仏霊会
トントントンっと音が聞こえる。何やら、いい匂いも漂ってきていた。
『あにゃっ!!そうだ、猫舌だったにゃ。』
クズは、その声で目が覚め起き始めた。
(そうだった。昨日から、真冬がいたのを忘れていた。)
『おはよう』
『ご主人様、おはようごにゃいます。料理は、ほとんど出来てるにゃ。』
『ありがとう。それじゃ、いただきます。』
寝起きだったが、昨日の夜を軽めにしたので、がっつり食べる事ができた。なにより、可愛い子の手作りを残しては俺の流儀に反するのだ。
『ごちそうさま。今日は講義に行かないと、出席がまずいから早々に出るよ。帰りも寄る所があるから遅くなるかもしれない。』
(おっ、なんだ。新婚みたいなやり取りだな。新鮮で楽しいかもしれない。)
『ご主人様、私も付いていくにゃ。守るのが仕事なのにゃ。』
そういい、猫の姿に戻っていく。
(んー、どうしたものか、大学に連れて行くのは、少し問題があるな。)
『ご主人様、大丈夫なのにゃ。場所も分かるし匂いで後から付いていくにゃ。私も、元人間なのにゃ。電車や学校にいるのは、まづい事は分かっているのにゃよ。』
『そうか、助かるよ。それじゃ、気をつけてな。』
『にゃにゃーーい』
そういい、俺は、家から出て大学へ向かうのであった。
朝の講義を受け、昼食を取りに食堂へ向かうと、多くの人に見られている気がした。いや、講義の時もだったが、火輪と行動したため、大学内では少し目立つことになっていた。
もちろん、いい意味ではないが。そのため、購買で、適当に昼食を買い、人の気がない場所でゆっくり過ごすことになった。
『ご主人様ーーー。いじめられてるのかにゃ?初めてみたのにゃ、これが、ぼっち飯かにゃ!?』
痛い事を言いながら、真冬が塀の上から話しかけてきた。
『まーそうなるな。しかし、火輪に、あんなに信者がいると思わなかったなー。』
『そうかにゃ。あんにゃに、綺麗で、芯があるとカリスマににゃるのも分かるにゃ。私は、はっきり物事を言えるタイプではなかったからにゃー。』
『真冬も、人気があったじゃないか。奥ゆかしいっていうのか、反対のタイプだけど。』
『にゃはは、ありがとにゃの。』
『真冬も、昼食べるか?っても、サンドイッチしかないけど。』
『食事は、本来はいらにゃいけど、欲しいのにゃ。憑依でも実態があるのは、うれしいにゃ。』
(ずっと、幽霊として過ごしてたもんなー。今度は食べたいものを買ってあげよう)
真冬と、のんびり過ごしていると、ドタドタっと静寂を破壊する者がいた。
『せんぱーい。こんな所にいたの?まったく、探したんだから。こんな所で、ご飯なんて寂しいね。』
誰のせいで、こうなったんだと思いつつ火輪をジト目で見るのであった。
『何よ??人を変な目で見ないで欲しいんですけど。折角、お裾分けしようと持ってきたのに。』
そこには、たくさんの牛丼があった。
『なんか知らないけど、大学でいっぱい貰ってさ。食べきれないから持ってきたのさ。』
(昨日、俺が奢ってたからな。火輪信者は行動が早いな。)
『ありがとう。1つ貰おうかな。』
『わたしもにゃ』
『ぎょ!!?何?なになに!!・・・・・・・・・・・この猫、しゃべってるよ。』
昨日の夜の出来事を、火輪に話すとニヤリとしながら真冬を見るのであった。
『ふふふ、真冬ちゃん、さては惚れたな。』
『にゃ!!?にゃんの事ですか。』
心情:火輪さん、もうやめるのにゃ。
『まっ、先輩は鈍そうだから、頑張るんだぞ。』
心情:私は、応援するよー。成仏しないで守護獣になるなんて、健気だねー。
二人は、小声で何かを話していたが、心情をみて、真冬が撫でて愛でてくる火輪にうんざりしているが、火輪は真冬の第二の人生?霊生?を応援している関係だと勘違いしていた。
仲が良くて微笑ましいと思っているだけであった。
その後、真冬のためにペットキャリーバックを購入したりブラブラと時間を過ごしていた。駅前で火輪を待っていった。
