりました。それから、少年の行くところでは花が咲き乱れ、小鳥は歌い、空は澄みわたり、あるいは雨がきらめいて、自然は歓喜に満ちるのでした。それはすべて娘が願ったことでしたが、少年は気づくはずもなく、ただその幸福に感謝をするのでした。
娘はこのことが嬉しいながらも、同時に孤独を感じていました。そこで、きっと少年もそうだと思い、自分とは違う、ちゃんとした人間の少女を少年に送りました。そのとおりに、少年はその少女と恋に落ち、さらに自らの幸福へと感謝をするのでした。少年も少女も、もう老いることはなく、幸せに満ちた世界でただ愛を育んでいれば良いのでした。
そのころ、夢の外では、少年の死を告げる鐘が夜の街中に鳴り響いていました。(娘が気づくことはありませんでしたが、この月の王国には夜明けなど存在しないのです。)少年の身体は冷たくなっていて、心臓も動いていなかったので、亡くなったものとみなされました。その肉体には魂もありませんでした。少年の魂は肉体を離れて、半ヤギの娘の夢の世界へと移されたのでした。その魂が夢から出ることは叶わず、もう、天国や地獄に行くことも、ほかの世界やほかの動物に生まれ変わることもできません。少年の魂は永遠の夢の中で、ただ愛を享受するだけなのです。それが果たして幸福なことなのか、不幸なことなのかは、誰にも分かりませんでした。
1200字程度の幻想的で耽美な短編小説を書いております。よろしければ、他の作品ものぞいてみてください。