『やっほーー。お待たせーー。』
俺の目には、大量の荷物が歩いているように見えた。また大量の牛丼をもらったようだった。
『それ、持ってくのか』
『当たり前じゃない!食べ物を粗末にできないよ。それに、食べてくれる当てはあるから。』
『それならいいが、とりあえず一部持ってあげるから貸しなよ。』
『およよ。先輩もなかなかの紳士ではないか。それじゃ、よろしく。』
大量の牛丼を持っているので、周りから少し奇異の目で見られていたが、大学での目線より遥かに楽なので、そんなに気にならなかった。電車で乗り換えを経由して、ようやく目的地に到着したが、本当にここで合ってるのか不安になって火輪を見た。
『ん?あー大丈夫。大丈夫。間違ってないから。付いてきて。』
極楽浄土 ホトケの湯
(明らかに、下町の銭湯にしか見えないのだが...。)
火輪は、先に暖簾をくぐり入っていった。慌てて、付いていったが何も変哲もない銭湯だった。
(なにか期待して損したぜ。)
『はい。これ』っといって、カードを受付に見せると奥の部屋に通された。
部屋に入ると、そこは銀行のような作りをしていた。そこに、火輪は入館カードを渡し、俺に琥珀球を求めてきた。それを、受付に渡すと、またお呼びしますので少々お待ちくださいと対処された。
『なんか銀行みたいだな。もっと、ファンタジー的なものを想像していたよ。』
『せんぱーい、現代にそんなのはありません。鑑定に少し時間がかかると思うんで、牛丼を運びにいきましょう。』
受付に声掛けをし、端にあるエレベーターに乗っていく。どうやら、地下5Fまであるらしく丁寧に掲示板が張り出されていた。
1F 鑑定・換金所
B1F 術具・武具などの売り場
B2F 修練所・食堂
B3F 診療所
B4F 役場
B5F 霊能長室
火輪は、修練所に顔出すからといい、牛丼を持って行った。そして、俺に役場へ行って申請するようにと伝えてきた。
どうやら、報酬を受け取るのに、身分証明や銀行の登録やらしないといけないみたいだ。
俺と真冬は、B4Fに降りていた。そこでは、振込銀行・住所や連絡先の登録をした。霊能者の職業は少ないからか、そんなに時間はかからなかった。その後、鑑定紙という物に霊力を込めれば、終わりだそうだ。
俺と真冬は、霊力を込めた。まー念じれば、いいだけの話だが。
九頭 道生 (20)
能力:観察と考察・2の概念・従属
真冬 (九頭 道生の従属)
能力:獣化
鑑定紙には、文字が浮き上がってきた。
(そこで、俺は思い出した。茉莉花が付与しておくっていう言葉を....。そして、目を疑った。この2の概念は内藤 進の能力だよな!? 精神が、おかしくなるかもしれない能力を付与されたことと自分がその時に気づくべきだった事を悔やむのであった。)
もう、時は遅し。今回は、諦めて鑑定紙を受付に渡すと役場は、騒然とした。
理由は、一つだった。経費削減。
どうも、この鑑定紙を作るのに、かなりの金額がかかるみたいだ。それで、俺の能力のようだ。その人の能力を見てステータスで確認すればコスト削減。しかも忙しい時でも、ダブルで2倍働けるからみたいだ。
年収1000万円以上を提示されたが、あまりの勢いに卒業まで考えさせてくださいというのが精一杯であった。
登録が終わり、証明カードをもらい、修練場に顔を出すと火輪が、鍛錬に付き合っていた。
『火輪さん、次は僕にも』
『今度は、私よ』
どうやら、火輪はここでも人気があるらしい。
俺のことに気が付くと、子供たちにごめんごめんと声をかけ牛丼を差し出していた。
子供たちは、なおの事、火輪の事が好きになっているようだ。
火輪は、牛丼は俺のおかげだと子供たちに言ったので、子供たちは、ありがとうと言った。
俺は、このまま素直に育つ事を祈るだけであった。願わくば、火輪を見本にしてはいけないと思うのである。
ようやく1Fに戻ると、すでに計算は終えたようだった。
報酬金は、なんと1200万円!!
『先輩、報酬は半分ずつでいいよね!?めんどくさいし。』
『いいのか?火輪が、退治したもんだろ。』
『いやいや、真冬じゃなくて真琴を成仏できたのは、先輩が守ってくれたおかげだから。それに、あの化け物もね。お互いに、協力しなければ報酬は出なかったんだから。』
『それじゃ、遠慮なくもらうからな。後から言っても遅いんだからな。』
『はいはい、それじゃ半々で振込をお願い、先輩もさっき作ったカードを渡して。』
そう言われ、俺は受付にカードを渡した。振込は明日以降のようだ。
確認を終えたことで、カードを返された。
火輪が最後にB2Fの売り場を案内してくれるようだった。食堂と霊媒師長室は、行かなくていいとの事だった。火輪的に、食堂より外の方が旨いって事と霊媒師長に会うのは、めんどくさいとの事。
『ここでは、自分の霊力に合った術具とかがあるから見ていくといいよ。私も、欲しい物があるし』
『火輪ちゃーん、今回は特に稼いだみたいだね。もう噂になってるよ。アレ買ってくかい?』
『もちろん。やっと、お金も溜まったんだから。それじゃ、これで。』
そういって、火輪は証明カードを渡していた。
『このカードで支払いもできるんだな。何買ったんだ?』
『鏡だよ。女の子に必需品。』
『ちゃんと、説明してあげなよ。それは、転鏡といって鏡から鏡へ移動できる術具だね。それだけで、5000万はするよ。』
『『高っ!!』』
真冬と共に思わず声を出してしまった。
(こいつ、5000万もするものを買うなんて、いくら貯金してたんだよ。)
『そこの兄ちゃんも何か買ってくかい?高くないものあるし、その霊獣にも使えるものもあるよ。これなんかどう?』
勧められて出てきたのが、リボンであった。
何でも、付与した霊力の場所がわかるようなので、俺の霊力を込めとけば、どんなに離れても場所がわかるらしい。非戦闘員の俺にとっては、なかなかいい商品だ。
価格は、それなりだが報酬も入ったし、命には代えられないので買っておいた。
それから、いろいろ物色したが、どれもピンと来なかった。けど、特売品コーナーが目に留まった。
『兄ちゃん、売ってる方が言うのもあれだが、そんなに良いものはないぞ。霊力が高ければ他に応用が効くからな。』
念のため、店主に使い方を聞くと、どれもいまいちだったが2つだけ購入することにした。
メガネ・・・夜になってかけると、辺りが昼のように明るく見える。なお、目に霊力を集めれば、再現可能。(俺にはできねぇ‐‐‐‐。)
腕時計・・・普通の時計だが、霊力を込めれば気配をかなり薄くするらしい。
基本的に、霊能者は鍛錬してきているので、どちらも可能らしい。まれに例外はいるみたいだが。
価格は合計14万だったが、便利だし安全確保と割り切って購入した。
それと、破邪の紐を見せて、同じものはないか、または修理可能か?聞いてみたが、どうも特殊らしく不可能だった。店主から100万で売ってほしいと言われたが、念のため保留しておいた。今後、必要なかったら売ればいいだけだしな。
『真冬は、何か欲しい物はあるか?』
『特に、にゃいのにゃ。そんにゃ事より、早くリボンをつけて欲しいのにゃ。』
真冬に急かされたので、リボンに霊力を込めて、真冬につけてみた。
『どうだ?わかるか?』
『今は、近すぎて分からにゃいのにゃ。明日、ご主人様が大学へ行っている時に試してみるのにゃ。それより、どうかにゃ?似合うかにゃ?』
『あーとっても可愛いぞ。』
『にゃははーー』真冬は、とても喜んでいた。
『先輩、もう買い物も平気なら、お開きにしたいが大丈夫か?』
心情:これで、先輩も大丈夫だな。道も教えたし、登録もしたしな、霊能長は...。まーいいや。
『わざわざ、案内もしてくれて、ありがとな。助かったよ。』
(なんだかんだ、面倒見もいい奴だ。少し残念って思ったことは申し訳なかったな。)
そして、仏霊会を後にした。